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 銃と冒険者  作者: 朔々
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 60からの冒険者 後編


 ボアプリンスの狩猟は熾烈を極めた。

 じゃんけんの結果ピエトロ君が第一射を担ったのだが、ボアプリンスは平屋ほどもあるその図体で俊敏にかわして見せた。ピエトロ君は続けて5発撃ちきるが、1発も当たらず奴は突進の構えを見せた。


「突っ込んで来ます! 左右に避けて!」


 先生の指示で我らは左右に別れて回避する。


「ベレッタ君!」

「ああ、ピエトロ君!」


 今度は私の番だ。先生曰く、私の持ち味は連射の速さらしい。ピエトロ君に比べ精密射撃で劣る私は、連射力でカバーしようではないか。

 突進後振り返った奴に、先ずは3連射をお見舞いする。中央の弾を避ければ左右どちらかの弾に当たる寸法だ。


「これをかわすか!」

「先生! 奴は本当に我らの適正ランクかね!?」

「確かに適正です。ですが相性が悪い。遠距離はむしろボアプリンスの間合です。近距離戦が勝利のカギです」


 先生よ、我らの歳をかんがえてほしい。武術の心得の無い老人にインファイトは無謀である。


「大丈夫です。お二人の冒険者証は新式です。つまりステータス魔法が掛けられている。今まで狩猟してきた魔物の分だけ確実に強くなっています。いけますよ絶対に」

「確かに最近疲れにくくなったと思っていたが」

「君もかベレッタ君。どうだろう、ここは1つ先生を信じやってみないか?」

「ふむ。たまには童心に帰り、ちゃんばらごっこといこうか」

「では行こうベレッタ君! 遅れるな!」

「ああ! 君こそ転ぶなよピエトロ君!」


 我らはふたてに別れ走り寄った。だがここからどうする? 銃口で突けば良いのだろうか。


「銃床で殴るんです!」


 なるほど。我らは互いに奴の気を引きながら、交互に殴りかかる。当然おとなしく殴られている訳がない。身体を震わせ我らに距離を取らせた。

 肉が多少勿体無いが、背に腹は変えられん。撃てるだけ撃ち込んでみるか。


「ダメだベレッタ君!」

「むぅ! だがこれでは埒があかん!」

「銃床でアゴをかち上げるんです!」


 そうか! そしてがら空きののどを!


「いくぞピエトロ君!!」

「任せたベレッタ君!!」


 ピエトロ君が気を引いてくれている隙に、私はおもいきり奴のアゴをかち上げた。だがまだ浅い。


「ピエトロ君!!」

「任せたまえ!!」


 すかさずピエトロ君もかち上げる。これで頭が上を向き、のどががら空きになった。


「ベレッタ君!!」

「ああ!! 討ち取った!!」


 私は奴ののどに向け、6発全弾撃ちきった。だが奴は倒れない。


「何!? 奴は不死身か!?」


 いっそう危険な眼を向ける辺り、効いてない訳では無いようだ。


「頸椎を少し逸れたようです。一旦距離を取りましょう」

「いいや先生、これで終いだ。もらったぞベレッタ君!!」


 ピエトロ君が至近距離から、得意の精密射撃で奴の首を撃ち抜いた。

 1拍おいて倒れるボアプリンス。

 以前ボアプリンスと同等の一軒家が解体されるところに付き合った事がある。辺り一体に乾いた大きな音が鳴り響き、随分と驚いたものだ。

 ボアプリンスが倒れても大きな音は鳴らない。その代わり、中身がみっちり詰まった、腹の底に響く重い音であった。


「ふー! 今日は何時にも増して手強い獲物だったね」

「ああ、おめでとう、ピエトロ君」

「最後の一撃、お見事です。ピエトロ殿」


 しかし大きい。倒れて動かないのを良い事に周囲を一回りしてみると、改めてその大きさに驚く。先生のアドバイスがあったとは言え、よくこれだけの獲物を我ら2人だけで狩れたものだ。

