彼はまだ帰り道の途中である
「そう言えば昔こういうことがあったな」
仕事で知り合ったAさんが、カフェで私に話してくれた。
★
Aさんが大学生だった頃。
当時、心霊スポット巡りがブームとなっていたらしい。
夏が始まり期末テストも終わった大学二回生の長期休暇。
ブームのこともあってかすぐに心霊スポット巡りに行こうという話になったそうだ。
「その時はなんともなかったんだよ」
少し遠い目をしてAさんは続ける。
メンバーは友人二人とAさんの三人。
順調に盛り上がりながら女の子は黄色い悲鳴を上げ、男も驚きつつも「木の影か」レベルで、それ以上にとくになかったらしい。
その帰りの事。
「噂に聞くほどじゃなかったな」
「拍子抜け」
「Bのビビり様はすごかったけどな」
「正体木の影って。マジ受ける」
Aさん達は、そんなことを呟きながらそれぞれの家に送っていった。
暗い夜道を注意しながら車を走らせ最後の一人を送り終えると自分の家に車を走らせた。
家に着き、車を車庫に入れる。
「こういう時手形が残ってたりするんだけどな」
と言いつつ光で全体を照らすも何もない。
話程度にもならなかったな、と肩を落としてAさんはその日を終えた。
Aさんは翌日他県に行く用事があったらしい。
車を再度点検し高速を走る。
が――。
ドン! という音と共にAさんの記憶は途絶えたそうだ。
「その後なんだが気付いたら病院のベッドの上。体には包帯が巻かれた状態で入院していたんだ」
「なにがおこったので? 」
「パンク。しっかしあんとき確かにタイヤも点検したはずなんだけどな」
そう言いながらAさんはコーヒーを飲み終えた。
じゃぁな、という彼を見送りながらも、少しだけ彼の今後が気になった。
何故なら――。
未だに彼の背中には多くの手形があるからだ。
私は霊が、視える。
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