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街道をゆくわたしたち

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。




 街を出たのは正午くらいだった。



 ちょうどお昼時ってことで、西へ向かう街道はわりと空いてた。かなり前の方に2組の人影が見えるくらい。

 まあ、次の街までだいぶ距離あるし、こんな時間にのんびり出発する旅人なんてそうはいないよね。



「ふぁぁ……」


 わたしがあくびすると、魔法使いがこちらへ顔を向けてくる。



「……昨晩、よく眠れなかったのか?」


「そりゃあね」、と、わたしは魔法使いを睨み返した。


「たしかに、あんなちゃんとした宿のちゃんとしたベッドは久しぶりだったけどさ。

 ヘンな魔法使いに捕まってこの先どうなるか分かんない、ってときに、ぐっすり寝れるわけないじゃん。それに、朝になったら魔法屋へ駆け込むんだ、ってことばっか考えてたしね」


「それは、確かにそうだ」、と魔法使いは肯定したうえで、


「……それに、昨日は昼過ぎまで寝ていたしな」


 しれっと付け加えてくる。

 ……うっせえ。(だいたい、あれは一昨日あんたが掛けてきた馬になる魔法の副作用でしょーが!)


 

 わたしはもう一回あくびすると、抱えてた紙袋へ手を突っ込んだ。中をごそごそあさって、さっき買ったパンを取り出す。



 ブルーチーズと胡桃とはちみつのパンだ。

 ひとくち囓ると、胡桃のコリッとした食感とともに、チーズの塩気と風味、はちみつのコクのある甘さがじゅわんと広がる。パンにはしっかり噛み応えがあって、後味に残る小麦の香りもたまらない!


 うーん、大正解! むっちりした生地をぎゅむぎゅむ噛みしめてうま味を堪能しつつ、わたしはついニンマリしてしまう。

 これ、ぜったい美味しいヤツだと思ったんだよね! 



 ふと隣を見ると、魔法使いは無言で携帯食の包みを破ってた。

 ガチガチに硬そうなそれをほんの二、三口で食べ終えると、魔法で出した水を飲んで、それでおしまい。

 時間にして一分ってところ。


 うーん、合理的だなあ……。



 パンの最後のひとかけらを惜しむように飲み込みつつ、わたしは心の中で呟く。

 人が一生に食べられる食事の回数って限りがあるし、ああいうので済ませちゃうなんてもったいない、ってわたしなら思っちゃうけど。

 でも、まあ、興味がないなら、あんなもんだよね。



 わたしがそんなこと考えてると、魔法使いが携帯食の包みを丸めながらこっち見てくる。

 ……って、こいつ、また勝手にわたしのゴミを燃やすつもりだなっ!?


 わたし、パンの空き袋をあわてて背中へ隠した。


「わたしのは燃やさなくていい! ていうか、ゴミくらい自分で捨てられるし」


「……しかし、いま、街を出たばかりではないか。次の街までゴミを持ち歩くつもりか?」


「もちろん! 『出したゴミは持ち帰りましょう』って言うしね」



 わたしが言うと、魔法使いがふっと口の端を持ちあげた。

 魔法の炎で自分の分のゴミを灰にしながら、


「ピュイは強情だな」、なんて、からかうみたいに言ってくる。



「……って、そういうんじゃなくって!」


 しかたないな、とでも言わんばかりの口調にわたしはムッとした。

 思わず、わたしは魔法使いに詰め寄ってしまう。



「そうやってヘンにお節介焼かれるの、上から目線っていうか、舐められてる感じでムカつくっていうかっ……」



 言い終えるより先に、足下でバシャンと水音がした。


 ……どうやら、勢いよく踏み出した拍子に、そこにあった水たまりを思いっきり踏みつけてしまったらしい。

 足の下で泥水が勢いよく跳ね散った。



「あ~っ! ごめん! わざとじゃっ……」



 わたしはあわてて水たまりから飛び退いた。……けど、時すでに遅し。わたしの靴は泥まみれになり、わたしのズボンと魔法使いのローブの裾、飛び散った泥水でまだらに汚れてしまう。


