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メダルのナイト  作者: たて ばてん
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第7話 新たなメダルとゴブリン

いつも読んでいただきありがとうございます。

また今回もグロ表現があります。

ご注意ください。

 近衛兵を名乗る赤い衣装を見に纏った男性に、感謝を述べられた。

 彼は、その上で僕を指名した依頼があると言う。

 流石に不調ではないのにベットで仕事の話は失礼だと思い、ナイトはギルドで話せないかと提案した。


「それでは改めまして。下級冒険者、ホウショウ・ナイト。国王陛下から貴方へ依頼があります」


 ギルドの相談室で近衛兵は一枚のクエスト用紙をテーブルの上へ置いた。

 今、()()()()って聞こえた?

 最初、人死のショックで幻聴でも聞こえたのかと本気で思ったが現実のようで吐き気に襲われた。

 突然の重いプレッシャーには弱い。


「すみませんもう一度、誰からの依頼ですか」


 とナイトは尋ねるも…。


「マーロム大国第十八代目国王フェリックス陛下があなた様を指名しました」


「……………………」


 余りの突拍子のない話にナイトは困惑の表情を浮かべた。


「…大丈夫ですか?ホウショウ・ナイト様。やはりまだ横になっていた方が良かったのでは?」


「いえ!いえ!流石にベットででは失礼ですので!それにもう、決闘の怪我も治っております!」


 ほらほら!と腕を伸ばしたり曲げたりして元気であることを示す。


 僕が気絶した後、丁度ギルド近くまで戻ってきたブラウンさんによって教会へ運ばれたとココアから聞いた。

 教会では、結界内で祈れば癒しのメダルによって大抵の怪我や病気を治して貰える。


 なのでナイトが目覚めた時にはすでに完治していたのだった。


 本当にありがとうブラウンさん!そして心配かけてごめんなさい。まさか一晩ぐっすりと眠っていたとは…。

 そりゃココアも、あんな表情になるよな。


「それなら良かったです。では、話を戻して…貴方は悪魔を討伐し、この国の危機を救ってくださりました」


 悪魔の呪い。


 近衛兵さんの話によると今回の事件は悪魔の呪いで、ありとあらゆる国中の防衛組織が全て王国騎士ということにされてしまう呪いだとのこと。


 なにその中途半端な呪いは!とツッコミたいことが沢山あるが何か裏がありそうだからナイトは、口には出さないように決めた。


 何かと国民は受け入れているし…


「この件は当然、陛下の耳に入りました。そこで!ホウショウ・ナイト様の英雄としての腕を見込んで依頼したいのです。どうか受けていただかませんでしょうか?」


 感謝は素直に嬉しいが、期待されると不安でお腹が痛くなる。それにどうせ拒否権ないのでは?


「…そんなゾンビみたいな顔しないでください。まぁ気持ちは分かりますが」


 現状、英雄など持ち上げられている。しかし当のナイトは経験がほぼないぺーぺーだ。


 そんな僕に何故、国王陛下から指名が入るんだ?

 できれば断りたい。

 しかし、うろ覚えだが確か王政治の国では断る事は犯罪だった気がする。


「まぁ、ご安心を。下級冒険者がよく受けるクエストをやって欲しいだけです。ギルドマスターから聞きました。貴方は見た通り、初心者の中で誰よりも腕っぷしは良くないと」


 事実だが、はっきり言われると心に刺さる。

 それに何で下級冒険者がやるような依頼を確実にやってくれる上級冒険者に頼まないんだ?

 国王の目的が全く、わからない。


「しかし貴方はスキルメダル所有者。スキルメダルは例え戦闘がからきしでも軍隊並みの戦闘力を持つと聞きます。現に貴方は、自分より圧倒的に強いヴァインボアの討伐に成功している…安心してください。クエスト内容は東の峠のゴブリン退治です。流石に安全…って訳ではないですけど…下級冒険者がよくやるクエストの一つです。東の街『アルテバロン』の住人たちが主に被害に遭っているので早急に、とのこと」


 メダル所有者への信頼がありすぎやしないだろうか?

