第4話 理不尽は唐突にやってくる
森の中は彷徨うと同じところをぐるぐる回ってると感じるらしい、地元の山と違って此処は道も作られてなく、同じ形をした植物があるだけだ。
これは迷うな〜。
今回、ナイトと狩に出るグループメンバーは弓矢を扱う若くて細身のお兄さんモーガン。
剣を持ったブラウンと、もう一人の男性ベレット。
男達は狩に出る時3、4人グループで行動して狩りをするらしい。
大人数にならないように、尚且つバラけた方が獲物が取れる確率が上がるみたいだ。
仮に1つか、2つグループ獲物0でも別のグループが確保できればいいようにしているのだとか。
本来、村の狩りの途中はぐれないように、なるべく近い距離でい他方がいいのだが…………。
「モカ君、お願いだからもっと近くに寄ってくれませんか?さっきの魔法は絶対に使わないの約束しますから」
「………わかった。その代わりお前の魔法について教えろ」
渋々と言った感じのモカへナイトは申し訳なさそうに答えた。
「うん。……って言ってもそんなに詳しいわけじゃないけど、僕の魔法は水です多分。一様、水でどこまで出来るかはまだ確かめてない部分もあるから、朝できた水を持ち上げるような魔法で協力させてもらいます」
そう言って、前回見せた水でできた不格好の水の球体を見せる。
「……地味。いや、それでどうやって狩に持ち込むんだよ」
モカだけじゃなく他3人もなんとも言えない顔をする。
「…まぁ、あんちゃんは別に無理して前に出なくていいからね?」
「メダル持ちは居るだけで盗賊避けにも成る」
「狩は危険だから慣れないうちは俺たちを見てるといい」
彼らはナイトの頭を撫でまわし慰めの言葉を投げる。
正直役に立ちたい僕としては獲物1匹だけでも仕留めたい一心なのだが。
「しっ!お前ら静かにしろ。獲物がお出ましのようだ」
モーガンの合図と共に、すぐさま4人は木陰へ身を隠す。
ナイトは身を隠した後、疑問が浮かびモカに尋ねた。
「そう言えばブラウンさん、モカ君、獲物って鹿とかなんですか?やたらと大人数だけど猪とか?」
「あぁ。えっと……見たほうが早いよ?」
ナイトはブラウンが指差す方へ顔を上げると、猪が見えた。
いや、猪の顔をしては居るが体のところどころから植物のツルがうねうねとくごめいている、寄生虫みたいで気持ち悪い。
それに加えて体長4、5メートルの大きさだった。
「『ヴァインボア』かサイズはまあまあ、ってところだな。モカとナイトくんは、ここにいなさい。こいつを仕留める所をよく見ておくんだぞ」
「はい?」「うん」
ブラウンは手を振り、他の2人に合図を送る。
「まさか、狩るって魔物?」
「当たり前だろ」
「てっきり普通の猪や鹿かと」
「昔は家畜と似た獣達がいたみたいだけど、大戦後に魔物化する生物が増えていったから。今じゃあ野生で見れるのは王都に近い森にしかいないよ」
唖然とするナイトに苦笑いするブラウンは、剣を抜き構える。
「え!ブラウンさんは、剣だけで戦うんですか?スキルメダル持ってないんですか?」
「そうメダルを持ってる奴が、ポンポンいてたまるか。いいから見てな。父ちゃん達の狩りを」
後ろからモーガンが、ヴァインボアに向かって矢を放つ。
ヴァインボアが振り返った瞬間、体の蔓がモーガンに向かって伸びてきた。
しかし、横からベレットが剣を投げ飛ばしたことにより全て切り落とされる。
剣って投げるものだっけ?
ブラウンは、驚きの余り身体中の蔓を集め構えをとったヴァインボアの後ろから頭に向けて飛んだ。
「すご!あんなに高く飛べるんだ!」
「頭出すな見つかるぞ!」
ヴァインボアの体を踏み台にして、さらに高く飛び重力を使ってか、剣を体ごと回転させながら太いヴァインボアの頭を切り落とした。
「うそっ!」
あの厚い首を切り落とすに、どれだけの力が必要だと!
