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料理を始めるわたし

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。





 いつの間にか日が傾きかけてた。



 やっぱり、ちょっと早めに準備を始めて大正解。(まあ、こちとら野宿生活のプロよ!)

 魔法使いのお陰で焚き木も集まったし、暗くなる前に火を起こしちゃわないとね。



 わたしはあたりを見渡して、腕より太いくらいの枝(っていうか、細めの丸太?)がそのへんに落ちてないか探してみる。

 いいのがなければナタで木の枝を落とすしかないけど、わたしが持ってるナタだと時間かかって面倒くさいんだよね。それに、森をむやみに傷つけたくないし。


 さいわい、ちょっと離れたとこにおあつらえ向きのが何本か転がってて、わたしは小躍りしながら駆け寄った。

 右腕と左腕にそれぞれ一本ずつ、計二本の枝の端っこを抱えるみたいに持ちあげて、焚き火予定地のとこまでずるずる引き摺ってくる。



「――よいしょ、っと」


 抱えてきた二本の丸太を足下へ放ると、わたしはそれを蹴って転がした。向きを揃えて、さっき掘った火床を挟むみたいに配置してやる。これで簡易かまどの完成だ。


 そうしたら、平行に並べた丸太の間に、さっき魔法使いが集めてくれた枯れ枝を置いていく。

 うまく空気がまわるように組んだあと、いちばんうえによく乾いたヒノリの樹の枯れ葉をひとつかみ置いて、わたしはふところから火鋼を取りだした。擦ると火花が出る、火の精霊の力を封じ込めた魔法金属だ。

 

 火床を挟む丸太の一本を靴底でしっかり踏んで固定して、そこへ火鋼の先を押し当てる。


 火鋼をナイフの背で一気に擦ると火花が散った。

 そのかけらが落ちたとたん、枝に載せたヒノリの葉がパッと明るく燃えあがる。


 その勢いが消えないうちに、わたしはあらかじめ取り分けといた特に細い枝のかたまり、ふんわりと被せてやった。


 一条の煙がたなびく。

 一瞬、火が消えたみたいになるけど、やがて小枝の束の奥がくゆって、そこからゆらり、と、小さな炎が立ちあがった。



「――随分、手慣れているんだな」


 ちょっと離れたとこから、魔法使いが感心したみたいに評してくる。

 どうやら、わたしが火起こしするのをずっと観察してたらしい。(……見世物じゃないぞ、わたしは)


 彼を半眼で睨みつつ、わたしは「まあね」、と軽く返した。



「街に泊まる時もあるけど、水場さえ確保できるなら野宿の方が好きかな、わたしは」


「倹約か?」


「まあ、それもあるけど……」わたしは焚き火に新しい枝を追加しながら応える。



「……わたし、身分証とかないから、ちゃんとした宿には泊まれなくてさ」



 わたしがそう言うと、魔法使いが少しだけ眉根を寄せた。


「しかし、冒険者向けの安宿なら、身分証など……」


 言いかけて、けど、彼は途中で言葉を切る。



「……いや。あれは、女性には厳しいか」


「……そうだよ」



 独りごとのように呟く魔法使いの言葉を、わたしはため息交じりに肯定した。



「わたしも、最初は雑魚寝のとことかに泊まってたんだけどね。いちどイヤな目に遭って、怖くなっちゃってさ。……それからは、なるべく個室のとこ選ぶようになったんたんだけど、そういう宿も鍵がなかったり、あっても、かんたんに壊せるようなやつだったりして、けっきょく、安心できなくて……それなら、魔物がうろつく森の奥の方がまだマシじゃん。人はまず来ないし、魔物なら、倒しちゃえばいいしさ」



