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メダルのナイト  作者: たて ばてん
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第5話 再開と目的

 宮廷内の一室には眼鏡をかけた男と、赤い鎧を纏った男達。

 そして床には何人かの騎士団だった者たちの、首のない死体と血が散乱していた。


「失礼します!これは!アルバナディオス外交官どの?この惨状は一体?」


 部屋の扉からディア・グレイヴス団長が顔を出す。


「あぁ、グレイヴス団長かこの者は王命を無視した罪で処刑した。1人勝手に容疑者を始末しようとした奴は逃げたが、別の奴に追わせている。はぁ、仕事が無能どものせいで増えていく」


 アルバナディオスは、机に突っ伏し赤い鎧の男達に死体を片付けるよう指示する。


「申し訳ございません!」


「謝る必要はない()()()()()()だ。今回の魔物討伐は別の隊に任せる。お前はそいつらといけ要件はそれだけだ」


「は!」


 グレイヴス団長は敬礼をし部屋を出ていく。

 アルバナディオスは、書類を手に取りまたため息をつく。


「世界の崩壊がまた近づいてしまった。エルフ共がまたうるさくなる。雨は止んだが、仕事の豪雨はいつ晴れるのだろう」


 彼の手元には直径1センチのメダルが握られていた。







「ぅぁあぁぁ……痛い…」


 1人ギルドの受付前に、涙目の情けない男がいた。

 冒険者ギルドの登録用紙には血判が必要だった。

 その為、僕は自らの肉体に刃物を入れた。


 要するに指を切りました、痛かったです。

 偉大な朱肉様の存在が恋しいよ。


「男だろ?大袈裟だな。昨日の勢いはどうした。血判押すのに時間かけすぎだろ」


 呆れた声でギルドマスターに言われる。


 まぁ命懸けの仕事をする手前、こんなんでへこたれてたら生きてけないのはわかっていますとも。


 そんな情けない男を見て気を遣ってくれたのか受付嬢が声をかける。


「それくらいなら、すぐ治りますよ?気になるなら教会に寄ってみてはいかがですか?教会には『癒しのメダル』が設置されていて、祈りを捧げれば怪我や病気を治してくれます。設置型のスキルメダルを使用してますので教会の敷地内なら魔法の効力はありますので、ぜひ寄ってみてください」


 なんと!村の盾以外にそんな使い方をしてるのか、後で行ってみよ。

 村みたいに、あの呪文でも唱えるのかな?


 受付嬢さんの言葉を聞き、村にいた時から疑問だったことを聞く為に手を挙げた。


「あの、すみません。思ったのですが何故スキルメダルと言うんですか?魔法が使えるなら『()()のメダル』とかが、正しいと思ったんですが?何か由来が?」


 受付嬢さんは一瞬、不意を突かれたような表情をし、直ぐにうーんと考えるよう顔を少し顰めながら答えてくれた。


「余り資料が残ってませんが、確か『人類の()()の粋を詰め込んで作られた人為的に奇跡を起こすことの出来るメダル』と言う説が有力とされています」


「資料が残ってないって、そんなに前からあるんですか?スキルメダルってのは」


「はい。暗黒時代に『エンド様』が大戦で勝利する為にこの国、マーロム大国の初代国王へ献上したのが始まりだそうです。しかし、これ以上は四代目国王が暗黒時代の資料を焼却処分してしまったので、私達でも詳しくは分かりかねます」


 暗黒時代という不穏なキーワードに一瞬、背筋が凍る。


「そうなんですね。ありがとうございます」


 慣れてない僕にとっては結構ややこしいけど・・・。

 にしてもここって「マーロム大国」って名前だったんだ。

 大国が正式な国の名前、変わってんなー。

 四代目国王………焼却処分ってそんなに酷い歴史だったんだろうか?


