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戦わされるわたし

猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


10/23連載開始。11/3まで集中連載中。


平日→20:20の一回更新

10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新


以降は週イチ更新予定です。




「なッ……!?」



 わたしが放り込まれたのは、灰色の光に包まれた寒々しい空間だった。



 足下にはやっぱり灰色の地面(?)があるけれど、それ以外は前後左右から頭上に至るまでなんにもない。ただ灰色の光景が、見渡す限り無限にどこまでも広がってる。



 ……って、なんなんだっ!? ここ、どこだよっ!?



『――さっそくお手並み拝見と行こうか、【銀煌の聖女】よ』



 呆然と立ちつくすわたしの頭上から魔法使いの声が響いてくる。

 あわてて空を見上げたものの、もちろん、彼の姿はない。



「って! だから、わたしは聖女じゃな……」


『前を見てみろ』



 どこか愉しげな魔法使いの声。


 わたしがはっと顔を上げると、そこにはいつの間にか、ひとつ目の巨人がそびえるように立ってた。



 背の高さはわたしの三倍……ううん、もっと大きい。ちょうど二階建ての建物くらいの大きさ。

 シルエットはでっぷり、ずんぐりしてて、太い手足はさながら丸太のよう。首はほとんど無くって、半ば胴体にめり込んだ頭のちょうど真ん中に、ぎらぎらと光る巨大な目がある。


 緑色の眼球をぐるんと回し、そいつはわたしをぬっと見下ろした。



『――俺が丹精込めていま作った【銀煌の聖女】判別専用の魔法生物だ』



 魔法使いの声が得意げに説明してくる。



『まあ、魔物と違って障気はないし、ただの操り人形みたいなものだからして、安心して心ゆくまで戦うがいいぞ』


「って、待ってよ! 戦うってなに!? なんでわたしがそんなことっ……」


『この程度の敵、大陸最強の剣士ならば余裕だろう? ――【銀煌の聖女】の腕前、見せて貰おうではないか』



 魔法使いが言い放つと同時に、ひとつ目の巨人が雄叫びをあげた。




 ……って! なんなんだよこの状況っ!?



 察するに、わたしが放り込まれたこの空間、あの魔法使いによって作られたものらしい。

 そして、あいつの目的は、わたしの力量を見定めて、本物の聖女かどうか判別すること。


 ……と、なれば、わたしがすることはひとつ。


 あえて無力なフリをして震えながら、「わ、わたしは聖女じゃないですよ~っ」って全力でアピールするしかっ……



 次の瞬間、ひとつ目の巨人が威嚇するように両腕をぶん、と床へ振り下ろした。

 身体中の皮膚に感じる痺れるみたいな風圧。

 鼓膜を揺らす轟音とともに足下が揺れて、思いっきりつんのめってしまった。



 って、わざと負けるなんて無理~っ!

 無残にえぐれた床の大穴を前にわたしはゾッと身震いした。

 ……これ、本気出さなきゃやられるやつじゃんっ!



「くそっ!」



 半ばヤケになりながらわたしは愛剣を抜き放った。


 正直、魔物以外を相手にするのはあんまり自信ないんだけど……(だって、そもそもそんな経験ほとんどないし)

 ……こうなったら、やるしかない!




 剣を構えたまま、わたしはひとつ目の巨人を観察する。


 巨人は目が真ん中にひとつしかない。そのうえあの巨体だ。スピードならわたしの方が上だろうし、死角だって大きいはず。

 つまり、うまいこと懐へ潜り込んで攻撃すればっ……!


 間合いを計りながら思考をめぐらせてると、不意に、巨人の緑色の目が細くなった。



「――なッ!?」


 巨人の片方の腕が一瞬の溜めもなく振り下ろされる!

 どうにか避けたわたしを、今度はもう一本の腕が横薙ぎに襲った!


「……くそッ!」


 間一髪、肩から床へと転がってどうにか避ける。

 けど、息つく間もなく立ち上がったわたしを、腕はさらに追撃してくる。


 ……速い! 

