第九十五話 ダークネス冒険の始まり
時はあれから数分後。
場所は変わらずレストラン。
「うぅ……もうお腹いっぱいです」
と、聞こえてくるのはクロの声だ。
そんな声に対し、柚木と綾瀬が順に言う。
「身体が小さいと、食べる量も少ないんだな。あたしはまだまだ、食べ足りない!」
「大食いの柚木と比べるの間違っていると思うけど。たしかに、クロは小食すぎる気がするわね。だからきっと――」
「や、やめてくださいよ! なんで私の胸を見るんですか!? 訴えますよ!」
わーわー。
きゃーきゃー。
と、騒いでいる女性陣。
そんな中。
「くぅ……くぅ……」
と、寝息を立てているのはヒナさんだ。
彼女、食べ終わるや否や爆睡してしまった。
(さっきのクロ達の話になるけど、身体が小さいと本当に食べる量も少なそうだよね)
なぜならば。
ヒナもあんまり食べなかったからだ。
もっとも。
ヒナの場合は、半ば寝ながら食べていたからの可能性もあるが。
などなど、直江がそんな事を考えていると。
「あら……直江ももう食べ終わったのかしら?」
と、言ってくるのは綾瀬だ。
彼女はこくこくっとミルクを飲んだのち、直江へと言葉を続けてくる。
「あんたは普通に食べる方だと思っていたけれど?」
「今日はヒナがこの調子だからあれでしたけど、それでも充分に食べましたよ」
「?」
「あれです。僕は食べるの早いんですよ。なんで、多分現状の柚木くらいは食べましたよ――結構お腹膨れてますし」
もちろん、まだまだ食べられる。
しかし、朝から満腹にするのは少し嫌なのだ。
(そうすると、色々動くの怠くなるし、お昼ごはんにも満腹度持ち越しちゃうし)
せっかく旅行に来たのだ。
色々動きたいし、昼食と夕食もしっかり食べたい。
「直江さん、直江さん!」
と、聞こえてくるクロの声。
見ればクロ、いつの間にやら席を立ち、直江の方へとやってきていた。
そんな彼女は直江の袖をくいくい、彼へと言葉を続けてくる。
「もう食べ終わったんですよね!? もうデザートとかもいいんですよね!?」
「うん、僕は朝から甘いものはちょっと……」
「でしたら、直江さん! 一緒に冒険をしましょう!」
キラキラ。
と、瞳を輝かせているクロ。
冒険がなんなのかは不明だ。
しかし、なんにせよ直江としては構わない。
腹ごなしに動きたい気分もある。
それになにより。
(クロがこんだけ楽しそうにしてるんだから、断るのは無粋ってものだよね)
だがしかし。
直江はこうも思うのだ。
(せっかくみんなで朝食してるのに、クロと二人で抜けちゃっていいものかな)
などなど。
直江がそんな事を考えながら、綾瀬と柚木とヒナの方を見ていると。
「行ってきなさいな」
と、聞こえてくる綾瀬の声。
彼女は柚木とヒナの方を見たのち、直江へと言葉を続けてくる。
「柚木は今にもおかわり行きそうだし、ヒナは爆睡してる。わたしもこれからデザートに行くところだし……あんた暇でしょ?」
「いや、みんなと話せるんで暇では――」
「まぁ、とにかく。同じく暇なクロと一緒に、少しおでかけしてきなさい」
「…………」
「そんなにジッと見て、どうしたのよ?」
正直驚いだ。
まさか、綾瀬がこんな許容を見せてくるとは思わなかった。
直江のイメージでは、こうだ――。
『直江……わたしを置いてクロと抜け駆け? 許せない、許せない許せない許せない!』
そして始まる戦慄時間。
おそろしやおそろしや。
さてさて。
それに比べて、今の綾瀬はなんだ。
若干物足りさと心配を感じてしまうレベル――。
「はぁ~ん、なるほど」
と、直江の方を見ながら、にやにやしてくる綾瀬。
彼女はそのまま、直江へと言ってくる。
「あんたの考えなんて、全部まるわかりよ。どうせ『どうして焼きもち焼いてくれないのか』って、そう心配しているわね?」
「……所々違いますけど、まぁそんなところです」
「まったく、そんなの簡単じゃない」
と、髪をふぁさっと手で払った後。
綾瀬は直江へと言葉を続けてくる。
「これこそ真実の愛の力――要するに、正妻の余裕ってやつよ」
「…………」
なるほど。
どうやら直江の正妻は、綾瀬だったようだ。
さて……いつも言ってることなのですが
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