穴を掘らされるわたし
他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
毎週火曜日20:20更新です。
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『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』
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「受け取れ」
魔法使いはそう言って、手にしたマギスチル製シャベルをぽん、とこっちへ放ってくる。
反射的にそれをキャッチしつつ、わたしはきょとんとしてしまった。
「へっ? いや、なんでシャベル……」
「知れたことだ。穴を掘るに決まっているだろう」
「でも、なんで穴なんかっ……」
わたしが訊ねると、魔法使いは露骨にため息を吐いてみせた。
「……全く。この聖女ときたら、いったい何度言えば理解してくれるのだ……?」
言いながら、魔法使いがあたりへ視線を巡らせる。
さっきまで平和だった野営地、ひどいありさまになってた。
折られた枝に、ちぎれたロープ。わたしのマグカップや魔法使いのマギスチル製ポットは地面に転がってて、ポットの口からお茶がぽたぽた落ちている。
焚き火はめちゃめちゃに踏み荒らされ、ほとんど消えかけてた。なかば炭になりかけた枝があちこちに散らばって、ところどころ赤く光りながらくすぶってる。
そして……そのかたわらに、わたしたちが倒した魔物の死骸がある。
最後の一体は魔法使いのなんかすごい魔法で消し飛ばされたけど、それ以外の魔物たちの死骸はそのまんま、あちこちに転がってた。
魔法使いが内側から破壊したやつと、わたしが倒したやつとで計、四体分だ。
「魔物の血肉は猛毒だ」、と、魔法使いは言い含めるように口にする。
「毒自体は数日も経てば分解されはするが、それまでの間、人や動物が触れないよう、きちんと埋めておかねば危険なんだよ」
「で、でもっ! 魔物倒すたびにいちいちそんなことしてる人なんて誰もいないって! 街中ならともかく、ここは森の奥なんだし、どっかにまとめて寄せとけばいいじゃん」
「……ほう」、と、魔法使いが目を眇めた。
「つまりピュイは、うっかり迷い込んでしまったいたいけな子どもが犠牲になっても良いと言うのか?」
「よ、よくないけどっ……ていうか! やりたいなら、あんたがやりなよ!?」
「うっ……腕の痛みがっ…… 」
魔法使いはにわかに眉をひそめ、折れた腕を抱えるように抑えてみせる。
……いやっ! ずるいって! そういうのっ!?
「ていうか、そもそも大魔法使いなんだから魔法使えばっ? あんた、街中でゴミとか燃やしてたじゃん!?」
「非効率だ」、と魔法使いが即答する。
「ああいった紙くずを灰にするのと、水分を含んだ数十キロの肉塊を灰にするのでは、必要なエネルギー量があまりにも違いすぎる。穴を掘って埋めるのが一番効率が良いんだよ」
「じゃあ、魔法で穴を掘ればいいじゃん!」
「……まあ、できないことはないが」、食い下がるわたしに、魔法使いがしぶい顔をした。
「そもそも、魔法と力仕事は非常に相性が悪い。この魔物たちを埋められるような規模の穴を魔法で開けようとすれば、あたり一体が焼土と化してしまう。
……まあ、リスさんやキツネさんや小鳥さんたちの住処がなくなってしまっても良いというならば、やむを得ないが… …」
「ぐぬぬ」
「――無論、報酬は払う」
言葉に詰まるわたしへ、魔法使いがダメ押しの一言を放ってきた。
「ピュイが言う通り、これは俺が個人的にやりたいことなのだからして、本来ならば俺がやるのが当然だ。……しかし、残念ながら、今の俺には余力がない。
……すまないが、俺に変わって引き受けては貰えないだろうか?」
魔法使いはそう言うと、わたしに向かって深々と頭を下げてくる。
ひどく真面目な態度だった。いつもの茶化すような雰囲気、そこには微塵もない。
そして、そうやって頭を下げてくる彼がさっきから抑えてる腕は、わたしを魔物の毒から守ろうとした結果、負傷したもので……。
……ああもう! と、わたしは心の中で呟いた。
だから、ずるいってば! そういうの!