「では、改めて冒険者ギルドの説明をさせていただきます。

 ここ冒険者ギルドは人探しや、貴重な資源の採取から魔物討伐、捕獲等、命懸けのお仕事を専門に請け負う仕事場です。

 当ギルドに登録していただいた冒険者の等級は、下級、中級、上級と3つに基本、分かれています。

 中級、上級は、下級に比べてクエストの場所自体が呪いの地だったり、途中経路に強い魔物の群れや、大きな盗賊団のアジト近くだったりとリスクがとんでもなく高いのです。なので低い等級の冒険者は、例え上級の冒険者と一緒でもクエストを受けることもついて行くことも禁止なのです。何故かと言うと実力不足による死亡を減らす為です」


 覚えておいてください、と念を押す受付嬢。

 争い事が苦手なナイトは例え等級が上がったとしても受けたいと思えない。

 盗賊の時の脅し文句など流行ってたアニメや漫画の真似事でしか無いのだ。


 本番の戦場で勝てるはずない。


 だから絶対、僕は無謀な真似はしないと心に決めたのだ。


「はい!色々ご説明ありがとうございます」


「ナイト君は初心者ですから、下級となります」


「はい」


 受付嬢のお姉さんにギルド登録の証として『大きな丸の中に梟が、羽を広げている』絵が入った、カードほどの木のプレートをもらった。


「では、証明書を持ちながら『出て来い』と念じてみてください」


 言われた通りに出て来い出て来いと念じてみると証明書の絵が光り、目の前に透明なパソコンのウィンドウみたいなのが現れた。


「SF?え?なにこれ!どういう仕組みなんですか?あっバツマークまである」


 書いてある内容は、名前だけ日本語だった。

 一番左下には星マークが一つ表示されている。


 これが下級って意味なのだろうか?

 それ以外は読めない。


「えす?あるメダル持ちの方に作っていただいた魔法のカードですよ?どんなメダルかは秘密となっております。ご了承ください。それには登録時に記入したご自分の名前、所属ギルド、等級、現在の魔力量が表示されています。簡単な証明書として使えます。門番の騎士に見せれば王都の門を出入りできます」


 魔力………そう言えば騎士団の団長さんも僕が魔力切れで倒れたって言ってたな。

 体力とは別の力なのだろうか?


 視線を動かすと、ウィンドウの右側にメーターみたいなのがあった。


 それにしても魔力ってこんな車のガソリンみたいな表示なんだ。


 メモリと短い指針だけの簡単な作りだった。

 ちなみにナイトの残りの魔力は半分だった。


 一目盛りがどのくらいなのか全然分からないから、クエストの道中で確認しておこうかな?


「それに、自分の魔力の量を知ることができれば、魔物との戦闘に魔力切れで倒れる前に気づけます。なので細かく確認してください。ナイト君も無理しないで逃げてください」


 なるほど目に見えるなら作戦は立てやすい。

 立てれるかは別として。

 ギルドマスターも戦うクエストはさせないって言ってたし、そこまで張り詰めなくていいかな?


「はい。それで今日はクエストってのをやるんですよね?」


「はい、今回のナイト君にしてもらう依頼は『イビの草原』にある薬草採取です」


 受付嬢から依頼書と地図を渡された。

 どうやらここ王都から東の方に馬車で2時間の所に生えているそうで、依頼書の絵には菜の花のような綺麗な花が描かれている。

 報酬は銀貨2枚だそうだ。


 価値は分からないが、受付さんによると安宿2泊とパンとスープ2日分は持つらしい。


 僕としては十分過ぎる。


「さて行くか」


 ギルドの出入り口に向かおうとすると、ギルドマスダーがこっちに耳を貸せと手招きをした。

 何だろとナイトが、耳を近づけると


「お前の話が嘘か本当かなんてどうでもいいが、メダル所有者である事は言いふらすなよ?マジで殺されるからな?」


 あー、やっぱり信じて貰えてなかったんだ。

 そりゃそうだ。

 状況的に考えて苦し紛れの嘘にしか聞こえなかったのだろう。




 さて、有料馬車に乗るお金もないので歩きで行きます。

 門番には冒険者であること自体滅茶苦茶疑われた。

 何でも、僕の顔つきとか、髪の色がおかしいと弄られたが、カードを出すと信じて貰えたのでよしとしよう。


「前にいた冒険者は顔パスだったから、ついそのまま通ろうとしてしまった」


 少し歩いているとみるみる景色が変わる。

 王都の森だ。


 王都を囲むようにして森がある。確かモカ君によるとここには普通の猪、鹿がいるとか。


 現状、戦える武器なんて護身用の支給してもらった刃渡5センチのナイフしかないので、なるべくナイトは姿勢を低くして歩いた。


 意外と何もなく森を抜けたところに、炭酸のように泡を含むプルプルしたゼリーのような何かがいた。


「お!スライムじゃねぇか」


 観察していたら後ろから低めのガラガラした声が聞こえた。

 ナイトが振り返ると無精髭を生やし、剣を持った人と、槍を担いでいる人がいた。


 一体いつから後ろに?不審者かな?いやこの風貌、冒険者かな?