「すごいだろ!父ちゃんは昔冒険者をやってたんだ!」
「冒険者って、そんな強戦士が集まる職業なんですか?」
あんな化け物。相手にできるのはマタギくらいだと思ってたが、マタギとは違う狩の仕方、体育2の僕がそうそう真似できる事ものではない。
「おぉい!もういいぞ、二人とも!」
「父ちゃんすげー!流石冒険者!」
ブラウンに駆け寄るモカ、他二人は持ち帰るために解体をしようとナイフを取り出す。
「元なモカ、ちゃんとみてたか?ナイト君、どうだった?君にならこれくらいすぐ倒せるようになると思うが………」
「ブラウンさん。お気持ちは嬉しいのですが、やっぱり僕は魔法を頑張りマス」
「声が変だよ?目が死んでないかい?大丈夫?怖かった?別に無理して魔法を使わなくていいんだよ?」
平和の国の出身には心臓が持たない。
命の危機には慣れていないのだ。
ナイトは、クマが来た時に死んだふりをする前に気絶して喰われるタイプなのだ。
死んだふりしても、どのみち喰われるが。
僕が、あんなでかい猪と対決。僕が餌になるイメージしか浮かない。
どうしよう。永久封印と決めてたウォーターカッターの使用を、早くも検討した方が良さそうだ。もちろん安全確認必須で。
「ブラウン!避けろ!」
「え?」
解体作業をしていたモーガンの声と同時に発砲音が聞こえた。
発砲音!?
ブラウンがモカを抱きしめてだと共に腹部から肉がえぐれ、一瞬にして血が吹き出しさ。ブラウンは、撃たれた体で力を振り絞ってその場にいるナイトとモカの襟を掴み、巨体であるヴァインボアを壁にして隠れた。
「ブッ…ブラウンさん?…………何が?」
「盗賊だ」
森の奥から数人の足音。
下っ端らしき人達が、道を譲っているところを見ると。
どうやら髭を生やした大男が、リーダーのようだ。
ブラウンさんの傷は、思ったより深いようで血が止まらない。
医療はわからないが、このまま長居したら出血死する。
「おいおい。何やってんだよ下手くそ!ちゃんと頭を狙えって言っただろ!ガキに弾がいってんじゃねぇか!」
大男は発砲した部下の頭を殴る。
どうやら盗賊達は銃を持ってるが、慣れてないらしい。
狙いがおそまつだ。
「でも、男1人は負傷させたか。おい!聞いてるか?お前村の人間だろ?命を助けて欲しかったら、村へ案内しろ!」
「は?何言ってんだ?」
普通に考えて村も僕たちもタダで済む保証も何もない。
こんな信用ならない言葉で、何で案内してもらえると思ってるんだ?
大体その命を、脅かしてんのそっちだろ。
「頭湧いてんのか?」ボソッ
バンッ!
「てめぇ!今何つった!」
「ヒッ!」
ヤバっ聞こえてたらしい。
当たらないからって適当に撃つなよ。短気だな。
こっちは反射的に涙腺が崩壊しそうなんだから、怒鳴らんでくれ。
「ナイト君!君にお願いするのは酷だと思っているが、魔法を使ってくれないか?普通の盗賊なら見せるだけで、逃げていくはずだから」
「そうだった。任せてください!」
狩の時はブラウンさんに任せっきりだったが、いい加減僕も男を見せねば。ココアに恥じない男になるんだ!
──ヴァインボアの影からナイトは、両手を上げて1人姿を見せる。
「お前が、村を案内してくれるのか?」
「すみませんが、お前達のいうことは聞けない。今すぐ帰ってもらえませんか?今なら見逃してあげます」
緊張のあまり声が裏返ったり、日本語が不自然になったが気にしてられない。
これから脅す相手に弱気では、舐められる。余裕で強気の態度で行かないとダメだ。
しかし相手からは、当然のように虚勢を張ってることがバレバレだった。
盗賊達は馬鹿にするように大笑いした。
「強気だなガキ。でもなぁ、俺らお前達がヴァインボアを討伐してるのを見てたんだよ。お前が、震えて何もできなかったのも含めてな。俺は優しいから、さっきのは聞かなかったことにしてやる。さっきお前が、俺の悪口言ったことは許さねぇけどな」
リーダーの男は、部下に命じて銃を構えさせる。
「お詫びとして他の奴が案内してくれるんなら、足打つくらいですませてやる」
見られてたし気づかれてた事実に呼吸が一瞬できなくなった。
しかし、食い下がるわけには行かない。
おちつけ───
ナイトはメダルの感触を確かめ、水のイメージを強く浮かべる。
「なんだ?」
朝より体が、軽くなるのを感じた。
青い光が身体中を包み、水の塊がふわふわとあたり一面に浮かび始めた。
派手さを重視したイメージなため、現状攻撃の気はない。
「僕はメダル持ちです。分かりますか?命は助けてあげますので、どうぞお帰りください」
「メダル持ちだと?」「持つだけで魔法が使えると言う?」「こんなガキが?」
手下達は狼狽えている。
やった!
