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17 悪女、聖女様の出身地へ到着しました。

どうぞよろしくお願いいたします。

 前日と同じように、乗合馬車を探して乗り込む。

 流行り病の所為か、オルテアへ向かう人間は少なく、馬車の中は空きがある状態だった。

前日のように他の乗客と話すようなことはなかった。


 朝早い出発だったが、結局、オルテアへ着いたのは、夜中だった。

 リリスとルーヴは、魔界とは違う黄色い月明かりの下を歩いた。

 夜中な為、辺りはしんと静まり返っている。病が流行っているのかは、この状態では判断が付かなかった。

 それでも、隣町のような夜の喧騒はない。

 病を警戒して無暗な外出は控えているのかもしれない。


 このオルテアはこのあたりでは一番大きな町だ。

それ故に、近くの森まで迫っている魔界の浸食は大きな問題であるようだった。

町から出て行く人間も少なくはないだろう。それでも、建物はリリスの出身地や隣町よりもずっと立派で、この地域の社会の主要な機能はこの町で行われているのが窺い知れた。


 「……おい。大丈夫か?」

 「――え?」


 リリスはルーヴの声にハッとした。

 見上げれば、ルーヴは真剣にリリスを見詰めていた。


 「……身体が震えているぞ」

 「あ……」

 「何かあったのか?」


 ルーヴはそう言ってリリスを引き寄せ、周りを警戒した。ルーヴは人間界へ来た時から周囲への警戒を怠っては居なかったが、自分には気が付かなかった何かに、リリスが気付いたのかと思ったらしかった。


 「い、いいえ……何でもないですわ」

 「そういう風には、見えないが」


 リリスは言うか言うまいか迷ったが、口を開いた。


 「実は、ここの教会にわたくしたちは捕まったのですわ」


 リリスの出身の町には罪人を収容する場所はなく、また、魔族と関わった重罪人を裁く為に、このオルテアの教会に連れてこられた。

 何を隠そう、リリスと母が火刑に処されたのも、この教会によるものだった。

 リリスにとってはトラウマの場所だ。

 無意識に体が恐怖していた。


 「……そうか」


 ルーヴはリリスの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

 リリスは慌ててフードを被り直す。


 「今は俺が居る」


 ルーヴはそれだけしか言わなかったが、リリスは安心した。


 教会が目を光らせている中、宿には泊まれない。

 しかし、もとより、二人は野宿する予定だったので、二人は教会に見つからないよう、夜の闇に紛れて、一直線に魔界の浸食が進む森へ向かった。


 実を言うと、このオルテアは、聖女の出身地でもあり、聖女はその教会で聖女の力を認められた場所だった。

 今は、人間界の王都の教会本部に在籍しているだろうが、彼女の中でも、魔界の浸食というのは故郷を脅かす大きな問題であり、それを食い止めようと彼女は尽力しているのだ。

 何かと、リリスと聖女の因縁深い町であった。


 町から僅かに離れた森の中は真っ暗だった。

 しかし、リリスたちは魔族だ。夜目は効く。そして、ルーヴはその魔族よりもずっと五感が鋭い。二人は難なく森の奥へと踏み進めていった。


 「さて、随分深くまで来たが……今日はこのあたりで休むか」

 「ええ」


 二人は近くにあった倒木に腰を下ろした。

 リリスは魔法で毛布を二枚取り出し、一枚はルーヴに渡す。

 二人は鞄を肩から下げていたが、ルーヴはともかく、リリスは飾りだった。


 人間で収納魔法を使える者は少ない。旅人の振りをするにあたり、リリスはカモフラージュの為に殆ど何も入っていない鞄を背負っていた。中身を入れていないのは、単純にリリスの体力を温存する為だ。

 ルーヴは自分の旅道具は自分で持っていたが、リリスの積載量の方が多い為に、ルーヴが持ち運べない物などはリリスが管理していた。

 重さだけでいうと、ルーヴは余裕で持てる。しかし、人間の前で人並外れた腕力を見せる訳にはいかなかった。


 焚火はリリスには憚られた。よって、持参した魔術式のランプで光を灯す。これは魔力の結晶である魔水晶で点灯するので、魔力の消耗を節約することも出来る。

 リリスたちは見張りをする為に、交代で休むこととなった。


     *


 翌朝。

 日の出と共に行動を始めた。リリスとルーヴはパンにチーズを挟んだ簡素な朝食をとった。


 リリスは羊皮紙を取り出す。

 くるくると巻かれていたそれを伸ばし、内容を確認する。目的の毒草の詳細がリリスの綺麗な文字で書かれている。これは学園で調べた時に書き写したものだった。


 「さて、これから探す毒草ですが、名前を『グリーフアマポラ』と『アゴールアクナイト』と言います。どちらも、魔界と人間界の狭間に生息するとされていますが、その殆どが発見されていません。とても希少価値が高い毒草です」


 ここで、一旦言葉を区切ったリリスは、ルーヴを見た。ルーヴはいつもの無表情ながらも、真剣に聞いていた。

 リリスは羊皮紙をルーヴが見やすいように、彼の隣まで移動した。倒木に隣合わせに座っていたので、一人分距離を詰めるだけで良かった。

 ルーヴは羊皮紙を覗き込む。二人の肩が当たった。


 「『グリーフアマポラ』は全長十五センチ程で、紫色の薄い花びらをしていて、花芯の部分が深緑色をしているそうですわ」


 リリスは書き写した絵を指差した。ヒョロヒョロとした茎の上にちょこんと花が咲いている。葉はギザギザしており、その横には但し書きとして、裏に棘があると書かれていた。


 「お次は、『アゴールアクナイト』です。こちらは全長十センチ程で、青い兜型の花が三つ程連なっており、その花を隠すように葉が周りを覆っているそうです」


 また、リリスは羊皮紙の下半分に書いてある絵を示す。こちらも丁寧に書き写してあり、わかりやすい。絵はリリスの説明の通りだった。


 「詳細はわかったが、この草だらけの中で探すのは困難そうだな」


 ルーヴは辺りを見渡して言った。


 「ええ……魔界と人間界の狭間と限られた地域ですが、その広さは広大ですわ。何とか、二日以内に探し出さなければ」


 猶予は二日。それを過ぎると父に魔界を離れていることがバレてしまう。


 「絶対に見つけてみせますわ! さあ、魔界と人間界の狭間に移動しましょう!」


 リリスは気合を入れた。




 魔界と人間界の狭間は、魔族のリリスたちには馴染み深い冷ややかさが漂っていた。魔界の魔力と人間界の魔力が混じっている。魔界の魔力の方が濃度は濃かった。

 魔族であるリリスとルーヴにとっては何ともない空気だが、人間にとっては恐ろしいものだろう。しかし、リリスたちも安心しては居られない。


 事前に確認したところ、魔界側は魔物の生息地になっている。

 いつ、魔物が襲い掛かって来るかわからなかった。

 魔族であっても、他人の手の入った場所に暮らすリリスたちにとって、魔物は獣だ。十分、危険な存在だった。


 「あまり、俺から離れるなよ」

 「はい」


 ルーヴは短剣をいつでも抜けるようにしながら辺りを警戒していた。

 リリスたちの毒草捜索が始まった。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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