 …下級レベルの依頼を王様が自ら依頼するなんて普通に考えてあり得ない。


 不安が拭いきれないナイトは、クエスト用紙を手に取った。


 ゴブリン。


 クエスト用紙にはシワだらけの顔と等身は小さく見え、鼻が妙に長い特徴があり、頭は禿げて結構、体型は小さい人間寄りの特徴的な魔物が描かれている。


 どうせ、こいつも襲ってくるんだろうなと気が重くなる。


「ホウショウ・ナイト様?さっきからギルドが、というか部屋が揺れてるんですが地震のメダル持ってます?聞いてます?……それに貴方は、冒険者続けるおつもりと聞いてます。ならばゴブリンの討伐クエストは、これから冒険者をやる上で日常茶飯事です。もしかして、あの南の村の少女に守られながら冒険者を続ける気ですか?」


「っ!」


 近衛兵さんの言葉でナイトは気づく。


 そうだった。

 何より僕は冒険者をやらなければいけない理由がある。

 それは、けっして女の背中に守られるような人間になるためではない。

 ココアとの約束を守るため、何より強くなってココアや村の人達を守るために。


「わっかりました。お引き受けします」


「あ…りがとうございます!……収まった」


 ココアの為にも、神のメダル探しの約束をしたのだから。


 近衛兵はそんなナイトに目を細めた。


「ナイト!」


 クエスト受理の手続きする為、部屋から出ると同時にナイトはココアに抱きしめられた。


「ちょっココア!どうしたんだ?」


 ナイトは、まだ結婚してないのに、その触れ合いはダメだと思い、すぐさまココアを引き剥がす。


「ナイト!本当にナイトになっちゃうの?」


 不安そうな顔で頓珍漢な事を口走るココア。


 どゆこと?


「ん?僕は元々ナイトだよ?」


「そうじゃなくて、騎士団にスカウトされたってこと!」


 突拍子のない話にナイトは一瞬思考が固まる。


「あ〜。なんでそうなるの?」


「だってナイト!悪魔倒したじゃない!」


「ククッ」


 慌てふためくココアに混乱するナイトの後ろで、近衛兵さんは笑みをこぼす。


「ココアさん、安心してください。ホウショウ・ナイト様に指名の依頼があったので、打ち合わせをしていただけですよ?」


「ホウショウ?え?…でも今、ディオラさんが……」


「ディオラさん?」


 聞き覚えのある名前にナイトは記憶を探る。

 森を抜けたところで出会った、いたずらっ子のようにニヤつく紫のお兄さん。


 ひょっとしてココアは、あの人に揶揄われたのだろうか。


「…そういえばブラウンさんは?教会に連れて行ってくれたお礼を言いたいんだけど…」


「ブラウンおじさんなら、その人たちの仲間が連れてっちゃったわ」


 ココアは近衛兵を指差す。


 普通に失礼だからココアの指の前にナイトは手を添え、すみませんと謝罪する。


 しかし、連れて行ったのは腑に落ちない。


「え?何で今更?盗賊騒ぎの事情聴取ならもう終わってるんじゃないのですか?」


 思いもよらない出来事に僕の後ろにいる近衛兵へ理由を求めた。

 …が近衛兵は目を伏せた。


「申し訳ございません。私共も詳しくは知らないのです。

ただ、悪魔の呪いから我々を救ってくださった方の身内に無体なことは絶対にしません」


 近衛兵は、そう言ってナイトとココアに敬礼をした。

 さっきまでの緩やかな雰囲気とは打って変わって真剣な表情だった。


 嘘ではないことを祈る。

 それにどの道、彼等ほどの位の高い兵士が動いているなら僕如き何もいえない。

 今はブラウンの無事を祈りクエストに集中することにした。


「そうだ!ホウショウ・ナイト様」


 近衛兵は懐から青い箱を取り出した。


「君はあの悪魔といえど、メダルの決闘をした。これは戦利品です。受け取ってください」


 ナイトは箱を受け取り開けてみると、自分が持っている物と柄違いの銀のメダルが2枚入っていた。


「え!これは!」


「スキルメダルです。メダルの決闘はスキルメダル所有者同士でないと成立しません。あの悪魔は君と同じスキルメダル所有者」


「それで勝った僕はメダルを貰うと…。でも僕なんか……」


「一様、言っておきますが受取拒否は認められません。貴方は承知の上で決闘をしたのですから。勝ったからには受け取ってもらう決まりです」


 ……そうだよな。

 僕はあの騎士を殺した。

 メダルを賭けて…

 受け取らないのは無責任って事なのだろう。


「はい。頂きます」


 ナイトはメダルに手を伸ばした。


 しかし…


「…あの、すみません……メダルの所有ってどうやってなればいいのですか?」


「知らずにメダル所有してたのか……」


 近衛兵は、ため息をついた。


 いや、だって高価そうな箱に入れられた物だと思うと素手で触っていいものか…

 受け取るにも雑に扱いたくない。

 手袋欲しいかな?