水に発泡をするも浮いてるだけの水なので少し穴が空いたと思ったら、すぐ元に戻るから意味がない。
しかし攻撃の無意味さは精神的ダメージも大きかったようで、手下は怯えて銃を下ろした。
「帰ってくれますよね?」
ナイトは勝ったと思った。
しかし突然、ナイトは緊張で口角が上がりそうになったが何とか耐える。
「ヒッ!こっこいつ笑ってやがる!」
耐えきれてなかったらしい。
部下の1人が後ずさる。
「ふざけやがって!」
リーダーの男が、急に突進してきた。
しまった!ふざけていると思い逆上させていまった。
その場から動こうとするも、すでに目の前には、三日月のような形をした刃物を振り上げたリーダーの男の姿があった。
────しかし剣は、振り下ろさせる前に地面に力無く落ちた。
リーダーは大きい水の塊に閉じ込められ、息ができなくてもがいている。
「──ガッカッ!」
「親分!」
本当に親分って言うんだと謎の感激に一瞬浸るも、今敵を追い払うのが先決と思考を戻した。
ナイトはさっき落ちた剣を拾い、刃をおっさんの首に当てた。
もう来ないように脅した方がいいかと思い、なるべく低い声を絞り出す。
「おい!聞こえるかおっさん。次、村に近づくようなら、お前達を一人一人、確実に闇討ちするからな」
「ヒッ!」
「誰1人として返さない。溺死って結構苦しいそうだ。少しずつ息ができなくなって、もがいても誰も気づいてもらえず、ゆっくりと……ゆっくりと殺してやるからな」
「───ッ!」
昔見たヤクザの拷問シーンがあるドラマのセリフだが、場面が違うから違和感ないだろうか?
不安になっていると。
「あれ?」
リーダーの男が、白目を剥き抵抗をやめた。っと言うか急に力が抜けている。
しまった殺してしまったのかと思い、恐怖で魔法を解いた。
───途端、手下がリーダーを回収し逃げた。
あのリーダーさん人望は、あるようだ。
犯罪者とはいえ、やり過ぎたかなと反省する。
報復のためにまた来ないでね?
まぁ正直怖かった。
「ナイト君?」
隣からブラウンさんの声が、聞こえた。
血を流しすぎたのか、顔色が悪い。
「ブラウンさん!大丈夫ですか?止血は?」
「あっあぁ大丈夫だ、2人とモカは他のグループ呼びに行ったよ」
「よかった。じゃあ無闇に動かない方がいいかもしれませんね」
思ったよりブラウンは大丈夫そうでナイトは、ホッと胸を撫で下ろした。
「ナイト君」
「はい?」
「───君、元暗殺者だったりする?水であんなこと出来たんだね。結構すごい脅しをしてたね」
「いやいやいや。僕さっきのヴァインボアでも気絶しそうだったのに人を殺すなんて出来ませんって。殆どハッタリですよ。それに、また来られたら困りますから二度と来させないように、もうちょっと脅したかったですけどね、セリフあれしか思いつかなくて。あははは───」
安心したのか乾いた笑いしか出なかったが、途端地面が近づいてきた。
ブラウンさんが焦る顔は見えたが、すぐに視界が暗くなってしま──────
「──ナイト君!?しっかり!いっクソ!」
ブラウンは、激痛に耐えながら体をナイトの所まで引きずる。
………ダメだ。ナイト君を揺すっても、うんともすんとも言わない。
さっき見てないところで実は怪我を負わされてたとかか?
