反撃を試みるわたし
猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
10/23連載開始。11/3まで集中連載中。
平日→20:20の一回更新
10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新
以降は週イチ更新予定です。
* * *
「――ただいま」
「ただいま、じゃないっっっ!!!!!」
『衝撃! わたしの頭にネコミミが生えてました』事件の発覚から、数時間――。
あわてて頭を布で隠して元の宿屋へすごすご引き返したわたし(……ちなみに、部屋のドア周辺には特に罠とかなかった。わざわざ窓から逃げたわたしって一体……)。
にっくきクソ魔法使いがのうのうと戻って来るなり、全力で抗議の声をあげた!
「これ、あんたの仕業でしょっ!?」と、わたしは自分の頭を指す。
「ていうか、なんだよこの耳はっ!? おかげで街中でクスクス笑われたし! 子どもに指さされちゃったし!」
「……もしかして、気に入らなかったのか? ……さては、聖女はネコミミよりイヌミミ派だったのか。それは、悪いことをした」
「違うわっ!!!!!」
そらっとぼけた顔の魔法使いに、わたしは思わず声を荒げた。
「そうじゃなくて! どうしてこんなバカな魔法をかけたのっ!? いやがらせにしても意味、分かんなくないっ!?」
「厭がらせではない。逃亡防止措置だ」
けれども、魔法使いはわたしの怒りなんてどこ吹く風で、あっけらかんと答えてくる。
「婚約者にした、とはいえ、俺はいたずらに聖女を束縛するつもりはない。……そもそも、俺にそのような権利はないからな。聖女がどこへ行こうと、誰と付き合おうと、聖女の自由だ。無論、わざわざ言うまでもないことではあるが」
「それならっ、なんでっ……」
「――しかし、逃げられるのだけは困るんだよ」
魔法使いが目をすがめた。
「なんせ、長年探し続けてていた聖女を、ようやく見つけたのだからな。もう一度、最初から捜し直す羽目になってしまってはたまらない。……と、なれば、これが最適解ではないか」
魔法使いはそう言うと、あらためてわたしを見やった。
わたしの頭に生えたネコミミに視線を向け、ニヤリ、と、勝ちほこったように笑ってみせる。
「聖女に、それと分かるちょっとした魔法を掛けておけば、聖女の方から俺を探し、俺のところへ戻ってくる。……ちょうど今のように、な。どうだ、賢いやり方だろう?」
「っ…………!」
……わたしは歯ぎしりした。
束縛するつもりはない、って……。
魔法かけて逃げられないようにする、って、世界はそれを束縛と言うのではっ!?
「……というか、街に出るまで気づかなかったのか?」魔法使いが少し、意外そうな顔をする。
「こちらとしては、聖女が部屋を出る前、鏡を見るタイミングで気づくと想定し、ネコミミを隠して外出するための帽子をあらかじめ、鏡台の上に用意しておいたのだが」
「……悪いけど、朝起きたらまず鏡を見る女の子ばっかりじゃないんだ」
「はて、聖女が起きたのは朝ではなく昼だったが?」
魔法使いがからかうように笑う。
……うるせーっ! だから、あれはあんたの魔法のせいでしょうが!
「だいたいねぇっ……!」
声を荒げて言いかけたわたしに、魔法使いがふと、なにかを放ってよこしてくる。
反射的に受け取って、わたしは目を丸くした。……鍵だ。
「この部屋の鍵だ」、と魔法使いが言ってくる。
わたしは思わず首を傾げてしまった。
「……で、なんで、それをわたしに?」
「聖女が泊まる部屋の鍵だ。俺が持っていても仕方がないだろう」
そう言ったあと、魔法使いがニヤリとした。
「……それとも、俺と一緒の部屋が良かったのか? ふむ、我が婚約者殿はなかなか積極的ではないか。だが、昨日も言ったように、俺の身体には毒があるのだ。いくら期待されても、手を出すことはできない。……残念だが、諦めてくれ」
なんて、わざとらしく肩をすくめ、ため息までついてみせる。
こ、こいつっ……!
「……ていうか、もう一泊する気?」
「もう、夕方だからな」、と魔法使いが窓を指した。
「本当は今日中に発ちたかったのだが、流石に、このような時間に街を出るわけにはいかない。いろいろと準備も必要になるだろうしな。
文句があるのなら、昼までぐっすりと寝ていた、どこぞの聖女に言ってくれ」
「だから、あんたの魔法の副作用のせいでしょーが!?」
「まあ、そういう説もある」
魔法使いがからからと笑った。
面白そうに肩をすくめたあと、くるりと踵を返す。
用は済んだ、とでも言わんばかりに、部屋から出て行こうとする。
――チャンスだ! と、わたしは思った。
ついに、ようやく、この瞬間が来た!
