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買い物をするわたしたち

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。(今回は連休前なので週2回更新で金曜日20:20にも更新しまーす!)




「じゃあ、あれ買ってよ」


 言いながら、わたしは向かいの貴金属店を指した。


 店頭のいちばん目立つ位置に鍵付きのショーケースが置かれてた。

 その中には、ひときわ大きな宝石がついた豪奢なペンダントが飾られてる。


 あの大きさの石ならたぶん、家どころか豪邸が買えちゃう値段のハズだ。



「前から欲しかったんだよねー、ああいう高価なアクセサリー。

 大魔法使い様はずいぶん気前が良いみたいだし、婚約者のお願い、聞いてくれるよね?」


 わたしは挑戦的に笑ってやった。


 ……どうだ、さすがに無理だろ?

 ついでに、強欲なわたしにドン引きして、愛想を尽かしてくれれば万々歳なんだけど!



「構わないぞ」


 けど、魔法使いはあっさり頷いて、向かいの店へ歩き出す。


 思わぬ展開にぽかんとするわたしの前で、魔法使いは軒先にいた貴金属店の店主へ声を掛けた。



「主人。すまないが、そちらのショーケースの中身を――」


「や、やっぱりいいっ!」



 わたしはあわてて魔法使いのローブを掴んでぐっと引き戻す。



「……なんだ、要らないのか?」


 そらっとぼけたような口調で言いつつ、魔法使いがニヤリとした。


 くそっ……こいつ、ぜったい楽しんでるじゃんっ!?



「それより、食料品の買い物だよ、買い物!」


 魔法使いのローブから手を離し、わたしはあらためて購入品の吟味に戻る。


 ええと、必要なのはパスタと、米と、あと、粉も少し……。



「あ」


 ふと、わたしの目が、棚におかれた瓶詰めのひとつに吸い寄せられた。

 思わず、手に取ってしまう。



 小さな瓶の中にぎゅうぎゅうに詰められた、はっとするほど赤くて艶やかな粒。


 ――ルセの実の塩漬けだ! しかも、こんなに大粒で虫食いもないやつは初めて見た!



 これ、すっごく美味しいんだよね。

 前にいちど食べたことあるけど、とにかく、香りが鮮烈で……胡椒に近いんだけど、あれをもっと華やかで、スパイシーにした感じ。しかもこれは生だから、より新鮮な風味が楽しめるはず。

 潰したり刻んで使えばお肉にも魚にも合うし、スイーツのアクセントにも使えるかも!


 興奮しながら値札を確認し、わたしは思わず嘆息した。


 ……高い。

 いや、分かってたけど。なんせ、ルセの実は高級品だ。

 こんな小さな瓶なのに、めちゃめちゃ良いお値段、する。


 森の奥で集めたレアな素材とか、人助けのお礼の品とかはさっき別のお店で換金してもらったばかりだし(わたし的にはちょっとした金額になった)、魔法使いを街まで運んだときに貰った報酬もまだ残ってる。

 だからいま、わたしの財布にはちょっとだけ余裕、あるんだけど……。



 さんざん迷ったあげく、わたしはそれをそっと棚へ戻した。


 ……やめておこう。

 だいたい、ちゃんとした台所があるならともかく、どうせ野宿でしか使えないんだ。いまのわたしにはもったいないし、こんなの、贅沢すぎる。


 でも、いつかは――と、わたしは心の中で呟く。


 いつか、お金を貯めて、小さな家を買って、わたしだけの台所を手に入れたとき……。

 そのときまで、これはお預けだ。


 名残惜しげに棚の前から離れつつ、わたしは自分にそう、言い聞かせた。




* * *




「――まあ、これでだいたい、必要なものは買えたかな」


 荷物の詰まったリュックを抱えつつ、わたしはふう、と息を吐く。

 かたわらで、魔法使いがどこか感心したみたいに腕を組んだ。



「ずいぶんと買い込んだじゃないか」


「まあね。あんたと違って、わたしは水も買わなきゃだし」



 魔法使いの言葉に、わたしはちょっぴり皮肉を込めて返答してやる。


 ……まあ、あとは、ちょっとしたお菓子なんかも買ったけど。

 もちろん、わたしの分だけ。この魔法使いに分けてやる気なんてサラサラない!