「おい、無事か」
慌てるブラウンをよそに頭上から知らない声がかかる。
「誰だ!うッ!」
馬に乗っているのは青い鎧を着ている額に傷のある若い男、この国を象徴する3つの剣のマークが目に入り王国騎士だとわかった。
「村人か?先ほど盗賊を捕らえた。生きててよかった」
騎士は馬から降り、ポーチから瓶を取りだす。
「飲め。回復薬だ」
「──ッ!貴重な物じゃないですか!飲めません!とても手持ちじゃお支払いできません!」
「いい。飲め!」
そのまま騎士は怪我人の顎を掴み、薬を流し込む。
ブラウンは急だった為、咽せる。
「───ッゲホッ!」
「よろしい」
「あんた強引だな!」
薬の効果で、傷は跡形もなく消えた。
騎士はブラウンの声を無視し、丸くて白い宝石を取り出すと、ブラウンの頭にかざす。
暫くすると騎士は、顔を顰める。
「──違う」
そういい次はナイト君に向かった。
「何してるんだ?」
「お前、2年前に引退したA級冒険者のブラウンだな」
「騎士様に覚えてもらえてるなんて光栄だね」
「盗賊が村を襲っている頻度が高かったから近くを見回ってたらスキルメダルの反応があった」
そう言って先程の宝石を俺に見せた。
その宝石は、青く光輝いていた。
「───ぅうん」
目が覚めたら石レンガと、天井が見えた。
村に戻ってきたのかと思ったが、窓ひとつないので知らない部屋だと気づく。
換気しずらい部屋だ。
動こうとすると、ジャラリと金属音も聞こえ、視線だけ動かすと手足が拘束されていた。
「何で?」
「騎士を自称してるそうだな?」
すぐ隣から知らない人の声が聞こえた。
「はい?」
目の前には、金髪で青色の鎧を着ている男がいた。
見た目は傷一つない整った顔で、よく女子が憧れるイケメン騎士というやつか?
その男は、ナイトの首に派手で綺麗な剣を当てている。
男は何故か、僕のことを物凄い汚いものを見るような目で見ている。
見たところ村人ではないが、何で僕はこんな状況に?
「記憶喪失であろうと法律は甘くない。職業の偽りは、大罪だぞ」
「…………何のことですか?」
完全に覚えのない罪に、首を傾げるしか無かった。
しかし、そんな態度に気が触れたのか顔を顰めまた怒鳴り散らす。
「惚けるな!俺は王国騎士団団員のラヴィルス・ゴラバ様だ!騎士団員の名前は全て覚えている。そして、ナイトなんていう騎士は存在しない!」
………何故か逆に冷静になってきた。
それにしても、すごい自分の記憶に自信満々な人だ。
仮に他の国の騎士だったら、どうすんだろこの人。
何でこんなにキレてんの?怖い怖い。
とにかく話をしようとナイトは口を開ける。
「あのっ!」ダンッ──!
なぜか金髪の男は、突然近くの椅子をすごい力で踏み砕いた。
なぜ!?苦手な虫でもいたの?
「貴様に発言権はない!俺の質問に答えろ!」
どっちだよ。
支離滅裂な命令をしないでくれ。
ナイトは心の中で突っ込んだ。
「まず、お前はスキルメダル所有者だな!」
喋るなって言われたし、首を縦に振ろうとすると。
ガッシャン!
今度は、コップを地面に叩きつけた。
「動くんじゃねぇ!切り落とされたいか!」
だからどうしろと、何がしたいんだこの人!人格破綻者?
首に当てた剣を、ナイトの顔の真横スレスレに振り下ろしベットに穴が開く。
破壊神かこの人!誰か!助けて!
「黙秘か、卑怯者め!」
何に対しての卑怯なんだよ!黙秘の指示出したのあんただろ!感情が忙しいなこの人。
さっきの盗賊が可愛く見えてくる……あっ!
ナイトは一番重要なことを思い出した。
「すみません!ブラウンさんは?」
「あぁ?そんなことよりテメェの聴取が先なんだよ!」
拷問の間違いなのでは?
尋問って刃物、必須なんですか?
