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 銃と冒険者  作者: 朔々
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 旧式冒険者でもまだまだやれるぜ!


 苦節30年、12の頃から冒険者として頑張ってきたが、遂に年貢の納め時がきちまった。

 引退勧告だ。ギルドから、引退勧告を受けちまった。


 ガキの頃は良かった。どれだけ疲れてても、一晩寝れば元気が溢れてきた。剣なんて無くても、そこらの棒っ切れでスライムやゴブリンを殴り殺してた。

 そうして少しずつ金を貯め、装備を整え、実力と名前を上げてきた。『二闘流のヘッケラー』なんて渾名まで着いたりしてな。最初は恥ずかしかったがな、何でも二刀流にしてきた俺にはピッタリだ。槍でも剣でも、棍棒に斧、果ては盾まで二刀流だったな。そりゃ『二闘流の』なんて呼ばれるわな。


 そんな俺も歳には勝てなかった。

 防具を着込んで道なき道を歩き回り、魔物と戦う。それが少しずつきつくなってきちまった。加えて先の魔物の大氾濫(スタンピード)が原因で、自慢の二闘流が出来なくなっちまった。魔物に左手をやられちまってな。武器を振り回すだけの力が出せなくなっちまった。

 俺がもっと面倒見良く後輩の事を見てやってたら、ギルド職員っつう道も合ったんだろうがな。


 田舎に引っ込んで畑でも耕すか、とも考えたがな、俺の故郷は例の大氾濫で滅んじまってた。さていよいよどうするかって悩んでたら、つい習慣でギルドに来ちまった。

 若ぇのが指差して笑ってやがる。

 頭にくるけどよ、俺もガキの頃同じ事しちまったからな。怒る資格なんてねえわな。誰かしらあいつらを諌めてくれねぇかな。そしたらあの頃の俺も救われる気がする。


 にしても習慣ってのは恐ろしいな。これだけ笑われても、つい依頼版を見ちまう。まぁせっかくだ、見納めみてえなもんだしじっくり見ようじゃねぇか。

 馴染みのある討伐系に、ガキの頃世話になった採取系、旅行気分の馬車護衛系。普段は受けないような依頼まで目を通した。これで最後かって思うと、妙にじっくり見ちまった。

 そん中によ、一番下に隠れるように貼ってあったんだよ。特殊な依頼、移住系の依頼が。


 俺はこの依頼を受ける事にした。手続きの関係で明日までは冒険者だ。この城砦都市で冒険者を続けるのは厳しいが、依頼先の田舎なら俺の実力でも問題ねえ筈だ。

 受付嬢は嫌がってたけどな。まぁ、せっかく作った書類が駄目になるってなると皆そんなもんだろう。俺にそれを覆せるほどの好感度は無かった。そんなに好かれてなかったって事さ。

 まあ、よくいる冒険者だったからな。物語なんかで主人公に絡む咬ませ犬って言えば分かるか? お上品にはなれない派の冒険者って事よな。

 とにかく俺は、ギルドの引退勧告を突っぱね、田舎で村付き冒険者として余生を過ごす事にした。


 さて荷造りだけどよ、困ったことに荷物が多いんだな、これが。何せ俺は『二闘流』だからよ。剣に槍、斧に棍棒、そして盾。これが全部両手分有るわけだ。更に、用途別にそれぞれの武器で数種類ずつ。

 何せ、装備用に隣の部屋も借りてる位だからな。そこも『二闘流』って訳だ。

 でももう要らん。全部売っぱらっちまおうってな。大氾濫の時の怪我が原因で、俺の左手は女子供と同じくらいに弱くなっちまったんだ。そんな訳で、もう二刀流はやれねえ。それに行くのは田舎だ。魔物最前線じゃねえんだし、こんな数必要無いだろ。

 そんな訳で、全部売って新しく槍でも仕入れようかってな。


 俺の武器コレクションは結構な値が着いた。貴重な素材を使ったのもあったしな、まずまずな金額だ。でも槍は買ってない。気に入ったのが無くてな。向こうで用意するしかねえな。

