004 異世界のペンギンは肉が好き?
「疲れたよ~もう歩けないよ~ナッシュくん~」
「うるさい……」
元気になったらなったでうるさいし面倒だな。
やっぱり元気ない方がよかったか?
『ガサガサっ』
ん?この音はなんだ……
「ナッシュくん、なんかいる!」
「落ち着け、静かにするんだ」
『ガサガサっガサガサっ』
近い……来るか?
しかしなんだ、この気配は。
魔物、なのか?
「消え……た?」
「なに?なんだったのよナッシュくん」
「わからん。気配が消えたな」
「あれから変なの来なかったね」
「そうだな。弱い魔物はいたが、怪しいのとは違ったな」
結局今日も野宿しないとなんだ。
お風呂入りたい。
お腹空いたなぁ。
ココナッツしか飲んでないし。
「飯にするか。ひより、何か買ってくれ」
「ごはん!買う買う!魔石たくさんだね!」
何買おうかな~昨日は鶏肉だったから、お魚かな?それともまたお肉?
こんなに魔石あるんだもん、たくさん買っちゃうよ~
「楽しそうだな」
「だってこんなに魔石があるんだもん、おなかいっぱい食べられるじゃん!」
「買いすぎるなよ?保存できないんだ」
「そっか、冷蔵庫もないもんね」
ん?なんか引っかかるけど……
「ああああ!そうだよナッシュくん!保存!それだよそれ!」
「いきなりどうした。保存なんて出来ないだろう」
「ちっがうよ!無限収納ってスキルあるんだよ私に!」
「はぁ?そんな貴重なスキルをひよりが?」
「そうそう!魔石だって入れられちゃうよっ」
「本当か?」
「時間停止機能までついてるって!」
「……は?時間停止?そんなの聞いた事ないぞ」
「見てて、今やってみる!」
時間停止機能だと?
そんなスキルあったら革命じゃないか。
ひよりがいるだけで色んなことが解決してしまう。
それにねっとすーぱーであんなに美味い食材と塩が手に入るんだ。
もしかして、ひよりと一緒にいると得してるの俺か?
なんとしても他のやつに知られないようにせねばならんな。
この破格のスキル、知られたらどうなるか。
ギルドだって欲しがるだろう。
下手したら貴族に飼われるかもしれない。
そうなってしまったら、ひよりの人生が飼い殺しで終わりになる可能性だってある。
「わっ、なんか空中に黒い穴が……ブラックホール?ここに入れればいいのかな?」
なんだあれは。
あんなのにものを入れるのか?
「ではでは、魔石ちゃん、いってらっしゃい!」
んなっ、消えた!
収納系のスキルがあるのは知っていたが、こんな感じなのか。
なんか気になるな。
俺もやってみたい。
「ここに入れればいいのか?」
「ちょっと、ナッシュくん、何入れようとしてるの!」
「俺の手荷物も入るなら楽でいいじゃないか」
「もー、これは私のスキルだよ!勝手にやったらだめじゃん!」
「細かいことを気にするな、入れ⎯⎯」
穴にナッシュくんが入っちゃう!
「───な、ナッシュくん!」
「はぁ、はぁ、た、助かった」
「もー何してるのよ!勝手にやるからでしょ!次は助けないんだからねっ」
頼まれても二度とヤるもんか。
なんだあの空間は。
暗くて黒くて何も見えなかったぞ。
まとわりつく感触もおぞましい……
「さっき入れた魔石を、また取り出せたら完璧だね!」
あれに手を入れたら俺と同じことにならないか?
「待てひより!あぶな───」
「きゃっ!ちょ、ナッシュくんっ!えっち!ばか!すけべ!」
吸い込まれ……ない?
抱きついただけになっている?
「いた、いたた、やめろひより!わざとじゃないんだ!心配したからだろ!離すからやめてくれ!」
なんてことだ。
スキル保持者は無事ならそう言ってくれれば……いや、これは俺が悪いか。
普通そうだろ。
だって自分のスキルなんだからな。
「悪かったひより、これは俺が悪い。許してくれ」
「次やったら許さないんだから……でもちょっとはいい、じゃなくて、ダメだからね!」
「わかったよ、この通りだ。美味い飯を作るから、な?」
「それなら許してあげるっ」
早速買っちゃお~
魔石がたくさんあるから、まずは全部無限収納に入れてっと。
なになに~?入ってるものが一覧になるんじゃん、見やすくて便利~
「たくさん買っても保存の問題は解決したが、調理は器具がないから出来ないのを忘れるなよ。昨日と同じものにしておけ」
「そうだった……でもいいよ、昨日のお肉も最高だったもんね!今日はお肉とお魚、両方いっちゃうんだから!」
楽しそうに選んでいるな。
俺は火でも熾しておくか。
「じゃじゃん!牛肉のステーキとソーセージと鮎だよ!」
「ソーセージ?鮎?牛肉はわかるが……そのふたつはなんだ?」
「ええ、この世界にはソーセージないの!?鮎を知らない!?本気で言ってる?!」
この世界の食事ってどうなってるのよ。
私のスキルがネットスーパーじゃなかったら、即餓死してたかもしれないじゃない。
持つべきものは転移者特有のチートとナッシュくんね!
