魔法屋へ駆け込むわたし
猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
10/23連載開始。11/3まで集中連載中。
平日→20:20の一回更新
10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新
以降は週イチ更新予定です。
「おはようございます。魔法屋にようこそ! 本日はどんなご用件で……――」
「これ! 治せますかっ!?」
開店と同時に店の中へ飛び込んだわたし、受付のひとにまくし立てながら頭のバンダナをむしりとった!
下に押し込められてたネコミミが白日の下に(室内だけど)さらされる。
「あの、これなんですけど! ていうか魔法かけられちゃったんですけどっ! なんとか解いてもらえませんかっ!?」
――『魔法に関することならなんでもご相談ください
魔法使い組合公式魔法屋 デラヴェル支店』
あのクソ魔法使いの魔法でネコミミにされてしまったわたしが朝イチで駆け込んだのは、街はずれに看板を掲げる魔法屋だった。
……じつは昨日の夜、ご飯を食べに外へ出たとき、たまたま街角の魔法掲示板でCMが流れてたんだよね。
『――私たち魔法使い組合は、魔法犯罪を許しません!』
映像の中では若い男のひとがふたり(ヴィルクと同じ様な黒いローブ着てるし、たぶん魔法使いなんだろう)並んでそう宣言してて。
わたしは思わず立ち止まり、食い入るように画面を見てしまった。
『――魔法犯罪を見掛けたら、魔法屋へ!』
『――安心、安全、あなたの側の魔法使い組合!』
いやもう、まさに天の助けかと思ったよね!
次の瞬間にはもう、わたしは駆け出してた。……もちろん、魔法屋へ向かうためだ!
とはいえ、ようやくたどりついたときにはもう『本日営業終了しました』の札が掛かってて(まあ、もう街の明かりも消えかけてるような時間だったから、しかたない)、翌朝――つまり今、こうやって、あらためて出直してきた、ってワケ。
わたしの心、期待に満ちてた。
ここなら、あいつに掛けられた魔法、なんとかしてもらえるかもしれない……!
「なるほど。では、失礼して……あー、これは……」
受付カウンターのひと(いかにも魔法使い、って感じの黒いローブを着た、わたしよりひとまわりくらい歳上の女のひとだった)、わたしの頭のてっぺんからつま先までをまじまじと観察した。
彼女はしばし考え込むように頭を捻ってから、やがて、口を開いた。
「……ところで、あなた、宝石箱にいくつもペンダントを入れておいたら、鎖がめちゃめっちゃ絡まっちゃってあら大変! みたいな経験ありますー?」
「へ?」
とつぜんの問いに、わたしはきょとんとしてしまう。
「いや、まあ、ありますけど……」
「ざっくり言うと、そんな状態ですねー」、と、受付のひとが言った。
「つまりですねー、あなたという存在と、魔法によって生成された新しい部分――つまり、ネコミミですねー――と、それらを繋ぎ合わせて機能させるためのいくつかの魔法が、こう、ぐっちゃぐちゃに絡まってて、なんかもー、ちょっと手の施しようがないな-、って感じなんですよー。たぶんこれ、解かれないようにわざとやってますねー」
さすがは魔法屋さん。詳しいし、説明も分かりやすい。
……そして、あらためて、あのクソ魔法使いの邪悪さを確認してしまう。
あいつ、ほんっと性格の悪い魔法掛けやがってぇ……!
「と、いうわけで、正直、うちではどうにも……」
「そ、そんなあ……」
「……ならないところなんですが!」
肩を落とすわたしの前で、受付のひとが急にテンションをあげた。
彼女、一転してニッコニコの笑顔を浮かべ、どこか得意げな口調でわたしに言ってくる。
「今回に限っては! 特別に! どうにかなっちゃうんですっ!
ていうかあなた、めちゃめちゃ運いいですよーっ!? ちょうどいま、うちの幹部の大魔法使いさまが当店へ視察に来てましてねー! それがもう、とにかくすごい方なんです!
