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挑発に乗る魔法使い

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。




「ほう」、と、魔法使いはどこか満足げな顔をする。


「俺に興味を持つとは好ましい傾向だ」


「……単なる好奇心だよ。ていうか、あんたの化けの皮を剥いでやりたいだけ」


 

 ……まあ、もちろんこいつの実力も気になるけど、それはそれ。



 こいつを怒らせてやろう、って思った。


 なんせ、たったいま「自分の機嫌は自分で取れる」だなんてエラそうに断言したんだ。

 果たしてそれが本当かどうか、見せてもらおうじゃん!



「さっき魔法屋の裏で見たけど、ノウエルさんの魔法とかすごかったよ? なんか空中に文字とか数字がばーっていっぱい浮かんでさ。あんたはああいうのってできないの?」


「……あれは、単にあいつが不器用なだけだ」、と、魔法使いはばっさり切り捨てた。


「ノウエルは俺のように即興で魔法を構成することができないから、あらかじめライブラリに保存してある構成を呼び出し、目的に応じて組み合わせているのだ。

 無論、あれはあれで合理的ではあるし、賞賛に値する発想だ。なにせ、俺のような天才ではない凡人であっても、それなりに高度な魔法を使えるのだからな」


 ノウエルさんを褒めつつも、言外に自分の方が上だと言ってのける。

 ……こいつ、ほんと自信家だよなあ。



「すぐそうやってエラそうなこと言うけど、あんた、これまで手品みたいな魔法しか使ってないじゃん。なんかさ、もっとすごいのってできないの?」


「無論、できるさ」、と、魔法使いは即答する。


「なにせ、俺は次期魔王となる存在なのだから。その気になれば、ちょっとした街程度なら容易に吹き飛ばせる。――ひとつ、やってみせようか?」


 冗談めかして訊いてくる魔法使いに、わたしは呆れ顔をしてしまった。


「……あんたねえ。街を吹き飛ばしてみせろとか、そんなの言えるわけないじゃん。

 そうやって誤魔化すってことは、やっぱり、口ばっかでたいしたことはできないんじゃない?」


 わたしがさらに煽ると、魔法使いもさすがに少しだけ神妙な面持ちになった。


「……今後の予定もあるし、あまり無駄な魔法は使いたくないのだが」、と、魔法使いが嘆息まじりにぼやく。



「しかし、婚約者に力を披露するためなら、全くの無駄、というわけでもないか――」



 そう言うと、魔法使いは俄に空へと手を伸ばした。

 手袋に包まれた指先を繰り、そのまま、なにか複雑な呪文を詠唱する。



 瞬間、太陽がふたつになった。



 正確には、太陽とみまごうほどにまばゆい光球が突如として空に現れたかと思うと、次の瞬間にはまばゆい光とともに炸裂する。


 一瞬、視界が白一色に塗りつぶされた。

 反射的に目を閉じたわたしの肌をじりじりするような熱波が焼き、少し遅れて凄まじい爆音と熱い風が吹き抜ける。思わずよろけそうになって、わたしは少したたらを踏んだ。

 少し離れた森の木々が風に煽られて大きく波打ち、そこで羽を休めてたと思しき鳥の群れがいっせいに飛び立つのが見えた。



「なっ……」


「言っておくが、全力ではないぞ」


 すっかり絶句するわたしを尻目に、魔法使いがつまらなそうに補足してくる。


「いくら上空とはいえ、あれ以上の威力を出せば気候に影響が出る。このようなことで自然のバランスを壊すのは、あまり好ましいことではないからな」


「って……」


 ……なんなの、いまの!?

 こいつ、マジでヤバいでしょっ!?


