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毒をまとう魔法使いと、毒の効かない偽聖女【どくまと!】  作者: 左京潤
第一章 魔法使いと出逢うわたし
5/34

あっさり丸め込まれるわたし

猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


10/23連載開始。11/3まで集中連載中。


平日→20:20の一回更新

10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新


以降は週イチ更新予定です。

「――……まあ、事情はおおむね理解した」



 わたしの申し開きをひととおり聞いたあと、魔法使いが鷹揚に頷く。


「つまり、追い剝ぎ氏、あらため馬氏は、俺を狙って襲撃してきたのではなく、俺の使い魔を野生の魔物と勘違いし、俺を助けるために突進してきた、というわけか」


『そう! そうなんだよ!』と、わたしは全力で頷いた!


『というわけで、さっさと元に戻してよ! ていうか、そもそもなんで馬なわけっ!? 動物に変えるって言ったって、もっとなんかあるでしょ!? ほらっ、ウサギとか、イヌとかっ……』


「何を言う。馬は人類の盟友だぞ? 彼らは人類の発展に大きな役割を果たしてきた。俺が独裁者なら世界馬記念日を制定し、毎年のように馬が主役の盛大なフェスティバルを企画していたことだろう」


『……あんたが独裁者じゃなくて良かったよ』


「なあに、時間の問題だ」


 魔法使いがしれっとうそぶく。(……なんだ、こいつ?)



「とにかく、馬は素晴らしい生き物だ。こと、移動手段としての実力は他の追随を許さない。……おっと」


 魔法使い、そこで『名案、思いついちゃいました!』とでも言わんばかりの顔してぽんと手を打った。



「そういえば、俺はいま、森の中を歩きたい気分ではなかったのだった。

 ……というわけで、馬氏よ。ここはひとつ、俺を街まで運んでは貰えないだろうか?」


『はぁ!? なんでわたしがっ!?』


「まあ、細かいことは良いじゃないか。奇遇にも、馬氏はちょうどいま、馬なんだし。

 ……おお、それに、背中にはちょうど俺が乗るのにぴったりな鞍まで設えてあるではないか。これはもう、運命と言っても過言ではないな」


『あんたがやったんでしょーが!?』わたしは思わず声を荒げる。


『っていうか、なんなのっ!? もしかして、そのためにわたしを馬にした、ってこと!?』


「渡りに船、徒歩移動がダルいときの馬、飛んで火に入る森の追い剥ぎ……もとい、馬氏とでも言ったところだ」


 そう言って、魔法使いが面白そうにくちびるの端を持ちあげる。

 わたしは思わず唸ってしまった。

 ……こいつ、確信犯じゃないかっ!?



『ていうかっ! 自分の足で歩きなさいよっ!』


「そうしたいのはやまやまなのだが、俺は森の中を歩くのがあまり好きではないのだ。視界は悪いし、足場も悪いし、草とか邪魔だし、あと、シンプルに疲れるし」


『わたしだってイヤだよっ!?』


「おお、意見が一致したな。そうだよ、俺もまさに、その気持ちなのだ。分かって貰えて嬉しいよ」


『違あうっ!』


「俺の先生も言っていた。そういうイヤなことは可能な限り他人にやらせてラクをするのが利口な生き方だ、と」


『……先生?』


「俺の人生の師だ」


 さらりと言うと、魔法使いがあらためて、わたしを見た。



「無論、報酬は充分に用意する。そう悪い話ではないと思うが?」


『いやだ』



 わたしが即答すると、魔法使いは「ほう」、と、わざとらしく眉根を寄せてみせる。


「……人へ突撃しておいて、その態度か」


『そ、それを持ち出すのはずるくないっ!? そもそも勘違いだし! 故意じゃなくて事故だし! わたしは、あんたを助けようと思ってっ……』


「助けようとしてやらかしたことならば、なんでも許される、というわけではない。勘違いだろうがなんだろうが、馬氏が奇声をあげつつ先制攻撃を繰り出して来たのは事実ではないか」


『でも! けっきょくはあんたの魔法で阻まれたんだし! 結果的に誰もケガしなかったんだからセーフじゃん!』


「……セーフではない」、と、魔法使いが不満げな顔をする。



「お陰で、まんまと起こされてしまったではないか」


『なんだよ、さっきから起こした起こした、って……あんた、そんなに良い夢見てたのっ!?』


 わたしが声を荒げると、魔法使いが不意に口を閉じた。

 ややあって、「……ああ」、と小さく頷く。



「……これ以上ないほど、幸せな夢だった」



 彼の面に、どこか寂しげな色が浮かぶ。

 けれど、それは一瞬のことだった。

 わたしがハッとする間もなく、彼はまた皮肉げな表情に戻って



「……それを、どこぞの馬が騒ぎ立てて、台無しにしてからに」


 やれやれ、とわざとらしく肩を竦めて厭味を言ってくる。


「せっかく良い夢を見ていたというのに、レジェンド級に最低な寝覚めのおかげで、いまの俺のメンタルは最悪だぞ。この世から永遠に失われてしまた至福の夢の続きをいますぐ返せ、馬氏よ」


