聖徳太子が厩戸皇子になってしまった件
存在自体は知っていたのですが、意外と身の回りの知人が書いてることを知り
面白そうだと思い、この度筆を執りました。
初めての小説作成なので、至らぬ点もあるかと思いますが
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
教科書に修正液を付けて聖徳太子の文字を消してみた。
何となくそこに諸葛亮孔明と書き込んでみたら
突然文字が消えて厩戸皇子という文字が浮かび上がったんだ。
厩戸皇子?僕には何が起こったかさっぱり理解できなかった。
そもそも授業がつまらなくて、何気なく教科書に落書きでもするつもりで書いたのに
いきなり訳のわからない文字が浮かんで来るなんて。
しかし驚くべきことが起きた。
ちょうど、先生は黒板に今まさしく、厩戸皇子と書いたのだ。
え?聖徳太子じゃないの?厩戸皇子でいいの?何が起こったのか理解できなかった。
幸いまだ修正液は残っているので今度は厩戸皇子を消して
うーん・・・どうしよう。3分ぐらいぐらい悩もうと思って3秒で「キリト」と書き込んでみたのだが
今度は何も起こらなかった。
もちろん黒板の文字も変わることはない。
一体何が起こってるのかがわからない。
ぼーっとしているうちにチャイムがなり、4時間目の授業は終わりを告げた。
わけがわからないまま、昼休みになってしまった。
ダチの大葉が颯爽と走り寄ってきた。
「匠! 飯行くぞ! 今日は焼きそばパンだからな、競争率たけーから早く準備しろや!」
こいつは残念ながら俺も大概ではあるのだが、ストレートなタイプなバカなのだ。
「そもそも今日は俺は弁当だと伝えてあったはずだが? それにお前も弁当と言っていたはずだが?」
「いやいや、聞いてくれ給えよ匠君。 うちの母君ときたら、昨日のテストの点数見せたら
あまりにも深く感銘を受けたらしく、右手にバットを持って振り回してきたのだよ」
相変わらず茶番劇がよく似合う、アットホームな家庭である。
こいつは国語と体育以外は全部致命的なまでに成績が悪い。
むしろ何故国語と体育という取り合わせが成績がいいのかが割と不思議ではあるのだが。
そんな大葉が特に苦手な数学のテストの数字を持ち帰った時点でもはや全て予測可能な
出来事だと思うのだが、こいつの家は両親揃って脳筋なのか?と失礼なことを想像してしまう。
「お前の成績が悪いのは今に始まったことじゃないだろ、何したんだ」
大方ろくでもないことをしたに決まっている。
「よくぞきいてくれました、我が心の友、匠クン!」
ちなみにもう3分ぐらいロスしてる気がするがきっとコイツは今日余り物しか買えないことは
ほぼ決定したなと心のなかで思った。
などと思っていたのだが、大葉の集中力は赤ん坊以上、小学生以下なのだ。
急に俺が持っていた社会の教科書を取り上げてきた。
……まずい。落書きが見られる
「お、お前まじかよ・・・わははははははは中学生にもなって教科書に落書きした挙げ句
キリトかよ、やばすぎんだろ、何考えて生きてるんだよ、くはははははっ!」
あからさまなお前が言うな案件なのだが、流石に俺も悪かったと反省してる。
ただ気まぐれで書いたぐらいでそこまで言わないで欲しい。
というか殆どの場合は大葉よ、お前のほうが大概だろう。
「いやまてまてオオバカ君、俺の話を聞き給え」
「いやバカはおまえだろ、キリトはやべえだろキリトはっっっだめだがまんできねぇはははははは」
コイツぶっ殺してやろうか。こうしてこいつの母親はバットを取ったんだな。間違いない。
「最初はちゃんと諸葛亮孔明って書いたんだよ」
「あ? 諸葛亮孔明? どっちにしても大概だろ……」
いやそこで今度はドン引きされるのかよ。逆にショックでけえわ。
一応コイツ国語が得意なのは小説とか読み物が得意なのがあって
三国志とかのネタは通用するんだよな。
「でも書いたら急に字が書き換わって厩戸皇子って勝手に書き換わった」
「は? 勝手に書き換わった? 勝手に書き換わるも何も厩戸皇子だろ」
そういえばなんでこいつ歴史の成績は悪いんだ?
