第七十三話 直江はヒナとクロとおでかけ中
時はあれから数分後。
現在、直江達は喫茶店へとやってきていた。
「でもまさか、直江さん達が居るとは思いませんでしたよ」
と、直江の向かいの席から、言ってくるのはクロだ。
彼女はそのまま直江へと言葉を続けてくる。
「お二人は、何していたんですか?」
「僕はコミックの新刊を買いに。ヒナは……まぁ、ね」
「ほぉ! コミックの新刊!!」
と、途端に瞳をキラキラさせてくるクロ。
彼女はやや身を乗り出してきながら、直江へと言葉を続けてくる。
「なんですか!? どんなコミックですか!? アクションものですか!? ファンタジーですか!? それとも、異能系ですか!?」
「えっと……ファンタジー系の異能バトル、かな」
「か、完璧……だと!?」
と、やたらテンション高い様子のクロ。
彼女は瞳をキラキラ、直江へと言葉を続けてくる。
「さすが直江さんですよ! ジャンルの好みが、私と一緒じゃないですか!」
「あぁ、クロは好きそうだよね――こういうジャンル」
「もちろんですよ! なんせコミックは知識の宝庫――技名、設定、あらゆるものを作ることができる泉ですからね!」
「まぁ、創作には役立ちそうだよね。僕はそういうのしないから、普通に読んでて楽しいってのがあるけど」
と直江、飲み物を一飲み。
そして、事件は起きた。
「それで、ヒナさんは何か買ったんですか?」
と、ヒナへと言葉をかけるクロ。
正直、直江は飲み物を噴き出しそうになった。
理由は簡単。
ないとは思うが、ヒナに正直に応えられたら終わる。
義妹とはいえ。
妹からそういう感情を向けられているとなれば、引かれる可能性がある。
などなど、そんな事を考えたまさにその時。
「……同人誌」
と、狐ぬいぐるみをきゅっとしながら、クロへと言うヒナ。
クロは「ほぉ」っと一言、ヒナへと言う。
「ヒナさんが同人誌……興味をひかれます!! もしよければですが、どんな同人誌が好きなのか教えていただけませんか!」
「……チラ」
と、直江の方を見てくるヒナ。
しかも何故か、頬が赤い。
「ん? 直江さんがどうかしたんですか?」
ひょこりと、首を傾げているクロ。
けれど、直江にはヒナの行動の理由がわかる。
(ヒナの中ではまんま答えなんだろうな)
買った同人誌は、兄の同人誌。
要するに。
兄と色々する系の同人誌。
けれど、これで安心だ。
なぜならば。
(さすがのヒナも、ストレートにいう訳ないか。というか、よくよく考えたら当たり前だよね)
ここでストレートに言うような奴ならば。
ヒナはとっくに、直江にアタックしかけてきてるに違いない。
などなど、直江がそんな事を考えたその時。
「っ……ま、まさかヒナさん!」
と、驚いた様子のクロ。
瞬間、直江は血の気が引く。
(まさか、気がついたのか!? ヒナが買った同人誌、そのジャンルに――)
「BLですか!?」
と、そんなクロ。
全然気がついていなかった。
けれど、彼女はそのままヒナへと言葉を続ける。
「だ、ダメです! ヒナさんにBLは早いですよ!」
「……違う」
「違くありません! ヒナさんはなんというか……そうですよ! 百合です! 純白がピッタリです!」
「……違う」
「純真無垢の化身なヒナさんは、もう少しだけ――」
「クロ、うるさい!」
と、クロの言葉を断ち切る様に言うヒナ。
彼女は狐ぬいぐるみをきゅっと、クロへと言葉を続ける。
「ヒナ、BLは好きじゃない。ヒナが好きなのは……チラ、チラ」
「? だからどうして、そこで直江さんを見るんですか?」
「そ、それは……」
「それは?」
「ひ、ヒナは……ヒナっ」
と、頬を真っ赤にし始めるヒナ。
これはアレだ――もはやアホでも気がつくレベルだ。
「ま、まさかヒナさん!」
と、ついにそんな事を言うクロ。
彼女はヒナへと言葉を続ける。
「と、盗撮モノですか!? そういえば以前、部長――綾瀬さんと変な写真をっ」
「…………」
「ひ、否定しないと言う事は、そういうことなんですか!?」
「…………」
「ひ、ヒナさんが……盗撮フェチ、だと!?」
と、ドサッとソファーにもたれてしまうクロ。
きっと、彼女の中のヒナイメージが崩壊したに違いない。
けれどよかった。
(これで、ヒナが変な性癖の持ち主だってことは、バレな……ん?)
まて。
本当にヒナが変な性癖の持ち主だって……バレてない、か?
直江はこの日この時、頭がバグり始めたのだった。