第九十七話 直江はクロと冒険してみる②
「こ、これは……!」
と、なにやらわなわなしている様子のクロ。
彼女はそのまま、直江へと言ってくる。
「庭です! 小さな川も流れていますよ!」
「へぇ、中庭あるのは知ってたけど、こんなに広いんだね」
「あ、見てください直江さん!」
と、直江の手をくいくい、川の方を指さしているクロ。
そんな彼女は、彼へと言葉を続けてくる。
「あそこに橋があります――あれを使えば、向こう側の小さな島に渡れそうです!」
「行きたいの?」
「もちろんですよ! こういう時、ああいうものを見つけた時――行かない理由があるだろうか!? いや、ない!」
ズビシ!
と、なんだかかっこいいポーズを決めてくるクロ。
けれど、そんな仕草も次の瞬間には。
くいくい。
くいくいくい。
「直江さん、早く行きましょうよ!」
と、瞳をキラキラさせてくるクロさん。
まるで小さな子供のようだ。
だがしかし。
(これだけ楽しそうにしてくれるなら、散歩しにきたかいがあったかな)
と、直江はそんな事を考えながらも、クロに手をひかれていく。
そしてやってきました橋の上。
「ふぁあ~~~! 直江さん、鯉です! 鯉が居ます!」
と、水面を指さすクロ。
直江はそれを覗き込みながら、彼女へと言う。
「近くの神社の池にいる鯉より大きい気がする――売ったら高そうだね」
「風情がないこと言わないでくださいよ! それより、居ますかね!? 人面魚!」
「いや、クロのも充分に風情がないと思うけど」
わいわい。
きゃいきゃい。
そんなやりとりする事、およそ数分。
現在。
「飽きたね」
「飽きましたね」
と、直江とクロは例の小島。
そこにある椅子の上へと、並んで腰かけていた。
特にすることはない。
虚無だ。
とはいえ、積極的に何かすることを探そうとも思わない。
なぜなら、食べた後なのでいい感じに眠くなってきたからだ。
きっとそれはクロも――。
「ふぁ……なんだか、眠くなっちゃいました」
と、こくこくしているクロさん。
ここで直江はふと思う。
(別にすることも、話すことも全然ないけど……クロとの時間は全然気まずくならないんだよね、不思議と)
どこか居心地のよさまである。
などなど、そこまで考えたその時。
「……むにゃ」
と、聞こえてくるクロの声。
同時、直江の肩に乗っかってくる彼女の頭。
要するにクロさん。
寝てしまわれた。
(参ったな、これじゃあ僕も不用意に動くわけには……というか)
直江も充分。
ねむ、い――。
「にゃおえ、さん……すき、です」
と、再び聞こえてくるクロの声。
直江はそれを最後に、自らも眠ってしまうのだった。