のんちゃん再び
あなたにも、のんちゃんがいますように。
この桜の木の下で会った不思議なのんちゃん。
あれから一年が経ち、また桜が満開になった。
でも、わたしは変わったかな?
のんちゃんに会って、のんちゃんより素敵な笑顔できるかな?
「ほーら、いつだって、あんたは自分に自身がないんだから」
声が聞こえる?
桜の木の下に、発見!
のんちゃんだ!!
「……のんちゃん、会いたかった、でも……」
「会うのは、怖かった?」
わたしはこくりと頷いた。
「うーん」
のんちゃんは腕組みをして、わたしをジッと見てる?
のんちゃんの目は大きくて愛くるしいけど、あんまり離れてるからどこを見てるか分かんない。
「綺麗になったよ。わたしのもんぺには敵わないけど、あんたにその服、似合ってるよ」
のんちゃんがそう言うと、わたしのワンピースを、春の風がふわりと揺らす。
ついでに、のんちゃんの赤いちゃんちゃんこも少しだけ揺れる。
「そうかな?」
「でも、彼が出来ないし、そろそろ会社にも居づらくなったってところ?」
図星……やっぱり悲しい。
あれから何にも変わんない。
仕事も周りの皆も。
毎日、同じことの繰り返し。
でも……
「少しだけ、笑うことが多くなっただろ?」
そう、のんちゃんは分かってる。
ほんの少しだけ、わたしが変わったことを。
「会社の後輩や先輩が結婚するって聞くと、あんた、置いてかれたような気がしてただろ? でも、今は心から喜んで祝福できるようになったんだよね」
……自分でも嫌で悲しかった。
結婚していく人に本当の笑顔が出来ない自分が。
「大丈夫、あんたはあんただよ。今日のお日さまのような暖かい心を持ったあんたなら、素敵な人に会ったときに気付くよ。みんな気付かないんだ、素敵な人に会ってるのにさ。相手の嫌なとこばっかり捜してる。そりゃあ、誰だって嫌になるよ」
この前は素直に聞けなかったのんちゃんの言葉が、今日はどんどん沁みてくる。
すると、のんちゃんの目玉がぐるぐるっと左右バラバラに回ったような気がした。
「なら、今日は良いこと教えてあげるね。辛いことがあったとき、自分の名前を言ってごらん、たとえば『わたしはのんちゃんだ、わたしはのんちゃんだ』ってな具合にね」
「名前?」
「ああ、名前には力があるんだ、自分の力の源があるんだ。力を使い果たした時の栄養ドリンクってところだよ、自分で自分を呼んでやるんだよ」
本当かな?
いつだって自分に自身がなくて、
記念撮影は端に立ってるか、後ろで顔だけ出してる。
『お好きな物をどうぞ』って言われても、いつも残り物。
『これが欲しい』って言えないから、最後になっちゃう。
そういえば
この前恋をしたのはいつだったかな?
夢をみたのはいつ?
結婚の為の恋なんて成立しない。
夜中にうなされる夢なんて、もう要らない……
……いいかな?
こんな私でも……
ほんの少しだけ
恋をしても、夢をみても……
ああ、また桜の木の下で寝ちゃったよ。
あれ?
のんちゃん?
もう、いない。
ありがとう、のんちゃん。
あなたに会うと元気が出る。
でも、桜の花が咲く時にしか、のんちゃんには会えない?
寂しい……
……でも、
何とかなる……
きっと、のんちゃんは見守っていてくれるよね、
私が
泣いても
くじけても
投げ出しても
また
笑って
もう一度
起き上がる
ちょっと時間はかかるけど、
そんな私を見てるんだろうな。
のんちゃんにまた会いたいな、
次の桜の季節を楽しみにしています。