 必死に避けながらどうにか間合いの外へ逃れたわたし、思わず「ずるい!」と叫んでしまった。



「動きが速すぎ! この巨体でこの反応速度とかおかしいでしょっ!?」


『ふん』、と、どこかで見てる魔法使いが鼻で笑う。


『あいにく俺は「パワータイプの怪物は動きが鈍い」などというつまらない常識に囚われるような愚か者ではない。ほうら、ご覧の通り、こんなに俊敏だ』 


「って、巨人を反復横跳びさせるな~っ!」



 ……ああ、魔法使いの言葉に応えるようにして軽快なステップを踏む巨人のなんて軽やかなこと!

 ていうか、マジ瞬発力があるなこの怪物!?



 巨人、やがておもむろに動きを止めると、じわり、と距離を詰めてきた。

 わたしはとっさに後ろへ下がる。けど、その瞬間、なにかがわたしの背中を阻んだ。



「えっ?」


 あわてて振り向くけど、そこにはなにもない。

 なにもないんだけど、たしかに、見えない壁がそこにある。


 ……この空間がどこまでも限りなく広がってるってのは見せかけで、どうやらここが端っこらしい。

 わたしの胸の中に、苦いものが広がった。

 つまり……追い詰められた!


 らんらんと輝く巨人の目がわたしに狙いを定める。

 でも、これ以上、後ろへは退けない。……もう、逃げられない!



 ――……くそっ、魔法が使えたらっ……! 



 せまりくる巨人を見上げつつ、わたしはつい、心の中でそんなことを思ってしまう。

 昔みたいに魔法が使えたら、こんなやつ、敵じゃないのにっ……!



 ……ああ、あのときのわたし、どうしてあんな選択をしてしまったんだろう!



 ……いまさら悔やんだってどうしようもないって分かってるのに、それでもわたしはまた、もう何度したかも分からない後悔を繰り返してしまう。

 しかも……わたしがこうやって後悔するのはいつだって、自分が失ってしまったものを悔やむときばっかりで……あの時わたしが見捨てたあの子のためじゃない。


 我ながら、自分勝手だなって思う。

 だから、こんな目に遭うのもきっと、わたしへの罰で……――。




『――どうした? 先ほどから逃げ回ってばかりではないか』



 うなだれるわたしの頭上へ、魔法使いの皮肉めいた声が振ってくる。



『……よもや、聖女だとバレないよう、あえて無力なフリをしているのではないだろうな?』


「……だから聖女じゃないってばっ!」わたしはヤケクソになって叫んだ!


「ていうか、無茶振りもいい加減にしてよっ! こんなデタラメな怪物に勝てるわけないじゃんっ!」


 なんだか無性に苛立ってた。

 悔しくて、怖くて、情けなくて、怒れてきて。でも、その矛先が向いてるのは無茶振りしてくる魔法使いなのか、無慈悲な巨人なのか、みっともない自分自身なのかも分かんなくなって。

 なんていうか――もうやってらんない、みたいな気持ちで、八つ当たりするみたいに喚く。

 

 そんなわたしに呆れたのか、相変わらず姿の見えない魔法使いが、やれやれと嘆息する気配がした。




『――ピュイルなら』、と、どこか皮肉めいた口調で魔法使いが言う。


『お前が名前を貰ったという小説の主人公なら、そんな泣き言は言わないだろうな』



 わたしは息を呑んだ。

 思わず、顔を上げてしまう。

 

 びっくりするくらい頭の中がスッキリしてた。

 まるで、うつらうつらしてるときに大きな音が聞こえてきて、とたんにハッと目を覚ましたときみたいな、ああいう感じ。

 思考が冴え渡って、どこまでも研ぎ澄まされた感じがする。



「…………そうだね」



 ……わたしの口の端が自然と吊り上がるのが分かった。


 そうだ。悔しいけど、こいつの言う通りだ。

 わたしの憧れの剣士ピュイルなら、こんなことくらいじゃ諦めない!



