第6話 死の距離と不自然な騎士
いつも読んでくださりありがとうございます。
少しグロ表現があります。
クエストクリア後の僕は、クエスト外の魔物を倒したことにより臨時報酬をもらっていた。
ナイトとココアは、南の街から来た冒険者用の馬車に乗せてもらい無事ギルドへ帰ることができた。
ナイトは馬車のお金は情けないながらココアに払ってもらった。
もちろん収入が入ったので直ぐに返した。
「それにしても知らなかった。魔物を倒したら一部を持ち帰るだけでいいなんて」
「ギルドには回収屋さんがいるからね」
回収屋。
冒険者が討伐した魔物を文字通り回収してくれるお仕事らしい。便利な仕事だ。
「支給されたナイフで魔物の一部を切り取ると回収屋さんがナイフについた微かな魔力を頼りに誰の物か判別してるみたいなの」
成る程それで、ごちゃごぢゃにならないのか。
魔力ってすごい!そんな指紋みたいに照合できるなんて。
証明書といい、ナイフといいこんな便利なものを作れるなんて、どんなメダルなのだろう?
「そう言えば、ココア。村ってどこにあるの?僕は、王都から帰れなくて冒険者始めたんだけどココアが来てくれたなら冒険者を続けるにしても一度村に戻りたいのだけど」
「じゃあ一度、私と帰りましょ。じいさんも心配してたから、安心させたいし」
「ようようお二人さん。元気がいい事で」
「「あっ───」」
後ろから知っている声が聞こえた。
ギルドマスターがにっこりと笑顔で立っていた。
そしてそのまま僕たちの頭に手を乗せて説教タイムとなった。
「ココアさんよぉ?確かナイトを助けに行くといって飛び出して行ったよな?なのに!ヴァインボアの蔓にとっ捕まってナイトに討伐させて!お前ナイトを仕留めに行ったのか、助けに行ったのかどっちかにしろ!」
それは尤もである。
結果的に僕が助けたし。
「冒険者の手続きも強引に進めやがって、お前もそんなに戦えるわけじゃねぇだろ!後でお前を追いかけたブラウンにちゃんと謝れよ!」
「ぇぅうぐぅぁぁ・・あ゛い」
間の抜けた声をだして俯くココア。
サジ村長に叱られてた時も、こんな声を出してたのだろうか。
ブラウンさんすれ違っちゃったみたいだ。
僕も会えたらお礼を言わなければ。
後で聞いた話だが、ナイトが何日も王都から戻らなかったのでもしかしたら何かあったのかとブラウンとココアが迎えに来たのだ。
そして、ココアはナイトの状況に驚愕し冒険者登録を無理やりしてしまい、王都から走ってきたらしい。
猪突猛進すぎないか?ココア。
因みに冒険者登録をせずに、クエストについて行くと犯罪となってしまうそうだ。
「それからナイト!金無いなら言いなさい!初めに言っただろ!今はツケにしておいていいって。俺はギルドマスターだ馬車代くらい建て替えれたんだぞ!」
「すみません。散々お世話になったのに、これ以上は頼りすぎな気がして」
僕はココアと同じように俯いて反省した。
「・・・あのな、冒険者用の馬車は道中の魔物避けができて、他の冒険者も乗車してるから盗賊とかの対応をしてもらえるんだ。だから俺は乗れと言ってたんだぜ?お前は村に帰る為に、生きる為に金を稼ぐんだろ?そんなんじゃ帰る前にいつか死ぬぞ」
「………ごめんなさい」
他人に迷惑をかけたくないと意地を張ってしまっていた為、心配をさせてしまった事にナイトは大いに反省した。
彼は、ずっとクエスト中の僕やココアの安否を思ってくれてたのだ。
その後、ナイトはギルドマスターに自身の年齢について話をした。
そして事情があって冒険者を続けたい事も。
ギルドマスターからは、互いの勘違いからなので冒険者やるにはルール上、問題ないかもしれないが…
もしやるにしても同じ等級である程度戦闘能力がある冒険者とのパーティーを組む事は必須だとのことだった。
それほどまでに僕は弱いのだから。
因みにココアは、15歳ちょうど成人してると言う事で登録は出来きた。
「パーティーメンバー募集は、掲示板に貼っておけ。ある程度集まるまでクエスト行くのは禁止だ。良いな?」
受付嬢も、それに賛同するように頷いた。
ダンッ!