「メダルに触れる。それがメダルを所有する条件だと陛下は仰られていました」


 なるほど、それで家の前に落ちてたメダルも拾った事で僕が所有者になってしまったわけか。

 ますます何で僕の家の前に、そんなメダルがあったのか謎が解けない。


 それにしてもナイトは、気絶してる間よく取られなかったなと感心する。


「因みにどうやって箱に入れたのですか?確かスキルメダルは文字通り死ぬまで手放せない代物ですよね?よく盗まれなかったですね」


「素手じゃなくても回収できる方法はいくらでもあります。手袋すれば良いですからね。それに、正式な決闘で報酬の強奪は死刑ですから」


 あっなるほど。

 頭いいな〜。


 納得したナイトは、箱のメダルを手に取った。


「ナイト!」


「ギルドマスター?」


 近衛兵の後ろからギルドマスターが、気まずそうな表情でやってきた。


 どうしたのだろう…


 ギルドマスターは急に頭を下げた。


「昨日はすまなかった。俺はっお前を……」


「え?昨日……」


 ナイトが記憶を辿ってみる。

 おそらく昨日の騎士に引き摺られたのを、止めれなかったことを悔いているみたいだ。


「あっいえ!止めようとしてくれただけで嬉しかったですよ!気にしないでください!ね?」


「お前が、そう言うなら…」


 ギルドマスターは、まだ思うところがあるようで表情が暗かった。


「おう、ガキ!昨日は災難だったな!」


「ホウショウ、英雄デビューおめでとう!」


 突然のガラガラした大声が聞こえ、一階へ降りていくと愉快そうに手を振る見知った人達がいた。


「クルーガーさんと、ディオラさん」


 ナイトが王都周辺の森で出会った2人だ。

 ナイトは急いで階段を降り、彼らの元へ駆け寄った。


「ディオラさん、何言ったか知りませんがココアで遊ばないでください」


「遊んでねーよ。勝手に勘違いしたんだって」


「む〜」


 ディオラさんはそう言うが、後ろでココアが頬を膨らませ顔を顰める。


「ナイトの依頼には、この2人を同行させようと思う。構わないか?」


 ギルドマスターは近衛兵にお伺いをたてている。


「……信頼出来ますか?陛下直属の依頼ですよ?」


「この2人は俺の知人の子達でな。信頼していい」


 僕は3枚のメダルを持っている。

 下手すれば他の人間に襲われて、メダルを取られてしまう可能性があるからだろう。

 警戒はするのは当然だ。

 ……ん?子?


 目を丸くしたナイトの表情を見てディオラは、何を考えてるのかわかったのか笑いながら話した。


「クルーガーは髭剃ってないから老けて見えるが、10代だぜ?ちなみに俺は18歳」


「ええええぇぇぇぇ?」


 無精髭と少し汚れた鎧、僕より2メートルの巨大、歳を感じさせるような渋い声。

 クルーガーの風貌は改めて見ても40代にしかナイトには見えなかった。


 クルーガーさんがほぼ同い年?

 どうみても熟練の冒険者にしか見えない。

 しかもディオラさん一個上だったんだ。

 身長高いから20代に見えた。


 ギルドマスターは和気藹々としてるナイト達を見つめた後、近衛兵に向き合う。


「ナイトは確かに英雄並みの働きをした」


 偶然です。ギルドマスター。


「しかし彼は昨日冒険者になったばかりだ。それに今回は、いきなりの長期クエスト。初心者の野営などのサポートはどのみちほしいだろ。峠まで3日以上かかるからな」


「致し方ないか。本当はこの程度、1人で行って欲しかったが…」


 近衛兵は渋々と承諾した。


「わっ私も行くわ!」


 ココアも便乗しようとしてくれたが………


「ココア……普通にお前は実力不足だから別のやつと組んで、スライム討伐に行け!この間の雨のせいで、かなり繁殖したらしいから修行にはちょうどいいだろ?そこで鍛えろ!お前も条件付きで契約したんだ、約束は守ってもらうぞ」


「ぐっ!そんな!」


 やはりココアも僕と同じく条件飲んで登録許可もらったんだな。


 ギルドマスターがさっきココアは、あまり戦えないって言ってたし。


 当然なんだろうな。


「「よろしく!ホウショウ・ナイト!」」


「よろしくお願いします。ココアこのクエスト終わったら今度こそ村に帰ろう?」


 悔しいと嘆く、ココアの悔しげな叫びを他所にナイト達は早速、準備して出発することにした。


「強くなって帰ってきてやるわー!」







 王都から森を抜け3人を乗せ馬車を走らせる。

 馬車は御者の方を抜いて僕ら3人だけだった。


 他の冒険者は北の魔物討伐にかかりっきりのようだ。

 それにしても前から思ってたが、王都を森で囲んでいるのって何か意味でもあるのだろうか?