「……ていうか、あんたって、荷物どうしてんの?」


 わたしはふと、疑問に思ったことを聞いてみる。


 旅支度を終えたわたしのリュックはパンパンだっていうのに、魔法使いはごく軽装。

 フツー、旅人ってのはバックパックとか荷袋とか背負ってるもんだけど、特にそういうのを持ってる様子もない。



「荷物なら、ここにあるぞ」


 魔法使い、そう言って自分の腰のベルトに吊された小さな革袋とポーチを示す。


 いや、それは知ってるけど……。


「それだけ?」、と、わたしは思わず訊き返してしまう。


 魔法使いが笑うように鼻を鳴らした。

 

「ローブのポケットにも少しばかり入っているが、大方はこんなものだな。

 荷物は最低限しか持たない主義だ。なにせ、たいていのことは魔法でどうにかできる。衣服も洗浄できるからして、着替えすら必要ないしな」


「それに、食事は携帯食だしね」


「合理的だろう?」


 魔法使いがニヤリと笑ってみせる。


 ……こうやって皮肉を毎回しれっと受け流されるの、地味にくやしい。

 まあ、分かってるなら言うな、って話ではあるんだけど、どうしても言っちゃうんだよなあ。




「――ああ、そうだ」


 ふと、魔法使いが呟くと、懐からなにかを取り出した。



「忘れていた。贈り物だ」


「えっ」



 わたしは、思わず目を丸くした。


 見覚えのある鮮やかな色が、視界に飛び込んでくる。

 魔法使いの手の中にあるのは、つやつやした赤い粒がぎっしり詰まった小瓶――ルセの実の塩漬けだ!



「まさか、さっきの、見てたのっ!?」


「……あんなに目を輝かせていたら、否応なく気づくさ」



 魔法使いの言葉に、わたしはすっかり赤面してしまった。……くそっ、油断してた!



 魔法使いが指を鳴らした。

 小瓶はふわりと彼の手を離れ、宙をすべるみたいにこっちへ飛んでくる。



 わたしの目の前の空中で、小瓶がぴたり、と止まった。

 瓶に詰まったルセの実が、宝石みたいにきらめいてる。



 しばらくその輝きを見つめたあと、わたしは小さく首を振った。



「……いらない」、と断る。



「こういうので機嫌を取ろうとしたってムダだよ。

 ……だいいち、こんな高価なもので恩とか着せられたくないし」


「そうか」


 魔法使いはあっさり頷いて、


「……しかし、困ったな。

 俺は食には興味がないし、無論、料理もしないから、こんなものを持っていてもしかたない。……先生はよく『食べ物を粗末にするな』、と言っていたが、使い道がないのであれば、さすがに、やむを得ないか……」


 わたしの目の前の小瓶、魔法で引き戻そうとする。



「まって!?」


 わたしはあわてて声をあげた。

 魔法使いがニヤリと笑った瞬間、ルセの実の小瓶がわたしの手の中に飛び込んでくる。


 瓶は硬くて、ちょっとだけひんやりしてた。 



「受け取ってくれるのか?」


「……スパイスに罪はないからね」



 言いつつ、わたしは思わず、小瓶を両手で握りしめてしまった。

 ……正直、嬉しい。くやしいけど、嬉しかった。

 だって、これ……ほんとに欲しかったんだ!