ド直球の返しに、なんで俺はこんなことを真面目に切り替えしてるのか
自分の中で馬鹿らしくなってきた。
だが、コイツも元々厩戸皇子って認識してるのかよ。
「ああ、もうめんどくせえからコイツは厩戸皇子じゃなくてキリトってことにしておいてくれ」
「ぷぷぷ……自らの恥ずかしい行いを素直に認めろよ!」
「わかったわかった、たしかにキリトって書いたのは血迷ってたわ、で。学食行かなくて良いのか?」
そろそろこいつを殺すにはいい頃合いだと思って決め台詞を吐いてやった。
「てめぇくだらねえ事で俺の焼きそばパンを! 後で焼きそばパンおごれ!」
「そういう意味のわからないことを言っているからオオバカ君といわれるんだよ、
早く行かなくて良いのか?」
「ぐぬぬ、おぼえてろよぉ!」
まるで悪党かのような捨て台詞を吐いていく大葉の日常会話のセンスは実に国語5って感じだ。
返ってきたやつの戦利品は何故か唐揚げ弁当だった。
うちの学食の唐揚げ弁当は完全に体育会系の生徒に向けたボリュームがっつり系なのだが
大葉は吹奏楽部なので、日頃こんなにガッツリしたものは食べない。
なんならコイツはだいたいいつも食費がーって言ってるので明らかに予算オーバーなはずだが。
大葉は恨めしそうな眼で俺を見ながら弁当を机に置いた。
ああそうか、余り物はそれしか無かったか。
「食いきれないなら少し貰ってやろうか?」
「匠てめぇ調子に乗るなよ!お前の弁当こそ俺によこせ!」
……あんまりコイツとまともに話をしていると頭がおかしくなりそうだ。
いやコイツがまともな話をするという前提が間違っているな。
しかし、今日起きたことは自分の中で凄まじい違和感として残ったままだ。
自分の中で少し整理したい……
「大葉。すまねぇ今日俺、午後サボるわ」
そういい、広げかけていた弁当を片付け始めると
「おいおい、らしくねぇな? ふけるとか初めてじゃね?」
「あー、すこし体がダルイ気がするわ。そういうことにしておいてくれ」
「おいおい、バカにしたの怒ってるのか? ってわけでもないみてーだけど」
さすが国語力5だわ。肝心なところでは間違えない。
「ちょっとなんか言われるのもメンドイんで、先生に後で適当に言っといてくれ」
「あいよ、……って結局食わないんかい!だったら俺にその弁当くれよ!」
「食いたいならやるが2個食べるのか?」
すると大葉はぐぬぬとなって、弁当を開けると、ろくに噛みもしないで弁当を食べ始めた。
もはやヤケクソなのだろう。まぁいい。大葉は頭は悪いが信用してる。
やることはやってくれるだろう。
僕は家に帰った後、持ち帰った教科書の修正した場所を眺めていた。
やはり修正した場所にはキリトと書かれている。
試しに左右に十字架を付けてみた。特に変化する様子はない。
……おかしいな、十字架には邪気を祓う効果があるはずなのだが。
などと思っていたが、今思い直してみると元々厩戸皇子って書かれていて
自分は白昼夢でもみていたのではないか?
そう思うとあまり深く考える必要などないと思えてきて
聖徳太子なんて存在しないんだ、というよりこの自体をその日は忘れて過ごしていたんだ。
きっと思い違いにない。
流石に教科書はみっともないのでとりあえず修正液で再度塗りつぶしたが
めんどうなので潰したままで放置した。
そして翌日。まったく話も聞いた覚えがないのだが、朝っぱらから教室がざわついている。
理由は「今日、転校生がやってくるから」とのことだ。
まぁ転校生なんてそんなものか? あまりしょっちゅう経験するものでもないし
などと考えていたのだが、お約束のように大葉がやってきた。
ああ、大方大葉のことなので、こういうお祭り騒ぎにはまっさきに飛んでくるのは
そう、想像に難くなかったが、しかし飛んできたはいいものの、大葉の表情は怪訝な顔をしている。
「どうした、そんな難しい顔して。 転校生が来るらしいじゃないか」
「俺、転校生が来るなんて聞いてねえぞ」
……なにをいっているんだこいつは?
別にそんなこと、生徒に告知しないことなんて十分に考えられることだろう。
急だったとか、理由はいくらでもありそうなものだ。
「案外そんなものだろ? 何をそんなに気にしているんだ?」
「……」
生まれたとき、口が最初にでてきたと言われても驚かないこいつが
だんまりを決め込むのは珍しい。
しかしこちらとしてもなにを気にしてるのかが分からず言葉をかけることも出来ないのだが。
「……まわりのみんな、結構前から来るって話になってて、俺だけ話についていけなかった」
……。
事前に情報が告知されていたということか?
「それは俺も初耳だ。誰がそんなこと言ってたんだ?」
「誰がとかじゃない、周りの様子みてみろ、俺は直接話しもしたけどみんなそう思ってるみたいだ」
なんだって?つまり俺と大葉だけが知らなかったってことか?