「どちら様ですか?」


「前!みろ前!」


 剣を持った人が焦った顔で前を指さす。

 ナイトの視界が突然、薄い水色に包まれた。


 冷たく、視界は炭酸の中にカメラを入れたような光景に森の緑の背景がとても綺麗だ。

 ん?炭酸?水……


「おい、クルーガー。こいつ微動だにしないが死んだ?」


「何言ってんだ、襲われてんだよ。おい、ガキ早く引き剥が……祈ってやがる」


「え?まさかもう死を覚悟したのか?」


「早まるんじゃねぇ!たかがスライムに被されただけだろ!まだ消化されてねぇんだから!お前の冒険ここで終わっていいのか!?」


 心配してくれる男達の声は届かず、このゼリーもどきをメダルで操れないかと考えていた。

 唐突にゼリーみたいな物は重力に沿って落ちてった。


「ダメだった、何だったんだ?」


「こっちのセリフだわ!」


 後ろにはさっきの冒険者。

 剣の人は何故か息切れしていた。

 彼の手にはゼリーの一部がくっついたナイフが転がっていた。


 どうやら彼が、僕からゼリーを剥がしてくれたみたいだった。


「お前スライムに襲われてたんだぞ?」


 槍の人が指を刺しながらいった。


「スライム?このゼリーみたいな奴ですか?」


「しらねぇのか、そうだよ。そいつは獲物に飛びついて対象を体内の消化液で溶かすんだ」


「え?僕食べられかけてたんだ。怖!」


「今気づいたのかよ」


「それであなた方が助けてくださったんですね。ありがとうございます」


 ナイトはぺこりとお辞儀をする。


「俺はクルーガー・バンス、下級冒険者だ。こっちの槍を背負ってる奴は」


「同じく下級冒険者。ディオラ・ハーネストだ」


「僕は鳳翔(ほうしょう)騎士(ないと)です」


「ナイト?職業?」


「名前です」


 2人は顔を顰めてクルーガーが口を開く。


「ガキ。お前新人か?」


「はい。今回が初めてのクエストです」


「内容は何だ?」


「イビの草原での薬草採取です」


「結構遠いじゃねぇか。馬車は?」


「あいにく無一文なので、貴方達は?」


「森付近に魔物が居ないかの調査だ。ここら辺りで見張り、何なら討伐しても構わないといったクエストだ給料はそこそこいいぜ」


「討伐………」


 討伐か、僕じゃ受けれそうにないな。


「お前ガキだろ?何で冒険者なんてやってんだよ」


 ディオラは、不思議そうに聞いた。


 確かに子供が、命懸けの仕事なんて普通じゃあ考えられないんだろうな。


「村に帰るための資金とか欲しくて」


「はぁ?帰るのに資金?」


 顔を顰めるディオラさん。


「なぁガキ、お前いくつだ?」


 剣を持った人は心配そうな目で聞いてきた。


「17です」


「「17!!」」


「はい?」


 意外そうな顔をする。


 そんなに若い認識なのだろうか17は。


「いやいやいや。お前どうみても14くらいだと思ってたんだけど」


「すまん、てっきりガキかと思ってて」


 世間では、まだ子供だと思うが。

 こう言えばここは、異世界で昔の外国みたいな所だ。

 成人の年齢の認識も若いのだろう。


 じゃあこの国では僕は、子供の対象ではないかもしれない。

 今度から子供かと言われたら、訂正するようにしなきゃ。

 でもそうか、村の人達がやけに子供に言い聞かせるように接してたのは、僕の見た目が子供に見えたからか。

 思えばモカ君やココアにしか年齢教えてなかったな。

 ギルドマスターもそんな感じだったのかな?


 でも僕の非力な肉体を見てたから、どのみち態度を変えることはなかっただろ、だってあの人すごい優しいし。


「その年で冒険者は珍しくないな。悪かった。ちなみに何で帰るための資金が必要なんだ?何ならこのクエストが終わった後なら、俺が送ってやろうか?金は後払いきくぞ?」


「その代わり払えなかったら逮捕だけどな」


「脅すなディオラ!」


 ディオラさんの髪、紫なんだ。

 紫なんて前にテレビに出てたお婆さんが、染めるものと認識しかなかったな。


 まさか地毛?