 炎の向こうで魔法使いの瞳が揺らいだ。彼の面に物憂げな色が浮かぶ。



 てっきりなにか言われるかと思ったけど、彼はなにも言わなかった。


 ただ、「……そうか」、とだけ頷いて、静かに焚き火へ視線を落とす。



 しばらく、沈黙が続いた。



 焚き火のぱちぱちという音だけが辺りに響いてる。

 わたしも黙って、少し太めの枝を火にくべた。


 なにかじっと考え込むような彼の横顔を、少しずつ大きくなり始めた炎が照らしてる。

 それを見て初めて、わたしは辺りがもうすっかり暗くなってることに気づいた。 



 わたしは思わず、焚き火の端っこから飛び出してる枝へ手を伸ばした。なんとなく枝の向きを直したり、組み替えたり、崩れかけた炭を寄せてみたりとかしてしまう。


 なんだか心の中がもぞもぞして、落ち着かない。

 どこか、くすぐったいような感じがする。


 ……なんだよ、と、わたしは心の中で呟いた。

 わたしの事情なんて、こいつにはぜんぜん関係ない話のはずなのに。

 こいつは他人事みたいな顔するでもなく、口先だけで慰めるでもなく。それでいて、無視した、ってわけでもなくて。

 ただ、黙ってわたしの言葉をそっと受け止めてくれた、っていうか……。


 寄り添われてる、って感じがした。



「――……まあ、そのお陰でこの通り、火を熾すのも上手くなった、ってことだよ!」


 その居心地のよさがなんか逆に居心地悪くて、わたしは思わず明るい声を出してしまう。


「それに、森の中ならムダ遣いしなくていいしね。っていうか、そもそもできないし。まわりにあるもの全部タダだから!」



 そう言って笑ってみせると、魔法使いは少しだけ、意外そうな顔をして……そのあと、ふっと表情をゆるめた。

 空気を和らげるみたいにやわらかく微笑んで、小さく頷く。



 なんか……悪くないな、こういうの。

 ちょっとだけそんなことを思ってしまって、わたしはあわてて首を振った。心の中でそれを全力否定する。



 ……って、こんなの偶然だ! たまたまだ! 気のせいだ!

 昔の話をしたせいで、ちょっと感傷的になっちゃっただけ。

 このクソ魔法使いに思いやりとか優しさとか、そんなモンがあるはずない。いまのだってきっと、わたしの呑気さを小馬鹿にしてせせら笑ったんだ。


 その方がいい。……こんなやつに、分かったような顔して寄り添われたくない。




「さて、と」、わたしは気持ちを切り替えるみたいに立ち上がった。


「火も落ち着いたし、そろそろご飯でも作ろうかな」



「水が必要なら言ってくれ」、と、魔法使いが申し出てくる。


「……一夜を過ごすには良い場所だが、辺りに水場はなさそうだからな」


「ありがと。でも、大丈夫だよ。水なら、ちゃんと用意してあるし」


「だが、限りがあるだろう。強かなのは悪いことではないぞ。先生もよく言っていた。利用できるものは利用すべきだ、と。朝食バイキング付きの宿に泊まったら、昼の分までがっつり食べるべきだ、と……」


 いや、それは正直、めちゃめちゃ分かるけど!?


 彼の先生とやらのしょうもない喩えに苦笑しつつ、わたしはため息をついてみせる。



「わたしだって、利用できるものはありがたーく利用する主義だよ。……本来はね」


 そりゃあそう。

 なんたって、聖女さまのフリして世渡りしてたくらいなんだからね。(……まあ、そのせいで痛い目に遭ってるわけなんだけど)


 ……だから、これってただ、意地張ってるだけなのかもしれない。


 こいつに水を分けてもらえば料理の幅も広がるし、料理前に手とかお皿を洗ったりもできる。食事のあと始末とか、寝る前の洗顔の水だって惜しまなくていい。

 正直、それってかなり魅力的な話だし、そうすればいいじゃん、とは思う。


 ……でも。



「あてにするようになったらイヤだから」、と、わたしは彼の申し出を断った。



「そういうのに慣れちゃって、あんたがいろいろやってくれるのが当たり前だ、って思うようにはなりたくない」


「……しかし、どうせ、すぐに逃げるつもりなのだろう?」、と魔法使いがニヤリとする。



「それならば、今だけ都合良く利用してやれば良いではないか」


「へえ、分かってるじゃん」、と、わたしも笑い返してやる。



「でもね、ちょっとの借りも作りたくないんだ。……べつに義理堅い方ってわけじゃないけど、こっちだって、後腐れなく逃げたいしね」



 わたしがそう言うと、魔法使いは目を細めた。



 「聖女らしいな」、と、彼が呟く。



 いや、あんたがわたしのなにを知ってるんだよ……。

 思わず心の中でそう呟いたあと、わたしはハッとしてしまった。

 ……いかんいかん。いつの間にか、こいつに聖女って呼ばれるのに慣れつつあるぞっ?