突然ギルドの正面扉が勢いよく開かれた。
扉には青い鎧の男が立っていた。
昨日、僕を拷問しようとした金髪の騎士だ。
青い鎧を見た途端、ナイトのトラウマが刺激された。
「ひっ!」
「ナイト?」
出会った時、ナイトの名前と職業を勘違いして怒り狂い。
適当に理由をつけて拷問する、色々とヒステリックな人。
せめてココアに目をつけられないようにと、ナイトは自身の体で、できる限り青い鎧の持ち主の目に入らないように隠す。
「てめぇ!今直ぐ表出ろ!」
彼はナイトを見つけ怒鳴ったかと思ったら、この間の騎士の彼らと同じくナイトの髪を掴みギルドから引っ張りだす。
ギルドマスターが止めに入ろうとすると「ゴラバ伯爵家に逆らうのか!」と声を荒げられた途端ギルドマスターは虚空を掴んだ。
貴族社会のことはわからないが、伯爵という爵位は結構偉いというのはわかった。
助けようとしてくれて、とても嬉しいよマスター。
だからそんな、ばつの悪い顔をしないでください。
別にギルドマスターが何も出来なくても責める気はないです。
僕だったら絶対見ないふりしかしないと思うから。
そんな僕たちは外に出るや否や、彼は突然腰に掛けた剣を抜き、透明な石を懐から出す。
その石は青く光り輝いていた。
一体何なんだ?何が始まるんだ?
「この石は『スキルメダル所有者』の判別する石だ。この石が光ったと言うことは貴様は『スキルメダル所有者』と言うこととなる。」
まるで大舞台の演説をしているように石を掲げる騎士さん。
「そして、偽物の騎士!今からスキルメダルをかけて私と決闘してもらおう!」
団長さんから騎士を名乗ってるのではなく、ナイトという名前というのを聞いてないのか?
いつ背後から切られるか内心ハラハラしながらナイトは何とか立ち上がる。
彼の持っている石のことが、本当だとしたら大問題だ。
下手すればココアのメダルのこともバレる可能性がある。
何とかナイトはこの状況を収めようと口を動かす。
「何故決闘をしなければならないのですか?私は、騎士団から罪人ではないと認められ自由になった身です。人違いなのではないですか?後、珍しいでしょうが僕は騎士ではなくナイトという名前です」
その言葉に彼は目を潜め、フンッと鼻を鳴らしニヤついた笑顔を浮かべた。
なんで間違えたのにそんな堂々としてるんだよ。
少しイラつく。
「これは一体、何の騒ぎですか?」
野次馬たちの中から赤い鎧の騎士が出てきた。
さっきからこの国、騎士多いな。
普通の兵士とか軍人とかいないのだろうか?いや騎士も軍人だが……………。この国の常備兵とか、町の自警団とか。
騎士しかいないのだろうか?門番さえゴツい鎧だった。
本当に騎士しかいないなら、国を守る組織が一種類で国として成り立つのだろうか
そんな状況の中、的外れな事を考えていると。
自己中騎士さんが、手を大きく口を広げた。
「おや、その赤い鎧は見習い騎士様。戦争でもないのに不吉な赤い鎧など貧相のかけらもない。なんの用かは存じませんが、止めないでくださいませ。決闘はいかなる理由があっても中断させてはならない決まりなのはわかっているでしょ?実力のない下っ端不在の騎士な外交官直属の騎士であっても」
「貴様っ!」
外交………って国にとっても結構、偉い人じゃ?
悔しそうに唇を噛む赤い鎧の方。
「そうだ!折角ですから我々の決闘の審判を頼みます。それくらいできるでしょ?」
逆らえないのか、赤い鎧の人は僕らの間に移動する。
この2人に一旦どんな事情があるか知らないが、赤い鎧は不吉扱いらしい。
でも下っ端で、外交官の部下?偉い人の部下だけど通常の王国騎士には逆らえない。
だめだ、序列がよくわからないが周りの人々は、赤い鎧の人と目を合わせようともしない。
納得してないの僕だけみたいだ。
それに中断も何も僕は承諾すらしていないが、この雰囲気は戦わなければいけないのか?
「先に言っておくが、お前に拒否権はない。決闘の法律では貴族からの決闘を平民は断ることは違法だ」
何その貴族贔屓な法律は!
承諾したら殺されて、断ったら犯罪で捕まるって事?
理不尽にも程がある!