 先生が解体の準備を始めている。


「さあ、もう1頑張りだピエトロ君」

「すまない、手を貸してくれベレッタ君。何だか気が抜けてしまった」

「大丈夫ですお二方。これだけ大きいと血抜きも大変ですから。首を刺し完全に殺したら、後はギルドに任せましょう。もう少しお休みください」


 先生の言葉にあまえ、我らはお茶を飲んで休憩している。先生がアイテムボックスに獲物を収納するのを見計らい、お茶会に招き入れる。お茶会と言っても、持ってきた茶は冷めてしまっているしクッキーが数枚ある程度。地べたに直接腰を下ろし、テーブルなんてありはしない。茶会と名乗るもおこがましい。だが、これが妙に心地良い。


「そろそろ行きましょう。あまり休んでいると身体を冷やします」


 先生の言は尤もである。そもそも茶が温いのだ、温まりようがない。

 我らは早々に森を抜け、今は街道を馬に揺られている最中だ。


「なあベレッタ君。道中考えていたのだが、あの肉は我らで食すには多すぎないかね?」

「うむ、キングブルも難儀したな。故に君の考えは分かるぞピエトロ君。ギルドの皆に分け与えようと言うのだろう? 私は賛成だ」

「どうだろう先生。これは良い考えではなかろうか?」

「・・・・ 彼らはある意味お二方と同じです」

「我らと?」

「どう言うことだね? 先生」

「冒険者も貴族のように体面を第1に考えます。理由なく何かを貰うのは施しのように感じ取り、お二人の評判は地に落ちるでしょう」


 なるほど、我ら貴族と同じか。確かに交流のない目上の貴族からの贈り物は恐ろしいな。


「それはつまり、何か理由があれば良い、と言うことかね? 先生」

「その通りです」

「ふむ、何が良いだろうかベレッタ君」

「う~む、来月ならば孫娘の誕生日があるのだが」


 全く理由が浮かばない。今まで妻や執事に任せっきりにしてきたツケがまわってきた。贈り物とは存外に難しいもののようだ。


「・・・・ お二人のランクアップ記念というのはどうでしょう。実はボアプリンスはBランク昇格査定に必要な魔物の1つなのです。

 5種類の中から3種類討伐すればBランク昇格なのですが、お二人は既にキングブルと跳ね兎を討伐しています。今回のボアプリンス討伐で昇格できると思います」


 うむ、完璧な理由である。


「いっそブロック肉ではなく調理して振る舞うのはどうだろう?」

「それなら酒が要るな。よし! 我が領自慢の酒を持って行こう。報告は任せたピエトロ君」

「それなら私は我が家のシェフを連れてこよう。報告は先生に任せる」

「いえ、どのみちお二人が昇格出来なければ意味は無いので。ギルド前でお待ちします」


 うむ、ではあまり待たせぬよう、馬に鞭をいれようか。




「おめでとうございます。お二人様は今日からBランク様でございます」


 緊張気味の受付のお嬢さん、実は我らも人知れず緊張していたのだよ。ここで昇格できないと予定が狂ってしまう。


「やったなベレッタ君」

「やったなピエトロ君」


 では始めよう。宴だ。


「冒険者の諸君! 我らは今し方Bランクに昇格した! ついてはこれを記念し、皆にボアプリンスの肉を振る舞おう! 存分にやってくれ!」

「我が領自慢のワインもある! こちらも樽で持ってきた、遠慮なくやってくれ!」


 不思議な事に、一向に盛り上がらない。皆なかなか食が進まないようだ。と言うよりも、手を着けてすらいない者が大半だ。だがこれ以上は何を言えば良い? 執務や趣味ばかりに走ってきた我らには上手い言葉が浮かばない。


「あー、えっと、元Sランクのスプリングフィールドだ。

 あの巨大なボアプリンスの肉だ。このご老人2人で平らげるのは辛いだろう。ここは1つ、人助けと思って俺らで食べ尽くしてやろうじゃないか!」


 うむ! 流石元冒険者! 先生の演説で皆に火が付き、一斉に食べ始めた。この爆発的な盛り上がり方は、貴族でいるとなかなか味わえないだろう。


「流石先生だなベレッタ君」

「ああ、我らには出来そうもない」

「すみません。お二人をだしにしてしまいました」

「なあに、構わんさ。な、ベレッタ君」

「ああ、先生のお陰でこの賑やかなパーティーの一員で居られるのだ、感謝しかない」

「ベレッタ君の言う通りだ、先生。それより我らも食べようじゃないか」


 ギルドホールには酒場が隣接されているのだが、ピエトロ君が連れてきたシェフは冒険者達の雰囲気に合わせた料理を出している。なんとも野趣溢れる料理だ。

 分厚いステーキに、骨がついたままの肉。スープにもごろっと大きな肉。サラダまでも肉づくしになっている。改めて、冒険者は身体が資本なのだと思い知らされる。皆これらの料理を苦もなく平らげていくのだ。