 無言のナイトにディオラが怪しんだ。


「何だよ話せないことなのか?」


「いえ、それが───」




「「───騎士団か」」


 簡単に訳を話すと、二人から同情の目を向けられた。


「そんなに有名なんですか?」


「有名どころか、一昨日なんか周りが地面に頭を下げて道を作らせたり、子供が近くを通っただけで剣を振り回して処刑してやるなんていってやがった」


 大名行列かよ。

 何してるだよ公務員(?)


「もちろん、そんな権限ないから騎士団長が止めに来たんだが………」


 良かったと思った途端、クルーガーさんが口篭った。


「とにかく、この先の歩きはあんまり良くない。人攫いもいると聞く。戻って他のクエストを受けてはどうだ?」


「ご心配ありがとうございます。でも・・」


「うわぁぁぁぁぁぁあああ─────!!」


 森の中から男の悲鳴が響く。


「何だ!」


「魔物か?」


 2人は一目散に森に走って行った。







 森の中には壺のマークがある馬車と、ぽっちゃりした中世貴族のような恰好のちょび髭男が、腰を抜かしている。


 怯えている男を取り囲むように小汚い男達が、のけぞった形の刃物を構えている。


 盗賊だ。


「おっさん、金と荷物をよこしな」


「ヒィィ!しかし、この荷物はこれからの商売の為に必要な物。無闇に渡すわけには…」


「あぁ?命が惜しくねぇのかよ」


 盗賊は、そのまま商人に向けて剣を振り下そうとするが、飛んできた槍によって近くの木へと刺さる。


 双方の視線が、飛んでいった剣に固定された。


 その隙にクルーガーは、彼等の後ろにいる盗賊の1人の背中を切つけた。


 突然の奇襲に盗賊達は、一瞬固まった。


 最初に切った盗賊の死体を盾にして振り上げられた剣を肉壁で防ぎ、死体に剣を刺し、そのまま男ごと押し倒す。

 そして、さらに剣を深く刺すと、下敷きになった男は動かなくなる。


 クルーガーは、死体に足をかけて剣を引き抜き、後ろから盗賊の1人が銃を構えると、ディオラがそいつの頭を掴み商人の近くにいた奴に向かって投げつける。


 ぶつかった盗賊は倒れ込んでしまい上に乗っかってる男は気絶していた為、もう1人の男はなかなか起き上がれずにいた。


 ディオラは投げた槍を回収し、先程の盗賊の胸元に槍先を沈める。

 そして素早く抜き後ろから不意打ちを狙った盗賊達の首を薙ぎ払う。


 手下を一掃したディオラは、生き残っている盗賊のリーダーへと刃を向けた。


「いつの間に入ってきやがった」


 ディオラは怪訝そうな表情をする。


「いや、俺達が来る前にここに居たみたいだ。来る途中野営地があった」


 クルーガーの、指さす先に焚き火の跡があった。


「たっ助かった」


 安心したのか商人は地面にへたり込んだ。


 クルーガーは、傷や盗まれた物がないか馬車を一通り見る。

 その間にディオラは、リーダーを縛った。


「馬車は奇跡的に無事だな、このまま出発できそうだ」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「礼ならいい、仕事だからな」


「では、冒険者の方ですね。お礼に出来ることであれば、何か差し上げます。何かご希望はありますか?」


 冒険者という言葉に察したようで、手を合わせ伺う。


「そうだな、じゃあ一つ頼まれてくれないか?おい、ナイト」


 クルーガーは背後に隠れるよう指示した、青い顔をした少年を呼ぶ。


「ナイト?騎士?」


「いえ、名前です。うぷっ……ごめんなさい」


 人の死に触れたのは初めてだった。






「───何とも珍しい名前。ご両親の熱い愛が込められていますね」

「あっありがとうございます」


 あれから、クルーガーさん達のおかげで途中まで馬車に乗せてもらえることになった。

 ここまでずっと僕は、人の手を借りっぱなしであることに悩み始めている。


 村では魔法を使って役に立とうとした矢先にこれだし。

 かと言ってギルドマスターに言われた下手にメダル持ちであることを吹聴すると殺されるときている。


 道中魔物がいるなら少しづつでもいい。

 筋トレして鍛えて、武器を買おう。

 それでクルーガーさん達みたいに強くなろう。

 時には彼等のように誰かを、殺さなきゃいけなくなるだろうけど、生きるためだ。


「それで坊ちゃんは、将来騎士になるおつもりで?」


「いえ、僕はそんな大層な人間では」


「まぁ今の騎士にはならないほうがいいでしょうね。それにしても、災難ですね。記憶喪失で故郷もお世話になった村の場所も、名前もわからない。しかし、運が良かった。スターリースカイはこの国随一大きいギルド、きっと故郷の情報が手に入ることでしょうね」