「逆に知らなかったやつは俺達だけなのか?」
「……流石に全員に確認とったわけじゃねーけど、よく話す奴らは全員知ってたっぽい。
というより先生が予め先週あたりに言ってたらしいぜ。お前記憶あるか?」
「いや、無いな。まぁろくに聞いてないというのもあるが流石に転校生が来ると聞いたら
忘れるとは考えにくい」
「だよな! どうなってんだよまったく……」
俺たちは結論を出す前に、先生が教室に入ってくることでこの話は強制終了させられる。
がらんという音とともに二人の足音。
どうやら転校生が来たというのは本当のようだ。
ひらめくスカートから女子というのはわかったが、顔つきも……まぁ女だろう。
かなり中性的な顔つきで、男用の制服を着せたら男と言っても通用しそうだ。
まぁ要するに美人というわけだ。
オオバカのやつは相変わらずで、さっき怪訝そうな顔はどこえやらで
上機嫌に転校生を眺めていた。
シンプルなんだか、複雑なんだかよくわからん脳みそ構造をしている奴だ。
先生とその生徒は、形式通りに教団に二人で立ち、黒板に名前を書く。
黒板には『日改 暦』と書かれた。
ひかい、こよみ……か。
かなり珍しい名字だ。やや赤みがかかった黒髪にショートカット。
光の加減で頭髪はかなり赤く見える。
形式通りの說明がなされた後、俺の右隣の席が空席だということで
指定された。
俺の右隣の席が空席だと?!
バカな……昨日までは……いや昨日までは……
ダメだ、思い出せない。しかし空席ではなかったはずだ。
頭の処理が追いつかないが、何故か頭がぼーっとして処理すること自体を拒否するような
頭の中に霧がかかって覆われてしまうような感触がどんどん侵食してくる。
右隣の席を見ると、たしかにそこには誰かが座っていた様子もなく
また、教科書などが飛び出している様子もない、机の中身は空である事が伺える。
日改は颯爽と歩いてくると、かばんを机の上に置き、そそくさと中身を机の中に入れ始めた。
俺がぼーっとずっとみてると、日改は俺の目線に気がついたようだ。
まぁ当たり前か、ずっと席をながめていたからな。
「どうも。はじめまして、私は日改と申しますが、貴方は春原匠さんでよろしいでしょうか?」
……は?
なんでコイツは俺の名前を知ってるんだ?
そう聞きたいと思っていた時に突然、日改の眼の前にすごい剣幕をした大葉が
まさしく怒髪天を衝くといった表情で突っ込んできた。
「誰だてめぇ! ユカリは何処にやりやがった?!」
ユカリ? 大葉は一体何を言って・・・いや確かそんな奴がいたような気もするが
いまいち思い出すことが出来ない。
そんなことよりいきなり転校生が来て真正面から怒り狂った大葉が席の前に立つという状態に
教室内は非常にざわついており、自体は混沌としていた。
「大葉くん! いきなりなんの真似ですか! 席に付きなさい」
「嫌です先生。俺はこいつのことを認められねぇ!むしろ匠、なんでお前が一番切れてねぇんだ!」
全員が大葉の行動を理解不能だという表情で見つめていた。
日改はそんな大葉に対して俺と大葉にだけ聞こえるぐらいの声でこういったんだ。
「事情は後で話しますので、この場は一旦引き下がっていただけないでしょうか?
昼休みに事情を說明致します」
流石に騒ぎがでかすぎると思ったのか大葉も、まだ全く納得してないようだったが
がに股でがつがつと机に戻っていった。
そして何事もなかったかのように授業は始まりを迎えた。
品行方正な俺と違って大葉は何かと問題を起こすことが多かったからだろう。
アイツはだいたいいつも最前列近くに座席が指定されてる気がする。
きっと俺でもそうするが、あれは先生たちが故意に前に座席を配置してるのだろう。
そんな教室の最後列左端の俺が見ている大葉の姿はいつもの全時間居眠りか
馬鹿騒ぎをして叱られているいつもの光景はなく、ただ適当に教科書だけをぶん投げて
露骨に板書もせずに、不機嫌そうに椅子を後ろに傾けてギコギコとさせていた。
俺もノートは取らないと言うか、教科書に書いてあることを書いても意味がないと思ってるので
黒板で先生がアンダーラインを引いた所を、教科書に同じように線を引くだけで
いつも適当に聞き流している。よって今日は集中力もまったくないので
右隣にいる日改を眺めているが……
こいつ典型的な勉強は下手なやつだな。
熱心に黒板に書いてあることをご丁寧に先生の書いたとおりに書き上げている。
というより書くことだけに集中しすぎていて中身多分聞いてねえなあれは。
まぁ必死な顔で授業に取り組んでる姿は、極普通の女子高生なんだがねぇ。
