表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2話

十六歳の誕生日に,王はバイエルにひとつの命令を下した.

すなわち,結婚相手を自分で決めろと.

バイエルは本気で,自分の耳を疑った.

王の政略次第でいつどこへ嫁がされるのか,毎日ひやひやしていたのに.

王の周囲の者たちは,王はバイエルが末娘だから甘やかしているとささやいた.

確かに,頭ごなしに誰それと結婚しろと命じられた姉たちに比べれば,バイエルは恵まれている.

バイエルは,この好機を逃すまいと決意した.

だから命令が下されたその日のうちに,塔へ向かったのだ.

たとえ王がハノンをうとましく思っていても,好きに選べと命じたのだから,文句は言えない.


塔の階段を一段一段降りながら,バイエルはため息を吐く.

見送りについてくるソナタが,バイエルをなぐさめるように,にゃーんと鳴いた.

だが足取りは重く,ついに腰を下ろしてしまう.

ソナタがバイエルのひざに前足をついて,顔を見上げてきた.

「ねぇ,ソナタ.」

くりくりとした丸い瞳に問いかける.

「私はあきらめた方がいいのかな.」

ハノンを結婚相手に望むことを.

バイエルは幼いころから,不思議な力を持つハノンが好きだった.

ハノンが命じれば,たちまちに花が咲き乱れて,くもり空が晴れ渡ったりした.

「すごい,すごいわ!」

手をたたいて喜ぶバイエルに,ハノンは花かんむりを作って頭にのせてくれた.

「ずっと一緒にいようね.」

「うん.いつか私をお嫁さんにしてね.」

陽だまりの中で,二人はほほ笑みあった.

父も母もバイエルに冷たかったが,ハノンだけは暖かかった.

だからハノンが家族になってくれればいいと感じていた.

しかしハノンは,魔法使いソナチネの死と同時に,塔の中に隠された.

「ソナタがしゃべるわけないか.」

バイエルは苦笑する.

ついうっかり相談めいたことをしてしまった.

ハノンの飼い猫ソナタは,いつも何かを分かったような顔をしているから.

「でも話を聞いてくれて,ありがとう.」

ソナタの頭をなでて,立ち上がる.

十六歳の誕生日に,一世一代の勇気を出して塔を登った.

初恋はいまだに,バイエルの心に根づいていたからだ.

けれど,ハノンの方はちがったらしい.

ハノンは不器用ながらも歓迎してくれるが,けっしてバイエルの想いに応えてくれない.

それとも,王を忌避しているのだろうか.

ならばバイエルの訪問は,ハノンには迷惑なものかもしれない.

バイエルが塔から出ると,しとしとと雨が降っていた.

塔に来たときには晴れていたのに.

「運が悪いなぁ.」

最近,よく雨に降られる.

「それは姫のせいではない.」

塔の中から声をかけられて,バイエルは驚いて振り返った.

「雨が降るのは,ハノンの未熟ゆえ.」

なんとソナタが,人の言葉を話している.

「愛する女性を悲しみの雨に濡らすとは,男の風上にもおけぬ.」

夢を見ているのだろうか,猫がしゃべるなんて.

バイエルは自分のほおをつねった.

ソナタがあきれたように,目を細める.

「だが,できれば見捨てないでやってほしい.」

「うん.」

返事をすると,ソナタは満足げに笑んで,階段を登っていく.

バイエルはぼう然として,雨の中で立ちつくしてしまった.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