「ナイト──」
突然の不条理な事を言われ、ナイトがショックを受けていると、ココアがペンダントを握りしめ不安の表情でこちらを窺う。
そうだ、ここで僕がやられたらメダルを取られるだけじゃない。
下手すれば、あの透明な石のせいでココアのメダルのこともバラされるかも知れない。
そんな事になったらココアは、無事で済まされない。何よりもココアは僕が、大事にしなくてはいけない人なんだから。
これだけの理由があるなら、この決闘は勝たなくてはいけない。
「わかりました。決闘を受けます」
メダルをそっと握り締め覚悟を決めたが、目の前の騎士の言葉に泣けた声がポロリと落ちる。
「よし。この決闘のルールは負けたら勝った方にメダルを渡すそれがルールだ。戦う方法は剣で相手を殺す事。以上だ」
「え?メダルの魔法で勝負はしないのですか?」
「決闘なら剣で勝負が、当たり前だろ?」
そう言って自己中騎士さんは、剣を一本僕に投げ自分はいつでも来いと構えた。
一瞬ぼけっとしたが、急いで地面に刺さった剣を抜き、正面を見る。
思えばこの世界で初めての人間同士の殺し合い。
しかし、僕の運動神経じゃあ多分勝てない。
でも戦わなきゃ駄目だ!勝たないと死ぬだけだ。ならば、もう腹を括るしかない!
────僕は彼を殺す!
「初め!」
赤い鎧の人が開始の合図をするが、素人である僕はどう動けばいいかわからず立ち尽くす。
「貴様からこないならこちらから行こう!」
相手は剣を横に薙ぎ払う。
急な突進に驚き、体勢を低くした事で奇跡的に避けることができた。
一度体勢を立て直す為、後ろ足で彼から距離を取る。
恐怖で剣を持つ手が汗にまみれる。
震えは深呼吸をすることで落ち着かせた。
嘘です心臓が今にもはち切れそうです。呼吸が苦しいです。
「フハハッ!なんだその情けない動きは!見習い騎士でももう少しマシな動きをするぞ!」
彼はすぐさま僕との距離を詰め、足や腕を少しずつ切り裂いてくる。
立ち続けにくる激痛に膝をついてしまった。
「あ゛ッ……!」
「ほらほらどうしたよ?偽物騎士!このままだと死ぬぞ!」
「偽物って。だから職業じゃなくて名前!」
命懸けだと言うのに自己中騎士さんは自分が勝つことしか頭にないのか。それとも人の命を奪う事に抵抗がないのか、ニヤついている相手は楽しんでるように見える。
「あ〜あ。あのチビですらお前より度胸あったぞ」
「チビ?」
突然、僕に近づき周りに聞こえないように呟く、それはまるで思い出話を語るかのように口を開いた。
余裕で羨ましいですよ!こんちくしょう!
「お前じゃない女のガキだ、お前と同じくメダルを持っていてな、使い方を知らないみたいでな。大人しく渡せばよかったのにな〜可哀想に」
その話を聞いてナイトはクルーガーの言葉を思い出す。
ある騎士は子供が前を通ったからといって斬りつけようとしたと。
犯人は、この男か。
殺人者の話にするな司法!
──しかし、ディア団長が止めたとも聞いた。
それほどまでにこの国の金持ちは、権力を有してるわけか。
おそらく彼は、僕を動揺させようとしているかもしれない。
女子供であろうが殺せるぞと脅しをかけているのかもしれない。うん、まぁ怖いけど、どのみち殺すつもりなのは火を見るより明らか。
「急になんですか?」
ナイトは悟られまいと、なるべく呼吸を整えて冷静な態度で答える。
心臓が痛い。緊張で目の前が、白くぼんやりしてきた。
「お前その後のこと知りたいか?」
「え?」
「そのガキ通り魔に刺されて死んじまったらしいのよ?何でだと思う?」
「…なんで?」
クルーガーから団長が止めに入ったと聞いた。
メダル持ち、彼がそれを知って女の子に近づいたとしたら僕と同じようにその透明な石を掲げ公衆の面前で────。
嫌な考えが頭をよぎる。
「勘違いするなよ?俺は最初以外、一切何もしてないんだからな?まぁメダル所有者ってのは命を狙われるだろ?あのガキの両親も何やら生きたまま家ごと燃やされたらしい。可哀想だよな〜。」
何故ここまで、この男は深みのある言い方をするのだろうか?
