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メダルのナイト  作者: たて ばてん
8/16

第8話 エルフの少女はメダル持ち

 荷物付近には何故かゴブリンに誘拐されたであろう、さっきの耳長の少女が、そこに横たわっていた。


 そういえば、ディオラさんあまり寝てないし。

 忘れちゃったのかな?


「………だれだ?」


「あぁ。クルーガーさんは馬車にいたから知らなかったですよね?昨晩の件で見つかった、ゴブリンに誘拐されてた子です」


 こんな時スマホとかあったらディオラさんに連絡とかできて引き返してもらえたんだけどな。


「そうだ!クルーガーさん、村に行けばこの子の両親探せますか?」


「村の子供という可能性もある聞いてみるか。しかしディオラが馬車に乗せ忘れるなんてことあるか?」


 クルーガーも意外だと眉を顰める。


 それにいつまでも此処は安全というわけじゃない。


 ナイトは少女を持ち上げようと腰を下ろす。


 よし!荷物を一旦下ろしてと………。


「よっこ……!あ゛っごぁあ゛ぁぁぁぁ」


 力んだナイトは唸り声を出すだけで体が上がることはなかった。


 あっやばい腰が!ピキってなんかきた!


 巣穴の時の様に少女の体が正座したナイトの上半身を潰す。


「………俺が背負っていこうか?」 


 見かねたクルーガーがナイトに手を差し出す。


「…お願いします」


 クルーガーさんが少し過呼吸みたいになったのは気のせいだと思いたい。






 南方面と違い東は魔物が少ないが、それでも出るらしい。

 南村のモカの話によると王都周辺以外は魔物がいるのが当たり前。

 その証拠に何気なくナイトが視線を泳がすと木の中からミミズの頭に目玉を埋め呑んだような魔物が這いずる。その近くにいる鳥は嘴を物理的に飛ばして仕留める。


 音が完全に銃だ、これ。


 なお嘴は生えてくるもよう。もはやロボだと言われた方が納得できる。


 狸のような魔物は岩や草木に擬態し、虫が止まると一部口に変身させ捕食する。

 この様にこの世界は野生の動物並みに魔物がいるということだった。


 ───怖いこの世界。


 ナイトは異様な光景に背筋が凍るのを感じた。


 ナイトは魔物を一瞥しながら御者から魔物避けを借りて良かったと心底思った。


 しかしアクシデントは起きるものだ。


 ナイト達は少女を抱え、村についたまでは良かった。

 クルーガーが村長に馬を貸してもらえないかと交渉中、突如耳長の少女が目を覚ましたのだ。


 少女はナイトを見上げたと思ったら顔を青くし逃走する。一人は危険だと思い、ナイトはクルーガーに声をかけることもなく急いで後を追った。


 ナイトは体力が普通の人以上にないため、すぐに体力が尽きかけ虫の息だ。


「えっ……ゲッホッ!耳の長い…えっと」


 ナイトは名前が分からず何て呼びかけようか悩んだ。


 そういえばディオラさんが、彼女のことをエルフと呼んでいた気がする。


「よし。エルフちゃーん!」


 エルフちゃーん。エルフちゃーん。


 ナイトの声以外、返ってくる声はなかった。


「何処まで行っちゃったんだ?ディオラさんの話によると、すごい数の盗賊がいるって話もあるし、なるべく見つけてあげたい」


 息を上げ膝に手をつくナイトに大きな影が被さった。


「え?」


 後ろを向くと真っ赤な花が咲き開いていた。


 普通の花と違うところは、この花の縁には白い牙の様なものと唾液の様な液体を垂らしている。


「え!この世界、普通の植物も魔物なの?」


 花はナイトに齧り付き、視界が真っ暗になる。


 逃げようとナイトは体をひねらすが、足に何かが絡みつき引っ張られる。


 引きちぎられる!凄い力だ!


