第七十二話 直江とヒナとクロのゲームセンター
時はあれから数分後。
場所は変わらずゲームセンター。
「参ったな……まさか両替機に、あんなに並ぶとは思ってもみなかった」
正直舐めていた。
いくらオタクが集う街とはいえ、今日は平日。
しかも、イベントも何もない日だ。
(まぁ、無事に両替も出来たし、早くヒナのところに行こう)
数分とはいえ、彼女を待たせてしまったので心配だ。
などなど。
直江はそんな事を考えたのち、急ぎ足で来た道を戻る。
と、そこで直江は見てしまった。
(あれ……僕達がプレイしていた筐体の前に、別の人がいる……)
まさかヒナ。
キープしていてくれなかったのか。
そういえば直江、ヒナにキープしてくれと、言ってなかった気がする。
(しまった……完全にテンションあがったせいで、やらかしてしまった)
と、ポケっと立ち止まり。
直江が衝撃的現場を見ていた。
まさにその時。
件の人物が、見事に狐ぬいぐるみをゲットする。
ハイエナだ。
ハイエナされる瞬間を目撃してしまった。
(とはいえ、僕がキープしてないのが悪いんだけどさ)
これがゲーセン。
クレーンゲームにおける戦い。
その宿命なのだ。
これにめげず、また狐ぬいぐるみチャレンジすればいい。
軍資金はまだまだあるのだから。
と、ここで――。
「ん……あれ?」
直江、とある事に気がつく。
それは。
(ヒナ、どっかに行ったと思ったけど。普通に筐体の隣に、居る?)
ならば、どうしてキープしていなかったのか。
けれど、仕方ないかもしれない。
(両替に結構、時間がかかったし……順番待ちしている人が居たなら、そんなに待たせたら悪いよね)
などなど。
直江がそんな事を考えた。
まさにその時。
「どうですか、ヒナさん? しっかりゲットしてあげましたよ!」
と、聞こえてくるクロの声。
というか、狐ぬいぐるみをゲットした件の人物。
(あの後ろ姿、どうみてもクロじゃないか!)
なるほど。
ヒナがキープせず、順番を譲った理由がわかった。
(クロはゲームが上手いからな。だからきっと、クロが『取ってあげましょうか?』とか持ちかけて、ヒナがそれに応じたに――)
「クロのバカ!」
と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくるヒナの声。
クロはそんな彼女へ、わたわたした様子で言う。
「な!? ど、どうしてですか! ヒナさんが一人で困っていたから、それをしっかりとってあげたじゃないですか! どう考えても出来るお姉ちゃ――」
「ヒナ、何度も言った! お兄に取ってもらいたいから、クロはやらないでって!」
「で、ですけど……ほら、結果的に得るものは一緒じゃないですか!」
と、ヒナへとぬいぐるみを翳すクロ。
彼女はひょこひょこ、ヒナへと言葉を続ける。
「ほらほら。ですからお姉ちゃんに、お礼を言ってもいいんですよ?」
「や!」
「あ、そうです! そうですよ! ぬいぐるみをあげるんで、今から私と一緒に遊びに行きましょう!」
と、ヒナの手を握るクロ。
彼女はそのままヒナへと言葉を続ける。
「ここで会ったのも何かの縁! きっと悪魔が導きし邂逅……我等が共に遊ぶ時、きたれり――というやつですよ!」
「や~~~~~~~っ!」
と、荒ぶる猫の様に連れて行かれるヒナさん。
なんだかよくわからないが。
「止めないと、ヒナが誘拐される!」
それだけは確かだ。