「……分かったよ」、と、わたしはしぶしぶシャベルを掲げた。
「やればいいんでしょ、やれば! かわりに報酬、弾んでもらうからね!」
「無論だ」、と魔法使いが即答する。
「言い値で払おう」
「じゃあ、あんたの全財産ちょうだい」
「構わないぞ」
「……金貨一枚で手ぇ、打ってあげる」
「なんだ、聖女は意外と小心者だな」
「……べつに。ただ、身の程をわきまえてるだけ」
言い訳がましくわたしが言うと、魔法使いはふっと表情をゆるめた。
なんだか少し面白そうに、そして、どこか安堵したみたいに微笑んでみせる。
「まあ、つまりは適材適所というやつだな」、と魔法使いが評する。
「幸い、聖女はまだまだ体力が有り余っていそうだしな」
「そりゃあ、ちょっと木にぶつかったくらいで大怪我するよーな、どこぞの貧弱大魔法使いさまに比べれば、ね」
口を尖らせて皮肉を返しつつ、わたしはちら、と、魔法使いの折れた腕を見やった。
こいつみたいな大魔法使いなら、痛みもある程度はコントロールできるんだろうか。
……でも、それにしたって骨が折れてるんだ。体力を消耗してないわけがない。
「――いいから、怪我人は黙って大人しく、そのへんにでも座ってなよ」
わたしがそう言ってやると、魔法使いの目が少しだけ揺らいだ。
ややあって、彼はすぐ側の木へよろめきながら近づいて、もたれるみたいに腰を下ろした。
* * *
「そのあたりの場所が良いな。魔物の亡骸にも近いし、木の根も比較的、少なそうだ」
「……へーい」
魔法使いのエラそうな指示に生返事を返しつつ、わたしは不承不承、言われた通りの場所にシャベルを突き立てた。そのまま肩の部分に足を乗せ、ぐっと体重をかけてやる。
スッ……と、シャベルの先が深々と地面に沈み込んだ。
「えっ」
びっくりするほど軽い手応えに、わたしは思わず声をあげてしまう。
てっきり、硬い土とガチガチに絡まった木の根に全力で阻まれるもんだとばっかり思ってたのに。覚悟してたような抵抗はぜんぜんなかった。
それどころか、ほんのちょっと力を入れるだけで、シャベルの先は吸い込まれるように土の中へと入ってく。
まるで、熱したナイフでバターを切るみたいな気持ちよさだ。
「えっ、なにこれすごい! もしかして、あんたの魔法っ?」
「ああ。肉体強化の魔法に加え、シャベル自体にも魔法が掛けてある。あたりの土の繋がりや木の根も予め弛めておいた」
「へえ、やるじゃん!」
そういえば、シャベル自体も羽みたいに軽い!
ほんの少し腕を動かすだけで、穴はみるみる広く、深くなってく。その爽快感にわたしはすっかり夢中になってしまった。
穴掘りなんてめんどいし重労働だと思ってたけど、これなら余裕だ! ていうか、むしろ楽しいな!? これ、ハマるかも!
……って。
はしゃぎながらサクサク地面を掘り進めてたわたし、ふと我に返った。思わず手を止め、魔法使いへ顔を向ける。
「……ねえ。これって、また、なんか副作用とか出るやつじゃないの? ほら、前に馬にされてビュンビュン飛ばした時みたいな……」
「ほう」、と、魔法使いが感心したように頷いた。
「さすがは聖女。なかなか察しがいいではないか。……良かったな。今夜もきっと、ぐっすり眠れるぞ」
「詐欺師っ〜!!!!!」
「ほらほら、手が止まっているぞ」、と魔法使いがニヤリとする。
「もっと気合いを入れて掘ってくれ。あまり浅いと、雨で土が流れてしまうからな」
「わかってる!」
「かといって、深く掘りすぎれば崩れて危険だ。……おっと、そこにミミズさんがいるぞ。ミミズさんは森の宝だ。傷つけないように注意してくれ」
「うっせえ! 口出しすんな! あんたが掘れ!」
思わずシャベルを振りあげて怒鳴ると、魔法使いは腕を抑えたまま肩を揺らし、楽しそうに笑った。
「――……ていうか」
せっせとシャベルを動かしながら、わたしはふと、魔法使いに訊いてみる。
「あんたって、魔物を殺しても、なんとも思わないの?」
次話「彼が魔王になろうとする理由」、1/27(火)20:20更新
今度こそ本当に野宿編ラスト! そして、ついに例の魔法も……!?




