愛されメイドはヤンデレお嬢様と結ばれる?
スロウスエル家の令嬢――ルビア・スロウスエルの部屋。そこでスロウスエル家のメイドをしているシエルは、ルビアのベッドの上で目を覚ました。
(おや? ここは……ルビア様の部屋!? いけない! あたしルビア様の部屋で寝てしまった!!)
シエルは慌てて起き上がろうとした。だが――、
「……ん!? これは……ひも?」
シエルの両手両足にひもが巻かれていた。それにより、シエルは起き上がれなくなっていた。
「……な、なにこれ!? くっ、ちぎれない!」
シエルはひもをひきちぎろうとするが、シエルの大したことのない力では全く意味をなさなかった。
シエルがひもをひきちぎろうと頑張っている時に、ルビアが部屋に入ってきた。ルビアはちょっと眠たそうにしながらも可愛らしい笑みを浮かべてシエルの近くに来た。
「ダメだよ~シエル~。そんな事したら痛めちゃうでしょ~? ゆっくりしててよ~」
ルビアはのんびりと喋りながらベッドにのり、シエルに抱きついた。シエルは訳がわからず、ルビアに聞く事にした。
「ルビア様」
「なに~シエル~?」
ルビアは仰向けになっているシエルと目を合わせた。ルビアがシエルを押し倒しているような状態になっている。
「このひもは……ルビア様の仕業ですか?」
「仕業だなんて酷い~! これはボクとシエルがずっと一緒にいるための大事な事なんだよ~?」
「……ずっと……一緒?」
「そうだよ~! ずっと一緒にここで暮らすんだよ~!」
目をキラキラさせながらそう言うルビア。だが、シエルはルビアの言葉を理解する事ができず、
「分かりません……! ずっと一緒って……どういうことですか!?」
と不安そうに聞いた。ルビアは目をキラキラさせたまま答えた。
「シエルはこれからず~っとこの部屋でボクと暮らすんだよ~! この部屋で一生を共に過ごすんだよ~!」
「そ……そんなのいけません! あたしはメイドとして――」
「もうメイドの仕事はしなくていいの~! いや、しちゃダメなの~!」
「そんな……! それではあたしは……!」
「シエルはもうメイドじゃないよ~! シエルは今日からボクのお嫁さんなの~!」
お嫁さんと言われてシエルは顔を赤くした。実際、ルビアは容姿が可愛すぎるので男どころか女でさえ嫁にもらいたいと言う程である。本来は幸福にひたるべきところなのだが、シエルはそうはならなかった。
「……ダメです」
「? ダメじゃないよ~」
「ダメです! ルビア様にはあたしなんかよりずっと相応しい殿方が――」
「そんなのいらないよ~! そんなゴミ以下の存在なんてボクいらな~い! ボクにはシエルだけなの~! シエルだけが必要なの~!」
シエルはこのままではまずいと感じ、ルビアはうまく説得する言葉を考えた。そんな時、ルビアは自身の顔をシエルの顔に近づけた。そして――、
「んんっ!?」
シエルの思考を止めるかのようにルビアはシエルの唇にキスした。そのままシエルの口の中に舌を入れてディープキスを始めた。
「んん! んんっ! んむぅ!」
ルビアに舌を入れられ喋られないシエルは無理矢理な声を上げた。
1分程経って、ルビアはディープキスを止めた。
「誓いのキスだよ~! これから末永くよろしく~!」
満面の笑みを浮かべるルビア。シエルはルビアにディープキスをされた事と可愛すぎる笑顔を見た事で思考がとんでしまった。
ルビアはベッドから降りると、魔法を使い始めた。
「お腹空いたでしょ~? ご飯作るね~!」
ルビアはそう言うと、何も無い所から高級料理が出てきた。シエルはルビアがそんな魔法が使える事を知って驚愕した。
「ルビア様……魔法が使えるのですか?」
魔法を使える人間なんて世界中に10人程度しかいない。ルビアがその内の1人だなんてシエルは初めて知ったのだ。
「今まで隠してきたけど~、ボク色んな魔法が使えるんだ~! だからシエルのお世話は何でもできるよ~!」
「お世話……それはあたしの――」
「ダ~メ! ボクがシエルのお世話するの~! シエルはボクを見てればいいの~!」
シエルは途端にわいた考えをそのまま口に出した。
「ルビア様。あたしがルビア様のお嫁さんというのであればあたしとルビア様は協力すべき――」
「シエル~。ボクはシエルをお世話して甘やかしたいんだ~。だからシエルはただボクを見てて欲しいの~!」
シエルは思った。
(もうルビア様には何を言ってもダメみたいだ)
シエルは堂々とため息をついた。ルビアは不思議そうにシエルを見た。
「シエル~。ため息なんてついてどうしたの~?」
「ルビア様。このひもほどいてください」
「ダメだよ~! ほどいちゃったら一緒にいられない~!」
「ひもが無くてもあたしはルビア様と一緒にいます」
「それでもダメなの~! 変な泥棒がシエルを奪いに来るかもでしょ~? だからほどかない!」
「……ルビア様」
「なに~? ひもは絶対にほどかないよ~!」
「嫌いです」
「え? 嫌いって何が~?」
「ルビア様なんか大っ嫌いです!」
「っ!!?」
一瞬で笑みが消えたルビア。ルビアは慌てるようにシエルに言った。
「そんなのダメだよ! シエルはボクのお嫁さんなんだよ! それなのにボクの事大嫌いだなんてダメ! 絶対ダメ!!」
「ならほどいてください。協力すればまた好きになれるかもしれません」
「ほどくのはダメなの! シエルはボクのだって……ボクだけのだって証明できなくなっちゃう!」
「そうですか。……もう関わらないでくださいね」
シエルの言葉でルビアの目は光を失って虚ろな目になった。シエルはルビアのいない方向を向いた。ルビアは少しの間うつむいたが、顔を上げると決心したように言った。
「シエルはボクのお嫁さんだよ。だからボクとシエルは愛し合うべきなの。嫌ってたらダメなの。シエルがボクを見てくれないのはいけない事なの。だからボクを見ていないといけないようにするね。……えいっ!」
ルビアはシエルに強力な魅了魔法をかけた。その瞬間、シエルは意思をコントロールできなくなり、顔を赤くしながらルビアを求める表情をした。
「……はぁはぁ……ルビア……様……!」
ルビアはニコッとして、
「シエル可愛い~! ボクがいないとシエルは生きていけないよ~! だから永遠に愛し合おうね! 大好きだよ~!」
ルビアはもう一度シエルにディープキスをした。
ルビアが自室に入る少し前。シエル以外の全ての人間にある魔法をかけていた。それは――死ぬまでずっと体中に激痛が走り、苦しみ続ける魔法。
(シエルを奴隷みたいに酷い扱いをしたのがいけないんだよ~! シエルはお前らなんかよりずっと特別なんだよ~! だから~、苦しみながら死んでね~!!)
ルビアは魔法を使いながらそんな事を思っていた。
こんな事をしている事はシエルに知られてはいけない。なので、ルビアは前もってシエルをひもで動けないようにしたのだ。
ヤンデレってやっぱり難しいです……。