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聖女のフリをするわたし(後編)

猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


10/23連載開始。11/3まで集中連載中。


平日→20:20の一回更新

10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新


以降は週イチ更新予定です。




* * *




「へへっ! 人生、楽勝すぎではっ!?」



 ――魔物に襲われかけてた商隊のひとたちを華麗に助けてから、少しあと。

 彼らと別れたわたし、お礼の品を山と抱えながらウッキウキで森の小道を進んでいた。


「しっかし、いくら魔物の血を浴びちゃったからって、まさか着替えの新しい服までくれるとは……いやー、っぱ、聖女ともなると扱いが違うわー」


 ふだん着てる安物の服より数段上等な布地を指で撫でつつ、わたしは感慨深げに呟いてしまう。



 えっ、【銀煌の聖女】さま? わたしが???

  ……いやいや、フツーに違いますけど?????


 だってさ、考えてもみてよ。


 この大陸でその名を知らぬ者はいない超有名人。

 大陸最強の女剣士こと【銀煌の聖女】エル・クレアードが、こんな辺境の森を用もなくうろついてたりするわけないじゃん!



 と、いうわけで――。


 わたしはピュイ。旅の剣士。

 わけあって故郷を出てからこっち、あてのない放浪生活してる。

 まあ、ピュイっていうのは偽名なんだけど、もちろん、わたしの本名はエルでもクレアードでもない。

 当然、【銀煌の聖女】さまとはなんの関わりもない……んだけど。


 ……なんとなく、わたしは自分の髪に触れてみる。


 やわらかな木漏れ日の中にあっても輝きを放つ、月光を紡いだかのような銀の髪。

 ……わたしの髪のその色は、どうも、ウワサの聖女さまのそれを彷彿とさせるものらしい。



 この髪と、淡く青い瞳のせいで、わたしはこれまで幾度となく聖女さまに間違われてきた。

 そりゃあもう、数え切れないほど。うんざりするくらい、なんども。



 ……とはいえ、絶世の美少女との呼び声も高い本物の聖女さまとは違って、わたしの容姿はごく平凡なもの。

 髪は肩につくかつかないかくらいのショートカットで(ラクだからね!)、服装は飾り気のない厚手の長袖シャツとジーンズ。もちろん、剣だって使用感あふれる安物の中古品。

 どこからどう見たって、いわゆるウワサの聖女さま、って感じじゃない。

 だからフツーに街を歩いてる分にはそうそう注目されることもないんだけど、ひとたび剣を握ると一変して、『もしかして、あの聖女さまでは……!?』ってなっちゃうんだよね。


 正直、複雑なところはあるものの、まあ、戦ってるときの姿が聖女さまみたいにカッコいい、ってことならそれはそれで悪い気はしない。(……ということにしておこう、うん)



 ちなみに本物の【銀煌の聖女】さまことエル・クレアードは、いまから2年くらい前に謎の失踪を遂げて現在も絶賛、消息不明中。


 当のご本人が不在なもんだから、よけいに、同じ髪と目の色を隠しもせずに魔物を倒してまわってるわたしが本物だと思われちゃうんだろうね。


 二十年前に魔王が倒されたあとも、魔物たちは未だに人類を脅かしてる。

 こんなご時世だから、きっと、みんな聖女さまを求めてるんだ。



 ……て、いうかさ!

 聖女さまも、地位も名声も放り投げていきなりいなくなるなんて、迷惑な話じゃない?

 そりゃあ、聖女さまにだって事情があるんだろうけど、そのお陰で勘違いされまくってる無関係なわたしの身にもなって欲しいよ、ほんと!



 わたしだって、最初の頃は、ちゃんと毎回、否定してたんだけどさ――。



 ほんと、あきれるくらい何度も何度も何度も間違われるし!

 否定すればするほど「さすが聖女さまは謙虚だ」とか「なにか事情がおありになるんですね……!?」とか言われて、かえって本物っぽく思われちゃう始末で!


 こっちもだんだん面倒になっちゃって、いっそ開き直ることにした、ってワケ。



 で、いざそう決めてみれば、聖女さまと勘違いされるのも悪いことばかりじゃない。


 まず第一に、お礼の内容が格段にランクアップする!

 今日だって、ちょっと魔物を倒しただけなのにすっごく感謝されたし、食べ物だけじゃなく、まさかの新しい服まで貰っちゃったしね!