 足に集中していると今度は目の前から異臭がした。


「臭っ!何?」


 メダルで偽蛍を出現させる。


 すると目の前には紫色の液体が溜まっているのが見えた。


 所々に動物の死体が溶けてるのを見るに消化液だと悟る。


「───────!!??!?」


 パニックになったナイトは、あっちこっちに水の魔法を乱射した。

 自由の身になったナイトは、そのまま重力に従って落ちていった。


「抜き出せた!よ……し…?」


 ナイトは立ちあがろうとしたが体に力が入らない。詰まるところ魔力切れである。


「カードの…メモリ、2つしか…なぃの………忘れ……て………」


 ナイトの意識はかろうじて保っているが、目の前の現状は変わらないどころか先程の花が三体に増える、それぞれの蔓がナイトの体を捉える。


「し……ぬ…………」


 急な熱を感じた。


「うぇ?」


 ナイトの間抜けな声と同時に目を開けると巨大な炎が花を包み込んだ。

 焼け焦げた植物の魔物に耳長の少女が降り立つ。


「…き……みが……助け…てくれ………たの?」


 メダル持ちだったのかな?


 とにかく助かったと、ナイトは安心した。


「驚いた。よくいるマーロム人だと思ったけどメダル持ちだったんだ」


 静かな声で少女はナイトに歩み寄る。


 顔は毛布で見えないが、心なしか視線を逸らされている気がする。


「てっきり私を殺すために攫ったのかと思った。けど、森での動き、演技と思えない。あなたは何なの?」


 何を言ってるかわからない。


 そういえば巣穴の中で気絶してたから、ゴブリンに捕まってたの知らなかったのだろうか?


「え…ぇぇ…………と?どう…………い……」


 力が入らないせいか呂律もうまく回らない。


「取り敢えず、これをつけて」


 そう言って彼女は何処から出したのか銀の腕輪を出す。


 ナイトには見覚えがあった。


 あれは、鎖はついてないけど騎士団の牢屋で僕がつけられていた枷にそっくりだ。

 柄は少し違うみたいだが。


 彼女は腕輪をナイトにつける。


 銀のせいか少し重い。


「少しすれば会話くらいできるでしょ」


 そう言って少女は何かを呟いた。

 その瞬間ナイトの体が浮き上がり彼女と移動を始める。


「え?……な…何…のメダル?」


「風」


 風って人浮かせたっけ?


「移動する。あと………動けたら自分で直して」


 一瞬何の事かわからなかったけど、移動中しばらくして足の感覚が戻ってきたらわかった。


 僕のパンツが下ろされていた。


 ──死にたい。





 少女は巨大な木の根元に腰を下ろしナイトを地面に下ろす。


 少女は視線を逸らし未だ距離を取る。


 ズボンを上げたいのに動けずにいる。


「魔物は……」


「この木は魔物を寄せ付けないから寝ても大丈夫」


 ヨケの木ってことかな。


「そろそろ喋れるくらいには、なったよね。じゃあ質問するね。何でエルフの私を村に運んでいたの?一体目的は何?」


「ゴブリンに誘拐されてたから、君の両親を探そうとしてクルーガ…一緒にいた冒険者の人と村で君の両親を探せないかと、保護してもらえないかと思って」


 少女は少し俯き考え込んだ。


「ゴブリン?街の人間じゃないの?」


「何で街の人間なんだ?」


「……訳がわからない」


 少女はポツリと呟く。


 あっそうか。これも僕が知らない常識か。

 この子は僕が記憶喪失ってことを知らない。


「あっ……えっと。僕記憶がなくて、その辺の話がわからないんです」


「嘘ついた」


 え?


「私に嘘はつけない。『この世界、普通の植物も魔物なの?』って叫んでた。何のこと?」


 聞かれてた?


 ナイトは言い訳が思いつかず口ごもってしまう。


「えっと……」


「話せないって程ではないのね」


 心が読めるかの様に会話を先回りされている気がする。

 何なんだろう、この少女は。


「いいから話して。でないと、私は貴方を魔物の餌にする」


 そう言って少女はナイトに手をかざす。


 おとなしそうかと思ったら物騒!


「───僕は魔法のない世界から来たと聞いて信じますか?」


 長い沈黙が流れる。


 うーん。変な人だと思われている気がする。


 少女は頭を抱える。


「……嘘ではないことはわかった。でも、少し傾いてる」


 傾いてる?