ナッシュくんがいなかったら料理する人いないもん。
「これは魚か。久しぶりに見たな。しかし小ぶりだな」
「鮎の大きさはそんなもんだよ?」
魔物の魚しか見たことはないが、海の魚も川の魚も凶暴でデカイんだが……
これもニホンという国の魚なのか?
魔物の魚は美味いと聞いたことはあるが、毒持ちが多い上にそもそも倒すのも困難だ。
捌いたこともないが、何とかなるだろ。
「今やってやるから待っていろ。それとあの塩を寄越せ」
「はいはーい、よろしくナッシュくんっ」
ふふふ、またこの塩で食べられるのか。
ふんだんに使うのはもったいないが、いつもより多めに使ってやろう。
くくく、美味すぎて泣くがいい。
今度はひよりが俺の料理で泣く番だ!
※注
ただ塩を塗って焼くだけです。
「あ、ナッシュくん!ソーセージとステーキにはこのソースかけるから、塩は塗らなくてもいいからね!」
「ソース?なんだそれは」
「まぁまぁ、焼き上がりを楽しみにしててよっ」
楽しみに、だと?
よもやこの塩より美味いソースがあるというのか?
そんなバカなことあるか。
まぁいい、どのみち泣くのはひより、お前だ!
「まだかなまだかな~」
「落ち着け、もう少し──」
『ガサガサっガサガサっ』
──なんだ、またあの気配が。
「ひっ!ナッシュくん、また……」
「落ち着けひより、何があっても守ってや──」
『キュッ』
「──ん?」
『キュキュ!』
「か……」
『キューーー』
「きゃわいいいいいっっっ!」
「おい待てひより!」
「ペンちゃん!ペンギンのペンちゃんじゃん!かわいい!なんで?なんで海でも南極でもないのにペンギンが?なんでなんで!なんでもいいけどきゃわいい!」
『キュキュッ!キュキュ!』
「わぁ、喜んでるの?いいこいいこ~よちよち、かわいいかわいいいいい!」
『キュキュッキューー!』
「なになに?何かあるの?」
「差してるのは……魚か?」
「え、首振ってる。魚じゃないの?」
『キュキュッ!』
「え?肉?こっち?ペンギンなのにお肉欲しいの?」
「やめておけひより!こいつは魔物かもしれないんだぞ!」
「こんなかわいい魔物がいるわけないじゃん。ね~?そうだよね~?」
『キューーー!』
かわいい!なんなの!
ペットにしちゃう?してもいいよね?
もうウチの子だよ~
「焼きあがったのあげちゃうね!」
「勝手にしろ」
「もー、冷たいんだから!こっちおいで~お肉だよ~」
『キューーー!』
土の上に置くのはやだよね。
どうしようお皿とかないし。
あっ、私が食べされてあげれば解決じゃん!
「はいどうぞ~」
『キューキュッ』
「え?持った?すご!木の棒持っちゃった!異世界のペンギンすご!」
『キューキュッキュッ、キュー!』
「これ?このソース?え、動物にソースとかあげていいのかな……異世界だから大丈夫ってことであげちゃお!欲しがってるしいいよね!」
ちょんちょんってつけてっと。
『キューーー!』
「そんなにこれが欲しかったの?どーぞ~召し上がれっ」
『…………キューーーー!』
嬉しそうに食べて~かわいいなぁ
「ナッシュくん、私たちも食べよっ」
「危険な魔物ではなさそうだ。そうしよう。どれから食べるんだ?魚か?」
「まずはソーセージだよ!じゃじゃん!これをつけてもいいし、つけなくても美味しいよっ」
塩もつけないで美味しい?
そんなバカな話あるもんか。
『パリッ!』
「うーん、この音と味、最高だよ~おいひ~」
なんだあの軽快な破裂音は。
肉を焼けば硬くなるのは当たり前だが、あんな音がするもんなのか?