なんせ【三大】なんですからっ!」
「【三大】っ!?」
わたしの声、思わず裏返ってしまった。
この大陸で【三大】、って言ったら、三大魔法使いのこと。
この大陸にせいぜい十人ちょっとしかいない大魔法使いの、さらに上位三名のみに与えられる名誉称号だ。
つまりはものすごい魔法使い、ってこと!
……あのクソ魔法使い、なんかずっとエラそうな顔して『俺はいずれ魔王となる人間だー(どやぁ)』とかなんとか吹かしてたけど、三大魔法使い様に比べればザコもいいとこ!
【三大】さまなら、あんなやつのショボ魔法なんざ秒で解いてくれるに違いない!
「しーかーもーですね! その方、三大の称号を得ているにも関わらず謙虚で、爽やかで、気さくで、優しくて、イケメンで、組合の内外にファンも多くってっ……彼ならきっと、あなたのお力になってくれるはず!
いまバックヤードにいるんですけど、呼んできましょうかっ?」
「ぜひ! お願いします!」
カウンターに身を乗り出すわたしに、受付のひとが親指を立てた。
「はいはい、おまかせをっ! ちょっとお待ちくださいねー!」
* * *
彼女はすぐに、店の奥からひとりの男の人を連れて戻ってきた。
その人はにっこりと微笑みながら、わたしに向かって会釈してくる。
「――お待たせしました。俺は魔法使い組合幹部、大魔法使いのヴェルカスです」
いかにも爽やかな雰囲気をまとった好青年だった。
大魔法使い、それも【三大】っていうからにはそこそこの年齢かと思ったけれど、まだ若い。せいぜい二十歳そこそこ、って感じ。
そして、受付のひとが言ってたとおり、たしかにカッコよかった。
パーツひとつひとつの造作が大きめで、綺麗っていうよりは二枚目って言葉がしっくりくる感じのイケメン。短く整えられた黒髪がすっきりしてて好印象だ。
なんか、大魔法使いっていうよりは、若手の役者さんって言われた方がしっくりくる感じだな、と思った。
……でも、見た目なんてどうでもいい!
大事なのは、この人がわたしの魔法を解いてくれるか、ってことだけだ。
「ええと、ところで、あなたのお名前は……」
「あ、ええと、ピュイです」
「ピュイさんですか。良いお名前ですね」
にこっ、っと、ヴェルカスさんが好感度百パーセントって感じの微笑みを向けてくる。
おお、すごいな……とわたしは内心思った。
こんな風に親しげに微笑まれたら、きっと、大抵のひとは彼のことを好きになっちゃうだろう。
ほんと、大魔法使いだっていうのに、ぜんぜん偉ぶったところがないし、ふるまいの端々から人としての魅力がダダ漏れてる、って感じ。
……同じ黒髪の、しかも同年代の青年でも、あのクソ魔法使いとはずいぶんな違いだ。
「それで、ピュイさん。魔法に関することでご相談がある、って聞いてるんですが……」
「あ、は、はいっ……」
ヴェルカスさんの圧倒的な人たらし力に当てられつつ、わたしは口を開いた。
ようやく本題を切り出す。
「あのですね、実は、ヘンな魔法使いに魔法をかけられてしまってっ……」
「魔法をかけられた? ……それは、同意なく、ってことですか?」
「え……は、はい!」
「…………魔法犯罪か」
ヴェルカスさんの顔色が変わった。
それまでのにこやかな表情から一転、彼は面に真摯な色を浮かべ、わたしに向かって頭を下げてくる。
「――申し訳ありませんでした、ピュイさん。我々と同じ力を持つ者があなたに迷惑を掛けてしまったことを、魔法使い組合として重く受け止めます。取り返しのつかないことではありますが、私たちで誠心誠意、対応させていただきます。……すみません、ナディアさん。少し話が長くなりそうなので、彼女へお茶を用意していただけますか?」
ヴェルカスさんが受付のひと(どうやら、ナディアさん、っていう名前らしい)に声を掛けた。
……いや、ていうか、なんか、流れが変わってきたな?