「確信はないって状態かな。記憶喪失は嘘だけど、さっきの叫びといい常識を知らなさ過ぎる。とりあえず信じる。そういうことにしておく」


 全て嘘でないと思ったら普通は何割か嘘だと思うけどこの子の見解はそうじゃないらしい。


 僕にはわからないが彼女は納得したそうだ。


「なんで嘘とかわかるんですか?」


「私は、『天秤のメダル』所有者だから」


 そう言って少女は手のひらより大きいメダルを見せた。そのメダルには細かい掘りと文字、真ん中には天秤の絵が彫られている。


 何より………


「でかい!」


 じゃなくて。


「何処から出したのですか?僕からはそんな大きなメダル持っている様に見えませんでしたよ?」


「メダルは魂と同化するから魂に入れたり出したりできるはず。やった事ないの?」


 同化って何?レベルと何か関係あるのだろうか?


「ずっとポケットの中に入れてました」


「一瞬でもスリとかでメダル持ちだってバレる。もうちょっと考えたほうがいい」


「すみません」


「私の天秤のメダルは物事を図ることができる魔法がある。だから貴方の嘘も見破れる」


 凄い!そんなメダルまであるなんて。


 少女はメダルを握る仕草をすると同時に、メダルは姿を消す。


「あの、エルフさんは」


「サフィ。エルフって呼ばないで、この国でのエルフ呼びは危険」


 ナイトの言葉をサフィは遮る。


 種族的なトラブルか、気をつけよう。


「あっごめんなさい。サフィさん、村まで戻りませんか?クルーガーさん達に何も言わず来てしまったので心配してるでしょうし」


「……うん。わかった。ところで私がエルフって他に知ってる人いる?」


「あっと、ごめんなさい。ディオラさん…此処にいないんですけど、逸れの群れの報告のために王都へ戻った冒険者の方と僕しか知らないです」


「群れって、何で貴方達はクエスト中止してないの?」


「あっ結構大事な……嘘つけないんだった。王様からの依頼を中止するわけにいかなくて」


 今回、国王陛下からの依頼はゴブリン退治の割に国家機密扱いであり、表向きは近衛兵である彼が個人で依頼したということとなっている。

 普通、義務とされる群れの報告が優先されるのは当然なのだ。


「王?国王!クエスト内容は?まさか主?」


 サフィ冷や汗をかき、ナイトの肩を掴む。


「主?いや、東の峠のゴブリン退治だと聞いています」


「ゴブリン……国王自ら、もしかしてあの方が言っていた」


 あの方?