 暇になってしまい、くだらないことを考えるナイトにクルーガーが話しかけた。


「えっと名前は、ホウショウでいいのか?」


「ナイトが名前です。出来れば名前で呼んでくださるとありがたいです。みょ……ファミリーネームで呼ばれるの慣れないんです」


 ナイトの言葉にディオラは、名前逆なのかと呟く。


「何でだ?散々お前、職業詐称とか言われて騎士団に酷い目に遭わされたんだろ?なんなら偽名を使えばいいじゃないか。わざわざその名前で行かなくても、あのギルドマスターなら了承してくれると思うぜ?」


 確かに普通はそうするべきで、あのギルドマスターもそれくらい手助けしてくれるだろう。

 大した話ではないが、変えたくない事情がある。


 でも記憶喪失という事になっているナイトは過去の話を無闇に話すべきではないのだ。


 理由は、本当に単なる僕のわがままなんだよな。


「…」


 困り果てているとディオラが「話したくないならいい…それほどこだわるんだ。何か深い理由があるんだろう」そう言って話を終わらせた。


「すまん…。あっナイト!」


 突然クルーガーがナイトに肩をかけ、声を潜める。


「お前、武器は買ったよな?流石にメダルだけじゃ討伐を受け持つ冒険者はリスクが高い。国からの褒賞金で少しはいい武器買えただろ?」


「いやぁ〜ハハ。何とか?」


「クエストのゴブリンは大したことない。だから気にしなくてもいいかもしれないが、俺らが相手にする魔物は基本的に殺しにきてるからな油断するなよ?」


 煮え切らない返事をするナイトに、クルーガーから釘を刺す。

 数時間前、出発前にナイトは武器屋に寄った。

 銃も考えたが素人故、弾を無駄にするだけだとやめた。

 決まらずナイトはこれ以上時間をかけられないと、武器屋に相談したら「お前さん毒使いかい?」と唐突に尋ねられる。

 その時のナイトのリュックには最初のクエストで()()()()()()()毒草達がはみ出ていたのだった。

 さすがに危ないのでもちろん密閉はしてるが…。


 ナイトは受付嬢に捨てろと言われた時には割と落ち込んだ。


 武器屋の人は「毒使いならいい武器あるぞ!このナイフは柄のところから毒液を入れるスペースがあってな!入れて使うと毒液が刃の穴から流れてくるから、これで斬りつけて仕舞えば相手はイチコロよ!毒をどうやって調合するか?おすすめの本を教えてやる──」


 そんな武器屋の押しに何も言えず、いらないの一言が言えなかったナイトは流されるまま、その切れ味が心配になる武器を買ってしまった。


 ………結構高かった。


 そんな情けない話を聞いたディオラは呆れたのかナイトを見る目を細めた。


「……………毒の知識ないのに、買ったのか。しかも、そんなおもちゃみたいな奴、使えるのか?」


「一様、毒はなくても普通にナイフとして使えるみたいです。空洞になってるせいか割と軽いですし」


「ギルド近くにある武器屋のおっさんは、たまに自作した変な武器を押し売りしてくることで有名だぞ。まともに相手にするとそうなる」


 常習犯だったのか。


 お二方は呆れた視線を、落ち込んだナイトに向ける。

 特にクルーガーは口を開けたまま何も喋れなかった。

 気休めとして毒の本も買ったが、ナイトは文字が読めないのでクルーガーに移動中、文字を教えてもらうことになった。





 日も落ちてきた。


 一日目の野営だ。


 周りは割とひらけた場所で、障害物が少なく敵の位置がわかりやすい。

 冒険者は、馬車を守るため見張りと火起こしの準備をする。

 クルーガーは緊張するナイトの肩に手を置いた。


「そもそも、冒険者用馬車自体にある程度、魔物避けがあるから盗賊だけ注意すればいい」


「魔物避けってそれもスキルメダルで作った馬車とかですか?」


「ハハっ!証明書みたいにそんなポンポン作れないよ」


 何も知らない、僕に御者の方は少し笑った後、丁寧に教えてくれた。


「馬車の木材自体が下級の魔物が苦手とする臭いを発してる『ヨケの木』を使ってるんだ。

 まぁ、臭いと言っても基本、私達マーロム人にはわからない物だけどね。

 大昔に発見した人はこれを聖なる木だと言ってたらしいが、ある冒険者が使役していた魔物に『臭い!気持ち悪い!』って言われて、この木の御神体扱いが一変し冒険者用馬車の他に魔物避けの素材として扱われたんだ。

