第2話 ココアとナイトとモカ
「うちのココアが申し訳ありません。この子根は本当にいい子なのですが、少々強引なところがありまして………」
首が取れる勢いでペコペコ頭を下げるサジ村長。
この村の村長にして、ココアさんの祖父。
「いえ、謝らないでください。むしろ僕は部屋を貸していただけるということでとても助かります」
「しかし、森で倒れたココアを看病してくださった。あなたはココアの恩人。本当に感謝してもしきれません」
サジ村長は、目に涙をうかべ安心していたのがわかった。
「ナイト君は記憶が無いんですよね?」
「あっえっと……」
本当は何も言えずにいたらそうなってたんだけど、ココアさんが思い込んでるだけなんだが、今のところ下手に怪しまれるより都合がいいから訂正せずいる。
「はい」
「記憶が戻るまでこの村で過ごしてください」
そう言って優しい顔をし、ナイトの手をそっと両手で包んだ。
咄嗟のこととはいえ、騙していると思うと心がすごく痛い。
2階のココアの隣の部屋を貸してもらうこととなった。
サジ村長さんの作ってくれたスープはとても美味しく、サジ村長さんや、ココアさんには感謝しかなかった。
寝室のベットに入った途端、疲れが溜まっていたのか泥のように眠った。
────真夜中のナイトの部屋に、忍び寄る影が1つあった。
ココアは気になっていた。
初めてナイトにあった日、倒れた自分の看病をしてくれたナイト。
その日ココアは遺跡の近くで倒れてしまい、ナイトは遺跡に移動し見張りをしてくれた。
ココアの目が覚めた時から彼の目は、ずっと開いていたのである。
ココアは、最初お礼を言おうと声をかけたが彼は眉一つ動かさず、ずっと無言で森の向こうを見つめていた。
体調も回復したココアは、彼の体を揺すってみても返事は帰ってこなかった。
何度も呼んだが、流石に無視されていい気がせず何度も叩いたり大声を出したのだが断固として動かなかった。
しかし朝になった途端、黒髪の彼は今気づいたとばかりに悲鳴をあげた。もしかしてナイトはあの時、目を開けたまま寝ていたという事かもしれないとココアは思った。
この地域、いやこの国にとってはあまりみない風貌。真っ暗の中、黒髪、黒い目、真っ白い肌、瞬きもしないその表情に最初、悲鳴をあげそうになった。
色々と失礼だが、そんな器用なことができるなら見てみたいと、こっそりナイトの泊まっている部屋に忍び込んだ。
しかし、肝心のナイト本人はうつ伏せで寝ていた。
要するに顔が枕に埋まって見えないのである。
それで息できるのだろうか?
ココアは意地でも見ようとナイトの顔を両手で掴み、持ち上げようとするがとても重く、持ち上がらない。
「ウギギィィ」
なるべく声を抑えるも、ナイトの体はビクともしなかった。
「なによ、ちょっと顔くらい見せてくれればいいのに!」
少しイラッとして、地団駄した瞬間。
「え?なになに?………これは!」
ナイトの体から青い光が発せられたと共に、どこからともなく水が部屋になだれ込んできた!
「まっ………魔法!ってことはナイトって、スキルメダル所持者!」
まるで水が生きているかのように私の顔を覆い尽くすように水が巻きつき、私ごと天井へ持ち上げられた。
空気を奪われ息が出来なくなる。
サフィは反射的に両手を合わせ、魔法を解除した。
水は力を失い私と共に重力に向かって落ち、体の力が入らず視界は真っ暗になった。
───朝日が部屋を照らし、鳥の鳴き声が響くとナイトは、目を覚ました。
「学校─────!って…………」
飛び起きた後、頭を抱えながら僕は冷静に昨日のことを思い出す。
そういえば村に泊まらせてもらってたんだった。
……僕帰れるのかな?母さん元気かな。このまま帰れなかったらどうなるんだろう?