 サフィはナイト服からギルドのカードを取り出し、内容をチェックする。


「魔力はもうちょっとで動けるくらいになる。ナイト、私も東の峠に用がある。そこまで一緒に行っていい?」


「え?でも、君は両親を探してから」


「何を勘違いしてるか知らないが、私は中級冒険者。これでも267歳マーロムでは、もうとっくに成人してるはず。子供じゃない!これカード」


 そう言ったサフィの周りに小さな炎がいくつも灯る。


 心なしか子供扱いされ、頬を膨らませてる気がする。

 急な情報にナイトは混乱する。


「え?にひゃ?…は?カードえ?」


「ナイト!無事か!」


 茂みから知っている声が響いた。


「林の中で大きな音がしたんだ!ナイト、魔物避け持たずに行きやがっ…………て?」


 クルーガーさん!追いかけてきてくれたんだ。


 少し安心したナイトは、ほっと胸を撫で下ろすも、一方クルーガーは無表情で流れる様に腰の剣を抜く。


「ナイト、何で脱いでんだ?」


「え?」


 今クルーガーの目の前には、下半身を露出した状態で仰向けになっているナイトと、敵意を向け火の魔法を纏っている少女の光景。


 ナイトは、クルーガーに慌てて訳を話そうとしたが舌を噛んで暫く痛みに悶えた。




 暫くして冷静を取り戻したクルーガーは、気まずそうにナイトのズボンを直し肩に担ぐ。


 クルーガーはサフィに目配せしながら村へ戻るため足を動かす。


「……まぁ何だ。色々言いたいことはあるが、まず一つ知らせだ。村の人がちょうど街まで品物を卸に行く用があるみたいでな、その荷台に乗せて貰えることになった」


「ほれならまひにはひゅんひょうにふひそうへふね。よはっは」訳:それなら街には順調に着きそうですね。よかった


「何言ってるか分からん」


 ナイトは舌の痛みに耐えながら、魔力切れで魔物に襲われ、サフィに助けられたことをクルーガーに説明した。

 この通りの喋り方なので、所々サフィが翻訳してくれた。


「誤解が解けたのはいい。それより貴方が私のメダル所有についてバラさなければ、私は問題ない」


「生憎と俺は、メダルや魔法に興味はないんでね。今でもメダル狩りしてる連中の気持ちは俺には分からん」


 サフィはクルーガーの答えに偽りは、無いと確認した。

 もっともそれはサフィにしか分からないことだが。


「ナイトにも話した。私も峠まで同行させて欲しい。」


 クルーガーはナイトの顔を除く


「お前、何してんだ?」


「いや、許可してないです」


 クルーガーはサフィを見る。

 どっからどう見ても子供、信じてもらってなんだが、急に260歳だ。何て言われても信じろは無茶がある。


「………お前は冒険者なのか?」


 クルーガーもサフィが子供にしか見えないため流石にクエストに連れて行くのは躊躇う。


「フルーガーさん。かのひょはギルホカードをまだはいました。おそらく冒険者れす」


「フルーガーって誰だよ。」


 クルーガーさん、て言おうとしても舌が痛いんだもん!


「本当に冒険者なのか、何処のギルドだ?こんな子供に命懸けの仕事を許可したやつ」


 クルーガーの呟きに反応したサフィは、また不機嫌になり周りに火の玉があちらこちらと出現する。


「あえ?」


「私は、子供じゃない!」


 ド───────ン!!!


 突然の爆音に鳥達が一斉に逃げ出す。


 爆発の煙が晴れると、ナイトとクルーガーが煤だらけになっていた。


「えっと……取り敢えず見られたらまずから、魔法を使わんでくれないか?お嬢ちゃんも村の人たちに見られたらまずいと思ってるんだろ?」


 サフィは、渋々ながら残りの火を消した。


 村には青年が馬車を村の入り口前に待機していた。


「すみません。連れてきたのでお願いします」


「おぉ!バンスさん、君たちも無事でよかった。ってわぁ〜黒焦げじゃないですか。さっきの爆発といい、火を使う魔物なんて、いつきたんだ?」


 爆発という言葉にクルーガーはビクッと肩を振るわす。

 荷物を固定している他の人が答える。


「最近魔物を品種改良や養殖してる奴が多いと聞くしな。中には植物型も多い。タネが紛れ込んでもおかしくない」


 植物型ってまさか僕が食べられた奴?


 いや、この村の人達なんでこんなに落ち着いてんの?もっと慌てようよ!

 ナイトの苛立ちに村のバケツの水が少し跳ねた。


「おい、蹴飛ばすなよ!」


「私じゃないよ!」


 ごめんなさい顔の見えない村人さん。

 

「まぁ此処からは馬車だから、ゆっくりして行くといいよ。」


 そう言って青年は外側に取り付けられた木の板に腰掛ける。


 「お言葉に甘えさせてもらいます。ほらいくぞ」


 クルーガーはサフィに釘を刺す。


「取り敢えず街に着くまで大人しく頼むな。間違ってもさっきみたいに魔法を使うなよ?お嬢ちゃん」


「私は子供じゃ無いっての」




 サフィとクルーガーに青年は声をかける。


「準備ができたら乗んな!急いでるって聞いたからいつもより飛ばすぜ!3人とも荷物をしっかり離さないようにしながら荷台に捕まってな」


 捕まる?


 クルーガーとサフィは不思議そうに顔を見合わせながら恐る恐る荷台の端に体を寄せる。

 ナイトはまだ力が入らないため、クルーガーが支える。


「ではお願いし……」

 その瞬間!


「おらああぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 村の青年が叫びと同時にクルーガーの言葉を遮られ、三人の体が後ろに引っ張られる


 ものすごいスピードで馬車が走り出す。

 魔物の姿らしき影が見えるがすぐに視界から消え去る。


「何だ!このスピード!」


「俺たちはスピーディーに商品をお届けする!それがうちの村の十八番なんでな!」


 キメ顔をしてすぐ前を向き、雄叫びを上げながら馬車を走らせる。


 よく商品落ちないな!


