表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3話

バイエルが初めて塔の中に姿を現したとき,ハノンは喜びのあまりダンスを踊りそうになった.

初恋の女性は,想像以上に美しくなっていた.

緩やかな波のある長い髪も澄んだ緑の瞳も,すべてが輝いて見えた.

バイエルは素直な性格は変わらずに,まっすぐに育っていた.

けれどハノンが何もできないでいるうちに,バイエルは塔を登らなくなってしまった.

塔のてっぺんの部屋で,ハノンはふさぎこむ.

三日と開けずに来てくれたバイエルが,もう十日も来ない.

ハノンは自分のぼさぼさの髪を引っぱり,ひたすらうじうじとした.

空はどんよりとくもっている.

そのときコンコンコンと,下の方で銅鐘が鳴った.

バイエルが来た! と窓から下をのぞくが,いたのは城の兵士である.

兵士は王の書簡を置いて立ち去った.

「ソナタ,取りに行って.」

ソファーの上で,毛繕いをしている猫に命じる.

「私は姫のためでなければ動かない.」

「使い魔でしょ,取りに行ってよ.」

「私の主は,今でもソナチネ様だ.」

ソナタはぺろぺろと,しっぽをなめる.

「いつ姫が来てもいいように,身奇麗にしておかねばならぬ.」

お主のように,よれよれの服では恥ずかしいと言い募る.

仕方がないので,ハノンは一人で階段を降りた.

おそらく,塔から出ろといういつもの命令だろう.

ハノンは,大陸一とうたわれた魔法使いソナチネの技を受けついでいる.

しかしハノンは,薬作りの仕事しかしていない.

本当は塔から出て,もっと色々な仕事をしなくてはならないのに.

ハノンは塔から一歩だけ出て,さっと書簡を取り上げて,すぐさま塔へ戻る.

書面に目を通した瞬間,血の気がひいた.

――塔から出てこない魔法使いに,姫はやれない.

「うそ.」

ソナタも階段を降りてくる.

ハノンが落とした書類をのぞきこんで,つぶやいた.

「ついにツェルニー陛下がしびれを切らしたか.」

「まさかバイエルが塔へ来ないのは…….」

ハノンの中に最悪の想像が駆けめぐった.

塔へ行かないように,足止めされているだけならいい.

だがすでにハノン以外の,王にとって都合のいい男性があてがわれていたら.

ハノンはぞっとした.

バイエルはずっと前から,ハノンのための花なのに.

奪われてたまるものか!

ハノンは塔から飛び出した.

とたんに,空模様が荒れてくる.

ごろごろと雷が鳴り,暗い色のくもが厚さを増す.

ハノンはおじけづいたが,落ちつけ,落ちつけとつぶやいて瞳を閉じた.

ゆっくりと深呼吸をする.

――この子の力は大きい.子供のうちは制御できないだろう.

師匠のソナチネは,いつもハノンのことを心配してくれた.

――今は私が抑えているが,私が死んだ後はどうすればいいのか.

だから王は,ハノンのために魔力を抑える塔を作った.

ソナチネの死後ハノンは塔にこもり,魔法の修行に明け暮れた.

いつか塔の外へ出て,王国を守る魔法使いになるために.

ハノンは,魔法の呪文を唱える.

徐々にあたりは明るく,暖かくなった.

呪文を終えて目を開くと,空はすっかり晴れている.

「大丈夫だ.」

ハノンはつぶやいた.

「大丈夫,大丈夫だ.僕はもう十八歳だ,子供じゃない!」

自分を勇気づけるために,大きな声で言う.

「ソナタ,バイエルのところまで飛ぼう.」

ソナタはぴょんと,ハノンの腕に飛び乗った.

ハノンの力は,師匠のソナチネよりも大きい.

塔の中にこもっていたときでさえ,バイエルの言動ひとつで晴れたりくもったりした.

その大きな力に振り回されるのではなく,使いこなすのだ.

誰よりも大切なバイエルのために.

風をまとい,ハノンはソナタとともに宙を飛んだ.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