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第八十九話 諦めの境地

 時はあれから数十分後。

 場所かかわらず、泊まっている部屋。


「お姉……この写真欲しい」


「さすがヒナ、お目が高いわ。これはついさっき、直江が眠っている間に撮った自信作よ」


 と、部屋の隅からこそこそ、聞こえてくるのはヒナと綾瀬の声だ。

 ヒナと綾瀬、二人の声はなおも聞こえてくる。


「あとせっかくだから、この前の約束の分……今払う」


「了解よ。一応聞きたいんだけど、わたしの作品はしっかり楽しめた?」


「すごかった……まさか、お兄のあんな姿が撮れるなんて」


「でしょう? あの位置にカメラを仕掛けるのは、大分苦労したわ」


 ふんふん。

 ふんふんふん。


 と、鼻息荒く話を続けるヒナと綾瀬。

 非常に気になる話だ。


(いったい僕は、二人に何を撮られたんだ!? ま、まさか……入浴してるとことかじゃないよね? まぁ最悪のパターンはそれ以上のアレだけど)


 というかヒナ、会話が直江に聞かれていないと思っているに違いない。

 直江としては、もう少しボリュームを下げて――。


「直江さん! 直江さん!」


 わしわし。

 ゆらゆら。


 と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくるクロの声。

 彼女は直江の袖をひっぱりながら、彼へと言葉を続けてくる。


「見てください! ゲームです! テレビの下にある戸棚を開けてみたら、ゲームが入っていたんですよ!」


「あぁ、たまに旅館とかであるよね」


「やりましょうよ!」


「え、せっかく旅行に来てるのにゲームするの?」


 直江、旅館で部屋にあるゲームには嫌な思い出がある。

 それに熱中した結果、あまり外に出なくなることだ。

 するとどうなるのか。


 旅行に来てるのに、部屋でゲームして旅行終わる。


(でもまぁ、もう出かける時間帯でもない。それにクロはなんだかんだで、僕を助けに来てくれたし……付き合ってあげてもいいかな)


 なんせ、みんなで遊ぶにしても……。

 と、直江はため息つきながら、柚木の方を見る。

 するとそこにあったのは。


「うぅ……めちゃくちゃ怒られたぞ……」


 と、しょぼしょぼお茶飲んでいる柚木。

 彼女は精神的に疲れた様子で――。


「はぁ……」


 などと、煎餅をぽりぽりやり始める。

 柚木がああなっている理由は簡単だ。


 それは彼女がけ破った扉にある。

 結論から言うと――今ではその扉は治っている。

 偶然にも、扉が外れただけで、パーツは壊れてなかったようだ。


 なのにどうして、柚木がこうなのか。

 それは――。


(うーん、やっぱりホテルの人に謝るときに、僕もついて行った方がよかったかな? 柚木、馬鹿正直に謝ったみたいだし……)


 ズル賢い事だが。

 こういう場合は『蹴破った』ではなく、『身体が当たったら外れてしまった』。

 などと謝った方が、穏便に済むに違いない。


 まぁ、そういうとこが柚木のいいところでもある。

 それに。


『直江が一緒に来てくれるって言ってくれたのは、すごい嬉しい! でも、蹴破ったのはあたしだから、しっかり自分で謝りたいんだ!』


 とまで言ってくれた柚木。

 こんなに優しい彼女に、今更あぁだこうだ言う必要はないに違いない。


(今回の旅行中、お礼になんかお土産でも買ってあげようかな)


 などなど、そんな事を考えていた。

 まさにその時。


「直江さんってば!」


 と、聞こえてくるクロの声。

 直江はそんな彼女へと言うのだった。


「あぁ、ごめんごめん。じゃあ今日は二人でゲームしようか?」


「さすが直江さんです! ではさっそくスイッチを!」


 同時起動されるゲーム。

 直江は改めて、旅行を楽しむ覚悟を決めるのだった。


(せっかく来たんだし、楽しまないと損だよね)


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