プロローグ
※【注意】本話には性的な軽口表現があります。性的暴力描写はありません。
猛毒体質の大魔法使いと、毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
10/23連載開始。11/3まで集中連載中。
平日→20:20の一回更新
10/24(金)と土日祝は8:20/20:20の二回更新
以降は週イチ更新予定です。
「――【銀煌の聖女】エル・クレアード。今日からお前は、俺の婚約者だ」
……一瞬、意味がわからなかった。
いや、状況ならわかってる。
目の前の魔法使いが、魔法の力でわたしの手足を拘束してる。
そうやって動きを封じたわたしの前で、彼は堂々と宣言したんだ。
形のいいくちびるの端を吊り上げ、切れ長の目を細めて、わたしを見下ろしながら。
「お前は俺の婚約者だ」、と――。
……って!
いや、だから、なんでそうなるんだよっ!?
「――とはいえ、安心するがいい。婚約者とはいっても、俺は聖女に指一本、触れるつもりはない」
あんぐりと口を開けるわたしを見やり、彼がどこか面白そうに口元をゆるめる。
「先ほども言ったように、俺のこの身体は魔物の猛毒を帯びているからな。
近づくだけでも危険だというのに、もしも口づけや、それ以上のことをしたならば、いくら聖女といえども命はない。
……ようやく聖女を手に入れたというのに、俺自身の毒でうっかり殺してしまっては、目も当てられないからな」
黒いローブの袖をゆったりと組みながら語ってた魔法使い、不意にニヤリと笑った。
「……しかし、残念だよ。
せっかく大陸中に名の知れた【銀煌の聖女】を手に入れたのだ。
――もしも俺の身体の毒さえなければ、毎晩でもかわいがってやったものを」
「なっ……!」
「……おいおい、そんな顔をするな、冗談だよ」
わたしの反応に魔法使い、やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめて、
「俺の身体が帯びる魔物の毒は神にすら消せない。だから、万が一にもお前に手を出すことはない――つまり、そういう意味だ。勘違いをするな」
悪びれもなくそう言ってくる。
でも、そんな冗談、わたしはちっとも笑えなかった。
ていうか、そもそもわたしにとってそれ、冗談としてなりたってない。
だってわたし、魔物の毒が効かない体質だからねっ!?
毒があるから手を出さない、なんてこと、わざわざ言ってくるんだ。
もしもわたしが妖精で、こいつが持ってる魔物の毒に耐性持ってるってバレたら、なにされるか分かったもんじゃない!
「――もっとも、お前が妖精だったら話は別だがな」
「っ!?」
やばい、気づかれた!? わたしの心臓がひゅっと縮こまる。わたし、なんかバレるようなことやらかしたっけっ!? それとも、魔法使いって心が読めるのかっ!?
……でも、どうやら杞憂だったみたい。
焦るわたしを尻目に魔法使いはふっと肩をすくめつつ、「なんてな」、って笑って、
「大陸最強の剣士にして、人類の希望たる【銀煌の聖女】が、まさか――
魔物の血肉を啜って生きるような穢れた種族、妖精などであろう筈がない」
いけしゃあしゃあと言ってのける。
……って、だーれが穢れた種族じゃ!
わたしは思わずムカッとしてしまった。妖精は大陸で最強の、超カッコいい生物なんだから!
て、いうか!
そもそもの話、わたしは【銀煌の聖女】エル・クレアードじゃないし!
たまたま聖女さまと同じ髪と目の色してるだけの別人だし!
……ま、まあ、たしかにわたしがこれまで、聖女さまと似てるのをいいことに、いろいろうまく世渡りしてきたのは事実なんだけどっ……でもさ! それはそれじゃん!?
ちょっと聖女さまのフリして小銭を稼いでたからって、こんな目に遭わされていいはずなくないっ!?
理不尽だ! 横暴だ! 世の中、間違ってるっ! この世に正義は存在しないのか~っ!?
……はい。完全に自業自得だってことは自分でもよ~く、分かってる。
でも、でもさあ!
それにしたって、こんなのってないよ!
ていうか、これって、かなりマズい状況なのでは…………?
……わたしはあらためて、現状を確認してみる。
謎の激ヤバ魔法使いに聖女さまだと勘違いされて、魔法で拘束されて、一方的に婚約者宣言されて……。
どうにか誤解を解くにしても、それで妖精だってバレちゃったらよけいにヤバそうだし、これって、どう考えたって詰んでいるのでは?
……逃げなきゃ! いろいろなことがバレる前に! 一刻もはやく! こいつから!
でも、こんな激ヤバ魔法使いから、いったいどうやって逃げればいいんだ!?
昔のわたしならともかく、いまのわたしは魔法、使えないし、こいつの魔法で拘束されちゃったら剣だって使えない!
……ああもう! わたしは思わず心の中で叫ぶ。
いったいどうして、こんなことになっちゃったんだろうっ――!?
次話「聖女のフリをするわたし(前編)」、10/24 8:20更新
主人公、調子、こいてます。