「早いのはありがたいけど止まれるのか?」


「何年商品運んでると思ってるんだ!たとえ盗賊が途中で出てきたら跳ね飛ばしてやる!」


「それはそれでダメだろ!」


「ついてくるんじゃなかった。」


 サフィは少し後悔の言葉を口にしたが風の音と青年の雄叫びにより誰の耳にも届くことなく消えた。


「どこが……ゆっくりできるの………」








 『王都』そこは二つの壁によって中央と外側と仕切られる形をした中央の街。


 そこに小柄な少年の姿と、緊張により俯くタリースカイのギルドマスターが一室で向き合っていた。


「遅くなったな。クランケ、お主の働きに感謝しよう」


「はっ!勿体無きお言葉」


「ふふっそう硬くなるな。今はただの少年と思ってくれ」


 無茶を言う。


 此処にいる二人の護衛と、ギルドマスターの思考は一致した。


「それで今回東の峠のクエストの件、一体どの様な」


「なに、もしこれから奴がこの国に必要なら下級冒険者でいられては困る。それにもし悪魔の呪いの件が真実ならばこのくらいの下準備は必要であろう。それで、その()()()はこの報告書の通りの人間で間違いないか?」


 少年は報告書、ホウショウ・ナイトに着いてと書かれた用紙を指差す。

 デイヴィスは、机に広げられた報告書の一枚を手に取り口を開く。


「はい、彼は──────肉体的にも精神的にも脆弱、強情な性格でまるで幼い子供の様だと思ったのですが、年齢は17歳。成人しています。しかし、悪魔との決闘の際人が変わった様に流れる様に首を切り落とし呪いを解きました。一体彼は何処からきたのかは記憶喪失なため不明らしいです。彼は、南村の遺跡近くで発見されています」


