第四部:まだ、その時じゃない
数日が経ち、炎上も落ち着いてきたが、配信する気力もない。
食事はデリバリー、風呂も洗濯も、掃除もサボっている状態だ。
「僕は、先輩に期待してたのかな」
自分の気持ちが、分からない。
そろそろ風呂くらい入るかと、お湯を出してたまるのを待っている時だった。
――ピンポーン。
ドアスコープには、スラリとした長身の男。
カジュアルスーツに艶のある黒髪。
……宮坂先輩だ。
「白石! 悠人くん、いるんだろ?」
大きな声で呼び、ドアを連打するもんだから、僕は開けざるを得なかった。
「……近所迷惑ですよ。とりあえず、中に入ってください」
「悠人くん!」
先輩は僕を玄関で押し倒し、荒い息がかかってくる。
今日も、昨日も、その前も。
彼は僕にメッセージを送り続けていて、僕はそれを無視したからだろう。
前髪が顕になり、僕は先輩から視線を外し、目を隠そうとする。
が、それを彼は許さなかった。
「もう、どうにかなるのかと思った」
見ると僕の手首に力が加わり、彼の表情が泣き出しそうな子どものようだった。
ズキリ――。心の痛みが僕を襲う。この感情は、同情だろうか?
彼は続けた。
「早く俺を殺してくれないか……」
泣きそうな顔と声は、普段の彼の言動からは想像もつかない。
風呂場では蛇口からお湯が出続けている。
先輩の呼吸が乱れ、僕から目を逸らした。
このタイミングは逃せない。
「…………」
僕は彼を押し倒し返し、顔を近づける。
耳元で、彼のためだけに〝演技〟をした。
「今はまだ、その時じゃないです」
彼の耳が赤くなり、僕は突き飛ばされてしまった。
「――っ!」
僕はしたたか頭を打ち、その場に倒れた。
「悠人、だいじょ――」
僕に抱きついた瞬間、彼を抱き寄せ、背中に腕をまわす。
「ごめん。俺っ」
「分かってますよ、分かってますから」
彼の頭を撫で、給湯器からアラームが鳴る。
『お湯張りが終わりました。風呂の蛇口を……』
「なんか、安心するにおいだな」
「三日も風呂に入れていませんからね……」
先輩もすがるように僕の背中に腕をまわした。




