どちらが本当の鬼だ?
おとぎ話です
世の中には戒めを語ったおとぎ話も多いのですが、たまにはハッピーエンドがあってもいいんじゃないか?と思うのです
でも、思っていたことと違うこともあるかもしれない・・・
ある人里離れた山奥に1匹の鬼がいました
この鬼はよく里へは降りては行くのですが、悪さをするわけでもなく、人間達の暮らしをそっと遠くから見つめているような物静かな鬼でした
そして、そんな日々の中で1人の村娘にいつか憧れを持ち、恋焦がれるようになっていったのです
「ああ、あの村娘と面と向かって話がしたい!しかし、鬼の姿のままでは村娘は恐れをなして逃げてしまうかもしれない」
鬼は自分が鬼であることを悔やみました
翌日も村娘を見ては恋焦がれ、その翌日も、そしてそのまた翌日も・・・日々その想いは強くなっていくのでした
ある日、鬼がまた里へ向かって歩いていると・・・
おっと!・・・
足元に小さな蜘蛛がいることに気付きました
危うく踏みつぶしてしまうところでしたが、なんとか踏みつぶさずにすんだ
「おいおい!そんな地面に這いつくばっていたら危ないぞ・・・」
鬼はやさしく蜘蛛を手のひらに載せると、すぐ横の葉に移してあげました
そしてそのまま里へ村娘を見に行ったのです
今の鬼にはそうやって遠くから村娘を見ることしかできない・・・
なんとか面と向かって話がしたい!
「どうにか人間になれないものだろうか?」そう願い続ける日々が幾日も過ぎました
それからの鬼は村娘の喜ぶ顔がみたくて人知れず、田植えだというのに水不足の時には、山の上の池の堤防を崩して村に水を送ったり、米の収穫が近い時に台風が来たりしたときはこの台風を遠くへ吹き飛ばしたり・・・この村のためにそっと手助けをしていました
そんな毎日を過ごしながら月日が経ち村娘も成長し器量の良い娘に成長していきました
鬼の叶わぬ想いはどんどんつのるばかり・・・
鬼が人間になりたいと願い続けて3年が経った日に神様が鬼の前に現れたのです
鬼はその光り輝く威厳を前に跪き・・・「ああ!神様!私を何卒人間にしてくださいませんか?」
神様は3年間のこの鬼の一途な気持ちを見届けてきておられました、そしてこの鬼は何一つ悪さをすることなく、それどころか村のために手助けをして今日まで過ごしてきたことももちろん知っていました
「おまえが鬼に生まれたのは前世でそれはそれは極悪非道を働いたためじゃよ」
「ええ・・・・!そうだったのですか・・・何卒お慈悲を・・・」
「おまえは前世の死後にあらゆる地獄巡りで3億年攻められて、さらにカルマの刈り取りのためにこの世に鬼として送り出されたのじゃ!しかしのう、鬼として生まれてからは何一つ悪さをしていないし、陰となって村人たちを助けてきたであろう?ただ、それだけでは人間にするわけにはいかんのじゃよ」
「・・・どうすればよろしいのでしょうか?」
「ふ~む・・・それではお前に一度だけ人間になるためのチャンスを与えることにする」
「神様!ありがとうございます!!!」
「私はこの地の氏神であるが、村人たちは私が鎮座する神社に参るには歩きにくい険しい山道を登ってこなくてはならぬのじゃ、そこで村人たちのために明日の夜明けまでの間に村人たちの誰にも見られずに麓から神社の境内まで100段の石段を作ることができれば、おまえを人間にしてやろう」
「ああ!ありがとうございます!やります!やらせていただきます!成し遂げさせていただきますとも!」
やっと人間になれる!
あの村娘と面と向かって話ができるようになる!
鬼は真っ暗な中、一生懸命麓から石段を一段一段と積み上げていきました
さて、99段まで積み上がった時に・・・
「あと一段だ!これでやっと長年の願いが叶うぞ!」
もう、完成間違いなし・・・鬼もそう確信していました
・・・そこで気の緩みが出てしまい・・・
「夜明けまでは、まだ少し時間があるから、少し休憩しよう」
鬼は99段目の階段のところへ腰を下ろしました
もう、嬉しくて嬉しくて、疲れなんて感じない(ドーパミン超放出状態というやつですね)
人間になってからのことをあれこれ考えているうちに・・・なんと知らぬ間に眠ってしまったのです
どれくらい時間が経ったのでしょう・・・
ハッと!目が覚めた鬼・・・・おお!
それは一匹の蜘蛛が木の上から糸を伸ばして鬼の顔の辺りに降りてきて言ったのです
「鬼さん鬼さん!前に助けてもらった蜘蛛です!今起きないと100段目の石段は間に合いませんよ!」
そう、あの時の蜘蛛が恩返しのために起こしに来てくれたのです
その声で目覚めた鬼!
「おお!あの時の蜘蛛さんかい?ありがとう!恩にきるよ!」
鬼は飛び起きて、階段を下りていき、100段目の石段用の石を持ってきて、積み上げたのです
完成!
あのまま眠りこけていたら、よくある戒めの為のおとぎ話そのものになるところだったのです
神様との約束を見事成し遂げた鬼はその後目出度く人間・・・青年にしてもらいました
やっと願いがかなった鬼は・・・失礼・・・青年はいそいそと村娘に会いに行きました
「こんにちは!はじめまして!私は鬼です・・・いや鬼だった者です・・・この度神様のご加護により人間にしていただきました!」
村娘は突然現れた見慣れないよそ者であるこの元鬼を怪訝そうな顔で見つめました
「実は鬼だったころより数年間、あなたのことを想い続けていました!何卒これから仲良くしていだけませんでしょうか?」
「????????」
「ご存じないかもしれませんが、私は鬼だったころに、村のために田植えの時に山奥の池の堤防を壊して水をひいたり、台風がきそうになったら吹き飛ばしたりしたんですよ」
「????????」
そりゃ唐突にそんなこと言われても村娘は理解できるはずもありません
それどころか恐怖心さえ湧いてきました
「何をおかしなことを話しているのですか?」
「え?いや・・・その・・・私は元鬼で・・・ずっと前から・・・」
村娘は青年を睨みながら青年の言葉を遮るように・・・
「何をしでかすか解らないまさに鬼みたいな方のようで恐怖を感じますので、金輪際私にも村にも近づかないでください!」
なんと!好意を持っていた村娘である人間から鬼のような言葉をなげかけられました
そのまま村娘は逃げるように家の中へ入っていきました
鬼は人間になったことを、村娘に会ったことを、後悔しました
かつての自分とこの村娘
「どちらが本当の鬼だ?」
元鬼の青年はまた山奥へ独りで帰って行き、その後もう村へ現れることはなかったそうです
戒めの話でもハッピーエンドの話でもないおとぎ話でございました!




