第七十五話 直江とG②
「クロ! 扉を閉めて!」
「っ!」
と、慌てただ様子で直江から降りるクロ。
彼女はすぐさまロッカーの扉を、閉めてくれる。
これで一安心。
とはいえ、懸念事項はまだある。
(Gって小さな隙間とかからも入ってくるし、このロッカーの中に入って来たら終わるよね)
ダメだ。
なるべく考えない様にしよう。
その時はその時で行動すればいいだけの話。
などなど。
直江がそんな事を考えていると。
「あ、あの……直江さん」
と、背後から聞こえてくるクロの声。
彼女はどこか恥ずかしそうな様子で、直江へと言葉を続けてくる。
「その……えと……せ、狭いですね、ここ」
「まぁ、ロッカーの中だからね。でも少し来れば、部長達が来ると思うし――そうすればGも退治してくる。だから、それまでの辛抱だよ」
「い、いや……そうではなく」
もじもじ。
と、直江の背中にくっつきながら、なにやら落ち着かない様子のクロ。
彼女はそのまま直江へと、言葉を続けてくる。
「た、互いの距離が近いというか……な、直江さんの体温がその……ほぼほぼダイレクトに感じられるというか……ですね」
「…………」
「だ、黙らないでくださいよ!」
「いや、だったら意識させること言わないでよ!」
言われると、どんどん気になって来る。
そういえば、背中にものすごくクロを感じる。
温もりとか、当たってはいけない柔らかいものとか。
「な、直江さん! 今、変なこと考えましたね!」
と、ぽこぽこ背中を叩いて来るクロ。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「訴えます! 裁判ですよ、直江さん!」
「えと……ご、ごめん」
「へ、変なこと、本当に考えてたんですか!?」
「…………」
「だ、だから黙らないでくださいよ!」
気まずい。
というか、なんだか妙な雰囲気を感じる。
普段、クロとはもっと気安く話している直江。
けれど、今はどうやってそうしていたかが、まるでわからない。
と、直江がそんな事を考えていると。
ドクンドクン。
ドクンドクンドクン。
と、背中を通して伝わってくる音。
やたらデカくて、もの凄い速度だ。
「な、直江さん……ひょっとして、私の心臓の音……その」
と、照れ照れした様子のクロ。
直江はそんな彼女へと言う。
「う、うん……まぁ、うん」
「っ……あぁ、もうダメです! 直江さん、やばいです!」
「え、ヤバいって何が!?」
「あ……あ、もう私……あっ――」
と、不自然に言葉をとぎるクロ。
いったい何が起きたのか。
直江はなんとか視線をクロの方へ向け。
その後、彼女へと言う。
「え、大丈夫!? っていうか、クロ? ひょっとして気絶してる!?」
「…………」
「え~~……」
クロさん。
気絶してしまわれた。
外にはG。
中には気絶したクロ。
「どうするんだこれ」
直江は一人、そんな事を考えるのだった。