 けど、魔法使いはイヤな顔ひとつしなかった。

 ただ、「気にするな」、とだけ言って指先を空へ走らせる。


 彼がなにか唱えると、わたしと彼の服の上から泥水が剥がれるように浮かびあがった。

 それはひとつの泥水の球となり、まるで時間が逆に流れるみたいに水たまりへ戻ってく。

 一瞬後には、汚れてたはずのわたしたちの服、すっかり元通りになってた。


 わたしは思わずズボンの裾、触ってみる。

 泥水が跳ねてびちゃびちゃになってたはずの布地、元通り乾いてて、サラサラだ。まるでなにごともなかったみたい。



 ……くそっ、と思った。

 さっき馬車にひかれそうになったときと同じだ。また、自分のやらかしをフォローされてしまった。

 それも、こいつに……よりによって、勢いまかせに食ってかかったタイミングで。


 気まずさにそっと魔法使いの様子をうかがうけど、0.5メトル隣の彼はずっと涼しい顔。

 わたしがやらかして迷惑掛けても、気を悪くした様子なんてちっとも見せない。

 なんか、一枚上手っていうか、ずっと余裕がある感じだ。


 それに比べて、わたしは……。



「……あんたって、いつも割と上機嫌だね」



 ……気づけば、口から皮肉が飛び出してた。


 わたしに余裕がないのってそういうとこだぞ? ……ってのは重々、分かってるんだけど、それでも言わずにはいられなかった。



「『お前程度のやることに、いちいち腹なんて立てませんよー?』 みたいなさあ……。いつもずっとニヤニヤしてて楽しそうだよね。ほんと羨ましいよ」



「――あえて、そうしているからな」



 けど、わたしの皮肉に返ってきたの、意外な言葉だった。


 わたしは思わず魔法使いの顔を見上げてしまう。

 目が合うと、彼は相変わらず余裕ありげに軽く笑って、



「なんせ、俺は男性で、歳上で、金も社会的地位も持っていて、様々な魔法が使えるうえに、その魔法を用いてピュイを無理やり付き従えさせている状態なのだからな。どう考えても、この場では俺の方が権力的に上位だ。そんな俺が不機嫌そうにしていたら怖いだろう」



 さらりと、そんなことを言ってくる。


 わたしは一瞬、言葉に詰まった。

 ……ややあって、言い訳するみたいに口を開く。



「……やたら機嫌良くても、それはそれで怖いけど?」


「でも、悪いよりは良い」、と魔法使い。



「ピュイを萎縮させたり、怯えさせたり、俺の顔色をうかがわせようとしたりするなんてのは最悪だ」



 なにを当たり前のことを、って感じの表情で言ってくる。



 ……たしかに、と、不本意ながらわたしは納得してしまった。


 こいつ、どこからどこまでも理不尽で詭弁家のクソ魔法使いだけど、その割にはなんか……不思議なくらい話しやすいんだよね。

 フツー、こんな状況だったら、こいつを怒らせないようにしなきゃ、って終始ビクビクして、気を使ったり機嫌取ろうとしたりしなきゃいけなくなりそうなもんだけど、こいつに関してはそういう圧、ぜんぜんない。

 だから、皮肉でもイヤミでもなんでも、思ったことをそのまま言えるのかも。



 ……でも! でもさ!

 自分からそれ、言うっ!?



「……つまり、あんたの配慮に感謝しろ、ってこと?」


「配慮ではない。その場における権力を持つ側にとって当然の義務だ」


 言うまでもない、という口調で魔法使いが笑ってみせた。



「以前にも言ったが、俺は必要に迫られて聖女を確保しているだけであって、悪いようにするつもりはない。しかし、ピュイを尊重するにせよ、搾取するにせよ、全ては俺の胸先三寸だ。決定権は常に俺――権力を持っている側にある。……というか、決定権を持つこと自体が権力なのだから当然だ。

 だからこそ、誰しもその場における自らの権力に自覚的であるべきだし、それにふさわしい振る舞いをするべきではないか」


「……それも、あんたの先生の言葉?」


 わたしが訊ねると、魔法使いは少しだけ目を細めた。

 「ああ」、と頷く。



「……ちなみに、先生はこうも言っていたぞ。

『そういう意味では、給食当番もある種の権力者と言える。なんせ、好きな相手の皿には人気のオカズを多く、嫌いな奴の皿にはピーマンの多い部分を狙って配ることができるのだから』、と」


「なんか、一気に話のスケールがダウンしたような……」


「つまり、どんなところにも権力は生まれてしまう、ということだ」、と、魔法使いは結論づけた。



「人は誰しも、権力からは逃れられない。……だから、常にその場における彼我の権力勾配を認識し、自分の側により権力があるのならば、自制する必要があるんだよ。……先も述べたが、決定権を持つのは常に権力側なのだからな」


「……ふぅん」



 ややあって、わたしは「でも」、と口を開く。


「あんたが、わたしの前じゃ機嫌の良いフリをしてる、ってのは分かったけどさ。それって、わたしの前じゃずっと無理してる、ってことだよね?

 でも、あんただってしんどかったり、腹を立てることくらいあるでしょ?」


「見くびるな」、と魔法使いが鼻を鳴らした。


「自分の機嫌くらい自分で取れるさ。……なんせ、この通り、俺は優秀だからな」



 偉そうにわたしを見下ろしつつ、きっぱりと断言してくる。


 ……ちっ、自信家め。


 そう思いつつ、わたしはちょっとだけこいつを見直してしまった。


 自分の機嫌くらい自分で取れる。……涼しい顔でそう言い切れるくらい大人になれれば、わたしも憧れの剣士ピュイルみたいになれるのかな……なんてこと、一瞬、思ってしまう。



 ……でも! と、わたしはすぐさま考え直した。


 たしかにわたしは余裕ないし、すぐムッとして魔法使いに食ってかかっちゃうけどさ! 

 権力どうこうとか言ってるけど、それって結局、こいつがわたしのこと自分より下に見てナメてるってことだし! そもそも、こっちはこいつに捕まって散々な目に遭わされてるんだから、怒って当然じゃん!

 

 怒ってばっかりいるのも問題かもだけど、怒るべきときに怒らないのも問題だ。

 だから、きっと、これでいいんだよ、うん!


 わたしは自分にそう言い聞かせながら、魔法使いを挑発するみたいに睨めつけてやった。



「優秀、ね」と、わたしは鼻で笑ってやる。


「ていうかさ。大魔法使いだとかなんとかエラそうなこと言ってるけど、実際のところ、あんたの実力ってどんなものなんだよ?」


次話「挑発に乗る魔法使い」、12/9(火)20:20更新


魔法使い、格の違いを見せつけます。

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