考えれば考えるほど不安な気持ちになってしまい、いかんいかんとネガティブな思考を振り払う。
村での滞在は許してもらった。
ナイトはこの村で帰るための手がかりを探すことを決意し、部屋床に視線を落とす。
何故かココアさんの水死体が落ちていた。
「ナイトオオォォォ………。ォ……ハヨ──……」
──と思っていたらゆっくり動き出した。
「ギャアアアアァァァァ───────!」
首をかしげ片腕で紙面を這いずり、僕をギョロリと見つめるココアさん(水死体?)と目が合う。
その日、村長の家から村一番の僕の悲鳴が響いた。
僕は流石に、タダで住まわせてもらう訳には行かないと村の手伝いを申し出た。
薪割りのため斧を降っていると。たんこぶ膨らませたココアが、話しかけてきた。
「ナイト!薪割りどう?」
ココアはあの後、男の寝込みを襲ったとのことでサジ村長からめちゃめちゃ怒られたのだった。
「ココアさん、見ての通りですよ。あまり進んでない」
ナイトの周りには薪が数個積んであるだけだ。
「ナイト君。ちょっと聞いていいかな?」
「はい」
改まってココアはナイトの耳に顔を近づけた。
「君ってメダル持ち?」
「メダルって村の柵にあった飾りみたいなもんですか?」
「そうよ」
「メダルって、この間のダイアンさんが言ってた『スキルメダル』のことですか?たしか持ってると魔法が、使えるようになるって言う」
「うん」
「そういえば、この間このメダルを持った僕を、ダイアンさんが僕のことメダル持ちって……」
服のポケットから雫柄のメダルを取り出して見せる。
「『水のメダル』ってところね。水の魔法が使えるってとこかしら?………じゃあやっぱり、昨日の夜の魔法はナイトだったのね」
「え?昨日、ココアさんが、びしょびしょだったの僕のせいだったんの……んですか!?」
「そうよ!全く、可愛いレディを容赦なくずぶ濡れにして酷い目にあったんだから!」
そこだけ聞くと何が変なセリフに聞こえるのは気のせいだろうか?
「ごめんなさい!」
ナイトはそんな事より女の子に何かしてしまったことに焦り、すぐさま頭を下げる。
なんて事だ!それが本当なら僕は本来恩人の彼女にとんでもないことをしてしまったことになる!
ぷりぷりとそっぽを向くココアにごめんごめんと手を合わせせながら頭を下げるもナイトは、ふと頭に疑問が浮かび、顔を上げた。
「ん?じゃあなんで僕の部屋にいたんです?「あっ!ごめん。私昨日の薬草届にいくの忘れてたんだった。じゃあね!」あっえ?」
聞く前にココアさんの声に遮られ、疑問は解消されないままココアさんはその場を去る。
「忙しないな。それにしても、僕が魔法を使った………ね」
ナイトは少し前にやった、ゲームのキャラクターをイメージしながら手を前に突き出してみる。
魔法って言うと呪文とか、技名叫んだ方がいいのだろうか?
思いつく呪文?水のメダル?だから………
「………みっ………水!」
「喉乾いたのかい?」
昨日のダイアンさんが、水持ってやってきただけだった。
「リクエストじゃないです!すみません違いますごめんなさい!」
今は薪割りを心の底から頑張ることだけに僕は集中した。
────薪は斧にくっついたま割れなかった。
「お前すげぇ役立たずだな」
初日に棒だけでなく、グサリと心に一撃入れた赤毛の少年からの言葉に、何も言えない僕はテーブルに突っ伏した。
「こらモカ!ナイトなりに頑張ってくれたんだよ!そういうこと言うんじゃありません!」
「なんでココアねぇちゃんは、こいつに甘いんだよ!こんなに仕事出来ねぇやつ赤子以下だぞ!」
モカ君の言うことは尤もで、薪割りはあれから進まず食料を探すも、知識のない僕はほとんどが毒物もしくは、食べ物ではないものを採取してしまい、処分に村の人たちを手伝わせてしまった。
「「外の仕事はいいから」ってココアねぇちゃんが家事をお願いしたら、掃除に関しては暖炉の灰を撒き散らすし、バケツひっくり返して水浸しにするし、料理に関しては……」
モカくんは目の前の料理を指差す。
その器には、渡された材料に含まれてないカラフルな固形物、真っ黒で粘度の高い液体。
「フォークでもすくえちゃうわね。でもきっと味は、いいはず。いつもと同じ食材使ってるんだから」
「使ってて、おぞましいものができてるから疑ってるんだよ!おまえ本当に毒入れてないんだよな。」
目の前の黒いものをフォークでつっつくモカと、アハハと笑いをこぼしながら、どうフォローを入れようと考えるココア。
だが、目の前の物質を料理とは受け入れきれないのは、表情を見れば明らかだった。
………………火加減間違えたのだろうか?