「……あんた、いつもこういうことしてんの?」


「婚約者に贈り物をするのは、当然の行為だろう?」


 言いながら、魔法使いがからかうように笑う。



「――それに、宝石の時とは違って、ピュイが本当に欲しそうな顔をしていたからな」



 わたしは頬が熱くなるのを感じた。

 くそっ、と、心の中で呟く。……なんだよ、ぜんぶ見抜かれてるじゃん。

 ずるい、と思った。

 そんなん言われたら、こっちだって、なんにも言えない。



「……ありがと。大事に使う」


 わたしが言うと、魔法使いが目を細めた。



「――そう言ってもらえると、こちらも冥利に尽きる」



 そう言って、どこか嬉しそうに微笑む。



 やわらかな微笑みだった。

 あたたかくて……そして、なぜか、少し安心したみたいな。


 それまでの意地悪な笑みとは違う表情に、わたしは虚をつかれてしまう。

 

 けど、それはほんの一瞬だった。ほんと、見間違いかと思うくらい一瞬。

 気づけば彼はまた、いつものイヤミなニヤニヤ笑いを浮かべて、



「――無論、本当にピュイが欲しがっているのなら、宝石を買うのもやぶさかでなかったが」


 なんて言ってくる。



「……あれは冗談だってば」、と、わたしは思わず口を尖らせた。


「ちょっと、あんたをからかってみただけだし」


「どうやら、そのようだな」


 そう言って、魔法使いが肩を揺らした。面白そうに笑う。





 ……こいつ、なに考えてるんだ?


 わたしの心の中に、なんだか据わりの悪い感情が湧いてくる。


 魔王になるために必要なだけ、みたいなこと言いながら、けっこういろいろ気を遣ってくれたり、贈り物までしてくれたりして……。


 ……こいつにとってのわたしって、いったいなんなんだ?



 ――まあ、どうでもいいか。



 わたしはモヤモヤを振り払うみたいに小さく首を振った。


 そんなの、わたしには関係ない。

 だって……――わたしには、とっておきの考えがあるんだ!




「あ、そうだ」


 いま思い出した、って感じで声をあげると、魔法使いが怪訝そうにわたしを見てくる。

 わたしは「ごめん」、と言いながら踵を返して、



「いっこ買い忘れがあったわ。すぐ戻るから、あんたはここで待ってて。わたし、急いで行ってくるね!」



 それだけ言い残すと、わたしは魔法使いを残したまま、小走りで市場の中へ引き返した。




* * *




 店のひとつに入るフリをしながら、わたしは店と店の間をすり抜けて裏手へ出る。

 そのまま市場を抜け出すと、わたしは真っ直ぐ街の方へと向かった。



 ――目指すのはもちろん、今朝がた訪れたあの魔法屋だ!


 

 ノウエルさんと別れてから、まだ二時間くらいしか経ってない。

 いますぐ戻れば、まだノウエルさんがお店にいる可能性、ぜんぜんある!



 通信石は壊されちゃったけど、本人にさえ会えれば問題ない。

 ノウエルさんに助けを求めれば、わたしは晴れて自由の身になれるんだ!



 思わず走り出すと、パンパンに詰まったリュックが背中で揺れた。


 旅支度って名目でいろいろ買い込んだけど、どうせ野宿暮らししてるから無駄にはならない。

 ていうか、聖女のウワサも広まっちゃってるみたいだし、今回の件が解決したら、ほんとに違う街へ行くのもいいかも。さいわい、旅費もあるしね。



 ――ふと、さっき魔法使いが浮かべたやわらかな笑みが頭をよぎる。



 わたしは思わず懐に手を入れた。指先に触れたガラスの小瓶――ルセの実が詰まったそれをぎゅっと握りしめる。



 ……こんな贈り物なんかで、騙されるもんか。



 そう自分に言い聞かせながら、わたしはさらに足を速めた。




 わたしは絶対、あの魔法使いから逃げてやるんだ――!

次話「密告を企むわたし」、11/25(火)20:20更新


主人公、いよいよ反撃に出ます。

彼女はついに魔法使いから逃れられるのか……!?


さらに、衝撃の事実も明らかに……?

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