「どの道、弱いお前は生きていけないな。もう痛いのは嫌だろ?今降参すれば楽に死ねるよ?どっかの少女のように命を狙われることはないのだから」
そう言う彼は、驚くほど優しく僕に笑いかけた。
世の中、他人が誰かを見下し虐げること次第、大して珍しくない。平和な日本であろうと、そう言う人間はいた。
それは何処にでもある事で、その子供もこの世界にとって、よくある不幸なはずなのだ・・・。
ここは異世界で、限りなく昔の外国のような場所だ。
平和ボケとも言われている安全日本の住人である僕と、殺伐とした世界で死生観が違うのは仕方ない。……仕方ない。
他人である僕が知らない子供の死を聞かされるなんて、テレビのニュースでよく見る事と大差ないはず。
違うのはせいぜい目の前に犯人らしきモノが目の前にいる程度。
そこまで考え、ナイトは手元にある剣を見つめ考える。
こいつをこのまま生かしておいたら、ココアも──
「そういえばお前に石を近づけた時、微かに別の光があったな。お前の近くにいた女・・・あいつか?」
────あっ殺しとかないと。
「返事が無いなら後であの女にぎぃ゛ぁ゛───!」
目の前にいる『ソレ』の言葉続きが、発せられることはなかった。
ナイトはソレが喋ってる間に、剣を彼の足に向けて投げた。
槍と違って投げにくいが、距離は短かったので上手く刺さった。
痛みで顔を顰めるソレは刺さった剣を足から抜こうと持っていた剣を置いた。
ナイトはソレの近くに置かれていた剣を拾い上げ、左手でソレの髪を力の限り持ち上げる。
ソレは足の剣を放置して僕の腕に必死で爪を立てるも、僕は気にせず右手でソレの頭の繋ぎの部分を切り落とした。
不吉だと言われていた赤が、ナイトの体を地面を染め上げる。
突然耳鳴りが響き、周りの音は聞こえなくなった。
「勝者!ホウショウ・ナイト!」
赤い鎧の人の声と同時にココアが、ナイトに抱きついてきた。
決闘って勝者のコールあったんだ。
初めて知った。
周りにいる人々は称賛の声を上げる。
ナイトの右手の首には、不器用に切られた血管が首の断面からビロッと伸びている。
さっきまで僕のことを嘲笑っていた眼球や口は、力をなくし、端から体液が漏れている。
僕の体は、血を浴びて酷く汚れている。
今僕は、どんな顔をしているのだろう。
赤い鎧の人はこちらに寄って何か言ってた気がしたが、茫然とするナイトの耳には一切入ってこなかった。
その後のことはほとんど覚えていない。
ただ言えることは僕は人殺しをしてしまった事と、殺人を犯したのに僕の心は驚くほど冷静だと言うことがわかった。
元の世界だったら間違いなく罪の意識で発狂する筈なのに何故、今の僕は心の底から、ほっとしているのだろう?
────意識を失う直前、歓声の声に紛れて誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
───目が覚めると心配した表情だこちらを見つめるココアがいた。
ココアによると僕は、あの男を殺した後、急に倒れたらしい。
何も感じてないと思ったが、ショックではあったようで少し安心した。
「僕は、この手で人を殺した」
そっと口に出してみる。しかし不自然なほど僕は、悲しみの感情が一切沸かない。
恐ろしいとも思えなかった。
ココアはそんなナイトを不思議そうに見た。
「決闘は元々、殺し合いよ?気にすることないわ!」
王都付近の森で盗賊が死んだ時は、ショックで吐き気すら覚えた。
はずなのに、何故こんなにも他人の死を受け入れているのだろうか?
「でも凄いわね。ナイト、騎士だったとはいえあの悪魔に勝ったのよ!」
ココアからの話によると、王都でのナイトは悪魔を倒した勇敢な戦士として祭り上げられてるらしい。
何がどうしてそうなったの?
「悪魔?」
そんなにあの男は、嫌われていってことなのだろうか?
そう言えば女の子の死に関わってるぞと仄めかしたが、他にもたくさんの人を殺してきた人物なのだろうか?
「失礼!」
部屋にあの赤い鎧を着ていた男が、突然入ってきた。
今は、何故か別の装いだ。
ごつい鎧ではなく、民族衣装を彷彿とさせる帽子と、レイピアを携えていた。
近くまで来た彼は、跪き頭を下げた。
「この度、我らを救ってくださりありがとうございます」
「え?なんのことです?」
我らを?重いのがけない言葉に理解が追いつかない。
「我らは王直属の近衛部隊。多くの一般兵が王国騎士団に変えられてしまいました。常備兵士でしかない我々は、お陰で国王にすら近づくことすらできない状況でした」
「兵士が幾度とって……ってえ?」
それって肝心な王の護衛ができないってこと?
国王様が暗殺され放題ってこと?
戦力的バランスが崩壊して国倒し放題じゃないか!
派閥争いとかの揉め事、全部騎士が対応?
どんな状態だそれ?誰か止めなかっただろうか?
「恐らくあの悪魔の力によって、人々の記憶も変えられており、誰もこの異常に気付けませんでした。しかし、貴方様が、あの悪魔を討ち取った事により。我らの部隊組織が、本来の形に戻りつつあります。お陰で我らは本来の使命を、王を守ることができます。本当に感謝申し上げます」
そう言って彼は、再び深く頭を下げた。
滅茶苦茶感謝されてるのは伝わる。
きっと僕は、たまたまとは言えいい事をしたのだろう。
そんな立派な立場の人に頭を下げられるのは───心が死にます。逆にすみません、なんか怖いです。