「それにしても、モカ君ありがとう手伝ってくれて」
実はモカは、余所者のナイト警戒し見張ろうと休憩の時間に村長宅を除いた。
しかし見てみると花瓶は割れ、床まで届くバケツの水、壁に細かい傷が大量。棚は開けっぱなし。
誰が見ても家を荒らしていらようにしか見えない。
まさか奴は金品狙いかと思い、武器の代わりとして木の棒を手にココアの家の扉へ突撃した。
扉を開けた瞬間、足元に何かが飛びついてきた。
そこには目に涙を浮かべながらモカの足にしがみつき、救いを懇願してきた。なんとも情けない男。
見ていられないとモカは片付けや家事を手伝った。
その間ナイトは、バケツに足を取られたりしてモカに邪魔!と一喝された。
「片付けるたびに散らかす人間初めて見たよ。呪われてんの?」
「面目ありません」
「本当にな!お前いくつだよ!」
「17です」
「思ったより歳食ってる!俺より6つも年上じゃねぇか!お前親に仕事習わなかったのかよ!」
「あーえっと」
ナイトの家は、『男は外で戦い!女は家を守る!』が方針だった。したがって母が家のことは全て一人でやっていた。
少年だったナイトが少しでもお手伝いしようものなら母は祖父母に口煩く罵られる。
小学校の頃、お母さんにオムライス作ってもらったとか話しているみんなが羨ましかっな。
ナイトの脳裏に「騎士、お願いだから何もしないで。お母さんが叱られるから」と低い声で睨まれた思い出が蘇った。
落ち込んだ空気を変えようと、ココアは話題を変える。
「モカ、ダイヤンおばさんたち帰るの遅くなるみたいだから泊まってく?」
「いいよ一人で帰れるよ」
「そう言えばサジさん帰ってこないのですか?ダイアンさんたちってことは、村の大人たち総出でってことですか?森で言っていた行事の準備とかですか?」
「うん。それもあるけど最近。隣の村が盗賊に襲われたみたいなの。多分近いうちにここも狙われる可能性があるから儀式を早めるって言ってたわ」
盗賊!?
「あれ?この辺りってこの村しかないんじゃ?」
「ここから18キロ先に別の村があるの」
「遠!どうやってそのことを知ったんです?」
「隣の村の人とうちの村人が偶然、王都からの帰りにその話を聞かせてもらったみたいなの」
その人よく無事で帰ってこられたな。僕だったら怖くて動けない、さすが地元民だ。
「儀式をすると神様が守ってくれるってことですか?」
「儀式をして村のメダルの魔法を使うんだよ」
何も知らないナイトの問いに呆れた声でモカが答える。
「村の四方にメダルのお守りが付けられていて、村の中央に祭壇を立てて祭壇を囲むようにして村全体で祈る。そうすることで「盾のメダル」の力で味方に招かれない限り、しばらく村には余所者は入れなくしてもらえるの」
「結界的なものか」
「それは知ってんのか」
ナイトの手には、水のメダルが握られている。
もし、村の人に何かあるようならせめて僕も戦力になれば、村の人たちの役に立てるだろうか?
考え込むナイトをよそに、盗賊なんか怖くないよなと話し込んでしまったココアとモカは、うっかり料理を口にしてしまい、その夜床に伏せ朝まで動けなかったという。
数分後、大人たちはその惨状を目にし村中へ悲鳴が響いた。
──────ある廃村に青い鎧を着た男達が佇んでいた。
「盗賊か、最近多いな」
その村は、ついこの間盗賊に襲われた村人を1人残らず殺されていた。
「隊長、死体は全て荷台へ積みました」
「あぁ。それじゃあ第五部隊!一旦、王都へ戻るぞ!」
隊長と呼ばれた額に大きい傷の跡がある若い男は部下に教会へ運ぶように指示した。
すると遠くから王都に待機させていた筈の部下の影があった。
「隊長!国王陛下から伝言です!『南の遺跡で変革の光が上がった』と。何のことでしょうか?」
「何!?」
その言葉が何を意味するのか、その場にいる人間にはわからなかったが、隊長と呼ばれた男は冷や汗を掻き懐から透明の石を取り出す。
その石は一部だけ小さく青い光を放っていた。
「隊長?その石は?」
「お前達は王都へ戻れ!俺はしばらくこの辺りを巡回してから王都へ戻る。いいな!」
部下の静止の声も聞かず男は馬を走らせた。
「え?ちょっ隊長?説明!国王陛下とどんな関係で……行ってしまった」
「あ〜あ。隊長、顔はいいのに何故か人の話聞かないんだよな〜」
「一塊の部隊隊長に国王陛下が伝言ね……」
「考えても仕方ねぇ。とっとと戻るぞ」
「「はーい」」
部下達はため息をついたあと、荷台と共に王都へ馬を走らせた。
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