わたしとしては、このしょうもないネコミミ魔法さえ解いてもらえれば良いんだけど……どうも、そういう話じゃないみたい。
にわかに緊迫する空気に、わたしはすっかり恐縮してしまった。
「あ、あの、お気遣いなく……」
「いえいえ。『償いと奉仕』が、我らが魔法使い組合のモットーですから」
受付のひと、にこりと笑って会釈すると、お茶を淹れるために席を離れる。
……魔法屋の受付には、わたしとヴェルカスさんのふたりが残された。
* * *
「……ピュイさん。あらためて、この度は本当に申し訳ありませんでした」
ヴェルカスさんがもう一度、わたしに頭を下げてくる。
「魔法犯罪の原因は、われわれ組合の力不足にあります。俺たちの力が及ばず、市民の方々に迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ありません。迅速に対処いたしますので、事情をお伺いしてもよろしいでしょうか? ああ、もちろん、差し支えない範囲で結構です」
「あ、は、はいっ……ええと」
ヴェルカスさんに促され、わたしはおずおずと口を開いた。
「わたし、一昨日あたりに、なにかヘンな魔法使いに捕まってしまって、無理やり婚約者にされてしまって……その魔法使いが、わたしが逃げないように~、とか言って魔法をかけてきて、わたし、こんな頭にされてしまって……」
「それは、ひどい話ですね……」
ヴェルカスさんが眉をひそめ、ひどく心苦しそうな顔で頷いてみせる。
その声からも、表情からも、彼がわたしに寄り添おうとしてくれてるのがわかった。
……この人、わたしの話をちゃんと聞いてくれてる! わたしの力になろうとしてくれてる!
……わたし、なんだかじーんとしてしまった。
一昨日あたりからこっち、わたしの言葉を聞かず一方的に話を進めてくるクソ魔法使いに振り回されて疲弊してたメンタルに、ヴェルカスさんの真摯さが沁みた。
このひとなら、信頼できる……! このひとは、わたしの救世主だっ!
「その魔法使いは、どんな魔法使いでしたか? なにか、おかしな様子は?」
「は、はいっ……ええと、全身真っ黒で、背が高くて、髪の毛が長くて、態度が悪くて……そういえば」
クソ魔法使いについて説明しつつ、わたしはふと、思い出した。
「たしか、『自分は魔王になる男だ』、とか、なんとか……」
「なるほど……」
真面目に頷いていたヴェルカスさんが、不意に口の端を吊り上げる。
「――……聖女は、随分と口が軽い」
「へっ」
次の瞬間、ヴェルカスさんの背後になにか黒いものが広がった。
羽だ。まるでコウモリのそれのような竜の羽。
思わず目を瞬かせるわたしの視界に、出し抜けに小さな黒い竜が出現する。
見覚えのある竜だった。
……ていうか、間違えようがない!
――あの魔法使いの使い魔だ!
でも、どうしてこいつがここにいるんだっ!?
「――ところで、ピュイさん」
ぽかんとするわたしに、ヴェルカスさんが話かけてくる。
相変わらずにこにこと人当たりのいい笑顔を浮かべたまま、彼はかたわらの竜を指した。
「その魔法使いって、こんな使い魔の竜を連れていませんでしたか?」
わたしの心臓がヒュッとする。
……まさか。いや、そんなっ……。
すっかり凍りつくわたしの前で、ヴェルカスさんが鷹揚に腕を組む。
わたしを見下ろすみたいにしながら、彼はニヤリと笑った。
「……昨夜ぶりだな、聖女よ」
……顔と声こそ違ったけれど。
その言動は、あのクソ魔法使いのそれと、完全に一致していた――。
次話「まわりこまれてしまったわたし」、11/1 8:20更新
主人公、ピンチです。(まあ、ずっとピンチです)