誰かー!だずげで──!ごろざれる───!
でも叫んだら殺されそうだから、心の中で助けを求めるしかない。
意味ないけど。
「そんなに話したくねぇなら、体に聞くしかないようだな?勝手に喋った罰も追加しないとな」
男はニヤニヤと笑みを浮かべながら、剣をナイトの首ではなく指に当てた。
罰って何!このサイコパス!タバコ切らしてイライラしているじいちゃんみたいだ。
「自己中すぎる!」
「あぁ!?」
まずい。声に出してしまった!
目を血走らせ、引き攣った笑顔をこちらに向けて刃先を僕の指に向けた。
あーもうだめだ。
「お望み通りにまずは指をぎぉぐぁ!」
ガンッ!と凄い音が鳴るとともに自分勝手な男は崩れ落ちた。
「勝手なことをするな!ラヴィルス!」
男と同じ鎧の人だ。
少し年配の方だが、この人と同じ人なのかと身構えたが、助けてくれたみたいなのでお礼を言った。
「助かりました。ありがとうございます」
「すまない、鎖もすぐ外そう。ブラウンも心配していた」
年配の騎士は、すぐに錠を外してくれた。
自己中な人は、そのまま気絶している。
ブラウンさんの知り合いかな?
普通の人なのかな?
「そうだ、ブラウンさん!彼はどうなったのですか?あっ近くに盗賊がっ!」
「落ち着いて。彼は無事だ。ちなみに村を襲おうとしていた盗賊は、こちらで捕まえた。魔物に襲われたのか結構怯えてたようだけど」
「よかった」
何故、盗賊が怯えてるかは分からないが、ひとまず捕まったようでほっとした。
「あの、えっと」
「あぁ、失礼。王国騎士団団長、ディア・グレイヴス。君の名前は?」
「鳳翔騎士です。騎しぃ……。そういえば、この方に職業を偽ってると言われたのですが、どういうことですか?」
「君の名前が騎士というのを聞いて勘違いしたそうだ。本当にすまない!」
ナイト読みでも勘違いするのか。つくづく僕の名前は、不便だ。
いや、親からもらった名前にそんなこと思っちゃだめだよね。反省しないと。
「あ〜正確には、文字だけ騎士と書くんです。読み方はナイトと読むんです。これって職業詐称になるんですかね?」
「騎士に属してると言わない限り基本ない。法律上問題ない…って言っても、職業名を名前にするなんて前例ないからな村の連中も大して気にしなかったんじゃないか?今回のことに関しては単に、この馬鹿が先走っただけだ」
本当にこのやばい人の暴走だったんだ。
王国騎士って公務員みたいなものだよな多分。
クビにならないのだろうか?
「ナイト君か、そういえばブラウンもそう呼んでたな」
「すみません。それでここはどこでしょう?」
「ここは君の村から離れた所にある、王都のメダル所有者用の牢屋だ」
「牢屋!?何故そんなところに。まさかメダルの所有は犯罪とかですか?それとも魔法使うのが禁止とか?盗賊のリーダーを殺したからとかですか?」
「落ち着いて!落ち着いて!そんなんじゃないよ。あと、盗賊は憔悴してるが、全員一様は生きてはいるよ。捕まえたって言ったろ?」
そうだった。
早とちりをした発言にナイトは、恥ずかしさに赤面させる。
「メダルを持つのも使うのも罪にはならないよ。そんなんだったら冒険者の仕事がもっと厳しくなってしまう。そんなことはないから安心なさい。」
冒険者が強戦士が集まる以外何も知らないが、何か戦う仕事で合ってるだろうか?
