第九話 僕達私達の日常です(真)~ニャンニャン被り~
「はっ……はっ……っ」
現在、直江は夕暮れの空の下、全力で走っていた。
理由は簡単だ。
(綾瀬の部屋からは、窓を使ってなんとか脱出できたけど……距離を取らないと危険だ!)
直江の身体は確実におかしい。
猛烈な眠気が襲ってきているのだ。
万が一、綾瀬の家の傍で眠ってしまったとする。
そうなったら、もう終わりだ。
(寝ている間に部長……綾瀬に見つかったら、確実に家に連れ戻される。そうしたら、地下室での監禁生活待ったなしだ)
綾瀬の両親がまともで、直江を救出してくれる可能性もあるが。
そもそも捕まらないに越したことは――。
「っ」
と、そこで一際強い眠気。
それが直江へと襲いかかって来る。
けれど、まだ眠気に身体を委ねるわけにはいかない。
もう少し、もう少し離れなければ……綾瀬から少しでも遠く。
と、その時。
「あれは……公園!」
中でも、直江の目を引いたのは土管だ。
人工的に盛られた小山の中央。
そこをトンネルの様に通されたその土管。
今でも覚えている。
直江は小さいころ、かくれんぼであの土管に隠れるのが好きだったのだ。
そして、あの土管は地味に見つかりにくかった。
(そうだ。あそこに隠れれば、綾瀬の目をやり過ごせるかもれない)
イチかバチかだ。
しかし、その辺で眠りこけてしまうより、何倍もマシに違いない。
直江はそんなことを考えた後、土管へと身を隠すのだった。