 名前は魔物避けだから『ヨケの木』安直だろ?ハハっ!」


「へー。ヨケの木…覚えておこう。教えてくださり、ありがとうございます」


 弱い僕にとっては貴重な情報だ。

 王都へ戻ったら道具屋さんで探してみよう。


「ナイト!昼の見張りは俺とディオラでやっておく。夜中はお前に任せたい今のうちに寝ておけ」


 クルーガーは、そう言って馬車にナイト毛布を押し込んだ。


「分かりました。では昼は、よろしくお願いします」


 そうしてナイトは馬車の中ひと足先に眠りについた。







 明かりが町より少ないからなのか、星空がとても綺麗だ。

 それに真夜中の見張りは、何故かテンションが上がってしまう。


 僕の家は学校行事の参加禁止だったから、キャンプ自体生まれて初めてなのだ!しかし盗賊が出る以上しっかりと仕事せねば。


 ナイトは周りに注意しながらメダルを取り出す。


 そう言えば決闘でもらったメダルを試してなかった。

 誰も見てないし少し試してみようと思う。


 まず一つ目のメダル、柄は丸い曲線が歪にうねっている。

 線が汚い。

 これって波紋?ってことは水が関係しているのだろうか?

 でも水は僕が持っている。


 そもそも柄が違って似たような力のメダルがあるかもナイトは分からないし、知らない。

 取り敢えずナイトは思い付く限りイメージしてみる。

 なんかうねうねしてるっぽいし縄を操るとか?


 ナイトは、カバンから縄をとりだし念じる。

 しかし何も動かないどころか魔法を使う時の体の発光もなかった。


 おそらく違うのだろう。

 保留だ。


 もう一つは十字型に四つの曲線を引いた物だ。


 これは光のメダルって事だろうか?


 軽いイメージで念じてみると体は、小さく緑色に光る。

 周りには蛍のような小さい灯りが大量に浮かんだ。


 割と綺麗だ。今度クルーガーさん達やココアに見せよう。

 攻撃に使えるイメージは湧かないが、何ができるかの把握は大事だ。


「しかし、下級の魔物ね…スライムもヴァインボアもそれに入るのかな?」


 魔法を解除してメダルをしまう。

 改めてナイトが見回すと遠くに何かいるのが見えた。


「何だ?あれ………」


 よく見ると狼のような獣が見える。


 耳が割と小さくて可愛い。

 ………じゃなくて!


 ナイトは我に変えり、クルーガー達を起す。


 魔物じゃなくても狼は危険な野獣だ!


「クルーガーさん!狼です。どうしましょう?」


「なに!?」


 クルーガーは馬車から身を乗り出し、顔色を悪くする。

「あれは、『リカナンスウルフ』だ!まずい!」


「そんなにですか?はっ!もしかして僕が魔法で光とか出したからそれに寄ってきて…」


「……いや!リカナンスウルフは魔物の群れによって育成された狼の魔物だ。偵察に使われるのがほとんどだが、何よりあいつらは獣だ。」


 蛍の光も不用意な光に含んでいいのかな?


「基本的に火や不自然な光に近づかないし、そもそもこんなひらけた場所に堂々と姿を現さない。しかし、どうあれ近くに魔物の群れがあることは確かだ。」


 くるあはディオラの肩を揺する。


「おい!ディオラ、起きろ!すみません!御者の方、この先は俺たちじゃ不十分です。引き返してください」


 クルーガーはディオラを起こし、御者さんに引き返すようお願いする。


 ナイトはどうしたらいいかわからず突っ立っていると、遠くの方から「グシャリ」と肉と骨が砕かれる音が聞こえた。

 ナイトとクルーガーが音の原因に視線を移すとディオラが血に塗れた槍と頭が割れた、リカナンスウルフを持ってきた。


 多分、槍で頭を割ったんだろう。


 脳みそが頭蓋骨からはみ出し、垂れて地面を赤く染めている。

 暗いから分かりずらいけどグロいことはわかる。

 ブラウンさんといい、相変わらず冒険者の力が凄すぎる。


「まて!クルーガー、こいつは罠だ。最近リカナンスウルフを養殖して、警戒し片道を戻った馬車を襲う強盗が東の街で幾つかあったらしい。引き返すのは、かえって危険だ!ナイトも一様、襲われた時の為に戦闘の準備をしておけ」


「でも!もし本当に魔物の群れだったらどうする。リカナンスウルフを使役してる群れは、下手したら中級の魔物がいることが多い。俺たち程度で討伐できるほど甘くない!引き返してギルドに応援を呼ぶべきだ!第一、盗賊だったならそれこそ俺達で倒せばいいだろ!」


「落ち着けクルーガー、リカナンスウルフを使役してる魔物は、そうそういないはずだ!それに比べて盗賊は報告だと、かなりの数だと聞く。ナイトは俺たちより初心者だ。2人と馬車を庇いながら戦うには分が悪い。鼻を失った魔物は最低、身を隠しながらでも何とかなるだろ」