「──ナイト君?なんか地震が起きてるんだけど、この揺れもしかして君が原因かな?怖いから落ち着いてくれ!」
ハッと正気に戻り、自分が恐怖に震えていたことに気づく。前を見ると団長さんは、机にしがみつきこちらを見ていた。
ナイトはベットの上で正座して頭を下げた。
「すみません、すみません」
まさか僕の震えが部屋を揺らすとは。
貧乏ゆすり恐るべし。そういえば昔、じいちゃんに『机揺らすな馬鹿者!貧乏ゆすりなどみっともない!』って怒鳴られたっけ。
人前は、気をつけないと。
「すごい謝るね君。そんなベットで小さくならなくていいんだよ?一様仕事だから事情聴取は、するけど大丈夫?」
「はい」
正座を知らないみたいなのが不思議そうな顔をされた。
ちょっと待っててくれと、自己中の人、ラブルスさん(?)の襟首を掴み牢屋の外へと引きずっていった。
できればもう会いたくない。
────しばらくして再び団長さんがきて、取り調べをすることになった。
聴取の内容は、スキルメダル所有者であること、何故村の住人ではないのにあそこにいたのか等、記憶喪失であることを前提に喋れることは包み隠さず話した。特に特別なことは聞かれなかった。
日本という国も、アメリカという国も知らないと言われた。
団長の彼によると僕は盗賊を追い払った後、魔力切れにより倒れたらしい、幸いメダルのレベル(?)が低かったため、倒れるだけで済んだとのこと。
レベル?よくわからない。
ちなみにあのメダル所有者専用の牢屋は、拘束と同時に魔力を外に出せない様にするためのものだそうだ。
そうする事で休んでる時の魔力が、溜まりやすくなるらしい。
便利なものだな。
メダルは逆に取り上げるのは、犯罪なので取られなかった。
団長さんは、明日には村まで送ってくれるそうだ。
しかし牢屋から出すために手続きがかかるとのことで、その為に今晩は牢屋で過ごしてくれと言われた。
お仕事だから仕方ないし、僕の想像してた牢屋より断然綺麗なので大丈夫だと告げた。
しかし、困ったのはこの後だった。
「出ていけ!」
聴取が終わったと部屋(牢屋)で過ごしていたら、また別の騎士の人たちが部屋(牢屋)にぞろぞろと入ってきて「出ていけ」とおっしゃった。
騎士団は、緊急の仕事が入った。
これから、此処から北の国境付近で魔物の群が近付いているらしく、その討伐に行かなくてはいかないらしい。
最低でも1ヶ月は戻ってこれないらしく、だからと言って人手をこれ以上、割けるわけにはいかない。
罪人でもない今、用もないのにいるだけで邪魔なナイトは、このまま釈放されて終わりとのことを説明される。
そして何故か乱暴に髪を掴まれ、ズルズルと廊下や、階段を引き摺り回された挙句、真夜中の門の前まで投げ捨てられた。
騎士団って親切か乱暴な人しかいないんだろうか。
額も膝も擦りむいて血が滲む。
すごく痛いんだけど。
「二度と来るんじゃねぇぞ!」
釈放された前科持ちの犯罪者相手でも、ここまでしないだろ!
あっ街並みが海外みたいで綺麗な並びだ。
──じゃなくて!現実逃避してる場合でないと我に帰る。
「待ってください!村までどのくらいなのでしょうか?せめて方角だけでも教えていただけますか?」
「俺が知るか!とっとと失せろ!」
そう言って、僕の話に聞く耳を一切持たず門も扉も閉め切られてしまった。
自己中の人といい、勝手に連れてきておいて、何でこの対応になるんだ!