 そんな感じで、1週間のお気楽馬車旅って思ってたんだけどよ。


 あれは馬車旅の2日目の事だ。どこかの貴族が狩猟をしててな、獲物が逃げてきたってんで俺らの馬車を追い越して行きやがった。

 その狩猟の方法ってのが、なんと銃を使ったものだったんだよ。それも、魔力を打ち出す魔銃じゃねえ。火薬を使った、軍仕様のやつだ。まぁ火薬の出処だとか、横流しだのってのは俺は興味ねえ。ただ、その銃がものすごくかっこ良く見えてな。気づいたら、残りの馬車旅中、ずっと銃の事考えてた。


 そんなんだから、依頼先であるコルト村に着いた時も挨拶そこそこに鍛治屋に走った。田舎じゃ鍛治屋が武器屋も兼ねてる事が多いからな。コルト村も案の定よ。

 誤算は、その鍛治屋には銃置いてなかった事よな。だから造ってもらおうと話詰めてたらよ、村長に呼び戻されちまった。


 どうにも俺が旧式の冒険者だってのが気に食わねえらしい。だから俺は説明してやったんだ、旧式と新式のメリット、デメリットについてな。


 まずは村長の好きな新式冒険者からだ。新式冒険者は、首から下げる認識表にステータス魔法が掛けてあんだよ。それで自分のあらゆる能力が数値化される。勿論命もな。この命の数値化がくせ者でな。例えば俺の命が100だとすれば、99減っても身体に傷がつかない。そのかわり、100減った瞬間、突然死ぬ。まぁ、ドラゴンブレスで骨も残らなかったりするのが俺ら冒険者だ。身内には嬉しいことなんじゃねえか? 死体が五体満足で戻ってくるってのはさ。後は、殺した敵の魔力を吸収して、ステータス魔法が強化される、くらいか。

 まとめると、新式のメリットは能力の数値化で客観的に自分を見れる。人間離れした強さ。デメリットは気づかないうちに死にかけてるかも知れない。こんなところか。


 次に旧式の冒険者についてだが、ステータス魔法使ってないって事は、普通の人と何も変わらん。メリットもデメリットも普通の人と同じだ。敢えて言うとすれば、新式よりも旧式の方がタフって事だな。

 例えばドラゴンブレスで考えると、同じく右腕をかすったとする。

 俺ら旧式は火傷くらいなもんだ。酷くても精々腕1本炭になるなるくらいだ。

 新式は敵の攻撃も数値化されるからな。ドラゴンの攻撃力、当たり具合、属性の相性、その辺りの計算でダメージが算出される。結果、腕かすめたくらいで死んだりする。

 何より、新式の奴らは痛みに弱い。血にも弱い。俺ら旧式からすると、貧弱過ぎる。どうも好きになれねえ。まあその分ステータス魔法で人間離れした強さだったりするんだけどな。


 なんとか村長に新式旧式、どっちも一長一短だって事が分かってもらえた。

 そもそもこの手の依頼は、俺ら、年寄り向けだ。新式で天狗になって、ぶいぶい言わせてる若い奴らは絶対受けねえよ。それに依頼状が発行されてから時間も経ってる。奴らは新しもん好きなんだよ。

 つまり、俺は無事コルト村の村付き冒険者に就任できたって訳だ。

 後は銃の話を詰めるだけだ。


 鍛治屋の親父はコッホっつう名前で、ドワーフの元で修業したとかで腕に自信があるみたいだった。それなら遠慮なく銃の注文が出来るってもんだ。

 俺が考えるには、火薬は手に入らないから魔銃1択。でも魔力を打ち出せる程、俺の魔力は多くない。それなら、屑魔石を砕いて粉にしたのに、爆発魔法を仕込んで火薬代わりにしようってな。

 だが流石本職だな、火薬を真似して爆発魔法を仕込むのは効率が悪いとさ。風魔法で十分なんだとよ。それから、弾は俺が土魔法で作る事になった。ほんの小さなもんだしな、俺の魔力量でも日に30発分はいけるだろうな。

 で、弾作りの練習しながら試作品が出来るのを待ってた訳だ。


 出来上がってきた試作品の魔銃だがよ、俺の斜め上の出来だったぜ。魔石粉は円柱形に固められてたし、弾のけつにくっついてた。それから弾を入れとく弾倉ってのが丸くてな、1発毎にこいつが回って連射出来んだ。「名付けて回転弾倉」だとよ。

