【オタクな妹】
僕が新聞を持って家に入ると、お母さんが朝ごはんを作ってくれていた。
「おはよう!朝ごはん出来てるよ。」
「おはよう。」
挨拶だけするとダイニングテーブルに向かった。
ダイニングテーブルには先に朝食をとっていたお父さんがいた。
「おはよう。お父さん。」
「ん、おはよう。」
「これ、今日の新聞。」
「ああ、ありがとう。」
新聞を渡すと、僕は向かいの椅子に座った。
お父さんは新聞を読み終わるとスーツに着替えに行ってしまった。
鞄とネクタイを持ってきたと思うと、僕に話しながら残りの準備を進めた。
「律斗、進路は決めたのか?」
「ああ、一応、営業か製造系かな…」
「そうか。…無理に会社の系統に合わせなくてもいいからな。」
「うん。わかった。」
お父さんが言いたいことはわかっている。
うちは自由だから僕の希望の学校に通わせてもらえるし、僕のやりたいことをできるだろう。
でも、僕には会社を経営すること以外に夢がない。
だからか、僕は自然に会社を経営する道に進んでいる。
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
お母さんはお父さんをお見送りしに行った。
黙々とトーストを食べていると、お見送りが終わったお母さんがスープを持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。今日も学校頑張ってね!」
お母さんはそれだけ言うと、キッチンに戻って行った。
丁度トーストを食べ終わり、スープを飲んでいる時に妹が降りてきた。
「おはよ〜。」
「おはよう。」
「おはよう!朝ごはん出来てるよ。」
「はーい。」
妹は返事をして僕の隣に座った。
「…昨日も配信だったのか?」
「そうなの!昨日は推しが出てたからね。」
「ふーん。」
妹は俗にいうオタクというものらしい。
妹が推しているのは10年ほど前から活動しているtimeというグループの神蔵音花というアイドルだ。
なかなかにイケメンで可愛らしい顔をしてtimeのセンターで最年少。
な、らしい。
とにかく妹はこのアイドルに夢中で、グッズなどもかなりの数を買っているらしい。
「ご馳走様でした。」
「えぇ、早いよ。」
「自分の部屋にいるから、準備出来たら教えて。」
「オッケー」
部屋に戻ると、僕はパソコンを起動してヘッドホンをセットした。
少し経って音源の確認が終わった頃、妹の声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!準備できたよ!」
「ん。今行く!」
パソコンの電源を落とすと、バックを持って玄関に急いだ。
玄関では妹が身だしなみを鏡で確認していた。
「じゃ、行こっか。」
「うん!」
「「行ってきます!」」
「いってらっしゃ~い!」
お母さんは僕たちのことを見送りに走ってきた。
僕らが玄関のドアを閉める直前までお母さんは手を振ってくれていた。
手を最後まで振り返し、ドアが完全に閉まると僕らはバス停に向かった。