「だから帰らせてよ。どうしろと……僕、そんなに悪いことしたのだろうか?」
村に帰る算段もつかない、場所も方角もわからない。
体の傷を見ると懐かしく感じた。
元の世界では、ガキ大将に虐められた時祖父に家から追い出された。
喧嘩に勝つまで帰ってくるなと雨の中、泥まみれでも構わず投げ飛ばされた。
それに比べたら乱暴に扱われても余り怒りは湧いてこなかった。
じいちゃんは鳳翔家の男が貧弱なのは恥だからと理由はあったが、初対面の王国騎士団さん達に此処まで嫌われる理由が全然分からない。
……あぁ理不尽だ。
そんな絶望したナイトの心の様に、大雨が降り始めた。
雨水はナイトの体を、濡らし体温を奪っていく。
雷も鳴り鳴り響き、周りの人達は一瞬、ナイトを見るも目を逸らし通り過ぎていた。
「……………帰りたい」
口に出すも無意味だ。
何故なら此処は異世界だ。
今日寝るところも食べるものもない。
右も左もわからない場所、ココアもモカ君もいない。
知らない場所でひとりぼっち。
此処にいても邪魔になるだけだからと、モヤついた気持ちを無視して、ナイトは取り敢えず雨宿りできそうな場所を探すため立ち上がった。
ナイトは何をすればいいかも、どこへ行けばわからずひたすら前へ足を動かす。
どうしよう、異世界だからきっと硬貨も違うだろう。だからと言って周りの人に話しかけようとすると何故か話を聞かずに逃げられてしまう。
村の人達優しかったなー。
こんな怪しい人間を受け入れてくれて、住む場所も食べ物も恵んでくれた。
恩返ししたかったけど、このままじゃ先に低体温症で死ぬかもしれない。
身体中の寒気が止まらず、ネガティブなことしか考えられなくなりピチャリピチャリと歩いていると、何かにぶつかった。
ぼーっとしてしまったせいで、前を見ていなかった。
ぶつかった物体が、人である事に気づき我に帰ったナイトは、相手に頭を下げた。
「すみません!すみません!」
「あぁいや。こっちもごめんな。大丈夫かい?ずぶ濡れじゃないか!傘でも取られたのか?」
顔を上げると2メートル以上もある、ムキムキな男性が目に入った。
怖い以前に、この人は無視しなかった。
そんなことが嬉しくて急に力が抜けた。
「ヒックッ──!」
心配そうな目で僕の顔を覗く大男の方に、驚いだと同時に、もう涙腺は限界だった。
「びぇぇぇぇええええ─────!!」
「泣いた!え?何があったんだい?傘取られたのがそんなに辛かったのか?取り敢えず、ギルドにおいで?」
突然泣き出したナイトに驚いた大男さんは、ナイトの手を掴んで何処かへ引っ張っていく。
正直今の僕は、警戒する気力も無くなっていた。
日本だったら誘拐事件まっしぐらだろう。
連れてこられた建物に入れてもらったが、構造的にバー?いや、2階建ての酒場のようだった。
看板は見かけたが、知らない文字なので読めなかった。
「マスター。ずいぶん早いお帰りで……すね………」
カウンターから女性の方が出てきた。
びしょ濡れのナイトとマスターと呼ばれた大男を交互に見て、女性はすぐに奥に引っ込んだ。
っと思ったら別の女性も出てきて、さっきの女性は大男の耳を引っ張りながら2階へ行ってしまった。
もう1人の方は、ナイトにタオルを渡す。
取り敢えず少し待っててねと言われ、ホットミルクを出してくれた。
断ろうとしたら「ツケでいいわよ」と言ってくれた。
絶対、稼いで払うと決めた僕は、目の前の女性にお願いした。
「何、誘拐してんのよ!」
個室で受付嬢に詰め寄られているこの男は、デイヴィス・クランケ。
この国一番の冒険者ギルド『スターリースカイ』のギルドマスターである。
そんなギルドマスターが、青い顔をした子供を無理矢理引っ張っていたら不審に思うのは当然だった。
「誤解だ!偶然、歩いていたら雨に濡れてて取り敢えず連れてきたんだ。傘でも盗まれたのかと聞いたんだが、まさか泣かれるとは思わなかった」
「じゃあ、あなたの顔が怖かったんじゃないの?」
「酷くないか?」
「まぁともかく。訳ありとはいえ次来る時は、正面から来るんじゃないわよ!他の冒険者が偶然、出っ腹ってなかったら通報されてた可能性だってあったんだからね?いい歳したおっさん、いやギルドマスターならもっとしっかり考えなさい!側から見たら誘拐の現行犯よ!」
「すまない。配慮が足らなかった」
お説教をひと段落したちょうどのタイミングて、ドアがノックされた。
「はい。入って大丈夫よ?」
ドアの向こうには一階に残した職員と、目を少し腫れたあの子供がいた。
「すみません先輩。マスター、さっきの子なのですが………」
2人は顔を見合わせる。
「「────働きたい!?」」
「はい!お願いします。雑用でも靴磨きでも何でもします!」
部屋に来たナイトはギルドマスターと呼ばれる男に土下座した。
ギルドマスターは、しばらく考えた後、ナイトをまっすぐ見つめる。
「………お前、戦闘経験は?」
「っと、盗賊を追い払いました」
少し嘘をついた。
あの時は、本当に運が良かっただけ。また同じことが起きても撃退できるかと言ったら難しい。
だが今の僕には、お金がどうしても必要だった。
「ほぉ大したもんだ。だが、その程度じゃダメだ此処は冒険者ギルドだ。冒険の夢はあるが命懸けで戦い、その対価としてお金をもらう。その意味がわかってるのか?」
マスターは、子供であるナイトのことを心配してくれるとてもいい人だ、だからこそ首を縦に振らない。
でもナイトは、ギルドマスターの言う事を聞くわけにはいかない。
通貨の価値はわからなくても、お金がいる事実は共通のはずだ。
「あっ僕!メダル持ちです。戦闘できます!」
「………じゃあ仮に持ってるからといって、いざという時、本当に動けるか?」
ぐっ!
