入社と入学
今年は暖かったらしく、早くも桜が散り緑が多くなり始めた4月のある日、俺は勤務先である"五十嵐保険"へ初出勤した。
五十嵐保険は大手保険会社の下請けをする会社で、社員は30人程度と、さほど大きな会社ではない。
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バタバタの初勤務を終えた俺は、会社の近くにある居酒屋で歓迎会を開いてもらっていた。
「「カンパーイ!!」」
今年の新入社員は俺を含めて2人で、もう1人の新入社員である宮中 早姫ちゃんは、先ほどから男性陣に話しかけられチヤホヤされている。
俺がそんな光景を見ながらボーっとビールを飲んでいると、俺より若そうな小柄で可愛らしい女の子が話しかけてきた。
「鳴瀬さん、隣いいですか?」
『ああ、いいですよ。えっと、あなたは...?』
「私は坂崎 美奈です。事務やってます。年はハタチです。よろしくお願いします。」
そう言ってニコッと笑った。
『初めまして、鳴瀬悠人です。こちらこそ、よろしくね。』
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俺は歓迎会が終わるまで、ずっと美奈ちゃんと会話をしていたのだった。
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鳴瀬さんが会社に初出勤したと聞いた日から数日後、私は自宅のアパートからほど近い高校で、入学の日を迎えていた。
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まだ新しそうな体育館の中に、入場の軽快な音楽が鳴り響く。私は親友の坂崎 友梨と同じ高校に入学できたことを喜ばしく思いつつ、少し寂しくも感じていた。
その種となっているのは母がこの場に来ていないことだ。
お母さん、大丈夫かな。
最近疲れた顔してるけど。
...お母さんに心配かけないように高校頑張らないとな。
そう決心しつつ、私は入学式を終えた。
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新しいクラスでのHRを終えた私は、友梨とともに下校していた。
「同じクラスになってよかったね。」
『うん、ホントよかったよ~。』
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「ところでさ、同じクラスの浅野くんってちょっとカッコいいよね。彼女とかいるのかな。」
『どうだろう。友梨、気になるの?』
「まあ、ちょっとだけね。海月は誰か気になる人とかいないの?」
『うーん、いないかな~。』
そう言いつつ、私の頭に浮かんだのは同級生でも高校生でもない人物の顔だった...。