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南の市場を訪れるわたしたち

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です……が! 今週は三連休前なので金曜日20:20にも更新します。





「はいよ、カツサンドひとつね!」


「ありがとうございまーす」



 カウンタ越しに商品を受け取ったわたし、お店のおじさんに会釈して踵を返した。


 歩きながら、たったいま渡された包みをそっと開いてみる。


 カリッとトーストされたパンに挟まれた揚げたてフライは輝くような黄金色。

 指先に感じる温かさと、ふわっと立ちのぼる新鮮な油の匂いが食欲をそそった。


 ……うーん、おいしそう!



 ふと顔を上げると、魔法使いがなんだか物言いたげにこっちを見てる。


「……なんだよ、立ったまま食べるなんて行儀悪い、って言いたいの?

 おあいにくさま。わたしは聖女じゃないからね。買い食いとかぜーんぜん気にしないんだ」


 わたしはつい、皮肉たっぷりの笑みを浮かべてしまった。

 けど、魔法使いも対抗するみたいにニヤリと笑い返してくる。


「べつに、そんな口うるさいことは言わないさ」、と、魔法使いが肩をすくめた。


「そもそも、聖女だからといって特別に品行方正でなくてはならない、という道理はない」


「……ちっ」


 わたしは思わず舌打ちした。

 ……お行儀悪く振る舞って『わたしは聖女じゃありませーん』アピールする作戦、どうやら、こいつには通じないらしい。


 まあ、わたしも人目とか気にする方じゃないし、お腹も空いてるからフツーに食べ歩きしちゃうけどね。(もちろん、食べこぼしたり、人にぶつかったりしないように気をつけるよ!?)


 わたしは包みをさらに大きく開くと、できたてほやほやのサンドイッチにかぶりついた。



「ん~……!」


 ざくり、と歯に伝わる心地良い食感に、わたしは思わず唸ってしまった。


「ここのカツサンド、やっぱ、めちゃめちゃおいし……! ソースがしっかりかかってるのに衣のザクザク感はちゃんと残ってるのとか最高すぎ! 衣はクリスピーなのに、中のお肉は柔らかくてジューシーで歯切れがいいし、脂身はすっごい甘いし、ほんのり下味がついてるから、ソースと馴染みが良くって……」


 ふと、視線に気づいたわたし、かたわらの魔法使いにジト目を向けてしまう。



「……なんだよ。食べたいなら、あんたも買えば良かったのに」


「必要ない」、と、魔法使いが首を振った。


「べつに空腹ではないし、そもそも、俺は食にはさして興味ないからな」


「ふうん」



 頷きながら、わたしはまたサンドイッチを頬張る。

 ……うん、美味しい。


 ごくんと呑み込んだあと口の端についたソースを舐め、わたしは言葉を続けた。



「……でも、まあ、人それぞれだよね。わたしはちょっと興味ありすぎかもしれないし」


「確かに、人それぞれだな」、と頷いて、魔法使いがふと、目を細めた。



「――しかし、ピュイがそうやって楽しそうに語っているのは悪くない」



 さらりと、そんなことを言ってくる。


 ……って、なんだよ、それ。

 なんか微笑ましげな視線に、わたしはちょっとムカッとした。……見世物じゃないぞ、わたしは。



「……これからは黙って食べようかな」


 わたしが思わず呟くと、魔法使いが面白そうに笑った。……くそっ、ぜったい無理だと思ってるな!?

