表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/129

第八十四話 直江は綾瀬と旅行してみる②

 時はあれから十数分後。

 場所は食事処。


「あ~ん♪」


 と、にこにこ言ってくるのは綾瀬だ。

 彼女は直江の方へ、箸をのばしながら言ってくる。


「ほら、直江! あ~ん! あ~ん♪」


「あ、あ~ん……」


 ぱくり。

 と、直江は綾瀬の箸――つままれたカツを口に入れる。

 すると。


「~~~~~~~~っ♪」


 ぱぁああ~~~~。

 と、輝く綾瀬さんの瞳。

 なんだか、とても幸せそうだ。


(でも、やっぱり周囲から滅茶苦茶見られているんだよね)


 綾瀬の見た目が目立つというのも、あるには違いない。

 けれどそれより。


(この年齢の男女が、二人っきりで温泉街で旅行ってこと自体が、大分珍しいよね)


 というか、周囲からした直江と綾瀬は、いったいどう見られているのか。

 まさか――。


「ねぇ、直江。わたし達、周りからどう思われているのかしら?」


 と、まさにと言った質問をしてくる綾瀬。

 きっと彼女も、周囲の視線には気がついていたに違いない。

 そんな彼女は直江へと、言葉を続けてくる。


「普通の旅行には見えないわよね?」


「まぁ、そうだろうね。でも常識的に考えれば、どこかに親が居るとは思われ――」


「逃げてきたと思われるんじゃないかしら?」


「はい?」


「直江とわたし、二人きりの逃避行ということよ」


 と、瞳をキラキラ綾瀬さん。

 彼女は直江へと言葉を続けてくる。


「わたしと直江は身分違いの恋――両親に反対されるけど、そんなんじゃ恋の炎は治まらないわ」


「…………」


「そして、わたし達は家を飛び出して、両親から逃れる様に愛の逃避行に出るの!」


 これは前から思っていたが。

 綾瀬、やや脳内乙女なところがある。


 だがしかし。

 周囲から視線を送っている人々の中には、そう思っている人もいそうで怖い感ある。


「ねぇ直江! 直江はもしも、好きな人と離れろって言われたら、どうするのかしら?」


 と、そんな事を言ってくる綾瀬。

 直江は少し考えた後、そんな彼女へと言う。


「まぁ、無視するかな」


「?」


「本当にその人の事が好きなら、僕はなんと言われてもその人から離れない。ずっと好きで居続ける――たとえその結果、どんな事が起きようとも」


「……っ」


 そんなの当たり前だ。

 そもそも好きという感情は、人に言われてどうこうなるものじゃない。

 などなど、直江がそんな事を考えていると。


「は、はぅう」


 と、何やら頬を真っ赤に染め、目をくるくるさせている綾瀬さん。

 直江はそんな彼女へと言う。


「綾瀬、具合が悪そうだけど大丈夫?」


「ぅう……」


「綾瀬?」


 綾瀬さん、喋らなくなってしまった。

 彼女、頬に手を当てもじもじするだけで、これといったリアクションすらない。

 いったい綾瀬に何が――。


「な、直江……そんな、情熱的すぎる、わ」


 と、突如そんな事を言ってくる綾瀬。

 彼女はチラチラ、上目遣いで直江へと言ってくる。


「き、急にそんな……わたしをう、奪い去りたいなんて」


「……は?」


「で、でもいいわ! 直江がわたしを奪い去りたいのなら……わ、わたしはだって……その、全部直江にあげたいもの」


「…………」


 うん。

 なーに言ってんだこいつ。


(なるほど、つまりあれか。綾瀬は僕がさっき言った事を、全部自分のことに置き換えたわけか。実に綾瀬らしい脳内変換で、本当に落ち着くなぁ……)


 それにしても綾瀬。

 今なお、いやんいやんと照れ照れもじもじしているが。

 ここに来て一番くらいに、機嫌がよさそうに見える。


(つっこむなら今しかない、かな)


 直江はそんな事を考えたのち。

 綾瀬へと言うのだった。


「ところで綾瀬。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