「リカナンスウルフが本当に1匹だけじゃなかったら、どんなに身を隠そうと今の装備じゃ、リカナンスウルフを欺けねぇ!仲間呼ばれて全滅するだけだ」


 2人は互いに言い合ってしまい、前にも後ろにも動けなくなってしまった。


 経験の少ない下級冒険者であるナイト達には判断がつかない。

 命懸けの選択を迫られている。


 しばらく考えて、ナイトは荷物から買った武器や毛布などを取り出し、馬車から身を乗り出す。


「じゃあ僕が群れがあるか見てきます」


「「──は?」」








 3人から離れたナイトは、木陰や、岩などの障害物に身を隠しながら進んでいた。


 できる事なら、これで彼らに馬車の借りを返したい。

 それに、どのみち待ち伏せされているなら隠れて確認していけばいいのではないだろうか。


 それに馬車がダメなら敵を少しづつ消していけばいいのではとナイトは考えていた。

 灯りは光のメダルで蛍もどきの魔法を使い、ナイトは体の発光がバレないように持ってきた毛布を被りながら、なるべく静かに進んでいく。


「──いた」


 木々に隠れて見ずらいが、クエスト用紙に描かれた顔と同じゴブリンが洞窟の前にいた。


 ゴブリンは辺りを見回してた、もしかしてリカナンスウルフが帰ってくるのを待っているのかも…。

 ナイトは異変に気づいて襲われるのは避けたいと考えて、こいつは先に仕留めといたほうがいいのかと思う。


「今なら1匹だよな?」


 毛布を深く被り、偽蛍の灯りで見張りのゴブリンを惹きつける。

 襲いやすい場所あたりでナイトは、灯りを消して水の魔法を使った。

 急に消えた光に戸惑うゴブリンの顔を水の球体で覆う、パニックになったゴブリンの体を体当たりで押さえつけ、ナイフで喉を切る。

 スライムにやられた経験が生きたと喜ぶ。


 素早くどいて、ゴブリンの全身を水で覆う。

 いつぞやの盗賊のようにゴブリンを水で持ち上げた。


 これならゴブリンの反撃は届かない。


「本当はスナイパーみたいに水カッターで脳天を撃ち抜けたらいいんだけど、距離が遠いし音も出るだろうからな〜」


 なんて考えてると、いつの間にかゴブリンは動かなくなったので水の魔法を解除した。


「人型で躊躇しちゃうか心配だったけど、魔物だと思うと何とも思わないな。それより武器屋のナイフ、ちゃんとナイフとして使えそうだけど柄の部分が壊れそうで怖いな」


 穴の中が俄かに騒がしくなった。


「まずい、見張りを殺すのは早まったかな?群れで来られるのは困る。……仕方ない、やってやるか」


 ゴブリンたちは見張りが戻らないのを不自然に思ってのか5匹ほど巣穴から出てきた。


 手には石で作ったであろう斧や槍、弓まで持っていた。


 厄介な知性あるじゃないか、どこが雑魚だ!


 ナイトはロープで先ほど仕留めたゴブリンの死体を少し木からはみ出るように、くくりつけ少し離れた所で身を隠した。


 木に登れたら全体が見えてイメージしやすいのに…


 ナイトは自身の身体能力の無さを恨んだ。

 なるべく偽蛍の光を使って1匹づつおびき寄せ、先程の個体と同じように水で浮かせて溺死させる。


 何度かやってると流石に気づかれそうになったが、偽蛍の光で視線を動かしたり、石を投げて物音を立て、何とかゴブリンの注意を散らせた。


 偽蛍に近づかないやつは、偽蛍の光で死体の一部を灯りで照らし、気を取られた隙に素早く目を覆いナイフで首を掻っ切る。


 それを繰り返して他の個体も殺していく。


 他の個体の視線に気をつければ効率よく散らせた。


「よし、これで全部かな?そう言えば魔力って後どのくらいだろう?」


 ギルドの証明書を見る。

 メーターは半分くらい動いていた。


 魔力使いすぎたなと反省し残りの魔力で、どうにかなるか不安になりながら巣穴を覗く。


 後ろから「ゲバっ」と声が聞こえた。

 振り返ると僕の頭上に小さい剣を振り下ろしているゴブリンが視界に入った。


「なんで奇襲してんだよ。馬鹿ナイト」


 しかし、頭の横に剣は落ちた。

 今度はナイトが知っている声だった。


「あっディオラさん」


「あっディオラさん、じゃねぇよ。群れを確認したら戻ってこいよ!」


 小声ながらも怒りを含んだ声に僕は縮こまった。


「すっすみません。ありがとうございます」


「…クルーガーは、馬車に残って盗賊に備えてもらってる。…戻るぞと言いたいところだが、ゴブリンは見つけ次第討伐が義務だもんな。俺も手伝うぜナイト」


「え?」


 ナイトは驚いたこのまま連れ戻されると思ってたのに。

「知らないのか?国の決まりで冒険者が、群れのゴブリン発見した時点ですぐ駆除しないと、見逃したとして犯罪になるんだよ。雑魚だから必要ないと思うけど…。あっ今のナイショな?」