『む、無茶言わないでよっ! ていうか、ちょっと起こしちゃったくらいでそんなっ……』



「――俺は、眠りを妨げられるのがなによりも嫌いなのだ」



 ふと、青年の口調が真面目なものになる。


「人にはそれぞれ、譲れないものがある。ときにそれが社会通念と一致しなくても、本人にとっては大事で、大切なものが。

 ……俺にとってのそれは、睡眠なんだよ。何人にも侵されたくない時間だ。大切なものをぞんざいに扱われたら、相手の気を損ねるのは当然ではないか?」


『う……』



 ……わたし、ぐうの音も出なかった。


 それは、たしかにそう。

 他の人から見たらただのガラクタでも、自分にとっては宝物だったりするもの、わたしにだってある。


 たとえば、子どものころに友だちと拾った、ツヤツヤした木の実。

 初めて街へ連れてってもらったとき入った喫茶店の、紙のコースター。

 それに……わたしがずっとお守りにしてる、もうなんどもなんども読み返してボロボロになってしまった本。


 この人にとっての睡眠が、そういうものだったとしたら……。



 ……まあ、わたしの勘違いで起こしちゃったのは事実だし、売り言葉に買い言葉とはいえ、この人が大切にしてるものを軽んじるようなこと言っちゃったのは良くなかった。


 

『……ごめん』


 わたしが謝ると、魔法使いが少し、意外そうな顔をした。



「……なんだ、やけに素直じゃないか」


『わたしにも、そういうのがあるからね』



 わたしが言うと、彼はふっと表情をゆるめる。


「……そうか。……それは、良いことだな」


 独り言みたいに呟くと、不意に、彼はわたしに向き直った。



「すまなかった」、と、彼が頭を下げてくる。


「俺の方こそ、一方的に追い剥ぎ扱いしてしまって悪かった。結果はどうあれ、俺を助けようとしてくれた気持ちはありがたいし、感謝する。

 ……たしかに、毛並みがまだ少し湿っているようだ。俺のために、水浴びを切り上げてまで駆けつけてくれたというのは事実らしい。……感謝するぞ、謎のお節介な馬氏よ」


『いや、だから馬じゃねっつの』



 ……いちおう訂正しつつ、わたしはなんだか拍子抜けしてしまった。

 あれ、なんか……ちゃんと謝れるんだ、この人。



 人をいきなり馬に変えるちゃうし、一方的だし、なんかよく喋るし。てっきりヤバい人かと思ったけど。

 こう見えて、実は意外とちゃんとした人なのかも……。



「……と、いうわけで」


 ほっと胸をなで下ろすわたしの前で、青年がにっこりと微笑んだ。



「お互い謝ったところで、ひとつ、誠意を見せてもらおうか」


『誠意』



 思わずオウム返しするわたしの前で、青年が笑顔のまま続けてくる。


「馬氏が本当に申し訳ないと思っているなら、口先だけではなくきちんと行動で示すべきだ。誠意を見せろ、誠意を」


『それはもはやヤクザの因縁ではっ!?』


 ……前言(口には出してはないけど)撤回。こいつ、やっぱりヤバいやつだ!

 ていうか、そもそも問答無用で人を馬に変えるような魔法使いがちゃんとした人なわけないっつーの!


「と、いうわけで、改めて、俺を街まで運んで欲しい。拘束時間はせいぜい半日、馬になっているのだからして肉体的負担はさほどない筈だ。まあ、好条件のバイトが転がり込んできた、とでも考えればいい。……引き受けて貰えるだろうか?」


『う…………………………わ、分かったよ…………』



 ……青年の圧に、わたしはついに屈した。


 こいつの口車に乗せられて利用されるのは癪だけど、でも、まあ、わたしにもまったく非がない、ってワケじゃないし……。



 それに、どのみち、そろそろ街へ行かなきゃ、とは思ってたんだ。

 お米とかパスタとかのストックも心許なくなってきたし、お礼の品とか、森の中で集めた素材もだいぶ貯まってきたから、換金もしときたいし。

 ついでに人を運んで現金収入ゲットできるなら、ありっちゃありなのかもしれない。



『……でも、あんたを乗せてくのはいいけど、いくら馬だからって変なとこ触ったり、掴んだり、掴まったりとかはダメだからね! もちろん手綱も鞭もナシ! そんなことしたら全力で振り落としてやるから!』


「無論だ」


 なにを当たり前のことを、と言わんばかりに魔法使いが同意する。



「なにせ、俺は……」


 なにか言いかけて、彼は不意に口ごもった。



『……何だよ』


 わたしが訊ねると、彼は「……いや、何でもない」、と首を振って、


「とにかく、俺は馬氏の背の鞍へ乗るだけだ。不用意な接触はしない、と約束しよう」


 それだけ言うと、わたしのかたわらへ回り込んでくる。


 魔法使いが、わたしの背中の鞍へ触れる気配があった。

 思わず首を巡らせると、彼は黒い手袋に包まれた指先で、鞍を確かめるように撫でている。


「……これだけ厚みがあれば、半日程度は持つか」


 どこか難しい顔で独りごちると、彼はひらり、と、鞍に跨がった。

次話「助けを求めるわたしと誓約の魔法」、10/25 8:20更新


主人公、通りすがりのひとに助けを求めます。

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