 たしかに、大魔法使いはひとりで国家と渡り合えるような戦力を持つとか言われてるけど、それにしたって規格外だ。

 街程度なら吹き飛ばせる、っていうのも、あながち冗談じゃないかもしれない。


 ていうか……。


 背筋に冷たいものが走った。手のひらにイヤな汗が浮かぶの、自分でも分かる。


 こんなやつが魔王になったら、二十年前の魔王禍の再来……いや、ヘタしたら、もっとひどいことになるんじゃ……。



 ……と。



「――な、なんなんですかっ! いまのっ!?」



 わたしが恐れおののいてると、ふいに背後から知らない人の声が聞こえてきた。

 思わず振り返ると、街道の近くにいたらしい旅の人が、すっかり取り乱した様子でこっちへ走ってくるのが見える。

 旅のひと、ぜえはあと荒い息をしながらわたしたちに追いつくなり、空を指しながらまくしたててくる。


「ねえ! いまの! あなたたちも見ましたよねっ!? そ、空で大爆発がっ!」

 

 ……どうやら、先ほどの魔王の試し撃ちを目撃してしまったらしい。

 わたしは内心、冷や汗をかいてしまった。そりゃあ、あの規模の爆発だし、そもそも、ここは街道だ。目撃者がいたっておかしくない。


 や、やばい……わたしたちが元凶だってバレちゃったらどうしよう……っていうか、これって、ヘタしたら通報されちゃったりするのではっ?

 

 けど、当の張本人の魔法使い、涼しい顔で口を開いた。



「ああ、あれはプラズマですよ」


「プラズマ」


「おや、もしかして、見るのは初めてですか?」


 魔法使いがにこりと微笑む。


「どうも、この地方ではわりとよくあるみたいですよ。特にこの時期は多いみたいですね。プラズマ」


「プラズマ……そ、そうか、プラズマか……」


 旅のひと、どうも納得いかなそうな顔をしつつオウム返しした。半信半疑って感じで首を捻りつつ、そのまま立ち去っていく。


 そんな彼の背中をぽかんと見送ったあと、わたしはやがて我に返った。



「いや、プラズマではなくない!?」


「素直な方で助かったな」、と、魔法使いが飄々と言った。


「しかし、戯れに大魔法を用いて世間を騒がせるのはやはり、あまり好ましい行為とは言えないな。組合所属の魔法使いとして、また、栄えある三大魔法使いとして、同志たちに迷惑を掛けぬよう、襟を正して生きなければ……」


「世界征服を企んでるやつの言うことではなくない!?」



 思わず突っ込みつつ、わたしはすっかり反省してしまった。

 ……まあ、今回の元凶はわたしだし。いくらムカついたからって、安易にこいつを挑発するの、辞めといた方が賢明らしい。



「……いじわる言ってごめん。あんたって、ほんとにすごい大魔法使いなんだね」


 わたしがしぶしぶ謝ると、魔法使いがニヤリと面白そうに笑った。



「どうだ、惚れ直したか?」


「いや、そもそも、惚れてないけど」


「そんな……こんなに強くて美しいというのに?」


「……そういう問題じゃない!」


「成る程」、と魔法使いが得心したように頷いた。


「つまり、俺が強くて美しい、ということ自体は認めるのだな?」


 ぐぬぬ、と、わたしは言葉に詰まった。

 ……でも、まあ、事実は事実だ。それはしかたないけど、ただ肯定するのも癪にさわる。



「…………認めるけど、好みじゃない」


 わたしがどうにか言い返してやると、魔法使いは「ほう」、と目を細めた。



「では、ピュイはいったい、どういうのが好みなんだ?」


「それは……」


 言いかけて、わたしは口をつぐんだ。胸の奥がきゅっとする。



 ――頭の中に浮かぶ顔があった。


 あんなにきれいな子はいなかった。

 はしばみ色のきらきらした瞳と、同じ色をしたふわふわの三つ編み。雪の結晶で織られたワンピースをまとった、北風の大精霊の子ども。

 

 泉のほとりで最初に出逢ったとき、わたしは一目であの子のことが好きになった。


 この子と仲良くなりたい、と思った。

 まるで熱に浮かされたみたいに近づいて、思いきって声をかけて……友だちになれたときは、夢みたいにうれしかった。

 それからは、どこへ行くにも一緒だった。冬の間中、ふたりで喋って、遊んで、はしゃいで、いろんな冒険とか、くだらない挑戦をして……春が来て、彼らの一族が次の土地へ行ってしまうときは、別れるのがかなしくてたまらなかった。


