ケーキ
悠人さんにお昼ご飯を渡して、家に戻った私はさっきまでの出来事を思い出していた。
なんで私、鳴瀬さんに抱きついちゃったんだろ。
ああ、恥ずかしいぃーーー。
...でも鳴瀬さんの胸のなか、なんか安心したな。
お父さんがいたらあんな感じだったのかな。
でも鳴瀬さんはやっぱりお父さんって感じじゃないかな。
お父さんって言うより...
私が永遠とそんな事を考えていると、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
私は玄関までいってのぞき穴から外を見た。
ドキッ
そこにはさっきまで私が思っていた人物が立っていた。
ガチャ!
「あっ、海月ちゃん。お昼ご飯ありがとう。これ、タッパー。それと、お礼にと思って、これ。ケーキなんだけど。お母さんと食べて。」
そう言って鳴瀬さんは洗われたタッパーと共に、私にケーキの入った箱を手渡した。
『わ、わざわざありがとうございます。』
「いえいえ、こちらこそ。じゃあ、帰るから。またなにかあったらいつでも頼ってね。」
そう言って鳴瀬さんは部屋に戻っていった。
ドキドキドキドキ
鳴瀬さんが帰ってから気がついたが、私の鼓動はとても早くなっていた。
鳴瀬さんの顔を見るのが恥ずかしいぃーー。
やっぱり鳴瀬さんに抱きついちゃったからかな。
そう思いながら私はケーキを冷蔵庫にしまったのだった。
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その日の夜。
8時ごろまで仕事をして帰ってきたお母さんと遅い夕食を食べた私は今日のことをお母さんに話していた。
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『だからね、鳴瀬さんの部屋の片付け手伝ったの。』
「ふふっ、悠人君は未だに片付けが苦手なのね。」
『うん、そうみたい。』
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でもやっぱり、お母さんのことで鳴瀬さんに抱きついたことは話せなかった。
お母さんに心配をかけたくないし、秘密にしておきたかったからだ。
またあの事を思い出してしまい、私は顔が赤くなるのを感じた。
『あ、そうだ。そのお礼にってケーキもらったんだ。』
私はそれを隠すために、ケーキを冷蔵庫に取りに行った。
「へぇー、美味しそうね。」
『そうだね。』
2人、テーブルでケーキを食べる。
パクっ
「『美味しい!』」
2人同時に声が出た。
鳴瀬さんからもらったそのショートケーキは、私に少し甘酸っぱい幸福感をもたらしたのだった。