第八十話 柚木の様子がおかしい②
柚木の様子がおかしいのは、それからも続いた。
例えば、体育の時間にて。
『なおえ~~~~! 柔軟体操、一緒にやろうぜ!』
言って、駆けてきたのは柚木だ。
彼女はそのまま、直江に色々押し当てて来ながら、柔軟体操を最後までやり通した。
念のため言っておくが。
体育は男女別で行われている。
また別の授業。
例えば、習字の時間においては。
『なおえ~~~! 大変だ! 筆が胸に挟まっちゃったんだ! 取ってくれ~!』
と、わたわたとした様子でやってきたのは柚木。
彼女は胸元を露出させながら、結局直江に筆を取らせてきた。
念のため言っておくが。
胸に挟まった筆は、絶対に自分でとれた。
……あと。
よく考えれば、これはいつもの猫かぶり柚木。
彼女によくあるドジ行動だった。
他にも例えば。
休み時間などに――。
『なーおえ! 舎弟にな、弁当作るの上手い奴が居るんだ! そいつから今日な、弁当巻き上げてきた! 食ってみてくれ! あたし、直江のために頑張ったんだ!』
他にも例えば。
掃除の時間などに――。
『直江~~~~~! 蛇口の水被っちゃたぞ! びちゃびちゃた! 拭くの手伝ってくれ~~~~!』
他にも例えば。
というか、これは現在の話。
部室にて――。
「なーおえ!」
と、直江に引っ付いて来るのは柚木だ。
彼女はそのまま、直江に寄りかかってきながら言葉を続けてくる。
「直江って、将来結婚願望とかあるのか?」
「まぁ、人並みにはある、かな」
「本当か!? どんな女の子と結婚したいんだ!?」
「うーん、これっていうのは特にないかな。月並みだけど、好きになった人が好きな人だから――結婚したい人も、結婚したいと思った人って答えになるかな」
「そ、それってつまり――」
と、驚いたな様子の柚木。
彼女はすぐさま、直江をきゅっと抱きしめながら、言葉を続けてくる。
「嬉しい! あたし、直江にそんな事言ってもらえて、とっても幸せだ!」
「ゆ、柚木……さん?」
「あたし決めた! 頑張る! 直江の期待に沿える女の子になれるように、修行するんだ!」
「あ、あの~――」
「安心しろ直江! あたしが居る限り、おまえの近くに危険は寄せ付けないぞ!」
だめだ。
柚木さん、話を聞いてらっしゃらない。
話自体も、なんだか微妙にかみ合ってない気がする。
などなど。
直江がそんな事を考えている間にも。
「はぁ……直江、いい匂いだ。とっても落ち着く香り」
言って、深呼吸してくる柚木。
と、その時。
バキッ。
聞こえる破壊音。
見れば。
「死ね……柚木、死ね……死ね死ね死ね死ね……柚木死ね柚木死ね」
「あ~~~~っ! ちょっと綾瀬さん! コントローラー壊さないでくださいよ! それ、私が買った奴ですよ!」
そんな綾瀬とクロ。
中でも前者――綾瀬さんは。
「殺してやる……絶対に殺してやる。わたしの直江に手をだすクソ女死ね許さない許さない許さない許さない許さない柚木のくせに柚木のくせに柚木のくせに」
とびっきりの呪詛を流しまくっていた。
まぁ綾瀬のことだ。
言っているだけで、実行には移さないに違いない。
綾瀬はああ見えて、仲間思いのいい奴なのだから。
たぶん……きっとそうだ。
そうして、この時。
直江はまだ気がついて居なかった。
本当に心配するべきは、柚木の安否でなかったということに。
さて……いつも言ってることなのですが
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