 わたしは剣を握り直した。

 どこか安全なとこでぬくぬくこっちを観察してるハズの魔法使いに向けて、挑発するみたいに言ってやる。



「ピュイルなら、こんなふざけた怪物あっさり倒して、あんたみたいなクソ魔法使いの首根っこ掴んで地面にねじ伏せて土下座させてるよ!」


『……ほう、よく分かっているじゃないか』



 どこか愉しげに魔法使いが笑った。



 次の瞬間、目の前の巨人がその太い腕を容赦なく振り下ろしてくる!

 



「っ!」


 身体を捻るようにしてかわすと、わたしはそのまま地面を蹴った。

 そのまま勢いで、ちょうど目の前に振り下ろされた巨人の腕の上へ飛び乗ってやる!


 ブーツの裏に、やわらかいものを踏みつけたとき特有のあの、なんともいえない感触。

 でも、いまはそんなの気にしてる場合じゃない!

 ほんの一瞬でも立ち止まったらバランス崩しちゃうし、振り払われたら一巻の終わりなんだ。


 迷うな。行け。膝を曲げ、わたしは不安定な足場を蹴って前へ進む!




 怪物の腕を駆け上がったわたし、数瞬後にはそいつの肩から頭の上へ飛び移ってた。

 

 呼吸を整えるみたいに息を吸って、わたしは巨人の頭上から飛び降りつつ、動揺するみたいに見開かれた緑色の瞳孔めがけ、手にした剣を思いっきり突き刺してやった!





 ――深々と刺さったままの剣から手を離して、床へ降り立つ。


 自分の身長よりずっと高いところから飛び降りたことによる衝撃、さすがに殺しきれない。足裏から膝へじん、と伝わってくる衝撃を堪えつつ、わたしはたったいまトドメを刺したばかりの巨人を振り返ってみた。


 大きな瞳のちょうど真ん中にわたしの剣を深々と刺したまま、巨人はまるで凍りついたように動きを止めてた。



「っ…………倒したぁっ……!」



 その瞬間、膝から力が抜けた。

 わたしはその場にへたりこんでしまう。


 ……ああ、助かった。

 どこか虚脱した心持ちでそう思いつつ、わたしは天を……どこかでわたしを観察してるハズのあの魔法使いをドヤ顔で睨めつけてやった。


 どうだ、思い知ったか! あのクソ魔法使いめっ!




『――ほう』



 そんなわたしの頭上に、どこか感心したような青年の声が振ってくる。



『よく分かったな。その目が、修羅モードへの切り替えスイッチだということに』


「……当たり前じゃん。あんな怪物、目が弱点だなんてバレバレ……修羅モード?」



 ちょっと待って。

 ……こいつ、いまなんて言った?



『修羅モードというのはつまり、読んで字の如く、だな。スピードも膂力も数段階アップするぞ。いやあ、ただの俊敏なサイクロプス風情を相手にするだけには飽き足らず、さらに難易度を上げようとは、さすがは【銀煌の聖女】といったところか』


「このひねくれ者~~~~~っ!!」



 全力で叫ぶわたしの視界の端で、なにかが動く。


 おそるおそる視線を向けたわたし、声にならない悲鳴を洩らした。




 ――……巨人が、再び動き始めてた。




 そいつは眼球に突き刺さったわたしの剣を抜き、忌々しげに床へ投げ捨てる。

 目の傷口は見る間に塞がって、ぎょろりとした瞳がいまいちど、わたしを見据えた。  



 さっきまで沼みたいな暗緑色してた瞳、いつの間にか燃えるような深紅に変わってる。怒りの色だ。


 あわてて立ち上がろうとするけど、身体がうまく動かない。

 そもそも、応戦しようったって、いま、わたしの手元には剣すらないんだ! あいつの足下へ駆け寄って剣を拾うには、時間が足りなすぎる。



 すっかり動けなくなるわたしの視界の中で、怪物の腕がゆっくりと振りあげられるのが分かって。



 ……ああ、昔みたいに魔法が使えたら!



 いままた、そんなどうしようもないことを考えながら。床にへたりこんだままのわたしは強く目を閉じた。

次話「婚約者にされるわたし」、10/28 20:20更新


主人公、婚約者にされてしまいます。

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