「また、来年くるよ」、とあの子は言った。

 そして、約束通り、あの子はまた来てくれた。次の冬も、そのまた次の冬も。


 冬の間だけ逢うことができる、わたしの、大事な大事な親友。


 そんなあの子を、わたしは……――。



「……あんたには関係ない」


 わたしが言うと、魔法使いがほんの少しだけ目を眇めた。

 わたしを見つめながら、なにかを言いかけて……けれども、彼は言葉を紡ぐ代わりに、短く息を吐いた。



「違いない」、と、彼はいつもの皮肉な笑みを浮かべてみせる。


「たしかに、俺には関係のない話だからな。

 ……ときに、ピュイ。行き先は、そちらではないぞ?」


「へっ」


「ここから街道の支線へ入る。いまはあまり使われていない旧道だが、目的地までは最短だ」


 思わぬ言葉に、ほんの少しだけ先を歩いてたわたしは思わず足を止めた。


 いつの間にか、街道はすっかり森の中に入ってた。

 アオキ・ガハラーの樹海、さっきまでいた街を回り込むようにして、西のこちらの方にもしばらく広がってるんだ。


「支線、って……」


 わたしはあたりを見渡してみる。

 けど、街道は前と後ろに伸びてるだけ。しかも、左右は森ときた。


 支線なんて、どこにも……。


 わたしが戸惑うように立ち尽くしていると、魔法使いはなんの迷いもなく、かたわらの茂みへ足を踏み入れる。


 彼の肩越しに覗き込むと、たしかに、鬱蒼と茂る草葉の向こうに道が見えた。


 獣道かと思ったけど、いちおう舗装もされてるみたい。

 もっとも、敷石の隙間は草の根に持ちあげられてガタガタになってる。たぶん、もうずいぶん使われてないし、手入れもされてないんだろう。



「こんな細い道、よく知ってたね!?」


「地図帳を読み込んでいた時期があってな。大陸中の街や道の位置関係はだいたい頭に入っている」


「地図帳……って……なかなかシブい趣味だね」


「趣味ではない。他に選択肢がなかったんだよ。……まあ、昔の話だ」



 魔法使いはさっさと話を切り上げると、森の中の道へ歩み入る。

 先を行く彼が押しのけた草葉をすり抜けるみたいにして、わたしもあとに続いた。



* * *



 明るい街道とはうってかわって、森の中の旧道はだいぶ薄暗かった。ひんやりした空気が肌にまとわりついてくる。

 道はあんまり良くなかった。一歩踏み出すたび、足の下で小枝が割れる音がする。あたりにはずっと、濃い緑と湿った土の匂いがただよってた。



「――しかし、先ほどの旅人、ピュイの髪と腰の剣を見ていたな」


 とつぜん話を振られ、わたしは「えっ」、と声をあげてしまう。



「そうだった?」


「ああ。……というか、それ以前も、ずっと、だ。すれ違う旅人はみな、ピュイの銀髪と腰の剣を見ていた。……まさか、気づかなかったのか?」


 ……正直、ぜんぜん気づいてなかった。


 ていうか、当の本人のわたしが気づいてないのに、なんでこいつが気づいてるんだよ。……まあ、わたしの方は慣れっこになりすぎて、鈍感になってるだけかもしれないけどさ。



「ピュイの髪色は目立ちすぎる」、と、魔法使いがどこか物憂げに嘆息する。


「これではまるで、『わたしがウワサの聖女です』、という看板を首から提げて歩いているようなものだ。

 そのままでは、なにかと面倒も多いだろう。……俺の魔法で、髪の色を変えようか?」



 とつぜんの申し出に、わたしは目を丸くしてしまった。


 正直、たしかにわたしもそれ、何度か考えたことあった。なんせ、聖女さまと間違われすぎて、いい加減うんざりしてたときもあったからね。


 でも……。



「べつにいいよ」、と、わたしは首を振った。つい、自分の髪の毛に触れてしまう。


「この髪は、わたしのアイデンティティなんだ。精霊物語のピュイルとおそろいだし、それに……父さんの髪の色だしね」


 言いながら、わたしは思わず目を細めてしまった。



 叡銀のアルセイル――アルおじさんは、二十年前、勇者たちと……そして、わたしの母さんと一緒に旅をして、共に魔王を倒した銀髪の大魔法使い。

 魔王を討伐したあと、帰る場所のなかったわたしの母さんを自分の故郷へ連れ帰って、あれこれ世話を焼いてくれた、わたしたち母娘の恩人。


 アルおじさん本人は王都で暮らしたんだけど、ことあるごとにうちを訪れては、まだ幼かったわたしと遊んだり、本を読んでくれたり、簡単な魔法を教えてくれたりした。おじさんのお陰で、わたしは本が好きになったんだ。


