第七十四話 直江とG
夕暮れの部室。
奴は突然現れた。
「ちょっ! 直江さん! 直江さんってば!」
と、聞こえてくるのはクロの声。
彼女はわたわた、直江へと言葉を続けてくる。
「あ、あっちです! あっちに行きましたよ!」
「わかってる! わかってるって!」
「ほらそこ! そこですよ! 棚の上です!」
「わかってる! わかってるから、あんまり押さな――っ」
と、体勢を崩してしまう直江。
結果。
「わっ――と!?」
床へうつ伏せに倒れてしまう直江。
そして。
「あ――っ!?」
と、そんな直江の背中の上へぶっ倒れてくるクロ。
要するに直江、クロと床にサンドイッチされた形だ。
「痛ぅ……いきなり倒れないでくださいよ!」
と、言ってくるクロ。
直江はそんな彼女へと言う。
「いや、クロが僕に後ろから抱き着きながら、何度も押してくるからだよね!?」
「知りませんよ! こういう時は、武器を持っている直江さんが前に出るべきでしょうが!」
「武器って言っても、ただのG退治用スプレーだよね!? っていうか、そもそも僕あんまりG得意じゃないからね!」
「えぇい! この後に及んで直江さんはそんな――」
と、不自然に言葉をとぎるクロ。
嫌な予感がする。
直江はゆっくりと、視線を棚の上へと向ける。
すると、そこには――。
奴が居ない。
見失ったのだ。
同時、直江は全身に嫌な汗をかき始める。
と、その時。
「な、直江さん! 直江さん直江さん直江さん!」
ばしばしばし!
と、直江の背中を叩いて来るクロ。
彼女は前方を指さしながら、言葉を続けてくる。
「奴です! 奴ですよ! あいつ、私たちに突撃してくるつもりですよ!」
「なっ!?」
「驚いている場合じゃないですよ! 早くしないと、やられます! 私たち、奴の餌食になってしまいますよ!」
「いや、クロがどかないと、僕動けないんだけど!?」
などなど。
そんな会話をしている間にも。
カサカサ。
カサカサカサ。
奴は直江達の方へと迫ってくる。
もうこうなれば仕方ない。
「わ、ちょ――直江さん!?」
と、そんなクロをのっけたまま直江、なんとか立ち上がったのだ。
すなわち、おんぶの形だ。
クロの体型故にできた荒業。
やや恥ずかしいが、そんなのどうでもいい。
(今はGから逃げるのみ!)
考えた後、直江はダッシュ。
しかし、そこで問題に気がつく。
それは――。
(しまった! クロをおぶってるから、うまく扉を開けられない!)
どうする!?
と、直江はすぐにその答えを見つける。
掃除用具ロッカーの扉。
それが開いているのだ。
(そうだ! さっきスプレー取ったときに、閉めてなかった!)
とりあえず、あそこに逃げ込もう。
そうすれば、部員の誰かが助けてくれるに違いない。
直江達が倒せなかったGを倒すことによって。
「直江さん! 追いかけてきてますよ! 好戦的です! 好戦的ですよ!」
と、言ってくるクロ。
直江はロッカーに飛び込んだ直後、彼女へと言うのだった。
「クロ! 扉を閉めて!」