「発見したのはココアという少女で間違いないか?」


「え?……はい」


 ココアは南村の村長の孫娘。

 特に怪しい点はなく、普通の善良な村娘。

 しかし、少年にはそうは見えないと言った様子。


「………その少女は今は何処に?」


「冒険者登録をしましたが、実力不足なため、今はスライム討伐クエストに行ってもらってます」


「そうか」


 少年は黙り込む。


「ココアが何か」


「まだ確証もない。だからこそ、この一件が終わったら両者王宮まで来るように伝えろ。使いは後で送る。話はそれだけ!じゃあね、バイバイ」


 そういいって手を振りながら護衛と共にさっていく。


 全く緊張した。


「あのお方は、周りがわかっていること前提で喋るこら、いまいち話が噛み合っている気がしないんだよな」


 ガチャ


「そうそう、」


 戻ってきた。


「うぇえあう!」


「英雄君と一緒に行った冒険者の一人が馬車連れて戻ってくると思うけどすぐに返しちゃっていいからね」


「え?何故そんなことを?」


「逸れの群れを発見したって彼は報告するけど無視してねギルドマスターこれは王命だよ」


「えぇぇ?あっちょっ!陛下?」


 マーロム大国18代目国王フェリックス・マーロムは、笑いながら今度こそ去っていった。


 魔物の群れはギルド一団となって解決する重要なクエストだ。なんせ、放置すれば街ひとつ滅ぶからだ。しかし、王からそんな命令があっては無視しなくてはいけない。


「一体、陛下は何を考えて……」


「ギルドマスター!ディオラが、逸れの群れを発見したと報告をしに戻ってきました!指示を!」


 悩めるギルドマスターに畳み掛ける様に受付嬢が部屋に入ってくる。


「無視するんだったらクエストを極秘事項にしないでほしい……陛下は、いったい何を考えてるんだ」


「ギルドマスター!デイヴィス、うずくまってないで早くきて!」


「イタタタ!耳を引っ張るな!」





 ギルド内、階段付近でギルドマスターを待っていたディオラは、階段を降りてきた彼に駆け寄る。


「ギルドマスター。リカナンスウルフを従えていたゴブリンの巣を発見。盗賊もいなかったことから恐らく逸れの群れと思われます」


「ディオラ、報告ありがとう。せっかくで悪いが、クエストに戻ってくれ。群れ討伐は中止命令が上から来ている」


 ディオラは報告して即、戻れと言われ思考が混乱する。


「…………え?でも、国の義務なんじゃ」


 ギルドマスターはディオラの肩を寄せ他の冒険者に聞こえないように話す。


「その国が中止だと言っている。理由は分からないが早急に戻ってくれ」


「えぇぇぇ?」


 ギルドマスターは、訳がわからないと困惑するディオラをギルドから追い出さす。


「後で、なんか言われねぇよな?」


「大丈夫だ。なんかあったら言ってやる」


 ギルドマスターはそう言って室内へ戻っていく。

 ディオラはため息をついた。


 まぁ、取り敢えず、群れの報告義務は果たした。


 義務を課した国がクエストに戻れと言っているのだからありがたく戻らせてもらおう。


「それに、早く戻れるに越したことはないな」


 ディオラは東門に走った。






「──────急にそんなこと言われても困る」


 その受付の男性からキッパリと言われそっぽを向かれた。


 馬車の車体、馬一頭の貸し出しには受付を通す必要がある。


「北の魔物の群れの件をしってるだろ?お前が使ってきた馬車は食料の輸送でもう出てるよ。」


 北の魔物の討伐へ向かった騎士団の殆どが殲滅状態となってしまっているらしい。


 国中の、ギルドの上級、中級冒険者が緊急クエストとして駆り出されてしまっていた。


 そのため、国中の馬車が北の方面に働き詰めで食糧や物資の運送にも使われている。


 よって空きの馬車がないのだ。


「北の状況が思ったより悪いそうでな。何より北の街のマモンが滅ぼされるかもしれないんだ。通常クエストより優先されるのは当たり前だろ?」


「うぐぐっ………でも頼む!馬だけでもいい、仲間が待ってるんだ」


「これだけ行ってもわからないのか?これだから下級は………何度頼んでも無駄だ帰れ!」


 相手にすらしてもらえない状況に、ディオラは戻ってきたことを後悔した。


「くっそ、グズグズしてるとナイトが魔物に喰われ出るかもしれん。どうしたもんか………」


 ()()()()()()()()()()()と揉めていなければいいが……


「クルーガーの方が力があるから、なんかあった時の為ナイトを背負っていけるけど、女の扱いは雑なところあるんだよな〜。色々と心配だ」

 





「にいちゃん!にいちゃん!」


 頭を抱えるディオラに声が掛かる。

 振り返ると小柄な男性の年季の入った髭。


「あっあんたは!ギルド近くの武器屋のおっさん!」


「お前、俺の毒ナイフを買ってくれたガキのパーティーの人だろ?」


 武器屋はナイトの事を気に入っているのか、いつもより上機嫌だった。


 ナイトのやつ、どんだけ仲良くなったんだ?


「初心者に変なもの売らないでくれ。」


「変なものではない!最高傑作だ。まぁ、そんなことより荷車でもいいと言ったな。うちのやつ使え」


 武器屋はそう言いながら馬を引いてきた。


「は?馬?あんた武器屋だろ!」


「俺は、たまに西の鉱山で素材を集めに行ってんだ。馬くらい持ってる」


「素材まで自分で取りに行ってたのか。何でだ?普通冒険者に依頼する物だろうに」


 しかし、馬が必要なのは事実。

 取り敢えず彼のおかげで何とかなりそうだ。

 早くあいつらを追いかけてやろう。


 ディオラは安心して「よろしく」と馬の顔を撫で、鞍の前橋に手をかける。


「おっちゃん!ありがとな……」


 ……ん?西の鉱山?


 ディオラは武器屋の言葉に引っかかりを覚え、静止した状態で頭を回す。

 武器屋は気分がいいのか顔を顰めるディオラを気にせず得意げな顔で話し続けた。


「最近、上級冒険者も国外へ行くことも多かっただろ?でも鉱石の状態が悪かったりしてこっちとしても、素材が足りなくなるんだよ。使えないとわかったら錬金術とかで飾りにしちまうし。材料も不足する、ならテメェの腕で取るしか無いだろ」


 凄い心がけなのだろうだが……


「西の鉱山って、まさか危険区域の所じゃなかったですよね?立入禁止で魔物の強さと量が、がえげつないって言われてる。あんたまさか………」


 危険区域は国からの許可着なければ入ることは許されない場所だ。

 封鎖してから何百年も経ってると聞いてるが、流石に年月も経てば柵など脆くもなるだろうが……


「さぁあんちゃん!仲間が待ってるだろ?早く行きなさい。」


 なぜか両手斧を担いでにこやかに笑いかける武器屋にディオラはこれ以上問い詰める言葉が出なかった。


「…………おぉぉう?」

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