頭のネコミミに気づいて宿へ引き返したわたし、もちろん、そこからずっと、なんにもせずに待ってたわけじゃない!
……いや、お腹空いてたから、とりあえず街で買ってきたパンとか食べたりもしてたけど、そうじゃなくて!
あいつが戻ってくるまでの間、ひそかに策を練ってたんだ!
そのための準備も、位置取りもしたし、シミュレーションは完璧。
部屋に入ってきた魔法使いをさりげな~く誘導し、理想的な位置に立たせることにも成功してる。
あとは、慎重にタイミングを見計らって実行に移すだけ。
――そのタイミングが、ようやく訪れたんだ!
わたしは背後から魔法使いへ襲いかかった!
後ろ手に用意してた手ぬぐい――あらかじめ二枚つなげて、端の方をゆるく結んで輪っかにしておいたやつ――を魔法使いの顔にかけ、思いっきり引き絞ってやる!
計画通り。
手ぬぐいの輪っかはきゅっと締まって、ちょうど猿ぐつわのような形で魔法使いの口を塞いだ!
「っ!?」
さすがに動揺する魔法使いへ、わたしは飛びかかった!
片腕でやつの両腕を絡め取ってぐっと引き寄せ、自分の身体で挟み込むみたいに押さえつける。
そうやって両腕を封じたうえで、やつの喉元へ剣、突きつけてやった!
抜き身の刃物を人間に突きつけるなんて手荒なマネ、ほんとはしたくないけど、背に腹は代えられない。
なんせ、こっちは人生が懸かってんだ!
「魔法使いなんて、口さえ塞いじゃえば怖くないんだから!」
わたしはすっかり勝ちほこって堂々と宣言する。
「――さあ、怪我したくなかったら、おとなしくわたしの魔法を解いて、わたしを解放するんだっ!」
不意に、なにか、しなやかなものが空気を打つような音がした。
直後、わたしの視界に、なにやら黒いモノがふわり、と映り込んでくる。
「――……貴女は愚かか?」
どこからか、少し低めの声がした。
「ヴィルク様の尊いおみ口を塞いでしまったら、いったい誰が、どうやって、魔法を解くというのだ?」
た、たしかに……。
冷静なツッコミに一瞬納得しかけたわたし、はっと我に返る。
……いや、じゃなくて!
声を主の姿を認め、わたしは目を丸くした。
「つ、使い魔が喋ったっ!?」
漆黒の羽を広げてわたしの前に降り立ったのは、例の仔竜だった。
昨日、わたしが間違えて攻撃しそうになった使い魔。
魔法使いの肩で丸くなって、彼に撫でてもらいながら「ふみゅう」と甘え声を出してた、あのかわいいちっちゃな竜だ!
動揺の声をあげるわたしの前で、仔竜はふん、と偉そうに鼻を鳴らした。
「当然だ。私はヴィルク様に作られた魔法生物だぞ」、仔竜、そう言いながら黒い鱗で覆われた胸を誇らしげに張る。
「ヴィルク様の婚約者だというから、これまで大目に見ていたものの、これは流石に看過し難い暴挙だ。……我が主に刃を向け、ただで済むと思ったか?」
仔竜がにわかに牙を剝いた。
羽を広げて舞い上がるなり、こちらへ飛びかかってくる!
さすがに魔法使いを抱えたままじゃ応戦できない!
わたしはとっさに彼から手を離し、竜に向かって剣を構え……そこで過ちに気づいた。
ああっ、わたしの馬鹿っ!
いくら使い魔に話しかけられて動揺したからって、ここで人質を手放してどうするんだよっ!?
しかも、相手は魔法使いなのにっ……!
あわてて視線を向けると、案の上。魔法使いは自由になった腕であっさり猿ぐつわを外そうとしてる!
わたしはヤケクソになって剣を捨て、もう一度魔法使いに飛びつこうとした。
……でも、間に合わない!
あともう少しってところで魔法使いが呪文を唱えて、次の瞬間、わたしの身体、金縛りに遭ったみたいに動かなくなってた。
「――……聖女は、物覚えが悪い」
魔法使いが、どこか平坦な口調でぽつりと呟く。
「俺の身体には毒があるから触れるな、とあれほど言っているのに」
言いながら、魔法使いが冷ややかにわたしを見た。
その表情の冷たさに、わたしの心臓がぎゅっと縮み上がる。
――……怒らせた?
