表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ、その時じゃない  作者: 江藤ぴりか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

第三部:決裂

 僕はエゴサはしない。

 それはリスナーにも言っているのだけれど……。

『YUEって大学生なんだよね?』

 配信中に入ったそのコメントは無視した、はずだった。

『なんか掲示板でリークしてる人がいたよ』

 僕は大学生というのは秘密にしている。

 これは明確な鳩行為だ。

「なんでそんなとこ見ちゃうの? 僕のことだけ見てよ」

 そうは言っても止まらない。

『なんか、大学生? の裏アカのスクショが貼られてたんだって』

 こういう時はNGに入れるに限る。


 しかし、僕のSNSにDMが来た。

 名前はコメント欄の子で、ご丁寧にスクショも貼ってあった。

『YUEくん、ごめん。でもちゃんと伝えたくて』

 スクショは〝Fラン大の裏アカ〟という名前のものだった。


 ――六月上旬。

『最近、ウチの私大の経済学部に、とんでもなく美形がいるって話、聞いた』


 ――六月中旬。

『配信者のYUEって、あの辺の大学の雰囲気だよな。キャンパス歩いてそう』


 ――七月上旬。

『この前、某駅前のあのカフェで会ったんだけどさ、男でも惚れるレベルでヤバかった』


 この投稿はスクショ時点で三千、五千、一万超えのPVを示していた。

 これは看過できない。

 そう思い、Fラン大の裏アカとやらにコンタクトをとってみることにした。


『配信者のYUEです。僕への特定行為をやめてくれませんか?』


 その返事は宮坂先輩のメッセージで返ってきた。

『ん? 名前も顔も出してないじゃん』

 思わず通話ボタンを押し、先輩を問い詰めた。


「先輩、なんで僕の特定するようなこと、するんですか?」

『落ち着けって。悠人くんの名前も顔も出してないじゃないか』

「それでも、僕が大学生だってことも秘密にしているんですよ!」

『はぁ? 散歩配信しているのに? あれじゃ、特定されるのも時間の問題じゃん』

「特定されないよう、気をつけてやってるんです」

『これは〝慣らし〟だよ。いきなり燃えるより、ずっとマシだろ?』

『俺がコントロールしてるうちは、最悪の事態にはならないさ』


 僕は電話を切り、自分のアカウントに飛んだ。

 やはり登録者が増えている。

 こんな状態だと配信できない。

「どうすればいい? とりあえず、配信を休むと告知して……」

 頭の中は考えがまとまらない。

 大学は夏休み中だが、研究レポートや共同制作やらで出向かざるを得ない。

 SNSを見ると、疑惑のポストがトレンド入りしていた。


『YUEの大学、どこ?』

『私大なら……M大?』

『キャンパスでYUEとすれ違ってるかもしれないってこと?』


 憶測が飛び交い、僕は目の前が真っ黒になる。

 直後に電話が鳴り、取ると宮坂先輩だった。


『もしもーし? あの投稿、三つだっけ。消したから、安心してよ』

「もう遅いですよ。スクショも残ってるし」

『え? 今、見たら見当違いの大学、特定されてるし大丈夫だって』

「……先輩は分かってませんね」


 電話を切って、僕はベッドに寝転んだ。

 枕をぎゅっと抱くと、スマホの画面が光る。

 通知が鳴り止まなかったのだ。


 先輩とはすっかり打ち解けたと思ったのに。

 あの人は、少なくとも〝約束〟は守る人間だと思っていた。

 それが、喉の奥でざらついた音を立てて崩れていく。



 それでも火曜日はやってくる。

 今回はいつものファミレスではなく、二駅先の喫茶店で待ち合わせをした。

 店の奥のなるべく人目につかない場所を選んで座る。

 重い沈黙が流れるこの時間はいつもより長く感じられた。

 やがてコーヒーが運ばれ、僕は口を開く。

「……なんであんなことをしたんですか」

 彼は悪びれず答えた。

「君のためにやったことさ」

 自信家の目が僕を貫く。

「僕のためって……それが僕を危険に晒されているんですよ」

 ハッと笑い、先輩はいつものように口を歪ませた。

「だって、ずっと怯えて生きるのはつらいだろ? むしろ、感謝されると思ったよ」

 僕は彼の態度に頭に血がのぼり、机を叩いた。

「先輩はなにも分かってない! これじゃ、週一の会う話もできなくなるじゃないですか!」

 声を荒げてしまい、マスターに会釈をし、改めて座りなおした。

「でも登録者も増えて、結局YUEの情報は宙のまま。結果的には俺は正しいことをしたと思うよ」

 ……もう今からでも殺してやろうか。

 そんな思いが駆け巡ったが、今じゃない。

 そしてノセられてはいけない。

 この攻略は僕が主導であるべきなんだ。

 でも、それでも〝相手を切る〟決断をするほど、今回は越えていた。

「結果論はバカのすることですよ。もういいです。僕は宮坂先輩と今後、会いません。あなたは、もう信用に値しない。それは僕にとって、致命的なんです」

 コーヒーは半分残っていたが、僕は席を立った。

 先輩の分の会計も現金で済ませ、店を後にしたのだった。


 その後、先輩からは謝罪と弁明らしき長文が送られてきたが、僕は無視して部屋に閉じこもる日々を送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