 だから、わたしは聖女じゃないんだっつーの!



 気を取り直して、わたしはリュックをごそごそ漁った。


 中から小さなまな板と清め水のボトル、それに魔法鍋を引っ張り出し、魔法鍋の柄についてるボタンを押す。


 とたんに鍋は淡い光を帯びて、持ち運び用の円筒形から、少し大きめのフライパンに変化した。



 魔法鍋はマギスチルっていう魔法金属で作られてて、ダイヤルの目盛りを合わせればボタンひとつで鍋にもフライパンにもなるすぐれもの。

 見た目より軽くて持ち運びもラクだし、これひとつでいろいろ使えるから、野宿のときもあったかい料理を食べたい冒険者には欠かせない便利アイテムなんだ。


 ただし、形を変えられる分、強度はあんまりない。特に、大きめのフライパンにしたときはかなり薄くなっちゃうし、強火でガンガン熱するような料理には向いてないんだ。


 まあ、万が一穴が開いたとしてもボタンを押して形をリセットすれば元に戻りはするけど、マギスチル部分が目減りするからなるべく避けたいところではある。

 なんせ、便利なだけあって、そこそこ高価なんだよね。

 わたしも前々からもうひとつ欲しいなとは思ってるんだけど(なんせお鍋がふたつあれば料理の幅もぐんと広がるしね)なかなか買えずにいる。

 


 ……おっと、忘れてた。

 わたしはすぐ側に生えてたホウの若木から葉っぱを何枚かむしった。手のひらでざっと表面を払ってから、まな板に載せる。

 ホウの木の葉っぱは厚みがあって水を弾くから、こうしとくと汚れたまな板を洗わなくて済むんだ。あと、ちょっと折れば食器のかわりにも使える。


 さっきここで野宿しよう、って提案したの、ホウの木が生えてたから、っていうのもある。野宿するときこの木が近くにあるとちょっとラッキーなんだよね。

 これも冒険者の知恵、ってやつ。


 わたしは清め水(まあ、実際は強めのお酒なんだけど)のボトルのコルク栓を抜いて、中の液をちょっとだけ、取ってきた葉っぱに振りかけた。あと、ナイフと、ついでに手にも軽く擦り込んで、きれいな布で拭き取っておく。



 なに作るかは、もう決めてた。

 ていうか、今日はずっと、パスタが食べたかったんだ!



 焚き火を挟む二本の丸太に渡すみたいにしてフライパンを設置すると、わたしはリュックから油紙に包まれたラルド(豚の背脂の塩漬けで、数日なら保存効くし、薄く切ってパンに載せて食べても美味しいんだ)を取り出した。

 油紙をめくって必要な分だけナイフで切り出し、残りはまた紙で包んでしまっておく。


 ナイフで細かく刻んだラルドを温めたフライパンに落とすと、ジュッと軽快な音がした。


 やがてラルドが透き通り、旨味たっぷりの脂がじんわりにじみ出してくる。

 ……でも、まだまだ。

 出てきた脂の隅っこが茶色く焦げ始めた頃、わたしはいったんフライパンを火から外した。街で買ってきた水を注ぎ、乾燥トマトとキノコを千切って入れて、ついでにパスタも入れてしまう。


 全ての材料を投入し終えると、わたしはまた、フライパンを火のうえへ戻した。



 ……と。


 焚き火の向こう側で樹にもたれるように座ってた魔法使いが、ふと、立ち上がるのが見えた。

次話「水浴びする魔法使いと、パスタを食べるわたし」、12/30(火)20:20更新


野宿の夜はまだ続きます。

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