わたしは思わず身を竦めた。
魔法使いはそのまま、無言でこちらへ歩み寄ってくる。
彼が、わたしの前に立った。
ぞっとするほど綺麗な顔には、表情がなくって。それが、わたしの恐怖をさらにかき立てた。
不意に、見えない力がわたしの手首を掴んで、持ちあげてくる。
それと同時に、なにかがわたしの薬指へ滑り込んできた。
わたしは思わず、それを見る。
指輪だった。
「――俺からのプレゼントだ。婚約者どの」
ぽかんとするわたしの前で、魔法使いがどこかもったいぶった口調でそう告げる。
「俺が魔王になった暁には、聖女のためだけに宮殿を建ててやろう。
大勢の召使いをあてがって、下へも置かないような丁重な扱いをしてやるよ」
……いつの間にか、金縛りは解けてた。
わたしはまじまじと、左の薬指に嵌められた指輪を見下ろす。
銀色のシンプルな指輪だ。
石もついてないデザインだけど、洗練されていて、うっとりするほど綺麗で……。
……ややあって、わたしは口を開いた。
「ふざけんなっ!」
たったいま嵌められたばかりの婚約指輪を抜き取り、全力で床に叩きつけてやる!
指輪は跳ね飛んで転がり、やがて見えなくなった。
「わたしは【銀煌の聖女】じゃない!」、と、わたしは怒鳴る。
「それに、たとえ聖女だったとしても、あんたなんかの思い通りにはならない!」
怒りのあまり、身体が震えるのが分かった。
……人のこと勘違いして、バケモノと戦わせて、聖女じゃないって言ってるのに聞いてくれなくて、一方的に婚約者呼ばわりして、ヘンな魔法掛けて、へらへらと冗談交じりにからかってきて……挙げ句が「宮殿を建ててやる」だって!?
馬鹿にすんな! と思った。
宮殿とか召使いとか、そんなんちっとも欲しくもない!
わたしがそんなもんで喜ぶなんて決めつけるな! 絆されるなんて思うな!
わたしが欲しいのは、自由だ!
怒りのあまり視界の端が赤みを帯びる。
わたしは、目の前の魔法使いを真っ向から睨みつけてやった。
「逃げてやるっ……絶対、逃げてやるんだから!!!!!」
魔法使いが一瞬、虚をつかれたみたいな顔をする。
けど……やつはすぐ、いつもの笑みを浮かべた。
「……ほう、それは面白い」
ニヤリ、という擬音がぴったりな憎たらしい表情で、彼はわたしを見下ろしてくる。
「やってみろよ。出来るものならな。……せいぜい期待しているぞ、聖女よ」
* * *
「――……飛び出して行ってしまいましたね」
銀色の髪の少女が消えていったドアを見やり、仔竜はどこか呆れたように呟く。
そんな竜の傍らに立ち、魔法使いは腕を組んで笑った。
「しかし、あの頭のままでは逃げられまい。……部屋の鍵は渡してある。どのみち、戻ってくるしかないさ」
「……というか、なんなんですか、あの女は。ヴィルク様に剣を突きつけた挙げ句、ヴィルク様がお渡しになった指輪を床へ叩きつけるだなんて」
「……まあ、無理もない。よく知らない男に、とつぜん婚約者にされてしまったのだから」
面白そうに笑う主を仔竜はどこか不満げに見上げていたが、やがて思い出したように首を巡らせた。
彼の紅い瞳が、部屋の片隅に転がる銀の指輪を見つける。
彼はそれを拾うため、羽を広げて飛び立とうとして、
「テア」
主に制止され、広げかけていた羽を畳みながら主をかえりみる。
怪訝なまなざしを向けてくる使い魔を尻目に、魔法使いは静かに歩を進め、そっと指輪を拾い上げた。
「……しかし、生憎、こちらにも事情がある」
手中へ戻ってきた指輪を指で弾いてまわしつつ、彼はニヤリと笑う。
「――目的を果たすまでは付き合って貰うぞ、エル」
ここまでで「ふたりの出逢い編」は終了。
次回のインターミッションを挟んで、その次から「魔法屋編」の始まりです。
面白かった、続きが気になると思ってもらえたら、
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次話「断章 ヴィルクと使い魔」、10/31更新
主従いちゃいちゃタイムです。