 そんな義務があるのも初めて知った。

 ギルドでは説明されなかったが、これも僕が知らない常識か。


「数は声の量や足跡からして、見張りを抜いて10匹もいないだろうな楽勝だろ。そもそも俺も考えなしにリカナンスウルフを殺したから、結果ナイトを1人で戦わせちまったしな」


 ディオラにゴブリンの生態について聞いた。

 ゴブリンは、繁殖力がとんでもないくらい高いらしい。

 一晩で10匹づつ産まれるとか。

 その上奴らは村を盗賊以上に襲ってくる。

 下手に群れを逃すと別の場所で沢山人が死ぬ。

 だから見つけたら出来るだけ駆除要請が出ているとのこと。


 あれ?これだと雑魚だから見逃していい理由なくないか?

 村には盾のメダルがあるはずなのに、襲われて死人が出てる時点で厄介な知性を持っている事くらい予想つくはずだ。


「リカナンスウルフを飼っててこの程度の数だと、大きな群れを追われた『逸れの群れ』ってところか。どのみち大きな群れが何処かにある。終わったらギルドに報告しなきゃいけないな」


 義務でも大きな群れを見つけた時のみギルドに報告が優先されるらしい、その時は個人の強制駆除を免除されるみたいだ。


 「それにしてもナイト、ゴブリンの首の切り口を見るにあのナイフで仕留めたのか?暗殺者みたいなことするな〜。ゴブリン割と雑魚だから楽勝だっただろ?」


「普通に怖かったですよ?何度も見つかりそうになって肝を冷やしましたよ」


「そんなにか?ほんと変な奴だな」


 冒険者は力だけでなく身も心も強いらしい。

 怯えるナイトを横目にケタケタとディオラは笑った。


 それにしても、国からの討伐義務はナイトには納得できた。


 なんせ、逃したらすぐさま被害が出る。

 僕自身が弱いから大袈裟に感じるかもしれない。

 しかし、少なくともあいつらは死んだフリができる程、知能がある。


 それはディオラさんもこの目で見たはずだ。

 いつものディオラは「油断するとすぐ死ぬぞ」くらい言ったはずだ。王都に来たばかりの時と何か似ている。


 ナイトは彼らの認識に違和感を覚える。

 1人で思考を巡らせていると、何故かディアラはすぐさま巣穴に潜って行こうとした。


 ()()()()()()()