 ……聖女さまだって思われてなかったら、こうはならなかった。


 というか、きっと、うっかり魔物の血を浴びちゃった時点で逃げられてたと思う。

 いや、それならまだ良い方で。ヘタしたら石とか投げられて追い立てられてたかも。


 だって、()()()()()()()だもん。

 一滴ですら命に関わるような毒を、頭から盛大に浴びたんだ。

 いくら自分たちを助けてくれた相手だったとしても、手の平返して腫れ物扱いしたってぜんぜんおかしくない。


 それでもああして歓迎してもらえたのは、完全にネームバリューのお陰。

 いやあ、聖女さまさま、ってやつだよね!


 ……あっ、もちろん、べつにわたしの方からお礼とか要求してるわけじゃないよ!?

 そんなゆすりたかりみたいなことはしないって! さすがに!

 お礼はあくまで、あちらのご厚意。むしろ、こっちはいつも「いえいえ、お気になさらず」って断ってるくらい。(……まあ、最終的には押し切られて甘えることになるワケだけど、ね)



 ていうか、そもそもわたし、べつにお礼目当てだったり、感謝されたくて魔物を倒してるわけじゃないんだ。



 ――わたしが魔物を倒すのは、憧れの存在に少しでも近づくため。


 わたしの憧れ、放浪の女剣士ピュイルは、わたしが大好きな小説の主人公。

 強くて、優しくて、勇気があって、いつでも自分以外の誰かのために戦えるような、そんな、とびきりカッコいい女の子。

 ピュイルはわたしの理想。

 わたしの偽名、ピュイも、彼女の名前からつけたんだ。


 ピュイルみたいにカッコよくなりたくて、わたしは魔物を倒してる。

 それが……。


 ――……わたしはまた、あの子のことを思い出してしまう。

 きらきら輝く大きな瞳。はしばみ色の三つ編みと、ふわりと揺れるスカート。


 それが、わたしの、せめてもの償いになるのなら……――。




 ……まあ。

 とはいえ最近のわたし、ほぼほぼお礼の品で食ってるみたいなとこあるから、今日みたいにいろいろ貰えるのはフツーに助かるんだけどね!

 街でせこせこバイトするより性に合ってるし、なにより効率が良い。

 いまの時代、やっぱ、どうせなら賢く生きなきゃ、うん!



 それに、聖女さまだと思われると、相手にナメられにくい。


 わたしみたいな素性も知れない若い女が剣士やってると、フツーは軽んじられるし、足元だって見られる。

 今日みたいに魔物を倒したって感謝されるどころか、逆に助けた相手に襲われそうになったことすらあるんだもん。

 ……どうにか逃げたけど、あれはほんと、最悪だった。


 だから、聖女さまのフリをするのは、わたしなりの生存戦略でもある。


 このご時世、若い女性がひとりで生きていくのは大変なんだ。

 聖女さまと同じ色をした髪と目はわたしの立派な武器のひとつ。

 となれば、せいぜい活用しなきゃ、ね!




 それに、他のことはともかく、魔物相手の戦いなら、聖女さまにだってひけを取らない自信がある。




 だって、わたし、()()だもん。

 魔物の天敵。魔物を捕食する、大陸で唯一無二の生き物。



 妖精は食物連鎖の頂点にして、大陸最強。

 見た目も大きさも人間とほとんど変わらないけど、その精霊魔法は強力無比。

 しかも、背中から生えた蝶のような翅の鱗粉は、ありとあらゆる生き物の病と怪我を癒やす力を持ってるんだ。こんなすごい生き物、他にはいないよ!


