第九十三話 直江はヒナを介護してみる
時は朝。
場所はホテル一室。
「直江! 朝ごはんはバイキングみたいだぞ!」
と、ホテルのパンフレット見ながら言ってくる柚木。
彼女は尻尾がついて居れば、ふりふりしそうな勢いで、直江へと続けてくる。
「あたし、ホテルのバイキングって初めてだ! 高級料理とかあるのかな?」
「まぁ、中にはあるかもだけど……あんまり期待しないようにね」
「え、なんでだ?」
「ホテルのバイキングって、多分ピンキリだとは思うけど。少なくとも一般的なそれって、そこまで高級品並んでないイメージがあるからさ」
「フォアグラとかキャビアはないのか!?」
と、直江の想像以上の事を想像していた様子の柚木。
断言できる――そんなものは出ない。
夕食のバイキングなら、ワンチャンあったかもしれない。
けれど、朝食はいいとこ高級卵のスクランブルエッグとかに違いない。
と、直江がそんな事を考えたその時。
「直江さん、そろそろ時間ですよ! 間に合わなくなります!」
と、焦った様子のクロの声。
彼女がそうなっている理由は簡単だ。
「んぅ……むにゃ」
と、ベッドの上で座っているヒナさん。
瞳は半ば閉じ、未だにパジャマだ。
普段、ヒナは寝る時は早く。
起きる時はすこぶる早い。
しかも、寝起きもいいと来た。
(まぁ、ヒナがどうしてそうしているのか――その理由は、あんまり深く考えたくないけど)
とにかくまぁ。
故にヒナがこんな状態なのは、直江ですら滅多にみない。
きっと、昨夜なんらかの理由で眠れなかったに違いない。
「えぇい! ヒナさん、そろそろ起きてください! もうそろそろやばいです!」
と、再び聞こえてくるクロの声。
こうなれば仕方ない。
「クロ、柚木。二人とも先に綾瀬の所に行ってていいよ。先に行って、いい席確保してくれてるはずだから」
「で、でも直江さんはどうするんですか?」
「まさか直江、自分だけここに残ってどうたらっていう、主人公的な事をするつもりか!?」
と、言ってくるクロと柚木。
直江はそんな彼女達へと言う。
「あはは……僕もちゃんと行くから、心配しなくていいよ」
というか。
これでヒナが原因で、直江が朝食行けなかったとする。
そんな事になればヒナ。
目が覚めてから、確実に意気消沈モードになる。
「まぁ、とにかく本当に大丈夫だから。先に行ってよ――綾瀬も一人で待ってるの、可哀想でしょ?」
●●●
そうして時は数分後。
場所は変わらずホテルの一室。
直江は一人、ヒナと向き合っていた。
「……むにゃ」
と、ヒナさんは相変わらず眠たそう。
これはどう見ても重症だ。
だがしかし。
この状態だからこそ、できることもある。
「これをやるのは久しぶりだな……最後にしたのは、ヒナが小学生の時だっけ」
と、直江はヒナの服を、ヒナの傍まで持っていく。
そして、ゆっくりとヒナのパジャマを脱がしていく。
無論、変な意図はない。
というか、ヒナじゃないんだから、妹に変な気を起こすわけがない。
(とはいえ、クロと柚木に見られたら、確実になんか言われるだろうからな)
だからこそ、二人には出て行ってもらったのだ。
などなど、そうこうしている間にも、ヒナのお着換え終了。
「よし。寝癖も取ったし、靴もしっかり履かせた」
完璧だ。
これでどこに出しても、恥ずかしくない。
あとは。
「ヒナが寝ぼけてて、本当によかったな……っと」
と、直江はヒナをお姫様抱っこ。
そのまま、皆が先に行ったレストランへと向かうのだった。