 普通に考えて狭い場所で長物を振り回すのが、ダメな事くらい僕でもわかる。


 命掛かってるなら尚更。


「ちょ!ディオラさん?何してんですか!グイグイ行きすぎでは?穴の中で槍を振り回すつもりですか?」


「ん?そのつもりだ、こいつらは雑魚だろ。そんなに警戒する必要あるか?」


 その言葉を聞いた瞬間、ナイトはディオラに待機してもらうようお願いした。


 急なナイトの真顔にディオラは早く終わらせたいから俺がやると言うことができなかった。


 僕も腕試しとしてゴブリン退治を最後までしたい!ナイトそう言った。


 普通に聞いたら命懸けの場所で浅はかでバカな動機。


 普通は怒る所だが、ディアラは二つ返事で承諾した。


 灯は偽蛍の光を少し大きくし、洞窟を照らす。


 毛布を引きづりながら何とかあちらこちら照らすと、ゴブリン3匹が洞窟の影に隠れて待ち構えているのが見えた。


 流石に僕らの存在に気づいてたか。わりと騒いだもんな。


 ナイトはキラキラ光っている液体が入った瓶を取り出して水の魔法を使う。

 500円玉くらいの大きさの水滴を宙へ浮かせ、ゴブリンの鼻の穴に入れる。


 耳の位置等からして鼻の位置は分かったので簡単に毒液を体内へ侵入させることができた。

 しばらくすると目や鼻から流血して死んだのを確認する。


 道中に作った毒だ。


 猛毒を持つ植物を粉状にしたもので、その水に溶けにくい毒の粉を水で包んで大きい鼻の穴から水玉を入れて仕舞えば、簡単にゴブリンの体内に毒を入れることができる。

 トイレ休憩の合間を使って、手元の水が操れるかどうか練習しといてよかったと思う。


 濁った水は濃度が薄ければある程度水を操れるらしい。


 成功した毒が操る対象外だったのは悲しかったな。

 スライムも操れなかったし。


 すると奥にいた他の4匹がこちらに気付いたのか、1匹が弓を構え、残りは石斧や剣を持ってこっちへ向かってくる。


 毒瓶の液体を操り弓使いのゴブリンの眼球を狙う。

 目潰しにはなった。

 咄嗟に身を隠したおかげで矢は外れた。


 石斧を持っていた3匹のゴブリンは、すぐそこまで近づかれナイトの体を捉える。


 ──が、事前に打ち合わせをしたディオラに、槍を投げてもらい、3体全てのゴブリンを壁に串刺しにしてもらった。


 息があるやつは頭に水の塊で包み、溺死してもらう。


「首を切り落とすくらいなら心臓を潰しておけ。手間がかかる」


 槍を回収したディオラはそう言って、槍で死んだゴブリンの胸部をグリグリとえぐり、目が潰れて暴れているゴブリンの頭部を二つに割った。


 ディオラさんは、これで全部みたいだなとナイフでゴブリンの耳を切り落とし始める。


 ふと、ナイトはディオラの体の向こうに不自然な柵が見えた。


 ナイトが警戒しつつ扉を開ける、と耳が異様に長い小さな女の子が蹲っていた。


 時間帯が夜中だからなのか眠っている。


 誘拐されたのかな?


「エルフ?何で東に…」


 不思議そうに呟くディオラ。

 ナイトは、女の子が薄着であることに気づき風邪をひかないように毛布を包ませた。


「ディオラさん、この子は誘拐されたんでしょうか?」


「まぁゴブリンは魔物の中で下品な習性が多いとされる魔物だ。誘拐されたのは間違いないんだろうが…」


「…じゃあギルドに報告ついでに保護してもらいましょう!」


 ナイトは女の子を掲げ、立ちあがろうとした。

 しかし足に変に力を入れてしまい勢いよく正座した状態で女の子ごと後ろに倒れてしまうという間抜けな格好になってしまった。


「……何遊んでんだ?」


「ディオラさんこの子、お願いします」


 ディオラの視線が冷たい。自分の非力さを忘れてた。


 膝と頭が痛い。





 巣穴から抜けた時には朝になっていた。

 思ったより時間が経過していたらしい。


「ナイト!ディオラー!」


 手を振るクルーガー。彼の目にはクマが見えた。

 ずっと起きてたせいか少しふらついている。


 睡眠が足りてなかったんだろう。


「ディオラ?なんか疲れたような顔してるぞ?そんなに大変なら、やはり俺もついてったほうが良かったか?」


「いや、冒険者ならこれくらい当然だ。それよりお前の所に盗賊は来なかったのか?」


「俺もナイトに習って少し身を隠しながら、あっちこっち覗いたが人の気配すらなかったよ。お前の杞憂だったな」


「そうか、悪い」


「気にすんなって!俺らまだ下級冒険者なんだ警戒するのは当然のことだ。それにお前がそんな潮らしいと気味が悪い」


「お前も頭割られたいのか?」


 2人は軽口を言い合えるほど心の余裕ができたようだ。


 良かった。


「クルーガー。ゴブリンの群れ、じゅう?なん匹かいた。おそらく逸れの群れだ。俺は、このまま急いでギルドに戻って報告してくる。大きな群れが何処かに在るのは確実だからな。報告は義務だし…ナイトとクルーガーは、このままクエストを続けてくれ」


 そう言ってナイト達の荷物を下ろすディオラに、ナイトは戸惑う。


「え?でも…」


「流石に国王陛下からのクエストを中断できないだろ?すまないが任せるぞ」


「先へ行ってる!お前も早くこいよ!」


「あぁ!」


 そう言ってディオラは馬車で王都へ戻って行った。

 見送った後クルーガーは、ナイトの背中を優しく叩いた。


「お疲れ様。馬車じゃないから早めに村に行かないと他の魔物に襲われるぞ!」


「…はい」


 緊急とはいえ安全の足を失った。

 念の為と、ナイトは御者から昔壊れた馬車の破片を借りた。

 ある程度、魔物避けになるらしい。


 ありがたい。


 クルーガーと話し合い、少し先の村で馬を借りようと言う話になった。

 ナイトとクルーガーは、荷物を持って出発しようとする。


 しかし、荷物の近くに何故か毛布に包まれた耳長の少女がそこにいた。

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