 ……まあ、実際そうだろうけどさ。



 そうこうしてるうちに、サンドイッチは無事、わたしのお腹の中に収まった。

 こぼれたパン屑ごと紙包みをくしゃっと丸めて、わたしはあたりを見回す。


 ええと、ゴミ箱は……――。



 ふと、かたわらの魔法使いがなにかを唱えるのが聞こえた。


 とたんに、わたしの手の中にあった紙包みのゴミはふわっと宙に浮かび、指をすり抜けて飛んでってしまう。

 ゴミはまっすぐ魔法使いの方に向かって、一瞬後には彼の手の上に浮かんでた。


 彼がさらになにか呪文を唱えると、ぱっと小さな炎が上がる。

 炎に包まれたゴミは瞬きをする間もなく燃え尽きて、ごく僅かな灰が宙に溶けるみたいに舞い消えた。



「あ、ありがとう……」


 ――全てが、ほんの一瞬の出来事だった。

 反射的にお礼を言ったあと、わたしはすぐ、我に返って


「でも、ゴミを処理してくれたのはありがたいけど……こんな人混みの中で火を使うなんて危険じゃない?」、と釘を刺してやる。



 わたしの皮肉に、魔法使いがニヤリとした。


「俺はそんなミスなどしない。――それより、ピュイ。そろそろ買い物の時間だぞ」




* * *





 南の市場は、賑やかな街中と比べて落ち着いた空気だった。


 観光客が多い東の市場と違って、こっちは地元の人がメイン、って感じ。

 買い物かごを下げた普段着のひととか、いかにも料理人って雰囲気の格好をしたひととかが、それぞれの行きつけの店を覗き込んではお店のひとと気安く世間話を交わしてる。


 わたしも、いつも行くお店へ入った。

 魔法使いもあとに続いて、ざっと棚を見るなり店主へ声をかける。



「――すまないが、この携帯食を1ダースくれ」


 即断だった。

 でも、それにしたって量が量だ。わたしは思わず目を丸くしてしまう。



「1ダース、って……あんた、もしかして、そればっかり食べるつもり?」


「ああ」、と魔法使いが頷く。


「先にも言ったが、俺は食にはさして興味がないからな。携帯食ならかさばらないし、腹持ちもいい。無論、必要な栄養も取れる。合理的な選択だろう」


「へえ」


 わたしは素直に感心してしまった。

 たしかに、食事に興味ないんだったら、それが一番だよね。

 ……まあ、わたしは、ちょっと手間かけてでも、おいしいもの食べたいけど。


 わたしはお店の棚にずらりと並ぶ瓶入りの量り売りのパスタを見比べた。

 そのあと値札を眺め、少し考え込んでしまう。



「……どうした?」


 思案顔するわたしに、魔法使いが訊ねてくる。


「いや、ね……」と、わたしは嘆息した。


「パスタ自体はあっちのメーカーの方がモチモチしてて美味しいんだけど、今日はこっちの方がセールになってるからさ……ぶっちゃけ味自体は二割くらいしか違わないんだけど、それで値段は倍違う、ってなると、さすがに、どっちにするか迷っちゃって」


「それならば、美味しい方を選べば良い」、と魔法使いが即答する。



「俺が払うから、値段など気にする必要はないぞ」


 当たり前、って感じの口調でそう言われて、わたしはちょっとムッとしてしまった。



「……いや、だから、そういうのいいって」


 ……つい、口調が尖ってしまう。


「自分の買い物ぐらい自分で払うよ。ていうか、払えるし」


「……しかし、野宿の予定がなければ必要なかった品物だろう。俺が、俺の都合に付き合わせているのだから、俺が払うのが当然ではないか」


「でもさあ……一昨日と昨日の宿はあんたが勝手に取ったんだから、さすがに宿代払うつもりないけど、これはべつだよ。

 そうやってあんたにいちいちお金出されるの、なんか養われてるみたいでイヤだ。こっちだって変に気とか遣いたくないし。……それに」


 わたしはパスタの瓶と魔法使いの顔、交互に見た。



「……いま買おうとしてるの、わたしの分だけだからね。わたしは食べるのが好きだから、野宿でも料理するつもりだけど、あんたの分は作らないよ。材料費出したから、って、大きな顔してご相伴に預かろうとしたってムダだから」



 きっぱりとそう言ってやる。

 

 魔法使いは少しだけ眉を持ちあげた。



「……無論、そのようなつまらぬ考えはないさ。この通り、俺は携帯食で充分だからな」


 いかにも心外そうな顔をして、カウンターの上の携帯食を指し示す。

 彼はそのまま、「……しかし、ピュイは強情だな」、と嘆息してみせた。



「……重ねて言うが、俺の都合で連れまわして申し訳ない、というのは本心だ。

 そもそも、俺は毒体質だからな。本来ならば側にいるべきではない人間だ。ピュイの安全を優先するのであれば領地へ連れて行き、館へ住まわせておくのが一番なのだが……」


「……館?」さらりと飛び出した言葉に、わたしは目を丸くする。



「まって! あんた、家とかあるの!?」


「……これでも、大魔法使いだからな」、と魔法使いが頷く。


「大魔法使いには、大陸国家同盟から名誉貴族の称号と、ささやかな領地が与えられる。領地へ戻れば館もあるさ」


 そう言って、ふと、魔法使いがニヤリとした。



「……なんだ。もしかして、興味があるのか? 古いが、なかなか良い館だぞ。ピュイが望むなら、そちらで暮らしてみるか? もっとも、館の外へ出すわけにはいかないが……」


「冗談」


 わたしは魔法使いの提案を即座に却下する。



「あんたの家なんて、きっと性格悪い屋敷に決まってるしね。どうせ玄関にいきなり落とし穴とかあるんじゃない?」



 わたしの言葉に、魔法使いが楽しそうに笑った。


「残念ながら、屋敷自体は前の領主のお下がりだ。もっとも、二十年ほど放置されていたから、多少の手入れはしたがな。

 ……だが、ピュイにその気がないのは幸いだよ。いくら逃亡防止の魔法を掛けていても、ピュイは目を離すと何をしでかすか分からない。俺の留守中に館を燃やされでもしたら、流石に困る」


「へえ、よく分かってるじゃん」


 わたしがうそぶくと、魔法使いは腕を組んだ。

 目をすがめ、わたしを見てくる。



「だからこそ、俺の目の届く範囲に置いておくしかないんだよ。毒のリスクはあるが、ようやく手に入れた相手を逃がすわけにはいかないからな。

 ……そういう訳だからして、俺が旅費を出すのが筋というものではないか。まさか、聖女様を破産させるわけにはいかないからな」


「……ふーん」



 ……なんだよ、偉そうに。


 たしかに、大魔法使いで領主様、しかも魔法使い組合の幹部なんだから、お金には不自由してないんだろうけどさ。

 頭から「どうせお前には金がないんだろ?」みたいな扱いしてくるの、なんかすごいムカつくんだけど。(……まあ、事実なんだけどさ)


 わたしは鼻白みつつ、ふと、向かいの店に目を留めた。



 そこは貴金属店だった。

 由緒ありそうな店構えしてて、店頭には色とりどりの宝石や、高価そうなアクセサリーが並べられてる。



 わたしは思わずにんまりしてしまった。……いいこと考えついちゃった!

次話「買い物をするわたしたち」、11/21(金)20:20更新


お買い物デート編(?)つづき。

主人公の企みとは……そして、その結果は?

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