第七十一話 直江とヒナとゲームセンター
時はあれから十数分後。
場所はゲームセンター。
「ヒナの勝ち……ドヤっ」
と、言ってくるのはヒナさんだ。
彼女はぴょこりと筐体から降りると、直江へと言葉を続けてくる。
「お兄! ヒナ……レースゲーム強い?」
「強いよ。まさか、あのタイミングまで強いアイテムを、キープしてるとは思わなかった。僕の完敗だよ」
「ヒナ、レースゲーム強い……ドヤっ!」
と、ぴょこぴょこ嬉しそうなヒナ。
彼女は直江の手を握って来ると、そのまま言葉を続けてくる。
「お兄、お兄! ヒナ……次はクレーンゲームやりたい!」
「はいはい。せっかくだから、今日はヒナに付き合うよ」
「わーい! ヒナ……お兄のこと好き!」
と、いつもよりテンション高い様子のヒナさん。
直江はそんな彼女に手を引かれ、クレーンゲームコーナーへと向かうのだった。
…………。
………………。
……………………。
そうして現在。
直江は絶賛、クレーンゲームと格闘中。
「ダメだ。この狐のぬいぐるみ、全然動かないよ」
「この狐、頑固……でもヒナ、これ欲しい」
と、しゅんとした様子のヒナ。
彼女がこうなるのも当然だ。
なんせ、この狐のぬいぐるみ。
直江がプレイする前に、ヒナが二千円投入しているのだ。
(僕ももう二千円くらいいれてるし……設定が辛すぎるでしょ、これ)
だが、諦めるにわけにはいかない。
なぜならば。
「狐……」
と、悲しそうな様子で、ぬいぐるみを見つめるヒナ。
直江は兄だ。
兄は妹を悲しませたりはしない。
仕方ない。
と、直江は腹をくくる。
「ヒナ、僕はあと五千円もってる」
「お、お兄?」
と、はっとした様子で振り向いて来るヒナ。
直江はそんな彼女へと言う。
「僕は今から、この五千円を全て――百円玉にしてくる!」
「で、でもお兄……それはお兄のお小遣い。ヒナ、そんなの――」
「ヒナ! いいんだ! 僕はきっと、この時のためにお小遣いをもらったんだと思う!」
「あ……お、お兄! 待って――お兄ぃ!」
と、聞こえてくるヒナの声。
直江はそれを背中で聞きながら、両替機へと向かうのだった。