 故郷の情報。

 せめて村の人達に恩を返してから帰りたいな。


「そうそう、村といえば坊ちゃんも聞いといた方がいいですよ?噂ではこの近くに『罪人の村』があるそうで、私も噂で聞いた程度ですが、大昔にマーロムを滅ぼそうとした人々が当時の王国騎士団によって捉えられ、そのまま魔物の多い土地へと追いやられた。彼等はその森で村を作っていると聞きました」


 なんか変だな。

 そんな大戦の中、しかも国家反逆罪で捕まって追いやられるだけってなんか罪が軽くないだろうか?

 普通は、全員処刑が普通だろう。


「魔物の多い土地って、そんなに危険なんですか?」


「それはもちろん!上級冒険者でも手こずる魔物も多くいるとの事です。しかし四代目国王になってから何故か『罪人の村』の名前は無くなってしまったそうですが、そんな大罪を犯したとされる犯罪者の村の存在が無くなったわけじゃありませんから。住人に出会ってしまえば、こちらも何されるか分かりません。坊ちゃんも冒険者をするなら、頭に入れておいた方がいいですよ?」


「ご忠告ありがとうございます」


 『罪人の村』か、四代目国王って暗黒時代の資料を燃やした人だよな?

 『罪人の村』の名前を消させるなんて、何がしたいんだろうか?

 それ以前に何で反逆されてほんのり優しいのだろうか?

 いや、魔物の森に追い遣ってるから優しくはないのか?


「さぁ、ここら辺でいいでしょう」


 どうやら話をしている間に着いたようだ。

 遠くを見ると、草の絨毯と青空がみえた。


「わぁ!草原。初めて見た!」


「では、私はこれで。本当に大丈夫ですか?」


「はい!ありがとうございます。おかげでクエストが出来そうです」


「帰る時は、お気をつけてくださいね」


 そのまま馬車の商人さんは隣町へ向かった。


 さて、薬草探しだ!クエスト用紙には菜の花みたいな形と色合いだ。

 おひたし……じゃなくて薬草薬草!


「そういえば、まだご飯食べてなかった気がするが。そんなお金ない。そのお金を稼ぐために頑張るぞ!」


 おー!と自分に言い聞かせ、自然へ足を踏み入れた。



 そこまで難しくないとされるだけあって、すぐにリュックの中は薬草で埋め尽くされた。


「ついでにキノコとかとってたら結構、重くなってしまった。売れたらいいが、ダメなら今夜の夕食にしよう」


 道は覚えていたので歩いていると、林の中から何か音が聞こえた。


 ナイトの前に飛び出てきたのは、見覚えのある植物の蔓、毛深い巨大。


「ヴァインボア!?」


 この世界に来て初めて、村で出会った魔物。


「何でここに、ヴァインボアが?もしかして村が近いのか?」


「うわぁぁぁあああ─────────!!」


 ヴァインボアの上空から、高い聞き覚えのある声がした。


「え?ココア!?」


 ココアがヴァインボアの蔓に絡まれていた。


「ナイト!良かった無事だったのね?心配したんだから!」


 感動の再開といきたかったのだが、今はそんな場合ではない。


「いや、ココア?何でそんなことに?」


「あ!助けてナイト!王都に行ったのはいいけどナイトが冒険者になったって聞いて追いかけてきたら襲われちゃって」


 ココアは、まるでさっきまで襲われてたのを忘れてたかの様な顔をしてナイトへ救いを求めた。


「誰か村の人についてきてもらえなかったの?」


「勝手に来た!」


 魔物が出る道を!?

 あれ?ココアってこんなに馬鹿だっけ?


 そう言えば初めて会った時、こんな魔物が出る森に1人で勝手に薬草採取してたな。


 じゃあ、ありえるか。

 サジ村長のお土産は胃薬が良いかな?