 ……まあ、わたしの場合、いろいろあって翅を失っちゃったし、精霊魔法も使えなくなっちゃったんだけどね。


 でも、それでもまだ、相手が魔物なら無敵。


 まあ、わたしと同じく妖精で、むかし魔法剣士やってた母さん(実は、勇者と一緒に魔王倒したすごいひとなんだよね!)じきじきに剣、教え込まれたってのもあるけどさ。


 魔物を前にすると身体が勝手に動く。

 急所とか、次の攻撃とかもぜんぶ分かっちゃうから、楽勝で倒せちゃうんだ。



 それに、魔物を捕食するわたしたち妖精には、魔物の毒は通じない。



 ――『聖女は魔物の毒を恐れない』

 最近まことしやかに囁かれるようになった、聖女さまに関する新たなウワサ。

 なにを隠そう、その発信源はわたしだったりする。


 ……実はわたし、前にも今日みたいなことやらかして、助けた人たちの前で魔物の血を浴びちゃったことがあるんだよね。

 ほら、わたしって妖精なもんだから、どうも魔物の毒に無頓着なとこがあってさ。

 人目がなければ魔物の血とかぜんぜん気にしないんで、自制せず本能のままに戦うとつい、ああなっちゃいがち、っていうか……。


 で、そのときとっさに「わ、わたしには女神の加護があるので大丈夫です!」とか適当に言い訳したのが、なんか気づいたら広まっちゃってた、っていうわけ……。


 ……まあ、たしかにそれっぽいもんね。『聖女は女神の加護で魔物の毒が通じない』、って。自分で言うのもなんだけど、謎の説得力ある。

 わたしも、自分が出所じゃなかったら、「まあ、そういうこともあるか……」って思ってたかもしれないし。



 というわけで、本物の聖女さまは魔物の毒への耐性、ない……と思う。

 いや、知らんけど。

 そういう意味では、偽者のわたしがデマを広めてしまって申し訳ないとは思ってる。


 ……いまごろどっかで、本物の聖女さま、苦笑してるかもしれないなあ。


 で、でも! ウワサを広めたの、わたしじゃないし!?

 そもそも、もともと聖女さまのウワサなんていっっっっっっくらでもあるんだ!



 『聖女さまが森を歩くと、動物たちが後からついてくる』とか、『聖女さまが生まれたとき、数百年に一度しか咲かない花が満開になった』とか……。


 なんなら、『じつは女神の生まれ変わりで背中に翼が生えてる』とか、『とある街でアイドルユニットを結成してデビューした』なんて滅茶苦茶なウワサすら聞いたことあるし!


 それに比べれば、『魔物の毒が通じない』なんてかわいいもの。

 むしろ箔がついて良いまであるんじゃない!? 有名税だよ、有名税!




 ……とは、いえ。

 正直、後ろめたい気持ちはある。

 ある、っていうか、すっごく、ある。


 でもでもっ! わたしが魔物倒して人助けしてるのは事実だし!

 それに、わたしが自分から聖女だって名乗ったこと、これまでただの一度だってないんだ。ほら、さっきだってそうだったでしょ?


 いつだって、わたしはなにも言ってないのに、みんなが勝手に勘違いして、ちやほやしてくれるだけ。

 ホントだよ!? 女神さまに誓ったっていい!



 ……まあ、聖女さまっぽい微笑みとかは、毎日こっそり練習したりしてるけど。



 でも! でもさ!? 助けられる側だって、無名の剣士よりも有名人に助けられたと思った方が嬉しいじゃん!


 つまり、これはWin-Winっていうやつであって、みんなが幸せになれるウソなんだよ。うん!


 そもそも、本物の聖女さまがとつぜんいなくなったからこうなってるのであってっ……。





「…………ん?」


 いつものように自分に言い聞かせてたわたし、不意に視線を感じて立ち止まった。


 気配を感じた方を振り返り、そのまま、あたりを囲む木々をぐるり、と見渡してみる。


 森はいつも通り、静まり返ってて、もちろん、誰もいない。

……ていうか、魔物が跋扈するこの森で、街道から外れたところをうろついてる人間なんて、そうそういるはず、ないんだけど。


 ……気のせいか。


 拍子抜けしつつ、わたしは軽く伸びをした。


 その拍子に、ポケットからなにかが落ちる。

 反射的に拾い上げようとかがみ込んで、わたしは一瞬、固まってしまった。



「うっ……」



 ……思わず、喉の奥から声が洩れる。


 地面に落ちたのは小さな紙切れだった。正確には、四つに折られた一枚の便せん。

 さっきの商隊のひとたちと別れるとき、ひとりの子ども――栗色の髪の毛を三つ編みにした女の子が駆け寄ってきて、そっと渡してくれた手紙だ。



 ――『ぎんきのせいじょさま、わたしたちをたすけてくれてありがとう!』



 たぶん、わたしが魔物の血を洗い落として、新しい服に着替えてる間に書いてくれたんだと思う。

 そこには、お礼の言葉と一緒に、わたしの似顔絵まで描いてくれてあった。



 ――『せいじょさま、とってもとってもかっこよかったです! わたしも、おおきくなったら、せいじょさまみたいになりたいです!』



 手紙を読んだときの後ろめたさがありありとよみがえってきて、わたしの心臓と胃がきりきりした。



 わたしは思わず、深々と息を吐く。

 罪悪感とともに拾い上げた手紙を懐へしまい直しつつ、その重みを感じながらわたしはまたひとつ、ため息をついた。



「……あんな子どもを騙すなんて……わたし、きっとそのうち、地獄に堕ちるな」


 胸にわだかまりを抱えつつ、わたしは再び歩き始める。




 ――……でも、そうは言いつつ、このときのわたしはまだ、ちっとも分かってなかったんだ。


 こんな風に聖女のフリしてたせいで、近い将来の自分がとんでもない事態に陥ってしまう、ってことを。

次話「やらかしてしまったわたし」、10/25 8:20更新

主人公、魔法使いと出逢います。

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