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第7話 黒い城壁

 だんだんと近づく町は一言で言えば『黒い』。

 黒い岩のような壁で覆われている町だった。


 見上げるほど高い壁が左右にどこまでも続いていて、それがこの町の大きさを物語っていた。

 壁と壁を仕切る円柱みたいな柱もあるが、その柱だけでも大人が5人程並んでもまだ余裕のありそうな横幅に見える。


 そしてその壁に一体化するアーチ型の扉の門が開け放たれているのだが、町の中がすぐ見えるのでそこまで門の奥行きがない事が窺える。

 その門を支えるように両隣にある円柱の柱は一際大きく、建物のように窓みたいなものが付いているのも見えた。


 なんだか……要塞みたい。


 異世界はもっと煌びやかなものだと思っていたはるかにとって、目の前の黒い壁は異質なもののように感じた。

 そしてその壁に尻込みしたはるかの足は自然と遅くなる。


 気付けばカイルが少しだけ先を歩く形になっていた。


「ん? そんな変な顔してどうした?」


 はるかが隣にいない事に気が付いたようで、カイルはこちらを振り向きながら話しかけてきた。


「えっと……あまりにも黒過ぎたからびっくりしちゃって」

「あー、初めてならそうなるよな。この町を守る城壁だから怖がる事はないぞ」

「町ってみんな黒い城壁で守られているの?」


 はるかは少しだけ早足でカイルに駆け寄りながら質問をした。


「俺もこの世界の全てを知っているわけじゃないが、町によって城壁は様々だ。それにこの町は外側がこうなだけで、中に入れば普通の町と変わらないからな」


 怖がっている事を察してくれたのか、町の事までちゃんと伝えてくれたカイルに感謝つつ、自分がどう思ったかをはるかは伝えてみた。


「あのね、一瞬、要塞に見えたの。多分色のせいなんだろうけど……。でも普通の町って聞いて安心した」


 その言葉にカイルは驚いた表情を浮かべていた。


「一瞬でもそう思ったのか……。それは凄い洞察力だな。ハルカの言う通り、まさに要塞の役割をしている城壁なんだ」


 まさか自分の思った事が当たっていたとは思わず、はるかも驚きながら質問をする。


「えっ? じゃあ城壁って要塞なの?」

「城壁の話は長くなるからまた改めて話す。もう門番にもこちらの姿が見える頃だからとにかく気を付けてほしい事を簡単に言っておく」


 そう切り出されて、はるかは頭を切り替えて頷く。

 それを確認したようで、カイルから続きが話される。


「門番と簡単な挨拶をしたらすぐ中に入るぞ。改めて言うがお前は『俺の遠い親戚』だからな? 忘れないでいてくれよ?」

「わ、わかった。変な事言わないようにあんまり喋らないでおくね!」


 長く話してボロが出たら大変な事になってしまうと思ったはるかの賢明な判断だった。


「さぁ、ここからは共犯だ。頼むぞ、ハルカ」


 カイルは薄く笑いながらも、そんな言葉を楽しげに呟いていた。



「おっ? 誰かと思えばカイルか! 今日は珍しく誰かと一緒に仕事だったのか……って女の子!?」


 はるか達を出迎えてくれた門番さんはいかにも門番、という格好で体を銀の甲冑で覆っていた。

 頭部の装備はないので、人の良さそうな顔が見える。

 その顔に浮かべていた優しい表情がこちらを見ながら変わっていく様子を、はるかは目で追っていた。


「遠い親戚なんだ。お互い色々あって最近連絡が取れるようになったんだ。だからようやく今日の仕事終わりに迎えに行けだんだよ」


 カイルの中では既に何か筋書きが決まっているのか、スラスラと言葉を並べていた。


 私はここまで平気な顔をして嘘はつけないな……。


 カイルを見つめながらそう思い、門番さんの様子を探ろうと目線をそちらに向けてみた。

 するとその言葉で元々驚いていた門番さんの顔が更なる驚きの表情に変化していく様を目撃した。


「遠い親戚ってお前……良かったじゃないか!」


 涙ぐみながらも、弾ける笑顔でそう言い切った門番さんはカイルの肩を嬉しそうに叩いていた。


「やめろって、痛いぞ。そんな大げさな事でもないだろ? ハルカも挨拶してくれ」


 困り顔のカイルから催促がきたので、はるかは怪しまれないような無難な挨拶を口にした。


「初めまして、はるかといいます。よろしくお願いします」

「ハルカちゃんね! カイルの事、よろしく頼むな!」


 怪しまれる事なく自己紹介を終えたが、未だ涙を浮かべている門番さんに変な事を言われてはるかは首を傾げた。


「普通は逆じゃないのか? 俺は1人でも大丈夫だ。それにハルカはこっちに着いたばかりで疲れているからそろそろ行くな」


 そんなはるかに助け舟を出してくれたかのように、カイルが中に入る為の会話進めてくれた。


「そうか! それは悪かった。でも今度ゆっくり話を聞かせてくれよ!」

「気が向いたらな。それじゃ、またな」


 そしてはるかは何も調べられる事なく、町の中に足を踏み入れた。

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