第九十八話 直江は発見されてみる
「……ぃ!」
「……き……て!」
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさゆさ。
「お兄……起きて!」
ズビシ。
と、頭部に伝わってくる軽めの衝撃。
それらで、直江はようやく目を覚ます。
「…………」
直江がポケっと、寝ぼけ眼で目の前をみると、そこに居たのは――。
ヒナさんだ。
なるほど、先ほどから薄っすら聞こえていた声。
そして、身体を揺さぶっていたのもヒナに違いない。
と、直江はここでようやく状況を理解。
彼はヒナへと言う。
「ごめん! 食べた後でなんか心地良くて、ここで爆睡しちゃったみたい!」
「見れば……わかる」
と、視線を横移動させてくるヒナ。
直江が彼女の視線を追ってみると、そこに居たのは――。
(あはは……クロ、まだ僕に寄りかかって寝てるんだ。昨日はあんまりよく、眠れなかったりしたのかな?)
などなど。
直江がそんな事を考えたその時。
「眠れなかったのはヒナの方……」
と、直江の心を読んだかのような一言を放ってくるヒナ。
しかも彼女、なにやらジトっとクロを睨んでいる。
いったい、二人の間で何があったのか。
そして、二人の間で何が起きているのか。
「はぁ……まぁいい」
ぷいっと、直江の方へと向きなおって来るヒナ。
彼女はそのまま、彼へと言葉を続けてくる。
「お兄、とにかく起きて……みんな心配してる」
「っ……そうだ、みんなはどこ? 一緒じゃないの?」
「お兄とクロが迷子になったのかと思って、みんな分散して探してる――一時間後に、ロビーで集合予定」
「ごめん、本格的に迷惑かけちゃったかな」
「ヒナはホテル歩くの楽しかったから、別に問題ない……ただ」
と、視線を泳がせているヒナ。
直江にはわかる。
こういう時にのヒナは、言うか言わないか迷っているのだ。
故に、直江はヒナへと言う。
「気にしないから、なんでも言ってもみて」
「……お姉」
「お姉? お姉って綾瀬だよね? 綾瀬がどうか――」
「『クロが直江を拉致監禁しようとしてる……許せない許せない許せない』って、すごい形相で探し回ってる」
「……わぉ」
ホテルを怒りの形相で徘徊する綾瀬。
なんかのホラーゲームみたいな展開だ。
(最初にエンカウントしたのが、ヒナで本当によかった)
仮に綾瀬に見つかっていたら、どんなことになっていたやら。
少なくとも、直江とクロは共に監禁コースだったに違いない。
まぁなにはともあれ。
「じ、じゃあ……とにかく、クロを起こして皆に合流しようか?」
と、直江はクロへと手をのばし。
ゆすゆすゆらゆらと、揺らすのだった。