連休(1)
「お鍋、沸騰してますよ!」
入社から1か月ほどが経った、GWのある日の午前、俺は隣の水口家の台所で料理を教わっていた。
なぜこうなったかというと、その発端は一週間ほど前にさかのぼる。
ここ2週間ほど、会社の新人研修で忙しかった俺は、料理に不慣れなのもあり、晩飯をコンビニ弁当で済ましていた。俺はそれを連日、仕事帰りの七海さんに目撃されたのだった。
そして、俺が晩飯をまともに食っていないと知った七海さんは、海月ちゃんにGW中に料理を教えるよう頼んだらしかった。
七海さんはこの連休も仕事らしい。
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出来上がった料理を前に俺は、感動していた。
まさか自分がここまで作れるなんて。
「なに感動してるんですか。まだまだですよ!」
俺の心を見透かしたように海月ちゃんが言った。
手厳しいな...。
パクパク
完成した料理は海月ちゃんの熱心な指導もあってなかなかに美味しかった。自分では作れないくらいに。
『明日も料理やるの?』
海月ちゃんと一緒に料理を食べている途中で聞いてみた。
「もちろん、お母さんに頼まれてますから。鳴瀬さんを鍛えろって。」
そう言ったあと海月ちゃんは少し黙って、うかがうような顔をして聞いてきた。
「もしかして、イヤですか?」
『ううん、そうじゃないよ。海月ちゃんが友達と遊んだりできないんじゃないかなと思ってね。』
「ああ、それなら大丈夫です。私と友梨の友情はそんなものでは壊れませんから。それより...」
海月ちゃんはそこまで言うと押し黙ってしまった。
『なに、どうしたの?』
「いえ、悠人さんこそ...彼女とかとデート...とかしなくていいのかなって...。」
海月ちゃんは顔を赤くしながらそう言った。
ああ、なるほど、そういう心配か。気が利く子だな。
俺は苦笑いしつつ海月ちゃんに言った。
『俺なら彼女居ないから大丈夫だよ。』
そう、俺は大学2年の時、4か月ほど付き合っていた彼女にフラれて以来、彼女が居ない。
というか、後にも先にもそれだけしか付き合ったことがない。
「そうですか、良かったです。」
なぜか、俺には海月ちゃんは本当に安心したって顔をしていたように見えた。