それでいて美味しい、だと?
ええい、悩むな、行け!
『パリッ』
「…………う、まい。なんだ美味さは」
絶妙な塩味と柔らかさ。
そしてこの音。
何だこの肉は、肉なのか?
くそっ、美味いってことしか分からないぞ。
「やっぱり粒マスタードだよね~おいひ~!ナッシュくんもつけてみる?」
「それは……なんだ?」
もっと美味しいだと?
こんなに美味しいものが更にだと?
もう信じられん。
だが俺は料理人だ。
行かねばならん!
「そうそう、ちょんちょんってつけて食べてみてっ」
「…………う、美味すぎる!なんなんだこれは!」
「あーだめだめ!二度漬け禁止!ぶっぶー!」
「んなっ、もう、ダメなのか!」
「違うよ~かじったのをそのままディップしたらばっちいでしょ!街に行ったらスプーンとか買わないとだね」
まぁいい、そのままでも美味いからな。
まだまだあるが、次はステーキか?
「お肉の後にお肉じゃなんだかな~だから、次は鮎にしよっと!」
「匂いはとてもいい匂いだ、食べてもいいのか?」
「見ててね、こうやってガブっていくんだよっ」
ん~おいひ~
鮎の塩焼きは最高だね!
捌くの初めてって言ってたのに、ちゃんとできてるじゃん。
「かぶりといけばいいんだな」
「そーそー、美味しいからいっちゃって!」
「………………」
これが魚の味か。
濃厚な塩の味とマッチして美味すぎる。
ソーセージも美味すぎたが、この魚も勝るとも劣らない。
いや、味の種類が違うからな、甲乙つけがたい。
「美味いな……」
肉と違い圧倒的に食べやすい。
そしてあっさりしているのにこの旨味はなんだ。
塩のおかげなのか?
くっ、涙が、涙が溢れそうだ。
耐えろ、耐えるんだ。
人前で、それも女の前で泣くなど言語道断!
「美味しくてあっという間に1匹食べれちゃうねっ」
最後はステーキ~
お楽しみのステーキだよ~
このステーキソースをかけて食べるのか最高に美味しいんだからっ
「何匹でもこの魚は食べられそうだ。そのステーキはさらに美味しいのか?」
「ふふふ、このソースをかけたらもっと美味しくなるのよ!」
「もう信じるしかあるまい。早く食べさせてくれ!」
これでさらに驚かせちゃうんだから!
「もったいないけど、今日は仕方ないよね!何本でも買えるんだからケチケチせずにいっちゃおう!」
贅沢に滴るほどかけて~からの~
「んーーー!これこれ、おいし~」
やっぱりこのソースは最高のステーキソースだねっ!
「この香りは……なんだ、嗅いだことがないぞ」
「ほらほら~いいから食べちゃいなよ~」
嗅いだことはない。
だがまずいなんて絶対に思えない。
それほどの香りだ。
ソーセージと魚で程よく満たされた腹なのに、まだまだ食べれると言っているようだ。
怖い、食べたいのに怖い。
なんなんだこの感覚は。
いけ、いくんだ、食べるんだ────
「…………………………」
────泣いた。
「わぁ、やっぱり泣くほど美味しいんだねっこれが嫌いな人は絶対いないはずだもん~おいし~ペンちゃんも美味しいねっ」
噛めば噛むほどに広がる肉の味。
ソースの酸味がありさっぱりなのに濃厚な味わい。
それでいて繊細で濃縮された旨味が肉と絡み合う。
美味い。
美味すぎる。
美味すぎるのになぜだ。
なぜ俺はこんなにも敗北感を感じているんだ。
この消えない虚無感は────
「ソースと素材のおかげで、ただ焼くだけでこんなに美味しいんだもん。最高だよね~」
────そうか。
俺は料理なんて何もしていないのか。
ただ串に刺して焼いただけ。
塩を塗っただけ。
こんなの誰だってできる。
何ひとつ調理をしていないただの素材。
そしてひよりが購入したソース。
それだけで俺が作ってきた最高傑作の料理の味を何段階も飛ばしてくる。
腕によりをかけ、何度も研究し、美味い料理を作るために全力だったのに。
それなのに素材とソースに負けたんだ。
そりゃあ涙も出るってもんよ。
負けたぜひより。
だが今に見ていろ。
街について調理器具を購入した暁には、泣かす。
ひよりを絶対に、俺の料理で泣かしてやるんだ。
泣いた。
泣き虫ナッシュ。
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