そんなこんなでそれぞれが思い思いの時間を過ごし、約束の時間になった。
まぁ大葉は案の定、速攻ですっ飛んできて、相変わらずの様子なもんなんで
少しだけ教室がざわついてる感じもするが、みんなはよくわからん揉め事より
昼食を優先している。まぁあたり前のことだわな。
まずは日改が口を開いた
「この学校は屋上は開いてるのかしら?」
「あーしまって……」
俺が答えようとしたら大葉は机をドンっ!っと叩いて遮ってきた。
少しは落ち着いて物を話せないのかコイツは。話がいつまで立ってもすすまねぇ。
とおもったら一応無謀だが考えはあったようだ。
「屋上なら鍵がかかってるが、緩んだ南京錠でな、無理やり引っ張ると開けられるから
都合のいい誰もいない場所だぜ」
そもそも禁止されてる時点で、見に行ったことこそあれど
突破しようなどと考えたことがなかったが
あいからわずやることがネジ一本飛んでいる。
結局大葉に引率される形で俺たち3人は屋上のドアの前まで来た。
大葉はどうするのかと眺めていたが、まじでなんの捻りもなく
素手で南京錠を思いっきり引っ張るだけで南京錠は外れた。
全く意味ないな……まぁ屋上に行く機会などない学校なのでそんなものなのかもしれない。
南京錠も真っ黒で一体いつ作られたものなのかもわからないほど古い感じだ。
大葉のテンションはまだキレっぱなしみたいで
ぶっきらぼうにドアを開けると親指で『さっさと入れ』とジェスチャーをしている。
まぁ流石に転校生を初日に先陣切らせて不法侵入させるわけにもいかんだろうと思い
とりあえず俺が先に入り、日改が続いた。
一応見られると不味いのだろうか、大葉は下の様子を少しだけ伺った後
続いて屋上に入ってきた。
ドアを締めた瞬間だった。
まさに目を疑うとはこの事か。
いきなり大葉は日改の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。
あまりにとっさのことで反応できなかったが、いくらなんでもマズイだろ!
俺はワンテンポおくれて大葉を日改から切り離そうとしたが
大葉が片手で俺の胸を叩くだけで俺は突き飛ばされてしまった。
残念ながらこちとら体育は万年2なもんで、背丈はそこそこあるんだが
あっさりと吹き飛ばされてしまった。
「さぁさっき説明するって言ったな? さっさと教えろ!」
俺は大葉に吹き飛ばされて地面に叩きつけられて軽く頭を打ってしまい
若干フラフラしながらだが、何とか止めなければと思い、言葉を発した。
「大葉……説明させるにしてもそれじゃ話すのも難しいだろ・・・・・・第一女に取る行為じゃねぇだろ」
「匠お前まだそんなこといってんのか!」
大葉は相変わらずキレっぱなしだ。
一体何をコイツはこんなにキレてるんだ。
「大葉君……說明はするけど、残念ながら貴方は多分理解できないわ」
「おい、この状況で上等じゃねぇか、どうせ俺は頭がわりいから理解できねぇかもな!」
日改も火に油を注ぐようなことを言ってくれたもんだ。
もう少し言葉を選べないのか……あの授業の様子だと器用ではなさそうだな。
「なら俺なら理解できるのか? 大葉は馬鹿かもしれねぇけど
悪いやつじゃねぇってのは俺が一番わかってるつもりなんだ。
あんた、そのいいぶりなら、俺なら理解できるのか?」
言葉は日改に向けて言っているが、どちらかと言うと大葉をなだめたくて言葉を選んだ。
すると意外な返答が帰ってきた。
「むしろ理解できるのは貴方しかいないわ。大葉くんがこの異常を察知してることのほうが
本来はおかしいのよ」
いきなり言ってることの訳の分からなさに加速がついてきた。
コイツはコイツで頭がやべーやつなのか、それとも真面目に話を聞くべきなのか
判断が難しい。
「大葉くんが怒っている理由は、長瀬ユカリさんは一ノ瀬匠くん、貴方が行った改ざんによって
この世界から消えたことによるものよ。そして過程を全部省くと結果として私が今ここにいます」
は? 話が飛躍しすぎてて頭の理解が追いつかない。
ふと大葉の方をみたが、大葉もわけがわからないといった表情をしている。
「一ノ瀬くん、貴方は現実を変えることは出来ない」
「は? 当たり前だろ……」
と言い返そうとしたとき、言葉を遮り続きを言われた。
「だけど、創作物を変えることが出来る」
創作物を変えることが出来る?一体どういう意味なんだ?
「貴方は人が作った事実以外の文章を過去・未来に影響を及ぼして改ざんすることが出来るのよ」
これはきっと孔明の罠だ。
俺はそう思った。