それを言われると正直自信がない。
盗賊が来た時、殺されるギリギリだったから胸張って大丈夫といえない。
「大体お前の体、全然鍛えられていないな。見たところ戦士としては使えない、そんなすぐ死ぬような人間そう簡単に入れるわけにはいかないよ。帰るなら送ってやるから、大きくなって強くなってからウチに来なさい」
そう言ってギルドマスターは、ぽんぽんと頭を撫でた。
当然といえば当然である。
僕が、非戦闘員であることも見抜かれ断られてしまった。
「家はどこだい?」
「………村です」
「どこの村だい?」
「──わかりません」
「はぁ?」
僕は、盗賊を追い払った跡、事情聴取の為と騎士団に連れられ外に放り出された事、帰れずに雨の中途方に暮れていたことを話す。
「つまりあれか、盗賊を村人のために追い出したら事情聴取として勝手に王都に連れてこられて、その上、騎士団の馬鹿どもに拷問されかけた挙句、帰る場所もわからなあお前には、何もせず無責任に路上へ放り出しただと?」
「マスター落ち着いてください。またコップが壊れます。気持ちは分かります」
「落ち着いてられるか!大体そんな理由で放り出す奴いるか!仮に騎士団が、魔物討伐に駆り出されてるとしても何人か騎士が残るだろ!そんな言い訳、通るか!」
ギルドマスターの声に一瞬ビクッとしてしまった。
それに気づいたギルドマスターは、すぐにすまねぇと謝罪した。
「お前も災難だったな。騎士団員ってのは、ほとんど貴族が出身でな。もちろんいい奴もいるが、騎士団員ってのは問題起こした貴族のガキを叩き直す為に入れてる面もある。っと言うかそう言う経緯のやつが殆どだ」
修行させて改心させる目的もあるのか。
この国の騎士団は、公務員じゃなくて寺みたいなものだろうか?
ギルドマスターの耳を引っ張っていた受付のお姉さんも頷きながら話した。
「基本的にあいつらは平民を見下しすぎて暴行、窃盗、食い逃げ等の問題行動が抑制しきれない。その上、団長が指導しようにも問題が多すぎて対応が追いつかないそうよ?この間、冒険者登録してきた人がその指導係でね。話し方に上品さが足りないって無茶苦茶な理由で辞めさせられたって愚痴ってたわ。こんなふうに貴族だからって権力使って指導役をクビにしたり、脅したりとやりたい放題の状態なの。何のために騎士団に入れてるのやら」
寺に放り込んだら権力あるせいで、坊さんの説法も修行もサボらせ放題って状態なのか。
辞めさせるって最終的に反省させる為にと入れた親が、辞めさせてるってこと?
反省させる為に入れたのに反省させる行為をさせないって、どこのモンスターペアレント?
そんな人たちのまとめ役って、団長さんも大変だなとナイトは同情した。
「───そう言うことなら仕方ない。あくまでお前さんが、村に帰るための食い扶持を得るために冒険者登録は、一旦させよう」
「ありがとうございます!」
「ただし!戦う仕事は一切させない!冒険者ギルドには戦闘以外の依頼はある、それをやってもらうよ。基本は採取、届け物の仕事をしてもらう。どうしても魔物がでる場所は必ず他の冒険者を付ける、もちろん事情を話してね。報酬は少し減るが命には変えられない。わかったか?」
「よろしくお願いします!」
僕は深々と頭を下げた。
こうして僕は、仕事を手に入れたのだった。
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