第七十七話 直江と真G②
「声、したよなぁ? あたしが床を殴ったとき――そこに居るのは誰だ?」
聞こえてくる柚木の声。
同時、露骨にロッカー――直江の方へと向けられる圧。
ズシンッ、ズシンッ。
と、再び聞こえてくる音。
柚木がロッカーの方へと、向かって来ているのだ。
やばい。
(このままだと、確実にロッカーの扉を開けられる)
そうなれば当然。
ロッカーの中にいるのが、直江だということがバレる。
直江には容易に想像できのだ。
バレた後の展開が――。
『そうか……直江、見ちまったんだ。じゃあ、ぶん殴って記憶消さないとだな』
言って、拳を振り下ろす柚木。
うん――ちょっと大げさだが、普通にありそうで怖い。
さらに。
(この場にはクロも居る……しかも気絶している)
柚木がこれを見ればどう思うか。
確実に「何かいかがわしいことしていた」と考えるに違いない。
とにかくやばい、
などなど、パニクっている間にも。
「何黙ってんだ? 何とか言えよ」
と、至近距離から聞こえてくる柚木の声。
彼女は続けて、言ってくる。
「はぁ……面倒くせぇな。黙ってれば、逃げられるとでも思ってんのか!?」
同時。
ついに恐れていた事態が発生した。
ロッカーの扉が開かれたのだ。
差し込む光。
それを遮る様に、仁王立ちしている柚木さん。
「…………」
「…………」
交わる直江と柚木の視線。
体感、数時間に渡る沈黙。
直江はこの間、必死に考えた。
柚木に対するフォローや、クロがここに居る理由などなど。
だがしかし。
必死に頭を回せば回すほど、一つの単語が鮮明に浮かんでくる。
それすなわち。
オワタ。
なんか上手いこと言わないと、直江さん御臨終する。
下手すると、クロを巻き添えにして御臨終す――。
「……ぅ」
と、何故か数歩後退し始める柚木。
まさか、勢いをつけて直江にアタックしてくる気か。
と、考えたまさにその時。
「うぅ~~――な、直江に……直江にバレたぁああああああああああっ!」
と、マジ泣きし始める柚木。
彼女は直江へと、さらに言葉を続けてくる。
「お、終わりだ! もう何もかも終わりだ! あたし、直江に嫌われたぁあああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~っ!」
「え……いや、それはな――」
ない。
と、直江が最後まで言い切るその前に。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああんっ!」
柚木さん。
超高速ダッシュで、部室から飛び出して行ってしまった。
正直、予想外の展開だ。
いやいやいや。
呆然としている場合ではない。
「直江? 今、柚木が走っていったけれど」
と、ちょうどいい所に聞こえてくる綾瀬の声。
直江はロッカーから脱出、クロを彼女に渡した後。
「綾瀬! ちょっと柚木を探してくるから、クロの看病お願い!」
「は? ちょ――どういうことよ!」
そんな綾瀬の言葉を背後に、全力ダッシュ。
直江は部室を飛び出して行くのだった。