「わかった。待ってて、今助ける」


 正直、手持ちのナイフじゃ絶対勝てない。


 ナイトは、ヴァインボアから後ろ足で距離を取りメダルを手に持つ。

 魔物の後ろに人がいないことを横目で確認。

 姿勢を低くして、なるべく上に向かってイメージする。


 ナイトの体から青い光が、発せられたと共に真っ直ぐに水の直線が弾かれた。

 倒れたヴァインボアの額には、穴が開きその巨体は地面に崩れ落ちる。


「うわっ!」


 力の失った蔓から解放され落ちるココアをキャッチしようと手を伸ばすが、ココアは体を捻らせ華麗に着地した。


 あの村の人間は、運動神経良すぎだろう。


「すごいすごい!ナイト!もう魔法を使いこなしたんだ!」


 うさぎの様に、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶココア。


「使いこなしたって程じゃないんだけど。この魔法、結構危ないし」


「──ねぇナイト。私と手を組まない?」


「手を組む?」


 ココアは、さっきまでのテンションから急に真面目な顔をした。こんな顔初めて見る。


「ナイトは『神のメダル』って聞いたことない?」


「『神のメダル』?『スキルメダル』と何が違うんだ?」


「暗黒時代に存在したと言われるメダル。スキルメダルともう一つあったんだって。それが・・」


 神のメダル。


「そのメダルの、魔法は天変地異と同等の力を持っているとされているの」


 なるほど、だから神のメダル。あれ?確か受付嬢の話だと───


「しかもね、ナイト聞いて。神のメダルが凄いのはそれだけじゃないの、何でも16枚集めるとメダルがどんな願いも叶えることができるみたいなの」


「え?どんな願いも」


 物語、都市伝説程度でよく語られるような胡散臭い話。


 何でほぼ史料が燃やされた暗黒時代の事をココアが知ってんだ?もしかして、誰かに唆されてる可能性もある。


「何でココアが、そんなこと知ってるんだ?」


「え?」


「いや、スキルメダルでも珍しい扱いなのに、神のメダルなんて、ギルドも話してなかったから。ココア、もしかして誰かに騙されてないか?」


 ココアは俯いてしまった。


 何が気に障るような事を言ってしまったのだろうか?

 しかし、願いを叶えてくれるなんて魔法があるこの世界でも、そんな話が現実的だとは思えない。


 だってそんな凄い話を噂でも誰1人、口にしているのを聞かなかったから。


「……実は見たことあるの」


「え?」


「16枚の大きなメダルを掲げて願いを叶える瞬間を見たことあるの」


 なに!そんな本当に?!

 16枚ってまた微妙な数字だ。


 意外な言葉にナイトは一瞬驚いだが、すぐに思考を戻す。

 こんなんで、信じてたら詐欺に引っかかり放題だ。


「でも、本当に願いが叶うなんてどうしてわかったんだ?」


「・・・ごめんなさい言えないの。でも嘘じゃないの!信じて。冒険者になればある程度、世界中の国へ基本入れるわ。そうすればきっと神のメダルを、見つけることができるかもしれない。お願いナイト!無茶なお願いだとわかってる。でもナイトにしか頼めないの!」


 手を合わせ懇願するココアに気押されるも、頭の端では引っかかりを覚える。


 しかし大切な彼女の頼み、何か事情があるかもしれない。僕はココアの役に立ちたい。


 だから一旦は………


「うん。いいよ、ココアの頼みは断れないから一緒に探そう。それに、それがもし本当なら僕にも叶えたい願いがあるんだ、付き合ってくれるかな?」


 叶えたい願いは、元の世界への帰還。もしくはその方法だ。

 記憶喪失の設定な為、それを口に出すことはできない。

 しかし、ナイトがそう言うとココアは俯きペンダントを握りしめて地面を濡らす。


 ココアが泣いていた。


「うんっナイト。あっ…ありが……とぅ…」


 正直僕は、その話を完全に信じてはいない。

 でも、もしココアが誰かに騙されているなら、脅しではなく本気でそいつの頭を目の前にいるヴァインボアと同じにしてやろうと心に決めた。


「あっヴァインボア、どうしよう」


 間抜けな声と共に、現実にある別の問題に頭を抱える僕を見たココアは、少し笑った。


 その顔には、ナイトの母と同じ不安の感情が感じ取れたが、知らないフリをした。

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