 6発しか入らねえけど、無くなったら取り出して他の弾倉と交換するか、弾を込めるかすれば良いしな。割と簡単だし問題ねえ。それから威力を高めるために、筒の中に螺子切ってあるみてえだ。弾を工夫すりゃいろいろ出来そうだぜ。コッホの親父、良い仕事するじゃねえか。

 これで準備は整った。コルト村付き冒険者として、初仕事といこうじゃねえか。


 まぁ結果から言うと、威力は申し分ねえ。だが当たらねえ。銃に狙いをつける目安みてえのを付けてもらおう。それと近寄られた時の刃物な。せっかく短槍位の長さがあるんだ、穂先も付けてもらおうぜ。


 でだ、何度かの改良で狙いを付けやすくなった。銃の上に小さい輪っかが1つ付いててな、それを覗きながら先端に付いた出っぱりを敵に合わせる。これで百発百中よ。穂先も鋭いしな。

 それと、森の中じゃ取り回しづらいってんで短剣サイズの銃も作ってもらった。こいつも回転弾倉で、弾と弾倉の両方が共通してるから急ぎの時も迷う事はねえな。

 俺は長銃、短銃って呼んでる。


 俺は今、村付き冒険者として日々魔物狩りしながら暮らしてる。ゴブリンは殺しても殺しても湧いてくるし、狼系の魔物ははぐれをよく見かける。たぶん幾つかの群れの通り道にあるんだろうな。1度はオークなんかも見かけたし、田舎のわりになかなかのラインナップだぜ、コルト村は。

 ま、ちょっと銃の威力をもて余し気味だけどな。その代わり獲物の数は多い。里山もあるし豊かな土地だよな。魔物以外にも普通の獣も多いし、実はこっそり自分用に確保したり、な。


 おとついなんかはうっかりゴブリンの警戒網に引っ掛っちまった。ルーキーみてえなミスだ。焼き鳥で1杯が頭からはなれなくてな。

 そんな訳でゴブリンがウジャウジャ出て来やがってな。はれて短銃のお披露目って訳だ。

 いいぜ短銃。長銃は肩で支える分、手応えは肩で感じるけどよ、短銃は違う。手のひらや手首にガツンときやがる。この痺れるような感覚、たまんねえぜ。まぁ欠点もあるけどな。

 敵との距離が近い分、攻撃を避けるだけじゃなく防ぐ必要も出てきた。短銃は筒と持ち手のL字型だからよ、敵の攻撃は筒の部分で防ぐしかねえ。そいつはなんだかマズイだろ。


 でだ、またコッホの親父に相談したんだよ。サーベルの護拳みてえのがほしい、ついでにそれで攻撃も出来たら良いってな。

 それで今日になって出来上がってきたのが、この新型の短銃っつう訳だ。

 注文した護拳は引き金部分だけになったが、これで暴発が防げるらしい。1度も暴発した事ねえからわかんねえけど。で、あの親父、筒と持ち手の間に下向きに厚手の刃を付けやがった。それに合わせて持ち手も角度が付いてな、全体的に鉈みたいになっちまった。前の短銃に比べて重くなっちまったが、元々右手の筋力は衰えてねえんだ。問題ねえよ。


 リベンジって訳じゃねえけどよ、やって来たぜ、ゴブリンの群れ。こないだのはきっちり潰したから別の群れだけどな。

 で、早速使ってみたんだよ、新型の短銃。良いぜこれ。先端が重てえ分、撃った時の跳ね上がりが小さくなった。それに刃の部分、使い勝手はまんま鉈だな。戦闘で使った事なかったけどよ、昔から野営なんかで薪割りやら何やらと使ってたからな、違和感なく使えたぜ。


 これで俺の型は決まった。後はこのスタイルを練り上げて、洗練させていけば良い。そんな感じで、ちょっとゆるい冒険者生活を送りながら余生を過ごすそうと思う。弟子を取っても良いな、俺の後釜に据えるようなよ。

 まあ、もっと腕を上げてからの話だけどな。


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