 アルおじさん、わたしが10歳になる前に亡くなってしまったんだけど。わたしはおじさんのこと、本当の父さんだと思ってる。


 ……ていうか、実際、そうだったんだと思う。

 母さんは栗色の髪してたから、わたしの銀髪ってたぶん父さん譲りのはず。

 そして、母さんの知り合いで銀髪の人なんて、アルおじさんくらいなんだ。

 ……まあ、勇者エランハルトも銀髪だったらしいけど、彼には婚約者がいたらしいから、さすがにそっちの線はないはず。

 うちの母さん、浮気とか略奪婚とかそういうドロドロしたのとは無縁そうだもんね。



「……アイデンティティ、か」


 魔法使いが嘆息した。ややあって、「それならば、仕方ない」、と呟く。



「……なんだよ、やけに物分かりがいいじゃん」


「前にも言っただろう。他人が大事にしているものは、可能な限り尊重する主義だ。……ピュイが銀髪を隠したくないのならば、俺の方でどうにか対処しよう」


 そう言ったあと、不意に、魔法使いが眉根を寄せた。



「……待て」、と、彼が怪訝そうに呟く。


「確か、聖女は、父親に捨てられたのではなかったか――?」


「……はぁ?」



 思いがけない言葉だった。

 意表を突かれたわたし、ぽかんとして……すぐさま首を振ってみせる。



「まさか! そんなわけないじゃん!

  ……まあ、たしかに、あのひとは自分が父さんだとは言わなかったし、わたしが勝手に父さんだって思ってるだけだけど……でも! とにかく、捨てられてなんかないし!」


「しかし、以前に……」



 言いかけた魔法使いの瞳がふと、奇妙な色を帯びた。

 瞳の奥に銀色の炎がわずかに揺らめき、また、一瞬で消える。



「成る程な」、と、魔法使いが喉を鳴らすようにして笑った。



「……しかし、聖女もなかなか嘘が上手い。あまりにも自然すぎて、少しだけ信じそうになったではないか」


「はぁっ? 信じるもなにも、わたしは本当にっ……」



「まだ自分が偽物だと言い張るつもりなら、本当の故郷の場所を教えるがいい」



 わたしの言葉を遮るように言い放つと、魔法使いがすっと目を細めた。


「そこへ行けば、ピュイを知っている者もいるだろう。【銀煌の聖女】エル・クレアードではない、ピュイ本人のことを。そういう人物の証言さえあるのならば、俺もさすがに、間違いを認めざるを得ないが……」


「っ……」


「……どうやら、できないらしいな」



 勝ちほこったように笑う魔法使いに、わたしはすっかり口篭ってしまった。



 ……故郷は、ある。


 わたしは故郷を、ううん、全てを失ったけど、べつに故郷が滅びたわけじゃない。

 村も、家も、母さんも、友だちも、たぶんきっと、変わらずそこにある。



 でも、彼の提案を呑むことはできない。

 こいつにその話をするわけにはいかないし、ましてや、帰るわけにはいかない。絶対に。


 ……だって。




 わたしの故郷には、()()()()()()()()()()()()()()んだから。


情報が!情報が多い!

まあ、これまでばら撒いた謎については第6章までにいったん8割がた回収しますんで、いましばらくお待ちください。(予定ではたぶん年末年始くらいかしら?)


次話「野宿の準備をするわたし」、12/16(火)20:20更新

いよいよ野宿エピソードの始まりです。

いちおうフローテアもいるんですけど空気になってもらってます。ごめんね……。

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