 そこにマナーなどは無い。騒々しく、荒々しく、多くの貴族からは顰蹙を買うだろう。だが、今の私は何故か清々しい気分だ。今この場の一員である事を嬉しく思う。


「ベレッタ君食べないのか? どれも柔らかく旨いぞ!」

「ああ、たまらんな!」


 宴は肉が無くなるまで続くようだ。そろそろ火がくれる。我らは十分に堪能した。おいとましよう。


「シェフ、頼んでいた肉は用意出来ているかね?」

「こちらです、どうぞ」

「ふむ、行くのかね? ベレッタ君」

「ああ、妻を迎えに行ってくる」

「では、ベレッタ君の復縁に」


 ピエトロ君がグラスを掲げ、応援してくれている。これは是が非でも成功させねばな。




 私は今、妻の実家の応接室に通されている。何故彼女の自室に案内されないのであろう? 夫婦であると言うのに。


「しばしお待ちください」


 やはり怒っているのだろうな。先の言葉からもう一時間近く待たされている。生肉が少し心配だ。

 私の気が肉にそれ始めた頃、妻がやって来た。やはり怒っている、いや不貞腐れているのだろうか?


「・・・・ 何の御用でしょうか」

「すまない。迎えに来るのが随分と遅くなってしまった」

「・・・・ 家督を譲り渡してから、もう1年近くになる様ですね」

「ああ。手ぶらではいかんと思い手土産を用意したのだが、随分と手間取ってしまった。だがその分良いものが手に入った。ボアプリンスの肉だ。下がらないうちに食べよう」

「・・・・ そんなに貴重な物なのですか」

「いや実のところ、この肉は私自身が狩った獲物なのだよ。ボアプリンスといってね、平屋の一軒家程もある大きな猪だ。

 君も会ったことがあるだろう? 友人のピエトロ君と一緒に狩って来たのだよ」

「・・・・ ええ、存じております。あなたには監視を着けていましたので」

「なに?」


 それまで優雅に飲んでいた紅茶をローテーブルに叩きつけると、彼女は一息に捲し立てた。


「・・・・ 家督を譲り渡し、直ぐに迎えに来てくれると思えば!! 何を思ったか趣味を始める始末!! 初めての獲物を持ってきてくれるのかと思えば1年も待たされる!! 何がボアプリンスですか!! 『角兎も悪くない』そうですね!! それに『いつかキングブルのステーキを食べに行こう』って約束したじゃないですか!! それを、食べきれなくて孤児院で炊き出し? 私との約束は? それに孤児院での炊き出しは私の仕事だったでしょう!! どうしてその場に呼ばないんです!!」

「・・・・・・・・ すまない」


 私は頭を下げながら、彼女の気性の激しさを思い出していた。我慢強く、それ故怒ると容赦がない。

 全ては私の不徳が原因なのだが、今は彼女の熱が下がるのを待とう。怒りは激しいが、落ち着くのも早い。彼女の美点の1つだ。

 頭を下げつつ謝り続ければ直ぐに落ち着くだろう。


「・・・・・・・・ 帰ってください」

「え?」

「誰か!! この男を追い出しなさい!!」

「ええ?」


 私は妻の実家から叩き出されてしまった。


「何故だ? どうしてこうなった!」



 ここでお仕舞いです。この夫婦が今後どうなるかは私にも分かりません。許してもらえると良いですね。


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 調べたところ、リボルバーライフルなるものが実際に有るみたいです。けっこうな問題がありロマン武器と言った感じでしたが、フィクションだから、異世界だからと気にせず書いちゃいました。

 最後まで拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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